第四話 イレギュラー
私達は教室に向かい、状況を確認した。
倒れる女子生徒と、その前に立ち尽くしてただ呆然と手のひらを見つめているユリィ。
何があったの……。
私はユリィに近づいた。
「ナズナ!!来ていたのか!!あいつから離れろ!!」
イーベルは私をイアンのところまで走って連れて行った。
どうしてみんなユリィから離れているの?
どうしてユリィはシリアの前で立ち尽くしているの?
分からない。
女子生徒は小説内で見たことがある。
ユリィの取り巻きの、シリア・モールド。
「何があったんですか?」
「ユリィが室内で魔法を使った。女子生徒はそれに巻き込まれて意識を失っている。今ユリィに近づくと危険だ」
「なぜ、ユリィは魔法を使ったのですか……?」
それが分からないことにはどちらが悪いかを、判断することができない。
しかし、イーベルは黙ったままだった。
私はユリィに近づいた。
「ナズナ!」
イーベルはまた私の腕を掴んで連れ戻そうとした。
その手はイアンによって止められた。
イアンは「行け」というように私を見つめた。
「ユリィ様」
「……」
「ユリィ・セーリア様」
「……」
「何があったのか話してもらってもいいですか?」
「……」
ユリィは黙ったままだ。
しかし、攻撃をしてくる気配もしない。
みんなはユリィを大きな魔物を見るような目で見つめていた。
でも、私には子供のように見える。
小さな子供みたいだ。
私はシリアの体を抱き上げた。
ほんの僅かだけど脈はある。
私はシリアを抱えて教室から出た。
イアンは私についてきた。
「ここまでするなんて……。この子は何をしたの……?」
「周りがそれを見ていないのが不可解だな」
私達は保健室についた。
先生はいないようだ。
私は姿をジゼルに変えた。
実は言うと私がジゼルになるときに使っている魔法は変装じゃない。
もう一つの姿である菜乃葉の姿を引き出しているだけだ。
ざっくりいうと、この姿は変装じゃない。
なぜか私は前世の姿になれる。
しかし、謎に目の色とかが変わってしまう。
そこはなんとかしたい。
ちなみに菜乃葉の姿になると、使える魔法も変わる。
今は上級魔法全属性を習得しているけど、菜乃葉の姿はそれプラス最上級魔法、神の加護、光魔法が備わっている。
転生ボーナスか何かかな?
「相変わらずお前のその姿は前世よりだな。伊吹達もできるのか?」
「多分できないと思う。できてたら私のところにマッハで伝えに来る」
「確かに」
私はシリアに回復魔法をかけて、その子が目覚めるのを待つことにした。
ユリィが心配だけどあの状態で離せるはずがない。
あの時、目だけを菜乃葉のものにしてユリィの魔力の流れを見た。
かなり乱れていた。
まるで……。
「うぅん……」
シリアが目を覚ました。
回復魔法で脈も正常になってる。
「あれ……?私……」
状況が掴めていないシリアは周りを見ている。
頭を抑えて私達を見た。
体を起こして戸惑ったような顔で私達に言った。
「ここは……?」
「保健室です。教室でユリィ様と何があったんですか?」
「……っ!」
私が聞いたことにシリアは肩を震わせた。
よほど怖かったのだろうか。
「ユリィ様に……。私……!なぜあんなことを……!!」
「落ち着いてください。魔力が乱れています」
「あなたは……?」
「私はジゼルと申します」
「ジゼル……?」
しまった。
菜乃葉の姿から元に戻るの忘てた。
それはともかく、この子はどうやら意図的にやらかしたわけではないらしい。
「何が合ったのか聞いてもいいですか?」
「違う……。口が勝手に……」
「シリアさん!」
私は戸惑うシリアを叱るように呼んだ。
シリアは私を見て、震え続けた。
彼女の目には涙が浮かんでいる。
「落ち着いてください。ゆっくりでいいです教えてください」
「私……。ユリィ様に……。『いい加減にしろよ。この悪役令嬢』って……。言ってしまった……。どうしよう……」
不安そうにそう言うシリアは、明らかに誰かに何かされたようにしか見えない。
この世界には悪役令嬢という言葉は存在しない。
でもこの並列世界には存在している。
なぜ気づかなかったんだろう。
ユリィがセシリアと言い合いをした時、悪役令嬢という人が複数人いることに。
いる。
絶対にいる。
この並列世界にはイレギュラーである転生者が。
そして、そのイレギュラーは物語が順調に進んでいくことを望んでいる。
私は唇を噛んで落ち着こうとした。
物語通りにすれば、人が死ぬのに。
私は思いを押し殺して、シリアから話を聞くことだけを考えた。
イレギュラーは後回しだ。
まずはシリアを落ち着かせることが先決だ。
「どうしてうまくいかないのかな。それに、ジゼルってチートキャラクターいたっけな。ユリィも思い通りに動かないし、何なのよ」




