第二十五話 ユアンの本音
扉の中はアスクレイン王国の旧王城の誰かの部屋だった。
「うぅ……」
誰かの泣き声がした。
部屋の隅には、膝を抱えて泣いている男の子がいる。
もしかして、この子がユアン?
「こんにちは」
ユアンは顔を上げて、私を見た。
私が見てきたユアンとは違う。
瞳はくすんでいないし、弱々しい。
「誰……?」
「私は菜乃葉」
「菜乃葉……?」
私は頷いた。
ユアンは溢れてくる涙を拭った。
私は周りを見回した。
近くにある机には、教科書が乗っている。
私は机の方へ行って、教科書を手に取った。
千年前の文字。
「どうして泣いているの?」
「僕ね、王様をしてるの。みんなのお手本になるために、お勉強をしないといけないんだ。でも、僕はみんなと同じように遊びたいの」
ユアンは立ち上がって私のそばに来た。
涙は止まったようだが、悲しそうな顔をしている。
「一人でしないといけないの?あなたにはお姉ちゃんがいるでしょう?」
「お姉ちゃんに頼りっぱなしは嫌なんだ。だって、いざという時にお姉ちゃんのことを守れないもん」
私は膝をついて、ユアンに視線を合わせた。
ユアンは首を傾げた。
いい子だな。
やさぐれていた私とは大違いだ。
私はユアンを抱きしめた。
「責任感が強くていい子だね。でも、それで自分を追い詰めるのは違うよ」
「でも、そうしないと……」
「バカだなぁ。あなたのお姉ちゃんは頼られたかったんだよ。一人で抱えて欲しくなかったんだよ」
言い終えると、ユアンは私が見たことがある姿に成長していた。
「君に何が分かるの?」
「何も分からないよ。分からないからこそ、人は人を分かろうとするんだ。分かろうとすればするほど、謎が増えることもある」
――どうしてお姉ちゃんは……。あの時私のそばにいてくれたんだろう……。
「ぶつかることも増える」
――どうして分かってくれないの!
「でも、それでいいんだ。それが人間らしいから。他人とぶつからない人なんていない、謎がない人なんていない」
ユアンは顔をしかめた。
「綺麗事だ。そんなの」
ユアンからしたら、私の言葉は綺麗事にしか聞こえないのかもしれない。
そうだよね。
人を信じて、大切な人を失ったもんね。
それだけの人間不信になってもおかしくない。
「綺麗事じゃないよ。私は君と同じような思いをしてるからね。分かるんだよ、君のことが」
「分かるわけない。僕の気持ちは、誰にも分かるはずな……」
「普通の子として、人から愛されて、心の底から褒めてもらいたかったんでしょう?」
「……っ!」
さっきユリアンに見せられた過去で、私は使用人の悪口を隠れて聞いているユアンを見た。
それを聞いて、ユアンは自分が心の底から褒められたことはないことに気がついたんだろう。
「素直に話してみて。私はあなたの全てを受け入れるから。誰かに言えないなら、私が聞くから。それが、同じ一人ぼっちの私にできる一番喜んでもらえることだよ」
ユアンは再び目に涙をためて、大粒の涙を流し始めた。
ユアンは子供のように私に抱きついてきた。
私はそれを受け止めて、ユアンの背中をさすった。
「僕はね、本当は普通の子として生活したかった。お姉ちゃんが村を独立させて国を作った時、すっごく不安だった。いきなり重責を負わされて、いきなりみんなから褒められて、でも本心だとは思えなくて、みんなが怖かった……。怖いけど、みんなを守るために自然災害から村を守ったら、より一層期待されるようになって……。期待に応えなきゃ、みんなを失望させないようにって頑張ってた。でも、いくら頑張っても本心から褒めてくれる人は少なかった。いつか、やって当たり前だと言われるようになって……。それがすっごく苦しかった。辛かった。僕は、王様になるよりもみんなと同じ普通の子になりたかった。でも、そんなの無理だって思ったから諦めたんだ……」
ユアンはやっぱり私に似てる。
幼いながら重責や期待をされて、期待に答えても当たり前だと言われる。
その苦しさが手に取るように分かる。
ユアンは私から少しだけ離れて、私を小突いた。
「諦めたのに……。お前が受け止めるとかいうから、諦めきれなくなっただろ……!責任を取ってよ!僕を普通の子にしてよ!」
ユアンは悲しそうな顔をしている。
しかし、その瞳には強い意志が宿っていた。
「大丈夫。あなたはもう国王じゃない。普通の子になってもいいんだ。普通にお姉ちゃんと遊んでもいいんだ」
「でも……。僕は人を沢山……」
ユアンは人を殺したことを気にしているらしい。
私はユアンの手を取って、微笑んだ。
「そうだね。その罪は消えないし、消せない。あなたはその罪悪感を忘れずに生きていく。一生ね。それが、あなたにできる最大の反省だと思わない?」
「……うん」
「さて、帰ろうか。現実に」
私は立ち上がって、ユアンを見た。
ユアンは満面の笑みで頷いた。
人を殺した事実は消えなくても、償いはできる。
私はそう信じてる。
だから、一緒に頑張ろう。
ユアン。
◇◆◇
「菜乃葉!目が覚めたのか!」
「イ……アン……?」
「良かった……」
イアンは私を軽く抱きしめた。
まだ薄っすらとしている意識で、私はあたりを見回した。
「……え?」
舞踏会場はボロボロになっていて、そこら辺に破片が転がっている。
血はあちこちに飛び散っている。
私は急いで体を起こして、イアンに聞いた。
「何が……。あったの……?」
「ユアンが魔力を暴走させて、舞踏会場が壊れた。倖い死人は二人だけだ」
「イ……アン?あれは何……?」
私が指さした方向には、血まみれのいっくんと琴葉がいた。
「二人は……。死んでるの……?」
イアンは悲しそうな顔をして頷いた。
どうして?
琴葉は聖女だし主人公……。
いっくんはチートな王太子……。
簡単には死なないでしょう……?
「やだなぁ……。冗談はやめてよ……。みんなグルなの……?洒落にならないよ……」
「菜乃葉、二人は……。建物の崩壊から俺達を守って死んだ」
みなさんこんにちは春咲菜花です!ついに物語は第二十五話ですよ!みなさん!物語は最終章に入りました!さて、今回はユアンがしまい込んだ本音が出てきました!そして、まさかの現実に戻ってきたら親友が死んでいるという事実を突きつけられた菜乃葉。次回は菜乃葉がどう動くのかが気になります。良ければ高評価やブクマ、感想をください。泣いて喜びますので(笑)それでは次回の第二十六話でお会いしましょう!それでは!




