第六話 幼いユアン
「ユアン、どうして過去に?」
「琴葉達に頼んで来させてもらった!」
ユアンの姿は五歳くらいの見た目をしている。
元々のユアンは今の私達と変わらない姿をしていた。
しかしその実年齢は20歳だったらしい。
本当は私達は二千年の眠りにつくはずだったらしい。
しかし、千年で済んだのはユアンが力を使って千年分の眠りを縮めたかららしい。
魔法の代償に見た目や記憶、魔力を差し出したユアンは五歳児の姿になり、私達と過ごした記憶もない。
そんなユアンは、私に懐いた。
なぜかは分からない。
「寂しかった!!」
ユアンは私に抱きついて言った。
ユアンの金色の瞳のくすみは、今では完全になくなり、きれいになっている。
私はユアンの頭を撫でて、イアンを見た。
「ユアン、そのままでは冷えるだろう。部屋に帰ろう」
気を利かせてくれたイアンは、幼くなったユアンにメロメロだというのはここだけの話。
私はユアンとイアンを部屋に連れてきた。
ユアンには入学式前に泊まった宿の店主さんが、私にくれた飴を渡した。
ボリボリと音を立てながら飴を食べるユアンは可愛い。
「それにしても、よくみんな許可してくれたよね」
「なにか用事があったんじゃないか?」
「ユアン、琴葉達に何か頼まれたりしてない?」
「ん〜?」
ユアンは考えるような声を出した。
そしてハッとした表情をしてから、ポケットから何かを取り出した。
「これ!琴葉が菜乃葉に渡してくれって!」
ユアンが差し出してきたのは、白い布に包まれている丸いなにかだった。
私は布を剥がした。
布の中身は魔法球だった。
魔法球は連絡用に使われるものだ。
しかし、国一つ分の距離ができると魔法球は使えなくなる。
並列世界のここで魔法球が使えるのか分からない。
私は魔法球に魔力を注いだ。
確かこうやって使うはず……。
『あー、やっと繋がった』
そこには琴葉がいた。
琴葉は険しい顔で魔法級に近づいた。
『どうなってるの!?今どこにいるの!?何で過去にいないの!?』
「多分一種の並列世界の過去」
『はぁ?』
納得していないような声と顔をしている琴葉を見て、イタズラ心で並列世界に飛ばしたようには見えない。
自然な力?
それよりも、どうして私達のいた世界の過去に飛ばなかったことを知っているんだろう。
「何でかは分からないけど、私達は今、私達がいた世界とは違う世界の過去に来てるの」
『えぇ……。魔法に不備があったのかな。完璧だと思うんだけど……』
「ねぇ、何で私達が過去にいないって分かったの?」
『過去の私達と話ができる魔法を作ったからだよ。過去の私に聞いたら来てないって。てっきり学園の入試に落ちたのかと思ったよ』
こぉっわ!
また魔法開発してるよ。
他国が戦争起こしてでも手に入れたいほどの人材だよ。
やばいよ。
アスクレイン王国は二千年の歴史を誇る魔法大国という称号がついた。
その魔法技術は他国からしたら、喉から手が出る程欲しいだろう。
土地も魔法の力で拡大してるし。
「ここは多分小説のシナリオ通りに時間が進んでいくんだと思う」
『小説と同じ運命を辿るってこと?』
「そう。私はここに来た目的を達成しつつ、ユリィを救うことにしたの」
『いいねそれ。名案だ』
琴葉は不敵に微笑んだ。
『できればユリィに直接謝りたかったけどな……』
「……」
ユリィの運命を決めたのは琴葉。
それに責任を感じているんだろう。
ユリィはあの後私達の世界から姿を消した。
ユリアンも、イーベルも、セシリアも、ギディオンも、リリアもだ。
「琴葉」
私は琴葉を呼んだ。
琴葉は首を傾げて私を見た。
「さっき言った通り、私は目的を達成しつつユリィを助ける。もちろん言われた時間通りにそっちの世界に帰る。だから……」
『え?』
「え?」
琴葉が拍子抜けたような声を出した。
なにかおかしいこと言ったかな?
戸惑っていると、琴葉は優しく微笑んだ。
『私駄目って言ったっけ?』
「……?」
『好きにしていいよ。私は菜乃葉のやりたいことに反対なんてしないから。ユアンは好きに使ってね』
「……琴葉ぁ!!ありがとう!」
『うるさっ』
琴葉は通信を断ち切った。
イアンまで「うるさっ」と言いたげな顔をしている。
どいつもこいつも失礼だな。
◇◆◇
「菜乃葉」
「おわっ。何だイアンか」
部屋のドアが開けられてびっくりしてしまった。
入って来たのはイアンだった。
イアンは怪訝な顔をして、部屋に入って来た。
「何だって何だよ。ほら早く行くぞ」
「はいはい」
私は鞄を持ってイアンの方に行こうとした。
私は右腕に違和感を覚えた。
袖が何かに引っかかったのかな?
振り返ると、ユアンが涙目で私を見ていた。
ユアンは亡くなった親戚の子だと、帰る場所がないと、居場所はここにしかない。
そう言うと、寮の管理長は泣きながら頷いた。
罪悪感は生まれるが仕方ない。
「菜乃葉……」
私はユアンに身長を合わせるためにしゃがんだ。
ユアンは両手で服の裾を力強く握って、泣いてしまいそうになるのを堪えている。
私はユアンの頭を撫でた。
「ユアンはまだ学園には行けないなぁ。私達と違う所でお勉強できる?」
「いやぁ……」
ユアンは泣きそうな声を振り絞って言った。
「すぐ帰ってくるよ」
「やぁだ……」
「おりこうさんできない?」
「……」
「帰って来たらいっぱい遊んであげるから」
ユアンは渋々頷いた。
私達は寮長のところにユアンを預けて学園に向かった。
◇◆◇
ユリィが謹慎を言い渡されてから一週間。
今日から謹慎が解けて、学園に復帰しているだろう。
私の目の前に、優雅に歩くユリィとアエテルナを見つけた。
アエテルナに関してはこっちの世界でははじめましてだな。
「ユリィ様」
私はユリィに駆け寄った。
「ユリィ様、謹慎が解けたのですね。良かったです!」
私はユリィの顔を覗き込んだ。
ユリィは冷めた視線で私を見た。
「気安く話しかけないでくださいませ。平民と馴れ合う気はありませんの」
「魔法学園では身分を問われることはないのではないですか?誰もが平等に過ごせるように。十四代目国王陛下がお決めになられた秩序ある校則ですよ」
「くだらない。アエテルナ、行くわよ」
「ユリィ様」
ユリィは私を睨むように見た。
私が知ってるユリィの目じゃない。
怖がるな。
目の前にいるのは愛が欲しいだけの少女だ。
ユリィはアエテルナと歩いて行ってしまった。
「……」
そう言えばイアンはどこにいるんだろう。
さっきまで後ろにいたような。
私が周りを見ると、蔑むようなような身を向けられていることに気がついた。
流石に目立ちすぎたか?
「ユリィ様にあんな態度を取るなんて……」
「いくら学園が身分問わず平等に扱われるとしても、平民がでしゃばりすぎでは?」
ユリィではなく私に対する陰口か。
そう言うのはハッキリ言って欲しい。
コソコソされるのは好きじゃない。
かと言って、面と向かって言われすぎるのも嫌だ。
――あんたなんか消えちゃえば?
――姉の残りカス。
――死ねよ。
――飛び降りろ、飛び降りろ。
慣れない痛み。
消えない傷。
本気で死のうと思うほどの苦しみ。
なぜかみんなから嫌われた前世。
今は違う。
私はそう言う行動を取ってる。
嫌われているわけじゃない。
言え。
言い返せ。
「陰でコソコソするのはやめていただけませんか?不愉快です。言いたいことがあるならハッキリ言ってくださいよ」
周りはポカンとした
「おい、やめろよ」
イアンの声が聞こえて、後ろを見た。
そこには誰かに絡まれるイアンがいた。
「イリヤ?どうしたの?」
私はイアンに話しかけた。
一緒にいる人は、紺色の髪に黒色の髪をした男性だった。
この人は……。
「何?イリヤの恋人?どうもー、イリヤの大親友のアルト・メイラールでーす」
アルトと名乗る男の人は私の手を掴んで上下に振りながら言った。
イアンからの視線に殺意が紛れてる気がする。
今にも襲いかかりそうな目つきをしているイアンがマジで怖い。
ん?
ん?
んー?
「アルト・メイラール?」
「そ」
「メイラール王国の?」
この人……。
小説の中でユリィの死後に死んでしまうキャラだ。
みなさんこんにちは春咲菜花です!約三週間お待たせしました!第六話です!バタバタしていて書けませんでしたが、ようやく書くことが出来ました!お休みの間、評価してくださった方にお礼申し上げます!今後は少し落ち着くので、今まで通り活動したいと思っています!ずっと小説書きたくて仕方なかったのでこれからが楽しみです!みなさんもこれから菜乃葉達がどうなっていくのかお楽しみに!それではみなさん!第七話でお会いしましょう!




