第十六話 十人の命乞い
私達は急いで馬車に乗って、王立図書館に向かった。
王立図書館になら十人の命乞いという禁呪について書かれた本があるだろう。
私達は司書に聞いて、十人の命乞いについて記された本を片っ端から読んだ。
読み終えた頃にはもう夜になっていた。
その後も、二人で読んだ話をまとめていったりした。
「十人の命乞いは願いを一つだけ叶えることができる魔術である。しかし、魔術を発動するためには十人の命を捧げる必要がある。そして、その十人の命には条件がある。一人、身内。二人、王太子。三人、王太子か権力者。四人、聖女。五人、騎士。六人、精霊の愛子。七人、賢者。八人、暗殺者。九人、闇魔法の使い手。十人、協力者。この十人を順番に殺して、魂を異世界の間に放り込む。そこで保管をして、儀式をする際に連れ戻す。これにより魔術は完成する。しかし、多大な犠牲が出るため、この魔術を禁呪とする」
読み上げると想像よりも酷いな。
私とイアンは盛大に顔をしかめた。
「身内、リリア・セ―リア。王太子、イーベル・アスクレイン。王太子、ギディオン・アスクレイン。聖女、セシリア・フィーリア。騎士、イアン・グリーファ。精霊の愛子、ディーア・ベイルド。賢者、カイル・シルコード。暗殺者、オーリス・クレイト。うん、当てはまる」
「騎士を目指さなければよかったと初めて思った」
イアンは自分が狙われていることを、改めて実感したようだ。
「キミセカ」に出てくる登場人物に、すべて当てはまる。
これは偶然?
あれ?
私は?
私はどこに入るの?
まぁいいや。
「確か、イアンが殺されるのは明日」
「初耳なんだが?」
「ユリィと話をしよう」
イアンは大きなため息をついていた。
「もうすぐ舞台が整う。これで開放される。あと四人だ」
◇◆◇
今日、ユリィに聞かないといけないことがある。
イアンを殺すのをやめてもらいたいし、質問もたくさんある。
でも、まずは悪役を演じないと何だよなぁ……。
「あら失礼、お洋服にお茶をこぼしてしまいましたわ!まぁ、でも。あなたにはくすんだ色がお似合いですわね!」
「あら、大変。間違ってあなたの服を切ってしまいましたわ」
悪女を演じた後に、私はジゼルにならないといけない。
忙しすぎる。
私はジゼルとしてのやることを終えて、学園の人気のないところに転移した。
そこにはイアンの姿があった。
「あ゙っ」
「……」
イアンは無言だったけど、これで私がジゼルだとバレるのはまずいかもしれない。
私は無言で立ち去ろうとした。
しかし、イアンに腕をガッチリ掴まれてしまった。
「何してんだお前」
「……」
「おい」
「……」
「菜乃葉」
バレてた。
イアンは私をじっと見ている。
「何で自分がやったことの尻拭いを自分でやってんの?」
「色々あって……」
「お人好しか」
「そんなんじゃない」
イアンは私を善人だと思っているのだろうか。
私がジゼルになる理由はただ一つ。
ただの自己満足のためだ。
そんな私が善人を語ってはいけない。
「ところで、どうしてこんなところにいるの?」
「他三人と話してた」
「は?」
イアンは私の後ろを指差した。
そこには、ディーアとカイルとオーリスがいた。
全員私の方を見ている。
やっべ、今はジゼルなんだった。
「合わせてよ?」
私はイアンにボソッと言った。
イアンは自信あり気な表情をして、頷いた。
「ジゼルだ」
「すげぇ、本物は迫力やばいな」
「一回戦ってみたいな」
一瞬で逃げたくなった。
オーリスが怖すぎる。
さて、改めて紹介しよう。
銀色の髪と赤紫色の瞳を持つのがディーア・ベイルド。
茶色の髪と茶色の目を持つ眼鏡っ子はカイル・シルコード。
黒髪に赤い瞳を持つのがオーリス・クレイト。
「はじめまして。ジゼルと申します」
「ジゼルは俺を助けようとしてくれている心優しい子なんだ」
「知ってる。噂でもあの忌々しいユリィ・セーリアの被害者を助けているとよく聞くからな」
カイルがそう言った。
良かったぁぁぁぁあ!
ユリィの姿でここに来なくて良かったぁぁぁぁあ!
ディーアが立ち上がって、私の正面に来た。
なんだろう。
もしかしてバレた!?
少し焦ると、ディーアが頭を下げた。
「へ?」
「実習のとき、弟を助けてくれてありがとう」
実習のとき……?
あ!
魔物に食われそうになっていたあの人、ディーアの弟だったの!?
確かにあのとき近くにディーアがいた気がする。
「お前そんなすげぇやつだったのか。ユリィ・セーリア」
「お褒めに預かり光栄で……。ん?ん!?」
今、私の事ユリィ・セーリアって呼んだ!?
え!?
何で!?
やばいやばいやばいやばい。
私の人生、詰んだかもしれない。




