第四話 お泊まりになった男のコ
お待たせいたしました。
晶と二人の取材旅行。
しかし天候の悪戯が二人を襲う……!
帰れなくなった二人は……?
どうぞお楽しみください。
「先生、この写真は最後のシーンにいいんじゃないでしょうか?」
「そうだな。激闘を終えた益荒男が千枝李と見上げる空……。ラストシーンに持ってこいだ」
「ですよね! あぁ、早く先生の絵で見たいなぁ……!」
「……」
うっとりしながらデジカメの画面を見つめる晶。
武藤さんが同行を強く勧めた時は何故かわからなかったけど、今なら提案に従って良かったと思う。
一番のファンであり、アシスタントである晶の判断は、ともすれば描き慣れている絵や構図に寄ってしまう私にはとても有り難い。
……敵の首魁を空高く殴り飛ばして『完!』は、流石に武藤さんに怒られたからな。
これで新シリーズ『激闘! 魁耀高校編』も目鼻がついた。
問題が一つあるとすれば……。
「……それにしても、まだ電車動きませんね……」
「そうだな……」
晶の言葉に、私は溜息を吐きながら新幹線のシートに身を沈める。
日帰りの取材旅行のはずが、ゲリラ豪雨で足止めを食うとは……。
新幹線さえ動けば一時間ほどで東京に帰れるというのに、窓を激しく叩く雨は一向に収まる気配を見せない。
これはどこかで宿を取って一泊する可能性も考える必要が……?
『先生……。先にシャワー浴びてこいよ……』
「ふぬっふ!」
「先生!? どうしたんですか! 背もたれに頭ぶつけたりしたら、前の席の人が……、って、あれ?」
何で私は晶がバスローブを着ながら大きなワイングラスみたいなのをゆらゆらしてるシーンを想像したのだ!?
絶対そんな事言う訳ないのに!
それとも私がそれを望んでいる……!?
そ、そんな訳が……!
「せ、先生……! 何か変です……!」
晶!?
私の頭が変だと言うのか!?
「あの、周りに人がいないんです! さっきまでいっぱい座ってたはずなのに……!」
「何だと?」
見回すと車内にいるのは私と晶だけだ。
晶と取材写真の吟味を始めるまでは、六割くらいの席が埋まっていたはずだが……?
「……もしかしたら、もう今日は電車が動かないって思って、みんな泊まるところを探しに行ったんじゃ……!」
「……そうかもしれないな……」
平日の新幹線。
乗っていた人はほぼほぼスーツの人達だった。
出張慣れしているサラリーマンなら、こんな事態にも慣れているのだろう。
そんな人達がこぞって宿を取りに行ったのだとすれば……!
『大変ご迷惑をおかけしております。当新幹線は大雨のため、誠に申し訳ありませんが本日の運行は中止とする事が決定いたしました』
予想通りのアナウンスが流れる!
慌てて携帯で駅名とホテルを検索するが、見えるのは『満室』の赤い表示ばかり……!
ど、どうする……!?
このまま新幹線が動くまでこの席で過ごすのか!?
私は仕事場の椅子でも寝れるから問題ないが、晶をどうするか……。
流石にこの折れそうな華奢な身体を、新幹線のシートで過ごさせるのは心が咎める……!
「!」
振動と共に浮かび上がる『武藤さん』の文字!
すぐさまタップ!
『新幹線が止まっていると聞き、急ぎ宿を手配しました』
武藤さあああぁぁぁん!
流石敏腕編集者!
今回の新幹線のチケットを手配したのも武藤さんだから、この状況に気付いてくれたのだろう。
……ふむ、宿は西縦アウトンか。
大手ホテルチェーンで、値段は手頃だが施設はしっかりしていると聞く。
お、駅から地下道で移動できるのか。
これはありがたい。
とりあえず泊まるところは確保できて……。
『ただ急な予約だったので、一室押さえるのが精一杯でした』
え。
『こんやはおたのしみですね♡ ٩( 'ω' )و』
武藤さあああぁぁぁん!?
い、一室しかないという事は、あ、晶と同じ部屋で寝るという事か!?
む、無理無理無理!
だって晶は男だ!
一緒の部屋で寝たらどうなるか……!
「先生、どうしたんですか……?」
不安そうな眼差しを向けてくる晶。
……この姿だけを見れば無害どころか守ってやる必要さえ感じるが……。
いや、晶は男だ!
警戒を緩めてはいけない!
「あぁ、武藤さんが宿を一室取ってくれたようだ。だが一室しか取れなかったそうなので、晶が泊まると良い」
「え、せ、先生は……?」
「私はどこでも寝れるから、このままこのシートで休むよ。だから」
「駄目です!」
「!?」
思いもしなかった強い反応!
一体何故……?
「先生を差し置いてアシスタントの僕がお布団で寝るなんて駄目です! その部屋には先生が泊まってください!」
……心意気は嬉しいが、私に部屋を譲って晶はどうするつもりなんだろう……。
「……いやしかし、そうしたら晶はどうする……?」
「僕は大丈夫です! 何とかなります!」
つまりノープランか。
それならはいそうですかと認める訳には……。
「ほ、ほら先生! リクライニングを目一杯倒せば、いい感じに寝れると思いますから……!」
「!」
最大限に倒した背もたれに身を預ける晶!
私に背を向ける形になったその肩と腰の細さ……!
駄目だ!
こんな可愛い晶を車内に放置したら、どんな間違いが起きてもおかしくない……!
……そうだ!
「ちょっと待て」
「……先生……?」
武藤さんからのメッセージから、予約してもらった部屋をしっかり確認する。
……よし!
「今確認したが、武藤さんが取ってくれたのは二人用の部屋のようだ」
「そうなんですか!?」
「あぁ。だから二人で泊まろう」
「わ、わかりました!」
これで晶の身の安全は保証された。
……後は私の身の安全だが……。
まぁ二人で泊まれる部屋のようだから、それなりの広さもあるのだろう。
何せ『ダブル』と書いてあるのだからな。
読了ありがとうございます。
次回はお泊まり!
ダブルルームに女と男(?)……。
何も起きないはずはなく……?
武藤さんと共にお待ちください(笑)!