21、何でもない日おめでとう。16歳の私の誕生日だけれど。
私は悪役令嬢だけれど、朝がきて昼がきて夜が来て太陽は東から西に沈んで、
「誕生日おめでとう。ナタリー嬢」
「ありがとうございます。今年もマティウス殿下に祝って頂いて光栄ですわ」
マティウス殿下に誕生日を祝われて、私は16歳になった。
今年、貴族学校に入学して、ヒロインも入学するはずだ。
今年、貴族学校に入学するヒロインの身分の男爵令嬢は調べがついており、資料を色々読んでいる。
マティウス殿下の誕生日の時はもちろん王宮に大量の貴族が集まるし、私の誕生日の時はお父様が張り切って国中の貴族を集めようとするのを阻止している。
結構、貴族令嬢、未来の王太子妃としては慎ましやかな誕生日パーティーにしてもらっていた。
私の場合は恥ずかしいのもあるけれど、18歳で処刑されるのだ。
もう、後二年。
処刑に向かっての終活というか慎ましやかにというか、そういう感じで遠慮させてもらっている。
余ったお金は修道院とか孤児院とか、あるいは治療院とかそういうものに寄付している。
もちろん、マティウス殿下の私への誕生日プレゼントは、一応婚約者への誕生日プレゼントだから断れない為、キラキラの貴族令嬢演技でありがたく受け取っている。
今年のマティウス殿下の私への誕生日プレゼントは、青いダイヤモンドのペンダントだ。
ありえないくらい大きいし、侯爵令嬢のこの私が引いてしまうぐらい輝いている。
処刑されるときには持っていけない。
嫌だけど、もし火あぶりの処刑なら高い炭になれそうなのに。
…………残念だ。
「着けてあげよう」
マティウス殿下が侯爵家のバルコニーで囁いた。
「まあ、ありがとうございます」
マティウス殿下は私の後ろに回って、器用につけてくれた。
マティウス殿下の指先がかすかに触れて、とても緊張する。
オランジェ侯爵家の有能な私の侍女ターシャは、このマティウス殿下との交流のちょっと前に、スッと私に近寄ってきて、誕生日パーティー用に付けていたネックレスを外してくれているので、問題なく、私の胸元に青いダイヤが輝いた、と思う。
自分からは輝きは見えないので。
「似合っておりますでしょうか?」
「ああ、とても綺麗だよ。月の女神のようだ」
「ふふっ」
正面に戻ったマティウス殿下が王子様スマイルで決めてくるのを、私は少し恥ずかしそうに笑って見せた。
本当に心の底から嬉しかった。
恋人(婚約者)から、こんな贈り物をもらって16歳の誕生日を迎えられた。
「本当に嬉しいです。…………何も思い残すことはありません」
後半は目の前に立っているマティウス殿下にも聞こえないように、口の中で呟いた。
居たたまれなくて、目線を下げる。
「これからもよろしくね」
チュッ、と軽い音がして私の額に温かい乾いた皮膚が触れた。
びっくりして顔を上げると、
「わっ、急に顔を上げるとっ……」
とマティウス殿下が飛びのく。
昔のマティウス殿下のように、ウロウロと視線を彷徨わせながら真っ赤になったマティウス殿下が居た。
(マティウス殿下、今、もしかして私の額にキスした…………??)
その事実に気づくと、顔が火を吹いたように熱くなった。
私たちはそのまま言葉もなく、時間が経って皆に呼ばれるまで、バルコニーで真っ赤になりながら俯きあっていた。
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