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幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第二章
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第八話    流れ込む感情

――誰からも愛されるのは私!あの女じゃない!


私はセシリアに手を上げようとしているユリィを抱きしめた。

ユリィはその反動で地面に尻もちをついた。


「な、何を……」


ユリィは戸惑っている。

それは周りも同じだ。


「駄目だよ。ユリィ、暴力を振るえばユリィが完全に悪者になっちゃう」

「……」

「落ち着いて呼吸をして。ゆっくりでいいから。落ち着いて。悪い方向に考えないで」


私はユリィを落ち着かせることに集中した。

さっきユリィは小刻みに震えていた。

怒りなのか、悲しみなのか。

私はユリィの背中を優しく叩いた。


「ナズナ」

「イリヤ、どこに行っていたの?」

「俺はいつでも暇なわけじゃない」


私は人混みの中から現れたイアンとユリィを抱きしめながら話をした。

周りは相変わらずざわついている。

ユリィは落ち着いたらしく、私の腕の中で大人しくしている。

私はユリィから離れた。


「落ち着いたようなので、私達はこれで。貴族のいざこざに、平民が介入するべきではありませんからね。それでは」

「あ……」


私はその時気づかなかった。

ユリィが何かしらを私に伝えようとしていることに。


◇◆◇


「……なるほど。それならお前らの魂がこの世界のやつらと違うことには合点がいく。しかし、10人の命乞いね……。お前達のいた世界は随分と野蛮なやつが多いんだな」


私はオーリスにさっきの話の続きをしていた。

オーリスは頬杖をついて、私達を見ていた。


「仕方がないよ。みんなそれぞれ葛藤を抱えていたんだから」

「にしてもなぁ……。そうだ、名前」


オーリスが思いついたように私を指差して言った。

まだ名乗ってなかったっけ?


「山里菜乃葉。未来ではユリィ・セーリア。こっちではナズナ・セイルナ」

「名前多いな。そっちは?」

「イアン・グリーファだ」

「ん?お前は……」


イアンが何かを言いかけたオーリスの口を素早く塞いだ。

オーリスはもがこうと必死で暴れている。

なんか新鮮だな。

そういえば、不老の呪いと言う名の魔術が未来では普及してるよね?

なら、未来のオーリスやカイル、ディーア達はどうしてるんだろう。

また後で琴葉に聞いてみよう。


「んんん、んんんんんんん?」

「ごめん、オーリスなんで言ってるか分かんない」


オーリスは必死に何かを言おうとしているが、騎士を目指している……。

いや、騎士団長になったイアンに勝てるはずがない。

暗殺者と言えど、チートには敵わない。


「俺は先生に呼び出されているからもう行く。じゃあな」

「おっけー」


イアンは校舎に戻った。

オーリスにイレギュラーの話をしておくとしよう。


「オーリス、あなたはセシリアに恋をしている?」

「なぜそんなことを聞く」

「保険のためにね」


オーリスは少し考える仕草をした。


「……いや、あんまり好ましく思ってないかなぁ……」

「そう」

「で、何で?」


さすが暗殺者。

変なことを聞くととことんしつこく聞いてくるな。


「順を追って説明するね。まず、物語のオーリスはユリィを殺すの」

「ユリィを殺す?どうして?」

「セシリアのことが好きだから、邪魔なユリィを消すの」


オーリスは複雑な表情をした。

その表情にどんな感情が隠れているのかわからない。


「それは暗殺命令か?」

「いいえ。私情で殺すの」

「……それを聖女様は喜ぶのか?」


喜ぶ……。

それはないでしょうね。

セシリアは心が優しい子だから、オーリスもそんなことをしてセシリアが喜ばないことは分かっているんだろう。


「喜ばなかったよ。喜ぶどころか悲しんだ」

「……どうして物語の俺はユリィを殺したんだ?」

「分からない。恋は盲目ってことなのかもね」


オーリスはすごく複雑そう。

そんなもんだ。

自分が私情で人を殺すなど、考えられなかったんだろうね。


「ユリィを殺した後の俺は、どうしたんだ?」

「罪悪感から、毒を飲んで自害したよ」

「そうか……」


そう、この物語は何人もの人が死ぬ。

アルト、オーリス、ユリィ。

そして……。

イアンとギディオン。

イアンもギディオンも死んでしまう。

私達のいた世界は運命がねじ曲がり過ぎた。

だから誰も死ななかったんだ。

聖女の力を得るはずの琴葉が聖女の力を得ず、第一王子と婚約した。

死ぬはずの第一王子と。

そもそも、私やいっくん達がこの世界に来た時点で、運命は大幅に変わってしまっているのだ。


「そこでオーリスにお願いがあるの」

「……」

「この世界にいるイレギュラー……。つまりは転生者を、あなたのスキルで探してほしいの」

「転生者を?野放しにしていいんじゃないか?」

「残念ながらそうもいかないの。それなら無害なんじゃないのか?」

「私の世界の人が全員が善人だと思わない方がいい。恐らくこの世界に転生した転生者は、物語通りに世界が動くことを望んでる」

「……」

「つまり、この世界の人達が死のうがどうでもいいと思ってるってこと」


オーリスのスキルなら、魂を判別することができる。

異世界人の魂はこの世界の人達と違う色をしているらしい。

澄んだ色。

私の魂がそうらしい。

あっちのオーリスが言ってた。


「……いいぜ。俺も死にたくないし、私情で人を殺したくもないからな」

「仕事では殺すんだね」


オーリスは満面の笑みを浮かべた。


「おう!」


笑顔で言うことじゃないけど、オーリスらしいや。

知ってるんだ。

オーリスという暗殺者が殺すのは悪徳貴族や盗賊だけだと、私は知っている。


「あ、そうだ聞きたいことがあるの!」

「何だ?」


オーリスは首を傾げた。

オーリスならユリィの感情が流れ込んできた理由を、いい感じに予想してくれるかも!


「さっきの騒ぎの時に、私の心の中にユリィの感情が流れ込んできたの。理由の考察をお願いしたくて」


私がそう言うと、オーリスは考える仕草をした。

渋い顔をしている。

なんだか新鮮。


「おそらくだが……。感情が溢れ出たんじゃないか?」

「感情が?」

「そもそもお前らは魂がこの世界と違うだけで、体はこの世界の人間のものだ。そして今この世界には、ユリィ・セーリアの体が二つあることになる。同じ体だからこそ、ユリィの抑え込めなくなった感情は、お前の入っている体に流れ込んだ」


なるほど……。

溢れ出て行き場を失った感情が私に流れてきたってことね。


「にしても、本当にお前がいてよかったわ」

「何で?」

「だって、溢れ出た負の感情をお前が受け取ったお陰で、ユリィは暴走しなかったんだぞ」

「はぁ!?何で!それを!先に!言わないの!一番!大事な!ことでしょうが!」


私はオーリスの肩を激しく揺らした。

オーリスの顔色がなんだか悪くなっているから、手を離した。

オーリスは深呼吸をして、私を見た。

そしてぶりっ子のようなポーズをして言った。


「ごっめぇん!」


と言った。


――ブチッ。


私の中で何かがちぎれた。

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