13、僕は無能の王太子マティウス・ド・アイステリア(マティウス視点)
時間が13歳の頃に戻ります。
「あ、あの……これから婚約者としてよろしく……」
「ええ、よろしくお願いします」
僕はやっと決まった婚約者に挨拶した。
目の前の迫力の美少女はにっこりと笑ったものの、一瞬、別の事を考えたのか右に視線が泳いだ。
………多分、僕にうんざりしているんだ。
でも、これは政略結婚で逃げられない。
だって、僕は……、
『無能の王太子マティウス・ド・アイステリア』
だから。
そう、僕は僕しかいないから皆が仕方なく王太子にしただけの無能の王太子だ。
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僕の名前はマティウス・ド・アイステリア、13歳だ。
アイステリア王国の第一王子で王太子だ。
稀代の才女と名高い侯爵令嬢ナタリー・ド・オランジェの婚約者でもある。
この前、顔合わせを経て、婚約者となった。
建前は本人たちを会わせて相性を見た、という事になってはいるが、実際には、
・公爵家にめぼしい令嬢がいないのと血が王家と近すぎる
・オランジェ侯爵家の財政がここ最近、飛ぶ鳥を落とす勢いで上向いている
・僕とナタリー嬢の年齢が同じ
・王子が僕しかいない
・僕には6歳の妹、つまり王女しかいない
・世界情勢を鑑みて王女はできるなら外国に嫁に出したい
・ナタリー嬢の才能(結界魔法・頭脳・美貌・オランジェ家の財力)を取り込みたい
等々、ありとあらゆる大人の事情が話し合われて決められた。
とても話し合いに時間がかかったので、王族と貴族の婚約には珍しく13歳での婚約となった、という事だと表向きには聞いている。
……………………けれど、本当は、
『王子で王族ならもっと早く婚約が結ばれていてもいいはず』
『無能王子の婚約者を誰にするか相当陛下は悩んだんだ』
『小さいころから無能』
『無難な事しかしない。陛下のような国政に対するセンスがまるでない』
『王女の方を小さくても女王にした方がよかったのでは』
『王族だったらもっと早くに婚約者が決まるのに恥ずかしくないのだろうか』
『女のように綺麗な顔だけ』
等々、大臣たちが陰で噂しているのを知っている。
父上や母上、僕やそして妹の王族というものは、臣下が何をしているか大体把握しているし、普段何を話しているか大体知っている。
そうしていなければ、上に立つものとして統治できない。
父上や母上は、国を豊かに、民を豊かに幸せにするために、臣下を操り動かしていく。
何を言われたって、何があったって、何でもない顔をして平然としていなければならない。
妹は妹で、
『女で嫁に行く身なのに、帝王学を学ぼうとする小賢しい子供』
『マティウス殿下と性別が入れ替わっていればよかったのに』
と言われて陰で泣いていた。
6歳にして王族というものを学ぼうとするその姿勢は妹として、とても尊敬できると思う。
僕と違って、やる気に満ち溢れているし、本当に妹が僕の立場だったら良かったのに、と思わなくもなかった。
そんな無能で無難な事しかしなくて、やる気もあまりない『アイステリア王国』の第一王子だからという理由だけで、王太子となった僕には、前述した通り、
『稀代の才女の侯爵令嬢ナタリー・ド・オランジェ』
その人が選ばれた。
何でもオランジェ家はナタリー嬢には言わないで、内々に一度、婚約者を辞退したらしい。
それもそうだ。
ナタリー嬢の才能は王族にあげてしまうのは惜しいだろう。
できれば、自領か懇意にしている貴族へ嫁にやり、その能力、ゆくゆくはできるその子供を自分の領の発展に使いたいものだ、と僕でもそう思うと思う。
オランジェ侯爵家は最近、自分たちでオリハルコンの鉱脈も発見した。
王族とのつながりがなくても、全く困らないというスタンスなんだと思う。
しかし、当のナタリー嬢は、僕との婚約を王家たっての頼みで正式に打診された時、特に気負いない様子で、
「分かりました」
と言ったそうだ。
それが、もちろん王族と貴族というものはそういうものなんだろう。
けれども、何だか切なかった。
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