オープニング
一台の黒いバイクが駐輪場に到着した。
乗っていたのは金髪で長い三つ編みの女性。
瞳の色は緑。
黒い軍服上衣に、黒いキュロット、サングラスをかけていた。
「ふう、着きましたか……」
彼女はサングラスを取り、胸のポケットにしまった。
「時間は今で、ちょうどぴったりですね。さて、魔法学院ではどんな授業が行われているのでしょうか?」
女性は森に囲まれた魔法学院の建物に向かって歩き出した。
ここはアポロニア(Apollonia)共和国。
首都はダフネ(Daphne)。
アポロン魔法学院はその旧市街地にある、伝統ある魔法使い養成校である。
学年はは5年制で15歳から20歳までの学生たちが学んでいる。
このアポロン魔法学院では今日、公開授業が行われていた。
三年生の教室でも、公開授業が営まれていた。
教室は半円形の作りになっていて、前に黒板があった。
半円形の教室の後ろには、学生の親たちが詰めかけていた。
今はパオラ(Paola)先生が「魔法基礎理論」を教えていた。
学生たちは黒板に書かれた内容をノートに書き写していた。
さすがに親の目があるだけに、学生たちは私語なく授業を受けていた。
「魔法には8つの属性があります。つまり光と闇、炎と水、風と土、雷に無。全部で8属性になります。その中で闇の魔法はどのような性質を持っているか、わかる人はいますか?」
パオラ先生が生徒たちに質問した。
パオラは長い緑の髪に、ロングスカートといった格好だった。
「はい!」
席の真ん中くらいのところから積極的な返事があった。
彼女はユキコといった。
「はい、ユキコさん。ではどうぞ」
パオラ先生は公開授業ということもあっていつも以上に真剣だった。
「闇の魔法は異端の魔法です。闇は人の持つ負の感情――憎しみ、恐怖、絶望などをエネルギーとしています。闇魔法は普通の人が使えない唯一の属性です」
「はい、その通りです、ユキコさん」
パオラ先生が授業を進める。
その時、教室の背後でがやがやと音がした。
そこに金髪の女性が現れた。
彼女の輝くような美貌と笑顔が注目を浴びた。
彼女は教室の背後で中央に来ると、一点を集中して、見つめた。
主人公の「エネット・シルヴィ(Enetto Silvi)」は彼女の視線を感じた。
エネットは退屈そうな態度を改めた。
エネットは学年主席である。
もうすでにパオラ先生が教えていることは常識として知っている。
それどころか大人の魔法使いたちに匹敵するほどの知識と実力を持っていた。
そんなエネットにとって、授業が今一つ身に集まらないことは仕方がなかった。
ノートは開かれたまま、何も書かれていない。
この程度のことは書くまでもなく、すでに知っていることだった。
エネットは後ろをちらりと盗み見た。
例の美女を見る。
美女はエネットの視線に気づくと右手を振った。
「うわっ、さすが母さん……みんなの注目になっているよ」
「どうかしたんですか、エネット君?」
「いや、授業より、ウチの母さんの方が注目を集めているからさ」
「母さん?」
「リヴィア(Livia)、あの真ん中にいる金髪の人さ」
リヴィアは後ろを見た。
「なんてきれいな人……あれがエネット君のお母さん? なんだか反則です」
エネットは金髪の髪に緑の瞳、白衣を着て、ポロシャツにズボンという格好だった。
リヴィアは長いベージュの髪、緑の瞳、ブラウスにタイトスカートといった姿。
ちなみにリヴィアはエネットに想いを寄せていた。
「なんだか、改めて母さんに注目されるとはずかしいな……」
「エネット君!」
「あ、はい!」
エネットはパオラ先生から名指しされた。
「エネット君、授業に集中してください。それとも私の授業はそんなにつまらないですか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「では私語は慎んでください。エネット君にとってはもう知っていることかもしれませんが、基礎の復習も大事なことですよ?」
「はい、わかっています」
教室の背後で笑い声が上がった。
エネットは恥ずかしくなった。
エネットは別にパオラ先生が嫌いではない。
パオラ先生の授業はわかりやすく、聞いていてためになる。
エネットは集中して授業を聞くことにした。