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The Samurai & the Gunslinger 〜異世界一蓮托生譚〜  作者: Artorius
Chapter_1.0『聖教国脱出編』
6/7

Episode_3.0 『Break Out』(前)

長くなったため2分割



かつんこつんと地下に響く足音が、松明の明かりと共に近付いて来た。ジェイクは伸ばした脚に力を入れ、壁に預けた背をずり上げて立ち上がる。暫く同じ体勢を取っていたせいか、僅かばかり不格好な動きになった。牢の前に現れたのは、彼等の身ぐるみを剥ぎ取ったあの歳若い女騎士だった。彼女は手にした松明に照らされた整った顔を緊張の為かやや強ばらせながら、二人を囲う鉄格子の前で歩みを止めた。


「お二人に聞きたいことがあります。あなた達は、異なる世界より神が遣わした、客人(まろうど)様なのですか?」


そう問う彼女はどこか追い詰められたような表情をしており、この場に一人で現れたことからも、この行動が彼女が属する組織の総意ではないらしいことが見て取れた。


「あれが神だったかと問われれば個人的には(Yes)とは言い難いな。それに()()ってのが何かも知らん」


「が、まぁ魂だのなんだのを人質に取られた挙句、そこに居る無愛想な未開人と世界を救えと言われたのは確かだ」


生い立ちを語っていた時のしおらしさは何処へやら。飄々とそうのたまうジェイクに兼光は少しばかり緩めた敵意を再燃させると、己が閉じ込められている牢の扉に手をかけながら女騎士に声をかける。


「娘、鍵を持ってるな。もし開けるつもりならこっちの檻だけ開けてくれたらそれでいい。その盆暗(ぼんくら)はそのままそこに捨て置け」


(やっぱり。この二人は客人(まろうど)様だ。)


ミアはそんなやり取りに苦笑いを浮かべながらも、自分の予想が間違いではなかったことに我ながら驚いていた。もしかしたらの域を出ない予測だったのだが、それは確信に変わる。持ってきた鍵束からそれらしいものを幾つか試しながら、程なくして二人の牢の鍵を開けた。


「助かったぜお嬢さん、俺はジェイクだ。さっきは自己紹介する時間すらなかったからな。そっちのお猿さんの名前は…カマネツだったかな?」


「兼光だ素男何処行(すっとこどっこい)。だから捨て置けと言ったんだ」


「そうもいきません。なにせお二人とも斬首にせよと教皇の勅令が出ておりますので。ジェイクさんに、兼光さんですね。私はミア。この聖堂騎士団で騎士見習いをしています」


「お二人の装備はこちらに。今私の上官が陽動を担ってくれていますが、恐らくそこまで時間は稼げません。なるべく音を立てないよう、お急ぎを」


(今頃ヴァイアットが守衛の目を逸らしてくれているはずだけど、嘘が苦手で不器用なおじさんのことだから…)


二人を急かしながらも、彼女は少し心配する。


「ろくな事にはならねぇと思ったが斬首とはなぁ…教皇(Pope)ともありながら随分と心が狭いな」


ジェイクは二丁拳銃が収まったガンベルトを腰に回し、ギャンブラーハットに頭を収めながら溜息混じりに皮肉る。やはり帽子がないとどうも落ち着かない。


「これだから昔から坊主ってのは好かん。神だ仏だと宣いながら酒に女にうつつを抜かす連中ばかりで、その上都合が悪いと神敵仏敵だ」


愛刀を帯に収め、柄の位置を調整しながらそう返す兼光。幼い頃から寝食然りどんな時も肌身離さず共に過ごしてきたその刀はまさに半身と言うに相応しく、独りで牢にいた間、兼光は始終違和感を憶えていた。


「私が先導します。合図を出すので少し距離を置いて着いてきてください」


身支度を済ませた二人の様子を見て、ミアはそう言うと階段を上り出す。薄暗い階段を足音を消しながら登っていくと、出口が視界に入ってきた辺りで前を行くミアが後ろ手に止まれと合図を出した。二人は影に隠れるよう身を潜め、その場に留まる。すると彼女はそのまま階段を登りきり、周囲を確認した。階段の入口から見て右手、回廊の角あたりに、恐らく酒の入っているであろう木のジョッキを持った三人の若い騎士と話すヴァイアットが見える。


(上手く気を引いてくれたみたい)


付近に他に人影が無いことを確認すると、階段へと戻り二人に付いてくるよう手招きをする。無事に階段を上りきったところで、ミアは向かって左側にある大きな扉を指さした。


「見張りが此方に気付かぬ内に、そこに入って身を隠していてください。陽動役と合流したら、我々もすぐ向かいます」


そう告げると彼女は話声がする方へ努めて平静を装って近づく。背後で二人が扉の向こうへ入ったことを確認し、酒と共に気分良く労われている騎士達と、彼等にしきひりに話しかけている不器用な上司に声をかけた。


「こんな所に居たんですか上級士長殿〜。例の侵入者の装具、総帥に言われたよう宝物庫まで運びました。確認と施錠をお願いします」


(ちょっとわざとらしかったかな…)


作った外面向けの声色に僅かに自己嫌悪にいたったものの、酒の入った騎士たちに、特段こちらを疑うような素振りはない。


「あぁ、分かった。二人ともご苦労。上官のくだらんお喋りに付き合わせて悪かったな」


此方の意図に気付いたのだろう、おそい!とでも言いたげな目線を一瞬だけ此方に向けると、上機嫌そうに話していた騎士たちの肩を叩く。


「いえいえ、こんな下っ端騎士に労いの言葉と酒まで下さったんです。感謝こそすれ、ですよ!」


「いやぁほんと、総帥にはちくらないでくださいね〜??」


程よく酔いが回った騎士たちはご機嫌そうだ。日頃からなにかと節制を求められる彼等だ、こんな歓待を受けてはそれも無理もない。


「勿論だとも。お前らこそ俺から差し入れされたなんて総帥の前で言うなよ?」


「「「了解!」」」


元気よくそう返事をする騎士達に背を向け、二人は安堵の表情を浮かべながら宝物庫へと向かった。



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