第二十八話 美しい町並み
「菜乃葉、起きろ」
イアンの声が聞こえて目を開けた。
目の前には、イアンに似た顔があった。
はぁぁぁあ、イケメンだ……。
「菜乃葉、頼む起きてくれ」
「誰?」
「俺だ」
イアンか。
謎にイアンだと分かった。
「起きてるよ。どうしたの?」
「ここはどこだ?」
「え?」
私は体を起こして周りを見た。
「お……。大阪……?」
そこは紛れもなく大阪だった。
「どうして大阪に……」
「大阪?聞いたことがない国名だな。異世界か?」
イアンは相変わらず感がいい。
ここが私の地元だとすぐに分かったらしい。
イアンは日本人の見た目になっていて、私も菜乃葉の姿になっている。
「どうして……」
「おい、空に文字があるぞ」
イアンがそう言ったから空を見ると、確かに文字があった。
――夜の十二時がタイムリミット。十二時になったら目覚める。
意味がわからなかった。
これが神のお告げなのだとすると、言葉足らずがすぎる。
「目が覚めるって、現実に戻るってことか?」
「そうなのかな?」
「それまで好きにしろってことなんだろうか……」
「言葉が足りないなぁ……」
私はイアンの手を掴んで、イアンに微笑みかけた。
イアンは少し驚いたように目を見開いて、微笑み返した。
「行こう!」
◇◆◇
私達は少し歩いて町を見た。
地元の様子は私の記憶通りだけど、誰もいない。
店は空いているはずなのに、店主はおらず、影のようなものしかいない。
「なんだか不気味だな」
「おなかすいちゃった。なんか食べようよ」
「なんかってなんだ。食べるにしても店主がいないぞ。金もないし」
私は制服から財布を取り出した。
開けてみると、多すぎるほどお金が入っていた。
「何だ?この紙は」
「私の世界のお金だよ」
「この紙切れが!?」
あ、そっか。
イアン達の世界では硬貨だもんね。
金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が五百円くらいだ。
私は影の前にお金をおいた。
「うわっ!」
影は動き、私達の前にたこ焼きを置いた。
なるほど。
お金を置けば影が欲しいものをくれるのか。
イアンは顔を引きつらせて私に聞いた。
「……何だ?この丸くて得体の知れない物体は」
「たこ焼きって言ってね、この世界で私が一番好きな食べ物なの」
私は爪楊枝でたこ焼きを刺して、口まで運んだ。
イアンが「はしたないぞ!」と言っているが、異世界の食べ方で食べていいものではない。
ちなみになぜ私に大阪特有の方言がないのかと言うと、流石に大手企業の社長令嬢なので、方言があると言葉が伝わらない場合があるからだ。
つまり、そういう教育を受けている。
久しぶりのたこ焼きを堪能しながらそんな事を考えていると、イアンが私を羨ましそうに見ていることに気がついた。
「食べたいの?」
「いや、別に」
私はなぜか意地になっているイアンの口にたこ焼きをねじ込んだ。
「あっつ!」
「私という絶世の美女から「あーん」されたたこ焼きは美味しい?」
「あふふひれあふはははふぁん」
イアンは頑張って喋ろうとしているが、何を言っているのかさっぱり分からない。
熱さに悶え苦しむイアンは新鮮で面白い。
「何言ってるかわかんないや〜。ねぇねぇ、なんて言ったの〜?」
イアンは少し涙目になりながら、私を睨んだ。
「『熱すぎて味がわからん』と言った。後で覚えておけ」
「覚えてたらね」
イアンは私を睨み続けている。
私は仕方なく綿菓子を買って、イアンの口にねじ込んだ。
イアンは砂糖の甘さに感激して、私を簡単に許した。
ちょろすぎる。
◇◆◇
その後も私達はお腹がいっぱいになるまで食べ物を食べた。
映画館に行ったり、展示会を見たり、ユリィ達の物語を一緒に読んだりした。
気がつくともう十一時になっていた。
「楽しかったぁ」
私が展望台のベンチでそう言うと、町を見ていたイアンは私の方を見て微笑んでくれた。
イアンも食べたことのない物をいっぱい食べて、満足そうに笑っていた。
「お前の世界はこんなにも美しく輝いていたのか」
イアンが展望台から大阪を見下ろして言った。
私も大阪の景色を眺めに、ベンチから立ち上がってイアンのそばに歩いた。
「わぁ……」
思わず歓声を上げてしまうほど美しい大阪の景色は、私があの時見ることができなかったものだ。
勉強に追われ、両親からかけられる重圧に耐えるので精一杯だったから。
私の目から、涙がこぼれた。
地元なのに、こんなにきれいな一面も知らなかったんだ。
勉強ばかりで他のところに目が回っていなかった。
死んでからこの町の……。
世界の美しさに気がつくなんて。
「お前はよく泣くよな」
イアンは呆れたような口ぶりだけど、その声は穏やかで優しい。
イアンの指がそっと私の頬に触れた。
こぼれた涙を拭ってくれた。
「俺は今日気づいたんだ。お前と過ごした時間は少ないし、俺はお前のことをよく知らない。でも、お前は俺達のすべてを知っているフェアじゃないと思わないか?」
「どういうこと?」
「お前のことも教えろよってこと」
不敵に笑ったイアンは、物語のイアンとは違うことが分かる。
私は仕方なくイアンにすべてを教えた。
琴葉にも教えてない、唯斗と雪菜のことまで。
すべてを。
イアンは琴葉と同じように真剣な顔で聞いてくれた。
「これで全部」
「想像以上だな」
イアンは複雑な表情をした。
私ってよっぽどやばいところに生まれたんだなぁ。
改めて実感した。
ユリィ達の世界の貴族達の中にも、子供を道具のように扱う人はいる。
でも、それが当たり前になっていないイアンからしたら最低な親のもとに生まれてしまったように見えるのだろう。
「当たり前のようにその仕打ちを受けてきた私のことを、『変なやつだ』とか『壊れてる』とか思った?」
「まぁ……」
「やっぱりね。でも、覚えておいて。人間なんか、いつか壊れるし、変なところまみれなんだから」
私はイアンに微笑みかけた。
壊れてしまうかもしれないから、人間は頑張って足掻こうとするんだ。
足掻かなければ壊れてしまうからね。
私はイアンを見た。
「もうすぐ十二時だね」
「そうだな」
「帰ろうか」
私はイアンに手を差し伸べた。
イアンは少しためらって、私の手を掴んだ。
今、現実では何が起きてるんだろう。
みんなはきっと死んじゃってるよね。
でも、これは私が選んだ選択だ。
琴葉に恨まれても、いっくんに恨まれていてもいい。
二人が無事なら。
イアンが少しだけ私の手を強く握った気がして、イアンを見た。
「ありがとう、菜乃葉」
みなさんこんにちは春咲菜花です!はい、最終回詐欺してすみません。次回が最終回です(笑)すみません!本当に次回が最終回ですから!お楽しみに!




