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幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第一章
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第三話    誰にも届かない声

「菜乃葉!何度言えば分かるの!」

「お前は私達の言う事を聞いていれば良いんだ!」

「何でいつも私の人生を勝手に決めるの!」


私はその日初めて、両親に逆らった。

それまでは、両親の言いつけを守り、自分を捨てて生きていた。

本当の自分がどんなだったか、どんな性格だったか、適切な人への接し方も、全部全部見失った。

学校ではみんなに遠巻きにされ、友達も離れて行った。


――だって菜乃葉ちゃん、いつも真顔で何考えてるのか分かんないもん。


一人の友達がそう言った。

何で?

上手く表情が作れないだけなのに。

悪い所があるなら直すから、だから行かないで……。

離れて行かないでよ……。


――私達といたって楽しくないんでしょ?いっつも無表情だし。言い方キツイし。


複数人の友達が言った。

違う。

私だって笑いたい。

楽しくない訳ない。

言い方がキツイのはわざとじゃないの。

楽しいって、言葉にした事なかった?

待ってよ……。

どうして私の声を聞いてくれないの……?


――そう言われてもねぇ……。あんたの笑顔って胡散臭いもん。行こ。


ねぇ、行かないでよ。

みんな……。

置いて行かないでよ……。

一人ぼっちにしないでよ……。

私は一人になった。

全部全部お母さん達のせいだ……!


「いつもいつも家の……。会社の事ばっかり!!テストで良い点をとっても、コンクールで優勝しても、頑張ったねの一言もくれない!私は十分頑張った!!期待に応えた!!お姉ちゃんと同じように!お姉ちゃんは沢山褒めてるくせに、私には『まだ期待に応えろ』?ふざけんな!!期待に応えても、褒めてくれない癖に!!いい加減にしてよ!あんたらのせいで、私がどれだけ苦労したと思ってるの?」


友達もいなくなり、陰口を叩かれる始末。

唯一の親友だったいっくんは、高校の進路が別れた。

いっくんは東京の高校に、私は地元の大阪の高校に入った。

しかし、新しい友達もできるはずがなく、私は空っぽな高校生活を送った。

いっくんについていかなかった理由は、両親が猛反対した。

いつものことだ。

せめて大学だけでも、東京に行きたい。


「期待に答えてほしいなら、言うことを聞いてほしいなら、東京の大学に行っていいって言ってよ」


――べシン


頬に強い衝撃が走った。


「いい加減にしろ」


あぁ、やっぱり変わってないね……


◇◆◇


「お母さん、お父さん。テストで満点を取りました」

「凄いわ!流石由梨奈だわ!」

「おぉ!素晴らしいぞ由梨奈!よく頑張ったな」


両親は、テストで満点を取った姉を褒めまくった。

だからこそ期待した。

模試で初めて満点を取っただけじゃなくて、夏休みの作品募集でも沢山賞を取ったから。


「お、お母さん、お父さん。私も……。私も満点取ったよ……!俳句のコンクールで賞も取ったし、絵と書道のコンクールでも賞を取ったの……!それにね……」

「菜乃葉。貴方はまだそれだけの賞しか取れないの?」

「たかが小三の模試とコンクールでいい成績だっただけで、何を得意げになっている。由梨奈は小一のときから満点を取っていたぞ」


私はその場に立ち尽くした。

沢山の人が受けた模試で満点だった。

その報告を受けた時は嬉しかった。

初めての点、沢山の賞。

褒めてもらえる。

そう期待した。


「で、でもね、沢山の人が受けた中で一番でね。賞だって……」

「菜乃葉」


私は父の低く冷たい声に、体を震わせた。

そして、父は右手を振り上げた。


――べシン


そんな音が、部屋中に鳴り響いた。

私の頬は酷く腫れた。

叩かれた拍子に、口の中を切って、血も出た。


「いい加減にしろ。褒められたいからなんだって言うんだ。褒められたいなら努力しろ。これくらいの事で浮かれるな」

「……」


姉を褒めまくっていた両親を前に、虚しいといった感情が湧く。

姉は、私を冷たい目で見ていた。

でも……。

頑張ればきっと褒めてくれる……!

そう信じて、六年間頑張った。

でも、結局変わらなかった。


――お前は由梨奈に追いつけない


父親と母親が言った。

分かってる。

大丈夫。

言われなくても、ちゃんと分かってる。

追いつけなくてもいい。

褒めてもらえるならいくらでも頑張れるよ。

そう自分に言い聞かせて、ついに私は、大阪県内のスポーツ大会やポスターなどの作品募集のコンクールの賞を独占した。

私はその時中三だった。

確実にお姉ちゃんよりも、賞を取っている。

これなら褒めてもらえる……!


「お前は浮かれ過ぎだ」


両親は変わらなかった。


「こんなに賞を取ってもそんな事を言うの?少しは褒めてよ」

「……」

「お父さん!」

「いい加減にしろ」


私はなぜか怒られてから部屋に戻った。

そして、泣きながらテストと表彰状をビリビリに破った。


「要らない……!!こんなもの……!!あってもなくても……。何も変わらないじゃない……!!」


自暴自棄になったところで、何も変わらない。

そんなの分かっていた。

でも、表彰状を破る手が止まらなかった。


◇◆◇


私はあの日、あの瞬間から気づいてしまった。

この人達の愛情は、私には……。

私達には向けられる事はないと。


「普通?絶対に普通じゃない!そもそも、会社はお姉ちゃんが継げばいいじゃない!お姉ちゃんの方が成績優秀だって言うならね!!」

「あの子はあの子!貴方は貴方よ!会社を継ぐのは菜乃葉かも知れないじゃない!」

「勝手過ぎるよ!私とお姉ちゃんで、愛情の差が酷いのは何で?私だってお姉ちゃんみたいに頑張ったねって言われたいよ!努力を認めてよ!!」


今まで見て見ぬ振りをしていた事を、初めて両親に伝えた。

私だって頑張ってた。

お姉ちゃんに負けないくらい頑張ってた。


「お姉ちゃんみたいに?あの子はそれ相応の努力をしている」


じゃあ何よ……。

私の努力は何だったのよ……!


「私は努力していないって言うの?今まで努力しなかったことなんて無い!貴方達の愛情が、私に向く事を信じてずっと頑張ってきた。でも、貴方達は、今の今まで私にたった一言……。『頑張ったね』の一言を言ってくれたことがあった……?」

「そんな事を言ったらお前は調子に乗る」


そんな事無いのに。

たった一言で、私はどれだけやる気を出せたか。

それに……。

「雪菜と唯斗が死んだのも、なんとも思ってないの?」

「あいつは役に立たん。あんなやつらはこの家にはいらん」

「あの子達だって生きてるんだよ!貴方達の道具じゃない!」

「何を言ってるの?子供なんてただのコマよ」


この時の私は察した。

この家では、どんなに頑張っても無意味だと。

もう疲れた。

頑張る事に、求める事に疲れた。

もう良いよね。

もう充分頑張った。

これ以上話しても無駄だ。

どうせ愛されない。

もう嫌だ。

その後、私は家を出た。

私が住んでいたのは大阪。

そこから、公共交通機関を使って、東京に行った。

私は19歳だった。

元々こっそりバイトをしていたから、貯めていたお金を使って、東京のマンションに引っ越した。

髪も染めて、東京の大学で平和に過ごしていた。

だが、本当の自分がどんなだったかは思い出せない。

そして、20歳になって、大学に転入生が来た。


「私は野々原琴葉。よろしくね菜乃葉」

「何で私なの?他に話しかける人居たでしょ?」

「だって、貴方が一番孤独そうだったもの」

「同情ってことね。悪いけどそんなのは要らない。私に必要ない」


それが、琴葉との初めての会話。

琴葉は私に付きまとうようになった。

移動教室のときも、放課後の駅までの道も、ずっと付きまとわれた。


「この駅から家に帰ってるんだ〜」

「ここのクレープ美味しいんだよ」

「一緒に音楽室行こ〜」


私は彼女の言葉を、徹底的に無視した。

ある日の放課中。

私が絵を描いていると、琴葉が来た。

私は今まで通り無視をした。

琴葉は珍しく、何も話さなかった。

絵を描き上げると、琴葉が目を輝かせて言った。


「菜乃葉はとっても絵が上手なんだね!今まで頑張った証拠だね!」

「……っ!」


私が一番欲しかった言葉。

家を出ても、誰にも言われなかった言葉。

私は、家族でもなく、友達でもない、赤の他人に初めて褒められたのだ。

いや、誰でも良かったのか……。

誰でも良いから頑張ったねって言われたかった。


「……うぅ……」

「え?どうしたの?何か悪いこと言った?」


琴葉は、酷く動揺していたな。

私が急に泣くから。

嬉しかった。

今まで、誰にも言われなかった言葉を言ってもらえたのが。


「ありがとう……。ありがとう……」


私は琴葉に今までの事を話した。

姉ばかり愛されて、両親は私に……。

私達に一切の愛をくれなかった事。

私達を都合のいい道具としか思っていなかった事。

私が妹と弟を傷つけた事。

そして、期待に応えても褒められなかった事。

この事を話したのは、初めてだった。

琴葉は静かに、私の話を聞いてくれた。

その後、私達は仲良くなった。


◇◆◇


「ねぇ、菜乃葉。私の小説のイラストを描いてくれない?」

「え?」


唐突な申し出に私は驚いた。


「私は小説を書いてるの。その小説を今度書籍化する。そのイラストを描いてほしいの」


その話は初耳だ。

私は少し前から琴葉に言われて、ネットでイラストを投稿したりした。

それが思ったよりもいろんな人に見られた。

色彩検定などを受けて、ちゃんとしたイラストレーターになった。

確かに私の名前は世間でもそこそこ知られてるけど……。


「私なんかの絵でいいの?」

「はいその言葉禁句」


琴葉は私の口を押さえて言った。


「何?」

「私なんかって言わないで。私は菜乃葉の絵が好きだから頼んでるの。自分を否定しないで欲しいし、私の選択を否定しないで欲しい」

「ごめん」


私は琴葉に謝った。

琴葉の顔は、すごく怒っていたからだ。

そして私は琴葉の小説のイラストを描いて、琴葉を支えた。

私は仕事をしている時、琴葉を支えている時が一番楽しいと気がついた。

私がやりたかった事は、人を支えて、笑い合う事だったのだ。

琴葉は私の望みを、いつも叶えてくれる。



また、あの子に会えたなら……。

みなさんこんにちは!春咲菜花です!三話を書けました!今回は菜乃葉の過去の話でしたね。今のところ結構シリアスな展開が続いていますね……。そろそろほのぼのした展開を出したいです!次回はほのぼの展開を入れたいと思います!過酷な菜乃葉の過去に、自分でも「やりすぎたか!?」と思いましたが、書き直すのも大分手間なのでやめました(笑)。とりあえず、次回のお話でお会いしましょう!また今日中に書けるかもしれない……(笑)。

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