第二十二話 突きつけられた現実
「変なのはお前だよ」
「イアン……?どうしちゃったの……?」
イアンやみんなは怖い顔で睨んでくる。
前世の周りの人の目が、私の脳裏をよぎった。
――あの子って姉の残りカスって呼ばれてるんでしょ?
――テストの点数も良くないし、まるで本物の残りカスね。
――しかも、人の彼氏を寝取ったりしてるんでしょう?ほんとに最低だね。
やっていないことをやったと言われる。
それが日常だった。
高校に入ってからは頑張るのをやめて、テストの点数を落とした。
両親からは怒鳴られたけど、改善する気にもなれなかった。
知らない人の罪を私のせいにされて、人から疎まれて。
生きるのも嫌になった。
その時のみんなの目と同じだ。
「お前みたいな非道な女を気にかけるなんておぞましい」
「どうしてそんなことを……。さっきまで普通に……」
「ユアンの魔法だとなぜわからない?そうでないなら、俺達がお前に優しくするわけないだろう。分をわきまえろ」
みんなが私を置いてどこかへ行ってしまった。
視界が揺れた。
私の目から、涙が零れ落ちた。
「そっかぁ……。魔法かぁ……。考えれば分かったのになぁ……。ふふっ……」
悲しいはずなのに、なぜか笑いが込み上げてくる。
確かに、私に優しくする理由なんてない。
人なんて信じなければよかった。
仲良くなれると思わなければよかった。
幸せになれると思わなければよかった。
「これで分かった?君はどうせ誰からも愛されない。いくら泣いても、喚いても、その声は誰にも届かないよ」
ユアンが膝をついて涙を流す私に言った。
私の声は……。
誰にも届かない……。
――聞いて!私の話を聞いてよ!ねぇ……。誰か……。
前世と同じ。
誰にも届かない。
「生きていて楽しい?また前世と同じ運命を辿りたい?」
それは嫌だなぁ……。
もう楽しく生きたい……。
「君は幸せな夢を見ているだけでいい。君の体は僕が操るから。すべてが終わったら君を殺してあげる」
◇◆◇
「菜乃葉!朝ご飯よ!早く降りてきなさい!」
遠くから誰かの声が聞こえる。
私は何をしていたんだっけ?
「こら!菜乃葉!」
誰かが部屋に入ってきて、私の布団を剥がした。
「何ぃ……?」
「『何ぃ……?』じゃない!朝ご飯だって言ってるでしょ!早く降りてきなさい!遅刻するわよ!」
「お母さん……?」
「何?」
「なんでもない。悪い夢を見ていたみたい」
お母さんは私に微笑んで、部屋から出て行った。
私はベッドから降りて、カーテンを開けて背伸びをした。
本当に嫌な夢を見たなぁ。
あれ?
どんなのだっけ?
私は制服に袖を通した。
「よし!今日も学校頑張るどー!」
* * *
「菜乃葉!!駄目だ、聞こえてない」
「無駄だよ。その子に意識はないよ。今は僕の操り人形だ」
楽しそうに笑うユアンには罪悪感とかはないのか?
「邪魔な君達を殺した後は、菜乃葉もちゃんと殺してあげる。だから安心してね」
「……っ!」
パーティーに来ていた無力な令嬢や子息は避難させた。
今残っているのは戦える人ばかりだ。
菜乃葉は魔力が高いから、攻撃を受けるとまずい。
放つ魔法の精密さや密度が当たったら死ぬレベルで危ない。
さっきからイーベル殿下やカイル、セシリア嬢が呼びかけているけど、返事がない。
「菜乃葉を返せ!」
「本人がそれを望むと思う?」
俺はユアンを相手にしている。
剣を交えても、勝ち目がないと錯覚するほどに強い。
「どういうことだ?」
「あの子に見せた幻は、君達に嫌われるというもの。それを見せられたあの子は何を思ったと思う?」
「……」
「『人を信じなければよかった』だよ?」
俺はまたユアンに吹き飛ばされた。
菜乃葉……。
どうしてそんな幻に負けるんだ……。
俺達が築き上げた絆は、そんなに簡単に壊れるものだったのか……?
「菜乃葉は幸せな夢を見たまま死ねるんだよ?不幸なまま死ぬより、よっぽどいいと思わないか?」
「それは!菜乃葉が決めることだ!幸せを求めていた菜乃葉が偽りで喜ぶとでも!?」
「人間なんて、所詮そんなもんなんだよ!愚かだな!」
そう言ったユアンは、どこか寂しそうな顔をしていた。
俺は歴史の授業の内容が頭に浮かんだ。
「お前も人間だろう?」
「僕は魔王だぞ?人間なわけ……」
「さぁ、どうだか。お前が人間じゃない確証なんて、どこにあるんだ?ユアン・デイス・アスクレイン」
俺がそういった瞬間、空気が揺らいだ。
そして、菜乃葉の動きも止まった。
「あたりかな?初代アスクレイン国王様?」




