テッコロ村
エネット、リヴィア、ベルントの三人は日帰りの予定でテッコロ(Teccoro)村を訪れた。
テッコロは風光明媚な村だった。
村には小川が流れていた。
「へえ、いい景色の村じゃねえか。気に入ったぜ」
「そうだね。穏やかそうな村だなあ」
「来てよかったですね、エネット君」
「失礼じゃが、お主らは旅の者かの?」
そこに一人の老人が現れた。
「はい、そうですが」
エネットが代表として答えた。
「この村が今どういう状況にあるか、知っているかの?」
「この村の現状ですか? いいえ、存じておりませんが?」
「ふう……これだから旅の者は困る。わしはジャコモ(Giacomo)。この村の村長をしておる。いつもなら旅の者を歓迎するところじゃが、今はとてもそういうことができる状況ではない」
「それは、どういうことなんだ?」
「今、この村は魔犬に狙われておる。もう何人も犠牲者が出ておるんじゃ」
「魔犬ですか……?」
リヴィアが尋ねた。
「さっきも言ったように、いつもならおまえさん方を歓迎するんじゃが今は魔犬に狙われている状況……悪いことは言わん。帰った方がいい」
「そういうことなら、ぼくたちが事件を解決してみせましょうか?」
「何を行っておる! 子供の遊びじゃないんじゃぞ!」
「確かにこいつはまだ子供だが、腕は立つぜ? 傭兵のこの俺が保証できる」
エネットは少しむっとして。
「ぼくはまだ子供ですが、魔法学院の生徒です。ぼくたちなら魔犬を倒してみせますよ」
「魔法学院の生徒か……だが心配はいらん。なぜなら、国の魔法師団に解決を依頼したからの」
「魔法師団……ですか?」
とリヴィア。
魔法師団とは魔法使いの軍隊である。
魔法学院の主な進路先であった。
「そういうことじゃ。それじゃあの。早く帰りなされ」
そう言うとジャコモ村長は身をひるがえして立ち去っていった。
「どうする、エネット? 魔法師団が出てくるっつーのなら俺たちはお払い箱だぜ?」
「そうだね。でも最近の宝石獣のこともあるし、今日は宿を取ろう」
「エネット君……事件の解決を狙うつもりですか? 私は心配です」
「大丈夫だよ、リヴィア。ぼくたちだけじゃなく、ベルントもついている。魔犬にやられたりしないさ」
エネットたち一行は村の宿を訪れた。
そこでは宿の主人とある一団がもめていた。
「? 何だろう?」
「何だと、この野郎! 俺たちからカネを取るってのか!」
「俺たちはわざわざこんなへんぴな村にまで来てやったんだぞ? 事件の解決はもう決まったも同然だ。その俺たちからカネを取るだと?」
「その通りだ、宿の主人よ。我々はそちら側の要請でこんな村にまで来てやったのだ。その我々からカネを取るなど、言語道断だ」
「しかし、わたくしどもも宿を経営している手前、おカネ、つまり宿泊費をいただきませんと……」
「なら、宿代をただにしてもらおう」
エネットたちが宿の中で見たのは魔法師団員の尊大な態度だった。
「そ、そんなことではサービスが提供できません! 店の経営が破綻してしまいます!」
「それでは破綻しないようにするのだな。ともかく、我々はカネを支払うつもりはない。それで、食事付きの通常のサービスを提供せよ。以上だ」
「おカネくらい支払ったらどうなんですか?」
「魔法師団の連中がそんなに偉そうなんてのは初めて見る光景だぜ」
エネットとベルントが会話に加わった。
「なんだ、おまえらは?」
「どっから出てきた?」
「ジルベルト(Gilberto)隊長、どうします?」
「魔法師団ってそんなにおカネに困っているのかな?」
「子供か……子供がこんなところで何をしている?」
「ぼくたちは観光でこの村を訪れたんだ」
「観光か……フフフ、子供が考えそうなことだ。今この村で起きていることを知らないのか?」
ジルベルトが答えた。
「知っているよ。魔犬に襲われているんだってね。そして魔法師団に事件解決が依頼されたこともね」
「そこまで知っているとは話が早い。私は魔法師団の者で名はジルベルトという。これらの者たちも魔法師団の隊員だ。我々が来た以上、魔犬は死んだも同然だ。その我々がなぜ、こんなちんけな村の宿泊費を支払わねばならんのだ? むしろ宿側はサービスを積極的に出すべきだ。我々はただの客ではないのだからな」
ジルベルトは尊大なことを一気に言い切った。
エネットは憤慨した。
「へえ……魔法師団ってそんなに貧乏だとは思わなかったよ。払わないんじゃなくて払えないんじゃないの?」
「なんだと、てめえ!」
「やんのか、こらあ!」
「やめろ」
「し、しかし、ジルベルト隊長……」
「軍っていうのは国民を守るためにあるんだよね? その軍がそんなに横柄だとは思わなかったな?」
「フン、小僧、子供にしては弁が立つようだな。いいだろう。宿代は半分までは支払ってやろう。残りは村長に請求するのだな。行くぞ、おまえたち」
「は、はい、ジルベルト隊長!」
「覚えてろよ、こらあ!」
ジルベルトたちは偉そうに立ち去っていった。