14、僕に興味のない婚約者。僕の突拍子もない思いつき。(マティウス視点)
本当にナタリー嬢は貴族令嬢として完全無欠な令嬢だ。
僕と婚約した後のナタリー嬢は、今度は『神の世界の作品』について理解を深める活動を始める………と、オランジェ侯爵家から連絡が来たときは驚いたものだ。
そして『なるほど……』と納得した。
ナタリー嬢は確かに才女だが、文化活動が言われてみれば足りなかったような気もする。
そこで、次期王太子妃として王族の婚約者として『神の世界の作品』の『文化視察活動』を始めるつもりなのだ。
『神の世界の作品』は神の住まう世界にあるとされる文化で、この世界にはいつからか当たり前のように存在している文化だ。
神の文化なので、貴族は上に立つものとして『神の世界の作品』に親しむことは当然のこととされている。
しかし、『神の世界の作品』は神の世界と僕たち人間の世界の文化の違いなのか、微妙に受け入れがたい世界観で、貴族たちは一折その文化について学ぶものの敬遠されているという事がある。
そこで、僕の数少ない自信を持てる事なのだけれども、僕は比較的『神の世界の作品』で音楽に関わることが結構好きだった。
『神の世界の作品』の音楽は聞いていると、美しく気高くて、本当に神の世界にいるようなそんな気がしてくる。
ナタリー嬢は、僕と気が合う事に『バレエ』の『くるみ割り人形』をアイステリア王国国立劇場に見に行くらしい。
取り巻きの令嬢たちと。
まあ、僕は婚約者と言っても……無能の僕なんかと見に行きたくないし、誘われたくないだろう。
別に、ナタリー嬢を追いかけるわけではないけれど、僕も最近バレエを見ていなかったから見に行こうと思う。
プリマは猫の半獣人だそうだ。
まだまだ、貴族たちの中では獣が混じった人間を敬遠する事も多い中、ナタリー嬢は偏見もなく素晴らしい事だと思う。
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会場の王家専用席に着くと、少したってからナタリー嬢が取り巻きの令嬢たちと会場に入ってきた。
何となく緊張する。
誘われてもいないのに、婚約者を追いかけてきたと思われたくなくて、大きな帽子と全身を覆うマントを着てきたけれど、僕と分かってしまうだろうか………。
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……………と、僕が心配していたことは杞憂だった。
ナタリー嬢は僕に全然興味なんかなくて、そもそも王族に興味があるかどうかも怪しい。
全力で『神の世界の作品』を楽しんでいた。
僕と会っている時には、貴族ならではの笑顔しかなかったのに、バレエの上演が終わった後は周りに居る令嬢たちに惜しみない笑顔を振りまきながら、バレエを絶賛しているようだった。
僕は…………、
『羨ましい』
と思った。
ナタリー嬢と笑顔でバレエを見られて、感想を言い合って、一緒に行かないかと誘ってもらえて、ただの貴族の令嬢たちが羨ましかった。
無能の王太子の僕となんかじゃ、こんな風には過ごしてくれないだろう。
僕が女だったらもっといろいろスムーズだったのだろうか?
妹が僕の立場で、僕はただの王女で、いずれは外国に嫁いで、それまでナタリー嬢と『神の世界の作品』を楽しむ。
………なんだか、ふと思いついたことがとても良いアイデアに思えて、僕は何かに憑かれたように、すぐに内密にオランジェ侯爵夫人に連絡を取っていた。
『王家の遠縁の子マティルダ(マティウスからちょっと捻って変えた)として、ナタリー嬢との文化視察活動に参加させてくれないか』と。
僕のその突拍子もない連絡を受けて、オランジェ侯爵夫人はすぐに僕と会って事情を聴いてくれた。
「……………普通にあの子と一緒に文化視察活動を行って頂ければ良いように感じますが、確かにあの子もあの子で何か考えがあるのか、王太子殿下の婚約者という事で気負っている面があるのか、失礼ながら、何か殿下をあえて気にしないようにしている……というような感じを受けますわね。親が、殿下と行くようにと命令するのは容易いですが、それはあの子にとっても殿下にとっても不本意なのでしょうし……」
オランジェ侯爵夫人は、僕のたどたどしい要望を受けてしばらく考えていたけれど、
「分かりました。夫の許可も取りますが。いずれにしろ、殿下は我が娘との仲を深めたいと思ってくださっているのですよね。そのような変身も神の世界の作品のようで面白いのかもしれませんね」
とオランジェ侯爵夫人は許可を出してくれた。
このページ、最後の下りは後でもしかしたら展開を変えるかもしれません。
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