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5、王子の悩み

 マティウス殿下のピアノを聞いてから流れるように、王宮の中庭へ移動してお茶会になった。

 今日は天気が良く、自信がなさそうに俯くマティウス殿下の顔も陽光に優しく照らされて(物理的に)明るい。


「ごめんなさい……、あの、ナタリー嬢がピアノがお好きだと聞いて、それでそれなら僕でもちょっとできるかなって」

「本当に素敵でしたわ。珍しい曲を聞かせてくださってありがとうございます」


 私はにっこりとマティウス殿下に笑いかけた。


「あのっ、あの弾いた曲の題名は『王都』でした。なんでも書いた先代の王は、城から見た町の様子を見てその移り変わる様子を何かに残したいと思ったそうで……」

「素晴らしいですわね。確かに曲が変わっていく様子が非常に興味深かったですわ。きっと先代の陛下から見た王都は力に溢れて輝いていたのでしょうね」

「そうですよね! そう思ったから、ぜひナタリー嬢にも聞いてほしくて。歴代の王について勉強していた時に、特に『神の世界の作品』に詳しかった方が居て。他にも倉庫にまだその方の作品があると思います! 良かったらナタリー嬢も一緒に倉庫へ………………あ、でも、すみません。僕は何もできなくて……人の成果を利用するみたいな……僕とじゃ恥ずかしいですよね。あ、ちゃんとした騎士に案内させますから、今度お時間あるときにご覧になってください。陛下の許可はとっておきますから」


 んー……、『是非、倉庫へご一緒させてください』と口を挟む隙も無かった。


 私の目の前で、マティウス様が、この前ピアノコンサートにご一緒したマティルダ様のように指先をもじもじとすり合わせる。


 マティウス殿下は本当に自分に自信がなくてこう言っている。

 乙女ゲーム『『秘密の宝石箱~イケメンコレクション~』では、自信がない原因と推測される要因をだいぶ打ち解けたころのヒロインに、


「僕しかいないからこんなに無能で向いてない僕が王太子になったんだ。妹はまだ小さいし、僕に婚約者が決まるまで13年間かかった。『王族だったらもっと早くに婚約者が決まるのに』って大臣たちが陰で噂しているの知ってるんだ。婚約者のナタリー嬢だって、顔合わせで絶対僕にうんざりしてた」


 と言って、ヒロインには、


「そんな事ないわ。私、マティウスの事、すごく尊敬してるの。マティウスはね、いつも私に優しいし、ピアノ弾いてくれるし、勉強もできるし、政務だってちゃんとやってるって聞いたわ。ね、いっぱい色々できるでしょ?」


 って「フフッ……」ってヒロインスマイルをお見舞いされて真っ赤になっていたっけ。


 いや、ゲームの中の話だけれど。


 微妙に話に出てきている私だけれど、確かにイラっとした。

 マティウス殿下の独特の上目遣いはちょっとイラっとする。


 だって、私は相手の目を真っすぐ見ているのに、マティウス殿下は微妙に視線がずれてるんだもの。

 失礼よね?


 でも、別にマティウス殿下自体にうんざりはしていない。

 前世にだってそういう人いたなぁって思う。

 まあ、そういう人が一国の王太子というのは国民は大変……なのかな?



 ……それにしても、このマティウス殿下の自信がない状態を、16歳の時に学園で出会うヒロインが時間をかけて癒してくれるわけだ。


 色々なデートスポットを楽しみながら優しく包み込むように………………。


 え、ママに育てられている赤ちゃんかな?


 今、13歳の私が考えるに殿下の自信向上はもっと早くていいのではないかと思うけれども。


 マティウス殿下の言葉にどう答えたものか悩んでいる私を見て、マティウス殿下はさらに慌てたのか座ったままではあるものの、


「ご、ごめんなさい。こんなことばっかり言っててごめんなさい。あの、困ってしまいますよね。こんなこと言われても。僕もこんな僕を変えようって思っているんですけれど、治らなくて、あのでも、ナタリー嬢と結婚する時までにはなんとかうまくできるように努力しようとは思っているんです。ナタリー嬢のように頭もよくて王妃教育もこなせてその上に更に『神の世界の作品』の『文化視察活動』もしているナタリー嬢に見合う僕になるために…………ごめんなさい」


 と、頭を下げてきた。

 マティウス殿下がペコペコと頭を下げている事態を受けて、離れて控えている騎士や侍女が寄ってこようとするのを視界の隅で見て、軽く手を挙げて押しとどめた。

 私の仕草を見て、マティウス殿下も慌てて「大丈夫だよ」と騎士と侍女に声をかける。


 マティウス殿下の様子に、私は私なりに前世心掛けていたことを思い出していた。


 貧しくても、ブラック企業でもなんとかやっていた自分。

 無い無い尽くしで毎日疲れ果てながらやっていたけれど、バレエや音楽やオペラやお芝居が好きだった私が心掛けていた事。

 本当は何もかも投げ出したかったけれど、やっていた事。


 無い無い尽くしの自分にだって、自信がなくたってできる事だ。


 どっちにしてもヒロインはデートすることによって好感度を上げられるのだから、今、マティウス殿下に私なりに自信がなくてもできることを伝えても、別に問題はないだろう。

 きっと『神の世界の作品』に理解のあるマティウス殿下だったら分かってくれる。


「私は別にマティウス殿下はそのままで構わないと思います。でも、そうですね。そんな御自分を変えたいとお考えになるのでしたら、マティウス殿下はそのままで、『マティウス殿下は理想の王太子である』という演技をなさるのはいかがでしょうか? なんなら、今の陛下の同じくらいの年の頃の振る舞いを詳しく聞いて真似をしてみるのはいかがでしょうか。自分と違う人をお芝居をすれば自分ではないのですから傷つくこともございません。私はお芝居を見て、色々な自分になれる役者の方々を尊敬しているのです」

「騙してるのでは?」


 マティウス殿下らしい感想だ。

 すごくピュアな視線が私を射る。


「皆、役割を演じているのでございます。もちろん、私だって心の中では砕けた言葉遣いをしている時もございます。けれど、侯爵令嬢としてマティウス殿下の婚約者にふさわしい貴族令嬢として恥ずかしくない自分でいたいと、そう思って行動しております」


 まあ、でも今は遊ぶけれど。

 前世を思い出すまでは本当に厳しすぎるぐらい自分を律して行動していたと思う。


 前世では、社会人としてしっかりしてる自分を意識して保っていた。

 そうでないと無い無い尽くしの前世は結構心が折れそうだったから。

 それに比べたら今世はお金にも家族にも人脈にも恵まれている。


 もちろん、今の時点ではマティウス殿下は気弱なだけの良さげな婚約者だし。


 私は、毎日毎日遊び歩けているしね。

 本当、毎回良い席に座ってバレエにコンサートにお芝居やオペラなんて夢みたい。



 惜しい! あとは18歳で処刑されなければパーフェクトなのに。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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↓代表作です。良かったら読んでくださると嬉しいです。

「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

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