第十八話 計画実行
夜、イアンの部屋に2つの影が現れた。
一つの影はなにか鋭い物を持っていた。
その影は、イアンのベッドの上にそっと乗った。
イアンの体をまたぎ、その鋭いものを振り上げた。
そして、勢いよく下に振り下ろした。
――キィン。
鈍い音が鳴り、鋭いものはどこかに飛ばされた。
「な……。んで……」
ユリィの瞳は大きく見開かれていた。
その瞳に入っているのはイアンじゃない。
この体、ユリィの体じゃない。
魂はユリィの物だが、体は全くの別人だ。
「何でここにいるの……?菜乃葉……」
「ユリィ、それはやっちゃいけないことだよ」
ユリィの体は硬直した。
精霊達の力を借りて、ディーアが拘束する魔法を使ったんだ。
イアンはベッドの横で剣を構えている。
さっき短剣をふっ飛ばしたのはイアンだ。
さて、ここでオーリスの出番だよ。
オーリスは素早くロープでユリィともう一人を縛り付けた。
「ユリィ、話を聞かせてほしいの」
「話すことなんてなにもないわ。どうせ全部知ってるんでしょ?」
「知ってる。でも、どうしてこんなことをしたのか理由が知りたい。どうして、十人の命乞いをしようとしたの?」
ユリィは答えない。
唇を噛み締めて、俯いているだけだ。
「……っ!ユリィ!答えなくていい!」
もう一人はユアンだったらしい。
ローブで見えなかったけど、声は確かにユアンだ。
「菜乃葉!お前!いい加減にしろよ!」
「ユリィがどんな気持ちで十人の命乞いをすることに決めたのかも知らないくせに!どんなに苦しんでいたかも知らないくせに!結局お前も綺麗事しか言わない偽善者だったんじゃないか!」
「今私が偽善者と言われる意味がわからない。それに、私は今ユリィと話しているの。割り込んでこないで」
ユアンはオーリスに口を塞がれた。
親の敵かと思えるほど私を睨んでいる。
私はユリィを見た。
やる気が無くなったかのような顔をしているユリィは、きっとユアンが言うように苦しんでいたんだろう。
でも、このやり方は間違ってる。
「ユ……」
「私は」
私が声をかけようとしたら、ユリィが口を開いた。
「……私は、ずっと人生を繰り返しているの。何度も何度も繰り返している。忘れもしない。あの焼けるような痛み。私が死んで喜ぶ民衆、家族、クラスメイト」
「……」
「あなた達も喜んでいたでしょう?」
◇◆◇
セーリア家に生まれた私はいつも不自由なく暮らしていた。
優しい両親は頼めばドレスを買ってくれるし、失礼な使用人もクビにしてくれる。
いつしか私はそれに甘えるようになっていた。
それが当然だと。
私は愛されるべきだと思っていた。
セシリアが聖女になるまで。
「聖女様が来たぞ!」
「なんて神々しい!」
「愛されるべき乙女だ!」
それを見て腹が立った。
一番愛されるべきは私だと。
私はセシリアを消すことにした。
まずは学園からあの女を消す。
そうしたら、私が愛される。
私はセシリアをいじめた。
その度にセシリアを好きになった婚約者のイーベルやギディオン達がセシリアを庇った。
ギディオンはともかく、イーベルまでたぶらかすなんて……!
頭に血が上った。
世界からあの女を消そう。
そう思った。
もう少しであの女を消せると言うところで、私の前にオーリスが現れた。
「セシリアを消そうなんて、百年早いんだよ」
「何言って……」
じわじわ近づいてくるオーリスと距離を取るために、私は後ずさった。
私は窓まで追い詰められた。
――コンッ
窓に何かがあたったと思って、外を見たら民衆が押し寄せてきていた。
「殺せ!殺せ!」
「聖女様を殺そうとした悪女を殺せ!」
民衆がそう叫んでいた。
「何……。これ……」
どうしてみんな聖女ばかり崇めるの!?
愛されるべきは私でしょう!?
あの女のどこがいいの!?
「お前は愛されない。どんなに頑張ってもその腐った性格は、愛されることはないだろう」
首に冷たい物があたった。
その後は焼けるような痛みが押し寄せた。
体の力が抜け、私は地面に倒れ込んだ。
「ぐぅ……」
「悪女、ユリィ・セーリアは死んだ!これでお前たちを脅かすものはもうない!」
オーリスは窓を開けて、民衆に向かって叫んだ。
民衆から歓声が上がった。
「良かった!」
「ユリィを殺してくれてありがとう!」
「死んで良かった!」
狂ってる。
人が死んで悲しむ人がいないこの国は、狂ってる。
何が間違っていたんだろう。
自分は愛されるべきだと思っていたこと?
使用人に罰を与えたこと?
セシリアを殺そうとしたこと?
あぁ、全部か。
私は全部間違っていたんだ。
行動も、存在も。
遠くから足音が聞こえる。
私は目を開けた。
ぼやている。
誰か喋ってる?
聞こえない。
すべて響いて聞こえる。
「幸せになりたかったんだよね。君はもう休んでいいよ」
それだけははっきり聞こえた。
そして、目を覚ますと私は五歳の時に戻っていた。
でも、いつもオーリスに殺されてしまう。
悪事を働かなくとも、身に覚えのない罪を被せられたりした。
殺された後に聞こえる声にいつも励まされていた。
それが誰かは分からない。
そして、私は繰り返し100回目にユアンと出会った。
信じてもらえないだろうと思って、繰り返す人生のことを話した。
それをユアンは信じてくれた。
十人の命乞いのことを教えてもらった。
「まずは君が死ぬんだ。そこに異世界人の魂を入れる。そうしたら君は自由だ。殺人がバレることもないよ」
私は毒を飲んで、異世界人の魂を自分の体に入れた。
私はユアンが殺した人の体に入り、十人の命乞いを実行するために、四人目まで殺した。
しかし、殺したことがバレれば捜査が始まるだろう。
そう思って、ユリアンに頼んで異世界人の魂を死体に入れた。
これで夢が叶う。
やっと開放される。
もう、悪夢から覚める。
◇◆◇
「これが理由。そしてあなた達を死体に入れたのは、殺されたという真実がバレないようにするため。答え合わせはもういいかしら?」
「……」
「ずっと私が死んで喜んでいたのに!冤罪で殺されても知らん振りしてたのに!今更あなた達は正義面するの?私だけが咎められるの?意味がわからない!殺されてよかったと思われるのは私だけじゃない!あなた達もじゃない!」
やっと分かった。
罪滅ぼしのために私達をこの世界につれてきたんじゃない。
真実を消すためだったんだ。
十人の命乞いに必要なのは魂であって体ではない。
でも、ユリィは辛かったんだよね?
死んでも誰も悲しんくれないことが。
「ユリィ、こんなの間違ってるよ!もうやめてよ!」
「やめる?ここまで来て引くわけがないでしょう?」
私は目を疑った。
「ユリィ……?どうして泣いているの……?」
「え……?」
すみません、あとがき書くのサボってました(笑)春咲菜花です。今回は繰り返す人生の中で、ユリィがどんなことを考えていたのか明かされましたね!最近はシリアスばかりで書いてても泣けてきます(笑)。早くも第十八話!嬉しい!けど、まだまだ終わらない(笑)長いけど、終わるまでお付き合いください!ではまた次回で!




