迷宮2
地下3階で初めてモンスターに遭遇した。
出現したモンスターはペリュトン。
青い鳥の翼と体に、シカの頭部と後ろ脚を持つ。
ペリュトンたちは四匹いた。
とくにこちらを警戒しているわけではなく、群がっていた。
ペリュトンはそれほど気性が激しくない。
動きも遅い。
初級魔法使いには良い的だった。
「まずはエネット君のチームが戦ってみてください」
パオラ先生が指示を出す。
「ユキコ、カナ、出番だよ」
「ユキコちゃん、カナちゃん、がんばってください」
エネットとリヴィアが応援する。
「いっくよー! 任せといて! 火球!」
ユキコはサッカーボール状の火の球を作ると、ペリュトンに向けて撃った。
火球は正確にペリュトンに当たった。
ペリュトン一匹がユキコの火球で絶命する。
残りのペリュトンは三体。
しかし、それらのペリュトンたちは主だって攻撃の姿勢を見せてこない。
知能も低いので逃げることもない。
「私もいっくよー! 風刃!」
カナは杖から風の刃を放った。
一匹のペリュトンに当たり、両断する。
「やったあ!」
カナが嬉しそうに喜んだ。
二匹目のペリュトンが死んだ。
「ユキコさん、カナさん、お見事でした」
パオラ先生がほめてくれた。
ユキコとカナは同じ魔法で残りのペリュトンも退治した。
生徒たちは地下4階に移動した。
今度はスライムが三体現れた。
スライムは生徒たちの存在に気づいていないようだ。
「では、今回はアマーリアさんのチームに戦ってもらいましょうか。スライムは動きも鈍く、知能もありません。しかし、その粘液は物を溶かす働きがあります。決して手では触らないでください。スライムの弱点は炎です。では、どうぞ」
「炎か、あんまり得意じゃないんだよなあ……」
ジュストが愚痴を言った。
「フン、おどきなさい、三人とも」
「アマーリアさん?」
「くらいなさい、炎撃!」
アマーリアは炎の塊をスライム三体に発射した。
アマーリアは一撃でスライム三体を蒸発させた。
生徒たちがあっけにとられる。
アマーリアの魔力は平均的な生徒の二倍は優れている。
彼女は貴族的な女性だが、それだけプライドが高かった。
そして、そのプライドの高さと同じくらい訓練や努力はしていた。
「これでけがらわしいモンスターは消えましたね」
「お見事です、アマーリアさん。みなさんもアマーリアさんを見習って努力してくださいね」
「へえ……やるもんだなあ、アマーリアさんも」
エネットが言葉を漏らした。
生徒たちは良いスタートを切ったことで、自信を深めた。
生徒たちは授業でモンスターのことも習っている。
実戦によって、知識の正しさを確かめられた。
生徒たちは地下6階に移動した。
そこではゴブリン二体と遭遇した。
ゴブリンのうち一体はこん棒を持っていた。
ゴブリンはこちらを見てうるさく騒いでいる。
攻撃の意思はなさそうだ。
「あれはゴブリンです。知能はあまり高くありません。近づくのは危険ですから、遠くから魔法で攻撃してください。ゴブリンの弱点は風です」
パオラ先生は一つのチームに全員で同時に魔法を使うように指示した。
パオラ先生の指示通り、四人が一斉に魔法を放った。
ゴブリンたちはひとたまりもなく風の魔法で倒された。
生徒たちは地下10階まで移動した。
この階にはトロルが現れた。
「トロルです。知能は低いですが、ものすごい腕力を持っています。二チームが同時に攻撃をしてください。体力は高めなので油断しないでくださいね。弱点は風です」
パオラ先生が言った通り、二チーム計八人が同時に魔法でトロルを攻撃した。
しかし、生徒たちの攻撃はトロルを傷つけたが、倒すまでには至らなかった。
トロルは怒り、手近にあった石を手に取ると、それを生徒に投げつけた。
「危ない!」
とっさにパオラ先生が前に出て、魔法障壁を張った。
投げつけられた石は、パオラ先生の魔法障壁に当たって砕け散った。
「斬風!」
エネットが風の魔法を放った。
エネットの斬風はトロルをズタズタに斬り刻み、死に至らせた。
みなが呆然とエネットを見つめる。
「さすがです、エネット君」
「いえ、それほどでも」
その後生徒たちはリザードマンや牛鬼などと遭遇したが、なんとか数を頼みに攻撃してモンスターを倒していた。
中でもエネットのチームとアマーリアのチームはずば抜けていた。
そして生徒たちは地下20階まで到着した。
多くの者たちが安堵し、ほっと胸をなでおろした。
そこには小さな湖があった。
その場は大きく開けたところだった。
パオラ先生は生徒たちに休憩を命じた。
「ユキコとカナにはいい戦闘訓練になったかな?」
「そうだねー。魔法って命中させるのがむずかしいね。あとは威力の精度と加減がなかなかうまくいかないかな」
「モンスターはトロルをのぞいてあんまり強くなかったよお。私にとってはいい訓練になったかなあ」
「そうかい、それは良かった」
「きゃああああああ!?」
「うわあああああああ!?」
「巨人だあ!?」
「何だって!?」
「エネット君、見てください!」
「あれは巨人タロス(Talos)?」
湖の中からタロスが上がってきた。
生徒たちは恐慌に包まれた。
「落ち着きなさい、みなさん! 恐れる気持ちはわかりますが、今は冷静になってください!」
パオラ先生が冷静さを取り戻すよう、生徒たちを指導した。
生徒たちは自信を取り戻した。
「いいですか、今のみなさんの力ではタロスを倒すことはできません。みなさんは秩序だって後退してください。タロスの相手は私がします!」
パオラ先生はそう言うと、タロスと生徒たちの前に割り込んだ。
そこにアマーリアとジュストが現れた。
「フン、あんな土くれ、わたくしの敵ではありませんわ。くらいなさい、炎撃!」
アマーリアが炎の塊をタロスにぶつけた。
タロスはアマーリアをにらむ。
「ここは俺の出番だな! 疾風!」
集められた風の刃がタロスに向かって行く。
しかし、タロスは体力が高く、ジュストの魔法ではあまり効き目がなかった。
「くそっ、効いてないのか!? なんてタフな奴だ!」
「アマーリアさん、ジュスト君! 危険です! 下がってください!」
パオラ先生が注意した。
タロスはアマーリアに近づくと、大剣を振り下ろした。
「きゃああああああ!?」
「危ない!」
そこにエネットがやって来た。
エネットは力を強化し、エーテルスピアでタロスの大剣を受け止めた。
アマーリアはしりもちをついて地面に倒れこんだ。
「ジュスト君! 今のうちにアマーリアさんを!」
「わかった、エネット君!」
ジュストは倒れこんだアマーリアを起き上がらせると、全速力でその場から離れた。
「よし!」
エネットは力をずらして、タロスの大剣を滑らせた。
エネットは後方に下がった。
「星光!」
星々が形成され、タロスに向かって行く。
星々はタロスに当たって爆ぜた。
タロスは大剣を上に上げた。
タロスのダークスパークだ。
パオラはエネットやリヴィアにもバリアを展開した。
ダークスパークをやり過ごす。
「風撃!」
エネットは初級風魔法「風撃」を放った。
風の塊がタロスに命中した。
タロスはもんどりをうった。
「風巻!」
風の竜巻が正面からタロスに直撃する。
「風刃!」
リヴィアは風刃を唱えた。
風の刃がタロスを傷つける。
タロスの体から緑色の血が流れた。
「風翔槍!」
リヴィアは風の槍を放った。
風の槍がタロスの体力を削る。
タロスは持っている大剣でエネットを狙って斬り払った。
「おっと! 当たらないよ!」
エネットはバックステップで回避した。
「光子砲!」
パオラは長い杖の先に白い光を収束すると、それをタロスへと撃ちだした。
「うがあああああああ!」
タロスが叫び声を上げた。
タロスは土の光を地面から噴出させた。
アースクエイクである。
エネットたちに回避の時間はなかった。
直撃はしなかったが、エネットたちは少なからずダメージを受けた。
パオラはすかさず、回復魔法「癒しの光」を発動し、エネットとリヴィアを回復させた。
「旋風!」
リヴィアは回転する風の渦を作り出した。
タロスはぐらついた。
「疾風!」
エネットは疾風を放った。ジュストの4倍はある風だ。
タロスは倒れかかった。
「今だ!」
エネットはエーテルスピアに風属性を付与すると、すかさずタロスの首を切断した。
タロスは大きく重い音を立てて、倒れた。
タロスは魔宝石に戻り、消滅した。