32、ヒロインはとても慈悲深い顔をしているのです。
「この世界には便利な契約魔法というのがあるんだってね。私を殺そうとしたりしないって契約魔法を交わしてくれたら、私、処刑されない方法教えちゃう。夢で見たの。あなたが処刑されない方法」
この世界のヒロインであるところのルーチェさんも思った通り、転生者で、私よりゲームの内容を知っているみたいだった。
マティウス殿下も居る前でゲームと言ったりしない。
大体、転生者が前世とかゲームと言った語句をごまかすには『夢』で押し通すみたいだ。
ところで、ルーチェさんは契約魔法やそもそも魔法に疎いみたいだ。
『契約魔法』がそんな曖昧な命令で結べるなら、そもそも私がヒロインを害しようとしなければ多分処刑は発生しないのだから、もうとっくのとうに契約魔法を結んでいるだろう。
『契約魔法』をサポートしているのは神だ。
結び方のコツがあって、当然、上位貴族程そのコツを掴んでいる。
商売や家とのつながりをサポートするための契約の補助として結んだり、もしくは契約の本気度を見せるため、契約が破られたりしたら自分が死ぬことを誓う契約だったり(自分を捧げる系の魔法は自分が犠牲になる事、人を操らないという事だから、けっこうすんなり契約魔法が結ばれる)、契約が破棄された場合、銀行に預けている慰謝料が即座に相手に移動するとかそういうのだ。
相手を曖昧な感じで操ろうとする契約魔法はとても結ばれづらいし、効力が下がってしまうそうだ。
なんで伝聞で曖昧なのかだが、そんな効力が下がってしまう契約魔法なんて誰も結ばないからだ。
実例が少ない。
そもそも人を操るなんて、さっきも言った通りそれこそ契約魔法をサポートしている神様の所業だ。
(私も記憶を消されていたり、ゲームの強制力を感じたりするのでそこら辺は実感できている)
という事なので、ハードルの低い要求なのを幸いに、契約魔法を結ぼうと思った。
「僕が契約魔法の用紙なら持っている」
マティウス殿下が自分のふところから契約魔法用の用紙を取り出した。
マティウス殿下が私だけに聞こえるように小さく、
「ナタリー嬢の話を聞いてから、僕も契約魔法で何かできることはないか考えていた」
と言った。
その場で、私が『ルーチェさんを殺そうとしない』という契約魔法を書いて、用紙に魔力を通すと、すんなり用紙の字が光って契約の成立を伝えてくる。
だけれども、この契約魔法は多分うまくいかないだろう。
『殺そうとしない』というのがすごく曖昧な契約だ。
でも、ルーチェさんはそれで満足したのかニコニコとして頷いた。
「じゃあ、教えるね」
「はい」
そんな簡単に教えても良いのだろうか。
「簡単な事よ。私と争わないでイケメンを全部私に渡すの。私と仲良くして邪魔しないでサポートしてくれればいいのよ」
ルーチェさんは小首を傾げて、
「ね、簡単でしょ? 私を害さない。仲良くする。簡単簡単」
と言葉を続けた。
「そうしてくれれば、あなたが処刑されないように私、必ず言うわ。契約魔法に書こうか?」
えへへっ、と笑うルーチェさんは、本当にさすがヒロインで可愛かった。
私は思わず、もしくはそれがゲームの強制力か何なのか、操られたように頷いていた。
ヒロインが、私の処刑を防いでくれると言うのだ。
それ以上に何を望むことがあるのだろうか。
生まれて初めて、初めて私が生きていられる道が蜘蛛の糸のように垂らされたのだ。
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