9、私は悪くない。だって処刑されるのだもの。
あの後、何を言ったらいいか分からないまま、マティウス殿下と私は沈黙していた。
劇場の一角でしばらく立っていた後、王家の騎士やオランジェ家の護衛騎士たちに守られて家に帰った。
マティウス殿下には別れの挨拶を言ったかどうか分からない。
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(私は悪くない)
寝る準備をしてもらって、侍女を完全に下がらせて、一人になった部屋でベッドに沈み込む。
(……………………だって、マティウス殿下の視線はやっぱりちょっとイラッとするもの。私が真っすぐに見ているのに、微妙にこっちを見てないのだもの。視線がずれているのだもの。別に性格は弱気だってなんだっていい。だけれど、これから婚約者としてやっていくっていうのに、私の方を見てくれないんだもの)
私はせっかく前世を思い出したっていうのに、沈んでいく気持ちを何もコントロールできなかった。
暗くなった部屋で、私は瞼が熱くなるのを感じた。
令嬢として泣いてはいけない。
みっともない。
(どうせ私なんて18歳で死ぬのだから、処刑されてしまうのだから、遊び歩いて、皆、それまで優しくしてくれたっていいじゃない。皆と仲良くなっても、皆、私の事を嫌になって処刑台送りにするんだから。理不尽よ。今日、デートハプニングなんてものが発生したおかげで分かったわ。ゲームの強制力は発生しているの。いつの間にか私は処刑されているんだわ、物語通りに。ギロチンかもしれない。毒杯かもしれない)
暗くなってもうっすら見える私には分不相応と思える豪華な部屋は、余計に不安を煽る。
貧しい前世を思い出した私には、豪華さに圧力を感じる。
悪役令嬢として処刑される未来が確定してるから、期間限定の神様からのお詫びプレゼントのように感じるの。
(死ぬ運命に閉じ込められている。18歳までそのことは忘れたい。マティウス殿下は……………………忘れましょう。ゲームの通りなら婚約破棄されるのは『聖女』になるヒロインが登場してからのはず、まだ、まだ私はヒロインに何もしていない)
私はベッドの中で深呼吸をして落ち着いた。
(そうよ、私は余命が決まっているの。それまで、悪役令嬢の栄光の光の中を勉強したり遊んだりして楽しく暮らすのだから)
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