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幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第一章
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第一話    再開と別れ

「な〜のは!見て!」

「何?」

「完成したの!」


私に嬉しそうに話しかけるこの子の名前は野々原琴葉(ののはらことは)

私は、この子と二人で小説を書いている。

私、山里菜乃葉(やまざとなのは)がイラスト担当。

琴葉が本文を担当している。

私と琴葉は21歳、現役大学生だ。

私達は今、異世界の恋愛小説を書いている。

いや、書いていたのほうが良いだろうか


「これで完結。売れ行きも上々だし。読者さんの希望に寄り添ったからこそ、ここまで人気が出たんだろうね。それ以前に琴葉が沢山努力したからかもね」

「菜乃葉も頑張ってたじゃない」

「そんなことないよ」


私はただイラストを描いただけ。

本文を書いたのは琴葉だ。

みんな、琴葉の綴る文章に心を動かされたんだろう。


「早く青空文庫の会社に行って提出しようか」

「もっと嬉しそうに笑ってよ〜。うりうり〜」


琴葉が私の頬を上に引っ張った。

私は表情があまり動かない。

全くとも言っていいほどに。

はぁ、それもこれも全部両親のせいだろうな。

というか、若干痛い。


「痛い。ほら行くよ」

「は〜い」


琴葉は私の頬から手を離した。

私達は支度をして家を出た。

私達が書いていた小説のあらすじはざっとこんな感じ。


――聖女として生まれたヒロインがあることをきっかけに、学園入学と共に聖女の力を覚醒させる。そして、学園内で起こる困難をヒーロー達と乗り越える。王太子とヒロインに芽生え始める恋。それを邪魔するのが悪役令嬢。悪役令嬢はヒロインの幼馴染で、王太子の婚約者だ。ヒロインを暗殺しようとしたり、反乱を起そうとする。そのせいで、ヒロインに惹かれる暗殺者の手によってに殺害される。元々悪役令嬢を愛していたヒロインは、それきっかけで力が強くなる。最終的に魔王により滅ぼされそうになった世界を、ヒーロー達と救う。


ベタなようでベタじゃない。

そこにみんな心を動かされるんだろう。


「きゃあ!」

「こっちに来るな!」


なんだろう。

向かっている方向の道が騒がしい。

露出狂か変態でも出たのかな?

いや、どっちも一緒か。


「通り魔だ!」

「逃げて!」


通り魔!?

私は直ぐ様街路樹の方に逃げた。

てっきり琴葉も来ているものだと思っていた。

振り向くと、琴葉だけが道の真ん中に取り残されていた。

他の人達は、街路樹の近くに逃げているのに。

琴葉は静かに震えていた。


「あっ……。あ……」


足がすくんで動けないのか、琴葉はその場から逃げようとしない。


「琴葉!」


私は琴葉を呼んだ。

琴葉はぎこちなく首を私の方に動かした。

動くわけでもなく、琴葉はこっちを見ながら震えるだけだった。

足が竦んで動けないんだろう。

通り魔は少し遠くに居たのに、琴葉を見るなり不気味に笑った。

そして、琴葉のもとに走り出した。

誰も止めようとしない。

いや、止める事ができない。

通り魔は、走りながら琴葉に包丁の先を向けた。


「死ねぇぇぇぇえ!」

「琴葉!!」


私の体が、咄嗟に動いた。

私は琴葉を突き飛ばした。

そのせいで、腹部を深く刺されてしまった。

足の力が抜けて、そのまま地面に倒れた。

視界がチカチカする。

琴葉は意識を失っているみたい。

無事で良かった。

通り魔に駆け寄るスーツ姿の人が複数名見える。


「ははは……。あっははは!やったぞ!俺は口先だけのお前らとは違う!俺は人を殺せる!!」


どういう経緯でそうなったのか誰か教えて。


「佐藤……。お前……。なんてことしてんだよ!!」

「人を刺すなんて……」

「仕事に忠実な柚木くんはどこに行ったのよ!」


待って。

通り魔の人、私の中学生時代の同級生じゃん。

佐藤伊吹(さとういぶき)

でも、名前が違うから別人か。

あれ?

お兄さんが柚木だったような……。

え?

名字が佐藤、下が柚木。

佐藤柚木(さとうゆずき)

同姓同名か。

そもそもそんな事するような人じゃないし。

それより何があって、人を刺したか詳しく聞きたい。


「仕事に忠実?そんなのただの演技だよ!!馬鹿だな!俺は佐藤柚木じゃねぇ!佐藤伊吹だ!柚木は俺の双子の兄だよ!」


マジかよ。

まさかのご本人様だった。


「顔が似てるだけで、誰も気づかない!あいつは何もかも恵まれてるから、八つ当たりで突き飛ばしてやった!そしたらあいつは、幸運にも頭をぶつけて昏睡状態になったんだ!今頃、佐藤伊吹として病院で寝てるだろうなぁ!!」

「お前ぇぇぇぇ!!」

「柚木くんじゃ……。なかったの……?」

「柚木くん……」


私は静かに立ち上がり、いっくんの近くに行った。

いっくんとは伊吹の愛称である。

周りに居た人達は、目を見開いていた。

私が動いたからだろう。

痛みに耐えながら、いっくんに近づいた。

私はいっくんを後ろから抱きしめて、バランスを崩して背中から倒れた。


「ゴフッ……」


傷口を強く押し付けたため、口から血液が出て来てしまった。

吐血って本当にあるんだ。


「いっくん……」

「お前……。菜乃葉か……?……んで。……何で生きてんだよ!!離せ!離せよ……!」

「嫌だ。ねぇ、いっくん。分かるよ。悲しかったんだよね……?お兄さんばっかり優遇されて……。自分の気持ちは蔑ろにされて……。辛かったんだよね……?」

「お前に……お前に何が分かる!!」


いっくんの瞳から涙がこぼれた。

本人から聞いたわけじゃない。

でも、昔そんなことを言っていたから。


「分かるよ。私にも、お姉ちゃんが居るから。優秀な人の兄弟って……。辛いよね……」


私もいっくんと一緒だった。

いっくんの辛さが、手に取るように分かる。


「ねぇ、いっくん。こんなの間違ってるよ。お兄さんが優遇されてたとはいえ、悪いのはお兄さんじゃないよ。悪いのは、差別した両親だよ。憎む相手が間違ってるよ」

「でも、兄さんも……。いい気になって……」


悲しそうに否定する伊吹くんは、高校生の時の自信が感じられない。

そうか……。

君も、同じだったんだね……。


「お兄さんや両親が、伊吹くんに寄り添おうとした事は無かった?ずっとお兄さんを優遇してた?優しくされたことなかった?」

「あ……」


どうやらあったらしい。

それに気づけなかったのか。

君と私は本当に似てるね。

でも、少なくともいっくんは家族に優しくされた事はある。


「まだ間に合うよ。きっと、お兄さんは目を覚ます。いっくんだけが悪いわけじゃない。お母さん達に本当の気持ちを話してみて。きっと分かり合えるから。その前に、警察だね」


私はいっくんの頭を優しく撫でた。


「菜乃葉……。ごめん……。ごめん……。刺してごめん……」


いっくんは包丁を捨てて、私の上から退いてから、近くに来ていたパトカーの方に歩いて行った。

これで一件落着……。

じゃないな。

私の件は何も解決してない。

私の腹部をハンカチなどで押さえて、止血しようとしてくれている人が六人程居る。

そんな事しても無駄なのに。

ハンカチが汚れるだけだよ。

私はゆっくりと目を閉じた。

痛い……。

結構ガッツリ刺されたなぁ。

多分これ死ぬな。

あーあ。

せっかく最終巻を完成させたのに、本屋で私達の本を手に取って笑う人を見ることができないのか。


「菜乃葉!!」

琴葉の声が聞こえて、私は目を開いた。

ぼやけててよく見えない。


「菜乃葉!!ごめん!!私がすぐに動かなかったから……。早く止血しないと……!」


琴葉は私の傷口を他の人と押さえ始めた。


「琴葉……」


私はかすれた声で琴葉を呼んだ。

声を出すのが苦しい。


「原稿は……?」

「あるよ……。無事だよ」


私の頬に、生暖かい水が落ちてきた。

琴葉の涙だろう。


「琴葉……。貴方はこれから先も……。小説を書いて……。皆を……。笑顔にして……。貴方はきっと……。私なしでも……。小説を書ける……。貴方ならきっとできる……。私が信じている自分を信じて……。他の人と仲良くなって……。幸せに……。なってね……」


そう言って、私は目を閉じた。

もう声は出ない。

今、何かに引っ張られたような感覚がした。

体に痛みがない。

目の前には私が居る。

死んだんだ。


「菜乃葉!!そんなの嫌だよ!!菜乃葉以外と仲良くするなんて絶対に嫌!!お願い!!起きて!!起きてよ!!菜乃葉……!!目を……。目を開けてよ……!!傍に居てよ……!!菜乃葉ぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


琴葉が必死に私を呼んでいる。


「お嬢ちゃん……もう……」


そう言って、一人の男性が琴葉を私から離した。

その男性は涙を流していた。

周りに居た人も、全員が泣いていた。


「離して!!菜乃葉!!菜乃葉!!ねぇ!!一緒に……。一緒に夢を叶えようって約束したじゃん!!一緒に……。一緒に頑張ろうって……。言ったじゃん……!!」


涙を流しながら叫ぶ琴葉を、私はそっと抱きしめた。

私の手が、琴葉をほんの少しだけすり抜けた。


「ごめんね、琴葉。約束を守れなくてごめん。でも、貴方を守れて良かった。私はもう死んだけど、貴方はこれからも小説を書いて。沢山の人を笑顔にする小説を。貴方ならきっと大丈夫。これから、つまずく事も、転ぶ事も沢山あると思う。私はもう、今まで通り助けてあげられない。でも、貴方の心の強さは、私が一番知ってる。大丈夫。今までありがとう、私の大切な相方。ありがとう、野々原琴葉。ありがとう、私の大好きな親友。さようなら」

みなさんこんにちは!春咲菜花です!いや〜、勢いで今日書いてしまいました!私、投稿する前に一応ざっと文章を確認してるんですけど「この作品は一話から激アツやん」と思ってしまいました。三作品目の「幸せを追う悪女達」いい作品にするためにこれからも頑張って書いていきたいと思います!それでは、次のエピソードでお会いしましょう!

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