第三話 新ヒロインと男のコ
お待たせしました。
感想とFAが私に新たな力をくれました。
どうぞお楽しみください。
「また殺害予告が来ました」
「……またか」
担当の武藤さんの言葉に溜息が漏れる。
「今月に入ってからでももう十三件目です。早急な対応が必要です」
「対応と言っても……」
「お伝えしたではないですか」
武藤さんが強く拳を握った。
「新ヒロインを出しましょう。越智吉武士を救うためにも」
「うーん……」
越智吉武士は、『皇! 雄斗呼学園』の登場人物で、主人公・桜樹益荒男の親友。
人懐っこくてよく笑う、シリアスになりがちな『皇! 雄斗呼学園』の中でムードメーカーとして重宝している。
読者の主人公に次いで人気も高かった。
しかし最近、その人懐っこいキャラで、ヒロイン・千枝李と絡ませるようにしたところ、ネットが炎上した。
『益荒男×千枝李こそ至高。異論は認めない』
『マスチェリを乱す武士に鉄槌を』
『いいぜ、武士が千枝李ちゃんと結ばれるって言うなら、その幻想ごとぶち◯す!』
『武士、君はいいキャラであったが、惚れた相手がいけないのだよ』
『なるほど武士はシベリア送りだ』
『武士、自害しろ』
『ただし武士、テメーはダメだ』
『早くお粥になれ』
益荒男と千枝李のカップリング原理主義者怖い……。
しかし一部では、
『武士は千枝李ちゃんとは無理でも幸せになってほしい……』
『武士がフラれて落ち込むと、物語が本格的に暗くなるぞ』
『武士! 千枝李ちゃんと結ばれるだけが人生じゃないからな!」
と、武士を応援する声もあった。
誰一人千枝李とうまく行くと思っていなかったけど……。
そこで武藤さんから、
『千枝李は学園長の孫で箱入り娘ですから、世話役の女の子がいても不自然ではないでしょう。その子が益荒男と千枝李の関係を邪魔させまいと武士に近付くも、段々と惹かれていけば全て丸く収まります』
というアドバイスをもらったのだけど……。
「一応描いてはみました……」
「拝見いたします」
差し出した封筒からラフ画を取り出した武藤さんが、
「んぐっふ」
予想通り吹き出した。
「誰がマッチョ俳優の金字塔たるワールイコ・ソコニイネッガーのメイド服姿を描けと言いましたか!」
「ち、違います! 最初は可愛い女の子で描いていたんですけど、どうしてもメイド服着た千枝李になっちゃって、あれこれ変えようとしてたら……!」
「いつもの画風に引っ張られた、と」
「……はい……」
やっぱり可愛い女の子を描くなんて無理……。
千枝李だって、セーラー服着た晶をモデルにしたから描けただけで……。
「これでは『武士の彼女がこんなにゴツい訳がない』とネットがざわつきますよ」
「……はい……」
「まぁこれはこれでゴツくも美しいので買い取らせていただきますが」
「え?」
ラフ画を封筒に戻した武藤さんが、いそいそとカバンにしまっている……。
没キャラのラフ画なんて、何かに使える、のか……?
「とにかく、千枝里に並ぶ可愛くも美しいヒロインを描いていただかなくては」
「……でも、そんなの無理で……」
子どもの頃『デカ女』とからかわれてから、ずっと男性と筋肉とバトルばかり描いてきたのに、今更可愛い女の子なんて……。
「まぁこんな事になるとは思っていたので、晶君を呼んであります」
「えっ」
ま、まさか……!
「そして彼の体型にぴったりのメイド服がこちらです」
ま、待て待て待て!
確かに見た目完璧な美少女である晶がメイド服を着たら、間違いなく新ヒロインは描けるだろう。
確信めいた予感がある。
でも!
晶は男!
男なんだ!
めちゃくちゃ似合うメイド服とか見せられたら、警戒心が壊れる……!
ただでさえあの暖かい手料理に癒されて、
『あ、先生。お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それとも……、ぼ・く?』
フリフリエプロンの晶にお出迎えされるという不埒な夢を見てしまった事さえあるのに……!
ぴんぽーん。
「!」
「あら、早いわね。はーい」
家が近いからってこんなに早く……!?
こ、心の準備が……!
い、いや、晶は男だ!
男らしく『男としてそんな恥ずかしい事できません!』と断ってくれたら……!
「あ、せ、先生。こんにちは……」
「あ、あぁ……。今回は無理を言われたようだが、別に断っ」
「先生。晶君、メイド服快諾してくれましたよ」
「えっ!?」
な、何で!?
「……先生が困ってるなら力になりたいなって……。そのためなら僕の恥ずかしさなんて……!」
別の意味で男らしい!
でも、でも……!
「では脱衣所でお着替えをお願いします」
「……はい!」
「あ……」
止める間も無く晶は武藤さんからメイド服を受け取って、脱衣所へと消えていった。
……こうなっては仕方がない。
とにかくどんなに晶が可愛くても、落ち着いて資料として最低限の写真を撮らせてもらおう……。
「……あの、これでいい、ですか……?」
「すごい! 完璧! 目線こっちに! うん! 最高! 可愛い! スカートちょっと持ち上げてみて!」
「は、はい……!」
「オッケー! 美の化身! そのままくるっと回ってみようか! そうそう! いいよ! 世界が嫉妬する!」
……正気を失って撮りまくった資料写真のお陰で、千枝李専属メイド・雪下都把姫は誕生した。
読者の反応は……、ネットがお祭りになりました……。
読了ありがとうございます。
挿絵は四月咲 香月様からいただきました。
こんなの人気が出ない方がおかしいのです(確信)。
ちなみに越智吉武士は『お調子者』から作りました。
屁を武器にしたりはしない。いいね?
さて次は台風でもぶちこんで、晶をお泊まりさせようかな……。
次回もよろしくお願いいたします。