Episode_3.0『Farewell』
説明パート終わり!
「つまるところ、君達は言葉通り一蓮托生になるわけだ」
管理者を名乗った男の説明は続く。二人はその言葉を聞き頭の中で理解は出来ているものの、一切納得が出来ずにいた。
「それはつまり、この元気なお猿さんがもし馬に蹴られて頭が割れたら…」
「もちろんその途端君も死ぬことになるね」
「この珍毛唐が梅毒でももらってくたばったら」
「もし君が元気に走り回っていてもその瞬間お陀仏だね。まぁこの世界には怪我や病気ぐらいなら治せる魔法があるから大丈夫だと思うけど」
「「首が落ちたら終わりじゃねぇか」」
「まぁ、でもそれは君達が生きていた頃も同じだろう?お互い死なないように頑張ってくれたまえよ。僕はそれに全賭けするしかないのだから」
「別行動ぐらいは問題ないんだろう?」
「距離によるね、君たちは言わばひとつの魂を共有してしまっているような状態にあるから、あまり離れると身体から抜けてしまうだろうね」
「つまりこの口汚い見るからに頭の出来が悪そうなお猿さんと、くっついて過ごさないといけないのか?」
「くっつくまではしなくていいと思うけど、例えば町一つ離れたりは無理だね。それにさっき話した災害は、僕がシミュレートした限り二人揃って対処しない限り対応はできないと思う」
「管理者さんよぉ、手前ぇ俺を喚べたってことは俺がどういう人間かぐらいは知ってるんだよな?本気で俺が夷人と仲良しこよしできるとでも思ってんのか?」
「奇遇だな、俺もお猿さん達にはロクな思い出がないんだ。俺の手先が狂って、お猿さんの元気がなくなってしまう可能性は考慮しないのかい?」
「言ったと思うけどこれは僕も想定外だし、しかも喚んでしまった以上どうしようもないんだ。君たちの魂が全ての次元から消え去ろうと、全ての世界が滅んでしまってもいいと言うのなら僕には止めようが無い」
「けど、君たちは本当にそれでいいの?あの世界なら、君達が最期まで辿り着けなかったところにも、手が届くかもしれないよ?」
そう口にする管理者の表情は、いつしか此方を煽るような色に変わっていた。あぁ、そういう事か。と二人は同じ解に至った。
だから俺なのだと。こんな好機を前にしては、そこにいくら気に食わない条件がが加わろうと、俺が乗らない訳がない。そしてこの男は、それを知った上で是非を問うているのだと。
答えは、端から決まっていた。
「クソが。で、具体的にその災害とやらにはどう対応すればいい?」
「乗ったみたいだね。この災害についてなんだが、まぁさっき見せたような害獣共がこの瞬間にもあの世界になだれ込もうとしていてね、出来るだけ抑えてはいるんだけど、それも長くはもたない」
再び二人の前にイメージが投影される。今度は地球儀によく似た球だ。陸や海の形は既知の物とは全く異なるが。その球の各地に、黒い点が次々と現れはじめた。
「何処になるかはまだ正確には予測出来ていないんだけど、僕の防壁を突き破って、次第にこんな感じに各地に門が発生してしまう。ここからあいつらが湧き出て来てしまうから、君達にはこの門を発見し、速やかに排除してもらいたい」
「何処に出るかも分からねぇのに、どうやって見つけろってんだぁ?」
「あぁ、だから二人にはこれを渡しておこう」
突如として二人の左手首に、金属製の光沢を持った腕輪のようなものが現れた。
二人には知る由もない事だが、外見はデジタル式の腕時計によく似ていた。それはまるで事前に採寸でもされたかのようにピッタリと手首にフィットし、抜ける様子すらない。
「その平らな面を足元と水平になるように上に向けて見てほしい」
言われるがままにそうすると、その腕輪から、何も無かった顔前の空間に地図のようなものが立体的に投影された。その中心には鏃のような記号が浮かんでいる。
「上手くできたみたいだ。方位計システムって言うんだけどね、その記号が君たちの位置、そして向きを表している」
「さっき見てもらった門が発生する位置を、発生する際の空間力場の乱れを検知することで特定して誘導出来るようになってるよ」
「もし門が発生したら…」
投影されていた立体地図の右上に、カウントダウンされていく数字と中心に赤い円が写った広域表示された小さな地図が写った。自分達がいる位置からも小さく表示され、自分たちの位置を表す記号からその点に向けての方向も表示されている。
「まぁこのシステムもあくまで凡その位置予想までしができないし、カウントダウンも推定される時間でしかないから、大体の目安として使って欲しい。ちなみに君たち以外には見えないようにしてあるから、何かあっても安心して」
そう言うと管理者はその目を閉じ、二人に向けて両手を翳すような仕草を取る。
「はい。これで兼光君の刀は折れることも欠ける事もなくなったし、斬れ味も少しよくしといた」
「ジェイク君の銃は壊れる事もなくなって、ガンベルトの弾とシリンダーも、使う度に新しく補充されるようになったよ」
言われて己の獲物を確認する二人だが、外見上は特段変化は見られなかった。物は試しとジェイクがベルトから弾を一発抜き取り、右の愛銃の一発分空けていたシリンダーに詰める。するといつからかも分からぬほど自然に、抜いたはずのベルトの弾が補充されていた。
「これはいいな。弾には困らなくて済みそうだ」
心底気に入ったのだろう。ジェイクは弾を込めた銃を軽やかに前後にスピンさせ、ホルスターに収める。
「さて、もう時間が無い。僕にしてあげられることは全部したし、そろそろ行って貰うね。準備はいい?」
「「いつだってな」」
「じゃあ、頼んだよ」
瞬間、掻き消えるようにして二人の姿が忽然となくなった。