30、これはどういう運命なのだろうか。それともこの気持ちも運命によってなくなるものなのだろうか。(マティウス視点)
「死ぬ前に見る世界はできるだけ美しく楽しいほうがいいですから」
そう言ってナタリー嬢は、結界魔法を僕の体にまとわせるように展開した後、外に向かって魔力を膨らませて、結界魔法の膨張力で陛下の魔法『氷の尋問』を壊してくれた。なんとなく魔力の力の動きから分かった。
「ありがとう」
「いえ、婚約者ですから」
ナタリーはそれだけ言って、唇をかみしめて下を向いている。
シリアスな場面だけれど、正直僕は驚いていた。
ナタリー嬢はどこまでも天才だ。
だって、魔法というのは権力の象徴で、身分が上に行けば行くほど、魔力が高い。
アイステリア王国は平民も魔法を使えるけれど、貴族たちは威力が高い魔法を婚姻・養子・同盟・資金力等々で独占してきた。
陛下の魔法『氷の尋問』という魔法名にも象徴されるように、罪を犯した者・罪を犯そうとして者をとらえる時に高い威力を発揮する魔法だ。
それが簡単に破られては困る。
ナタリー嬢はそんな魔法をいとも簡単に壊して、そんな王をもしのぐ力を持っているのに、自分は処刑されるからと未来を憂いている。
どうして、ナタリー嬢はそう思うのだろうか。
それに回避しようのない未来、あるいは回避してほしくない未来に素直に突入してほしいなら、やっぱりあえて知らせないのではないだろうか。
ナタリー嬢は自分が弱い人間だからというが、弱い人間に神は(運命は)あえて未来を知らせるだろうか。
本当に弱い人間なら発狂して自暴自棄になったりしないだろうか。
また、ナタリー嬢の話やナタリー嬢の過去の行動や知り合ってからの行動を考えると、そこまで運命には操られていないようにも感じる。
また、ナタリー嬢の婚約してからの一連の行動の理由が明かされた訳だけれど、まだまだ理由がつかない所もあると思っている。
『神の世界の作品』の内容をいくら夢で覚えていたと言っても、この国の貴族より深く『神の世界』に親しんでいるし、ルーチェ・マーキスも一連の行動を調査報告で読んだけれど、ナタリー嬢と傾向は違うものの、同じく男爵令嬢にしては『神の世界』に親しんでいる。
例えば、ナタリー嬢の筆頭侍女であるターシャ・ノクリス嬢などはナタリー嬢に着いて回っているのでナタリー嬢と一緒に作品を見ていることが多いが、結構わずかに首を傾げていることもある。
この国の貴族や王族は『神の世界の作品』に親しむことが良しとされていて、僕だって『神の世界の作品』について理解を深めているが、どちらかと言えば、その難解な物語や不思議な動作を行うスポーツなどより、『神の世界の作品』に関しては『音楽』が好きだ。
歌や楽器演奏やその音楽にのせた踊りが好きだ。
独特のメロディの『神の世界の作品』の音楽はその不可思議な物語をそこまで押し付けてこない、と思っている。
話を総合して考えると、ルーチェ・マーキス嬢もきっとこの事態を詳しく知っている可能性もあると思う。ナタリー嬢が知らない事も知っていたりするかもしれない。だから何か解決の糸口がないか聞いてみるのもいいだろう。
後は、常識的に考えて、きっと処刑を命令するのは陛下だ。
何か契約魔法か何かでそんな悲劇を予防することはできないかうまく相談か何か話を聞くことはできないだろうか。
ナタリー嬢は一人でそんな極端な運命を受け入れる結論を出して苦しまないで欲しい。
………………………………。
……前みたいに下を向いているナタリーを見ているのが寂しくて、近づいてその額に口づけた。
ナタリー嬢は僕にいともたやすく接近を許してくれる。
「……っ!?」
声にならない叫びをあげて、驚いて顔を上げるナタリーを予測していた僕は、
「じゃあ、ナタリーを好きな僕のこの気持ちは何だろう?」
と言った。
……僕はナタリーが好きだった。
ありとあらゆる事に真剣な所。
僕のピアノ演奏を聴いて『素敵』と笑ってくれた所。
才女な所。しかもその才能に驕った様子がない所。
ちょっと天然な所。
『神の世界の作品』を見て無邪気にはしゃいでいる所。
女装した僕を見ても嫌悪しないでいてくれる所。
笑った顔が可愛い所、真面目な顔が美しい所。
僕に真剣に向き合ってくれる所。
「ナタリーが処刑される運命なのは分かった。僕はどうしてこんなにもナタリーが好きなのかな。僕はこんなにナタリーが好きで、ナタリーが処刑されるのだとしたら絶対に庇うけれど、そうしたら一緒に処刑されるのだろうか。僕は君とじゃなきゃ、王なんてやりたくない。妹も別の理由でやりたくないそうだ。陛下はナタリーを僕の婚約者に指名した。最初は政略結婚で才女で美しいナタリー嬢を尊敬しているだけのつもりだったけれど……そのうち、ナタリーにすぐに惹かれ始めた。ナタリーが好きだ。好き。ごめんね。好き」
「な、何を……そ、そんな事は私の夢には……」
僕は自分がどんな顔をしているか分からない。
僕は思いを伝えながら一歩ナタリーに向かって前に出ると、真っ赤になったナタリーが一歩後ろに下がる。
「ナタリー、好き」
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