第七話 死んでほしくない人
メイラール王国とは、アスクレイン王国の隣国だ。
私達の未来では他の国と合体している気がする。
そして何より、セシリアに惹かれるキャラだ。
アルトは留学先のアスクレイン王国の魔法学園でセシリアと出会い、想いを寄せる。
しかし、セシリアとイーベルが相思相愛だと知り、ユリィの死亡後、騒ぎに乗じて自国であるメイラール王国に帰る。
セシリアは黙って国に帰ったアルトに怒るが、アルトはメイラール王国に戻る途中で山賊に襲われて命を落とす。
セシリアは遅れて駆けつけたが、手遅れだった。
瀕死のアルトを見て、セシリアは涙を流した。
アルトはそこで想いを伝える。
そして死んでしまう。
アルトの死は伏線になる。
アルトが持っていた鍵が伏線に繋がる。
その鍵は……。
「ナズナ?」
イアンが私の顔を覗き込んで私を呼んだ。
しまった、考えすぎてしまった。
アルトは私達の過去では関わりがなかったから、存在自体忘れていた。
だから考えすぎてしまった。
ユリィとアルトの死亡ルートを回避しなければならない。
他に死ぬキャラは……。
あ……。
そっか。
忘れてた。
「どうかしたか?」
「すみません、メイラール王国の王太子殿下とは思わず。無礼をお許しください」
「大丈夫大丈夫。俺かしこまったの嫌いなんだー。普通に接してくれて構わないよー」
アルトは笑いながら言った。
かしこまったのが嫌いでよく王太子できてるな。
関心が湧くな。
「じゃあ、改めまして。ユ……。ナズナ・セイルナです」
「よろしくな、ナズナ。ところで、何を言いかけたんだ?」
「何のことです?」
「気のせいか」
あっぶなー!
危うくユリィ・セーリアって名乗るところだった!
気を抜くとやばいな。
気をつけよ。
「おい、ナズナ。さっさと教室に行くぞ。ユリィ様に事情を聞くんじゃなかったのか?」
「あ、そうだった。それじゃあアルト様」
「アルトでいいぞ」
「アルト、先に行くね!」
「おーう」
私はイアンに手を引かれて校舎に入った。
全く、最近のイアンはどこか変だ。
「男の嫉妬は怖いな」
「殿下、お時間です。お急ぎください」
「おっと、もうそんな時間か」
「殿下!走らないでください!」
「きゃ!すみません!」
「もうすぐ授業が始まるぞ!どこへ行くんだ?……行ってしまった。まずい、時間が!」
◇◆◇
「で、何の用だよ。ナズナとイリヤ……。だっけ?」
「オーリス聞いて欲しい。私とイリヤは並列世界から来たの」
「はぁ?そんな冗談のためだけに俺をここに呼んだのか?」
私はオーリスと話していた。
Sクラスにいるオーリスに魔法で手紙を送った。
それを読んで来てくれたオーリスだが、話を信じてくれる気がしない。
イアンも眉をひそめて微妙な顔をしている。
ユリィとアルトの死亡ルートを消すためには、オーリスの力が欲しいと思った。
「まず、魔法を解いてから話をしたらどうだ?不信感しかないぞ」
オーリスはそう言った。
魔法で容姿を偽っていることはどうやらバレているらしい。
私は自分の魔法とイリヤの魔法を解いた。
私とイアンが本当の姿になった時、オーリスは目を見開いた。
「何でユリィ・セーリアとイアン・グリーファが……?いや、魂が別物のはずだ」
「これで分かりました?私とイリヤは並列世界から来ていて、私は転生者だと言うことが」
「え?いや、そっちの男は……」
「いやぁぁぁぁぁあ!」
オーリスが何かを言いかけた時、裏庭の方から悲鳴が上がった。
私とイアンは弾かれたように悲鳴の方向に目を向けた。
今は貴族達がお茶会をしている時間だ。
また何かあったの?
私達は急いで変装魔法をかけて、裏庭に駆けつけた。
そこにはユリィが立っていた。
その前には地面に座る令嬢と、その令嬢に寄り添う令嬢がいた。
何かこの光景を前にも見た気がする。
いや、それより状況把握だ。
「何をなさるのですか!ぬるかったから良かったものの……。熱湯だったらどうするおつもりなのですか!?」
「あら、逆にそっちの方がいいのではなくって?身の程を弁えるためにはちょうどいいでしょう?」
「なんですって……」
まずい、このままでは揉め事になってしまう。
でも、現在平民の私に貴族のいざこざに口を挟むほどの権限はない。
どうしよう。
「やけどでもしたらどうするのですか!?」
「それはそれで分をわきまえられるでしょう?」
「なんって非道な……」
「何の騒ぎだ!」
聞き覚えのある声にその場にいた全員が振り向いた。
今一番来てほしくなかった人物、セシリアとイーベルが来てしまった。
一番来てはいけない二人組。
「ユリィ……。またお前か!」
「……」
どうしよう。
私になにかできることは……。
「イリヤ」
私は隣にいたイアンを見た。
しかし、そこにはイアンはいなかった。
こんな時に……。
オーリスは周りに無関心だから、全く協力してくれなさそうだ。
どうしよう、どうしよう。
『菜乃葉、落ち着いて』
またこの声?
誰?
私は周りを見回した。
でも、日本語を喋っている人なんていない。
『なんとかしたいんだろう?』
「あなたは誰なの?」
『きっとお前は覚えていない。だから名乗らない』
覚えてない?
どうして?
『お前ならできるだろう?お前には諦めない勇気がある。俺は前世からずっとお前を見ていた。だから知ってる』
前世から見てた?
前世の知り合いでこんな人いない。
人違いだ。
人違い……。
――逃げよう。俺と一緒に。この地獄から。
いつだったか。
私を救おうとしてくれた人がいたような気がする。
分からない。
『大丈夫だ。お前ならきっとできる。俺が信じたお前を信じて』
――俺はお前を信じてる。お前も俺を信じてくれ。
『お前ならできる』
――俺達なら逃げれる。
『この状況を覆してみろよ』
――この地獄から逃げ出そう。
言っていることは全く違う。
でも、その誰かとどことなく違う。
あなたは誰……?
前世の私を助けようとしてくれたあなたは誰?
分からない。
分からないけど、何だか心強い。
私は人の間を縫って、ユリィ達の方へ行った。
「ごきげんよう、紳士淑女のみな様」
私はユリィ達に挨拶をした。
怪訝そうな顔をするイーベルとユリィ、戸惑うセシリア。
うん、フルカオス。
「ご機嫌なわけないでしょう」
お茶をかけられた令嬢が私を睨みつけて言った。
友達思いに見える。
しかし、彼女の行動は友達を思ってのことではない。
まず、ぬるいお茶をかけられて、火傷はなかったとしても、すぐに立ち去ってシミ抜きをするべきだ。
それをせずにこの場に留まって、ユリィを怒鳴りつけると言うことは、自分はこの人を思っていますと言うアピールをしているようにしか見えない。
その間にこの令嬢は恥を晒している。
私は制服のセーターを脱いで、令嬢にかけた。
令嬢は適当にそばにいた婚約者らしき人に手を引かれて行った。
私は振り向いて、揉めているユリィ達に微笑みかけた。
「申し訳ありません、ご機嫌はよくありませんでしたね。ところで、何があったのですか?」
「……っ!こいつが、ユリィ・セーリアが悪いのよ!」
「ですから……」
「こいつが私の親友に……」
「黙ってください」
私がそう言うと、ユリィが悪いと抗議していた令嬢は肩を震わせて黙り込んだ。
私は令嬢に蔑むような目を向けた。
「私は何があったのかと聞いたのですよ?あなたの感想は求めてない」
「生意気な……!平民のくせに……!」
令嬢が私に向かって手を振り上げた。
叩かれる!
私は両目を瞑った。
「やめて!」
セシリアが声を上げた。
その瞳は涙を溜めている。
胸の前で祈るように両手の指を絡めている。
「平民であろうと、命の重さは変わりません……!どんな身分であろうと、慈しむことを忘れてはなりません……!」
そう訴えるセシリアは聖女というのに相応しいだろう。
実際、この世界のセシリアは聖女の力が目覚めている。
「ユリィ、あなたもいけないところがあったのよ。人にお茶をかけるなんてしてはいけないわ。ごめんなさいをして、みんな仲良くしましょうよ」
セシリアはユリィの手をとって微笑んだ。
ユリィはその手を振り払った。
「みんな仲良くする?意味が分からないわ。どうして身分が下の者と仲良くしなければならないの?お花畑思考も程々にしてくださる?」
「そんな言い方……」
いけない。
このままだとイーベルが爆発する。
「ユリィ!いい加減にしろ!」
イーベルは単純だ。
いい意味でも、悪い意味でも。
「お前はどうしてセシリアに当たる!」
「……」
ユリィは黙り込んだ。
ユリィは唇を強く噛み締めている。
その表情には強い嫉妬と憎しみ、悲しみを含んでいるように見えた。
「またその女を庇うんですの?」
「聖女は慈しむものだ!」
「馬鹿馬鹿しい」
――憎い、憎い。
私の心の中にそんな感情が流れ込んできた。
何これ……。
私の感情じゃない。
――私が愛されるはずなのに、どうしてあんな女が……!
これは、ユリィの感情?
どうして?
みなさんこんにちは春咲菜花です!こんにちはよりも「ごきげんよう」の方が世界観にあっている気がしますね(笑)改めまして春咲菜花です。早くも二章は第七話となりました!謎の声に、ユリィの心の声!盛りだくさんでしたね!活動停止中にかなりネタが出てたんですけど、書くことが出来なかったので、まだまだネタは有り余ってますよ!ちなみに、一章の番外編も再開しようと思っているのでお楽しみに!それではまた次回お会いしましょう!




