ニコロ
宝石獣ハルピュイア(Harpyia)は市民たちを無差別に殺戮した。
ハルピュイアの爪が赤く染まる。
ハルピュイアは爪を一人の男性に下ろそうとした。
「やらせない!」
そこにエネットが割って入った。
エネットはエーテルスピアでガードした。
エネットはエーテルスピアでハルピュイアを斬りつけた。
ハルピュイアは傷つけられた。
「キュイイイイイイ!?」
ハルピュイアは少し後方に下がると、「雷撃」をエネットに放った。
「おっと! 当たらないよ!」
ハルピュイアの雷撃が上から下に落ちてきた。
ハルピュイアはなおも雷撃を放つ。
エネットはそれらを冷静にステップで回避した。
エネットは氷結槍を唱えた。
ハルピュイアに向けて放つ。
「双連・水泡槍!」
遅れて到着したリヴィアが二本の水の槍を放った。
ハルピュイアは翼をはばたかせて三本の槍を回避した。
ハルピュイアは右手に雷の槍を形成した。
「雷電槍」である。
ハルピュイアは雷電槍をエネットに向けて投げつけた。
「やらせるか!」
エネットはエーテルスピアの刃で雷電槍を相殺した。
ハルピュイアは全身に魔力を集中した。
嵐のような風だった。
「何をする気だ!?」
ハルピュイアは全周囲に衝撃波を放った。
「全周衝撃波」である。
ハルピュイアの周囲に衝撃がはじけ飛ぶ。
「うわああああ!?」
「きゃあああああ!?」
エネットとリヴィアは二人ともはじき飛ばされた。
エネットはエーテルスピアを杖代わりにして、リヴィアは杖を立てて立ち上がる。
「くらいなさい! 多弾・水泡弾!」
ハルピュイアはバリアを張った。
それによって飛んできた水泡弾を無力化した。
ハルピュイアは翼を広げた。
それから羽の弾丸を放った。
エネットとリヴィアはすばやく身をこなして回避に成功した。
ハルピュイアはエネットに接近した。
近づいて、鋭い爪で攻撃してきた。
エネットはタイミングを見計らってバックステップでよけた。
ハルピュイアは再び雷電の力を収束した。
「雷電雨」である。
雷電が雨のごとく降り注ぐ。
エネットとリヴィアを狙って雷電が巻き起こった。
「今だ!」
エネットはダッシュすると、雷電雨の隙をついて、ハルピュイアに接近した。
そしてエーテルスピアでハルピュイアの胸を貫いた。
「クイイイイイイイン!?」
「追撃します! つらら!」
リヴィアは氷のつららを形作った。
エネットがハルピュイアから離れると、リヴィアのつららがハルピュイアを串刺しにした。
ハルピュイアは魔宝石に戻ると、砕け散って消滅した。
「倒した、か……」
エネットはハルピュイアが消えていく様子を眺めていた。
「エネット君、やりましたね」
「ああ、リヴィア。今回もルフィウスのテロを防ぐことができたよ」
「おやおや、どうやらハルピュイアは倒されたみたいだね」
「!? あなたは!?」
「ニコロさん!? どうしてここに!?」
「それは私も同じだからだよ」
「同じって、どういう?」
「私も『ヴェスタ管理官』という意味だよ」
「あなたが、ヴェスタ管理官だって!?」
「驚くのも無理はない。だが、ヴェスタ管理官は何人もいる。そして互いのことも知らない。ヴェスタ管理官はマテルによって創られた存在だ。すべてはマテルの意思を実現するためにね」
「マテル……母だって?」
「マテルというのは我々の母のことだよ。少し教えてあげよう。この世界そして、この惑星を我々は『ヴェスタ』と呼んでいる。惑星ヴェスタはマテルによって管理されている。その管理の手足として、ヴェスタ管理官は創られた。人間たちを管理するためにね。君も歴史の授業を受けただろう? 歴史上いくつもの文明がなぜか突如として滅亡したのを……それは我々がその文明に介入し、滅ぼしてきたからさ。そして君たちの文明も滅びを運命づけられた」
「……」
「エネット君。私たちとしては君に降服を進めたい。むしろ、私たちの一員とならないかい? 君ほどの人材は殺すには惜しいからね。どうだい? 運命を受け入れてしまったらどうかな?」
「それは断る! ぼくはそんな運命なんて受けいれない! ぼくはこの文明を守る! あなたたちヴェスタ管理官の好きにはさせない!」
「そうか……結局互いに傷つけ合うしかないのか……いいだろう。私と勝負といこうじゃないか」
ニコロはエネットと対峙した。
ニコロは右手に魔力を集中した。
それはしだいに青白い剣の形をした。
「聖王剣!」
ニコロは聖王剣でエネットを斬りつけた。
エネットはエーテルスピアでガードした。
「ふむ……さすがだね。この聖王剣を防ぐとはね。よくできている」
「今度はこっちの番だよ!」
エネットはエーテルスピアで連続突きをニコロに向けて放った。
ニコロはエネットの連続突きをやすやすとかわした。
ニコロはバックステップでエネットと距離を取った。
「光子砲!」
ニコロは光の魔力を収束すると、カノンとして撃ち出した。
「くらわない!」
エネットは曲がった魔法障壁を出すと、光子砲を曲げた。
「光彩刃!」
ニコロは光輝く刃を二連で放った。
エネットはエーテルスピアで相殺した。
「聖光弾!」
エネットの全周囲を聖なる弾が取り囲んだ。
弾から光線が現れた。
エネットはそれをくらってしまう。
「うわああああ!? くっ!?」
「エネット君!」
リヴィアがエネットに近寄ろうとした。
「来るな、リヴィア! ニコロさんとはぼくが一人で勝負する!」
「でも……」
「リヴィア、ぼくを信じて!」
「これからが本番だよ。月光!」
ニコロは上方から光のレーザーを降り注がせた。
エネットはレーザーの雨に防御を集中して耐えた。
しかし、月光の弱点を即座に理解すると、防御を解いてニコロに接近した。
ダッシュからの突きをエネットは放った。
「ほう、月光の弱点を見破るとはね。だが!」
ニコロはすばやく身をこなしてエネットの突きを回避した。
「星光!」
ニコロの上に星のような光が形成された。
五つの光はエネットに向かって飛んでいく。
「当たらない!」
エネットは連続ステップで星の光を回避した。
「これでどうかな? 光子砲!」
「こっちも同じだ! 光子砲!」
ニコロとエネットの光子砲がぶつかり合った。
ぶつかり合った光子砲はスパークを起こし、はじけ飛んだ。
「くううう!?」
「むううっ!?」
エネットとニコロはスパークと衝撃で互いに吹き飛ばされた。
地面を引きずる。
しばらくの時間があった。
「やるね……これがヴェスタ管理官の力か」
「そういう君もさすがだよ、エネット君。この私とここまで戦えるとはね。でもこれで終わりだよ」
ニコロは聖王剣を出した。
「見せよう、私の最高の技を! 聖王斬!」
ニコロはエネットに向けて膨大な光の斬撃を放った。
「貫け! 光牙槍!」
エネットも負けじと光を収束した突きをニコロに向けて放った。
聖王斬と光牙槍がぶつかった。
共に光属性の技だ。
力は拮抗していたが、やがてエネットの一撃が圧倒した。
エネットの突きがニコロを貫く。
「がはっ!?」
ニコロはその場に倒れた。
「……ニコロさん、どうして……」
エネットはニコロに近づいた。
「さすがだよ、エネット君……見事、この私を退けたね……」
「ぼくにはわからないよ。どうしてぼくたちが戦わなくてはならないのか……共存することだってできたかもしれないのに……」
エネットはニコロのそばでニコロを見おろした。
「ああ、これでいいんだ。私たちの役目はもう終わっている。もう、世界にヴェスタ管理官は必要がないんだ。滅ぶべきなのは私たちの方なんだよ」
「ほかにもヴェスタ管理官は活動しているの?」
「ああ、ほかにもいる。私が知らないだけでね。気をつけるといい。私を倒したということはほかのヴェスタ管理官が君を危険視するということだからね」
「死ぬ前に教えてください。カフェの店長として一生を送ることもできたはずです。それがなぜぼくと戦い、死なねばならないのですか?」
エネットは悲痛な表情でニコロを見つめた。
「それはね、たとえ私たちの役目がもう不要になっても、私たちの創られた目的には逆らえないからだよ。私たちヴェスタ管理官はもうヴェスタに必要がないんだ。ゆえに消えねばならない。だから、これでいいんだ。私はもう悔いがない。これで逝くことができる。さらばだ、エネット君……」
ニコロの体は光の粒子と化して、消えていった。