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Episode_1.0『The Sound』

かれこれ十年ほどなろう作品を読みあさってきた作者が、ただ己の読みたいを詰め込んだ処女作です。


どこかの誰かにちょっとでも刺さればいいなと切に願っております。


プロットは出来上がっておりますがなにぶん初めての試みですので、誤字報告や、お時間があれば感想、コメントを頂けますと大変嬉しいです。





 轟轟と雨が吹きすさぶ深い森の中、生い茂る木々の合間を縫うように駆ける一団がいる。それぞれ剣や槍、弓や杖など装備はバラバラだが、一様に酷く汚れ、傷だらけだ。身に纏う皮鎧やローブにもそこかしこに凹みやちぎれた様な跡が見える。皆息も荒く、疲労も既にピークを通り越しているのだろう。


 土砂降りの森の中動くものは彼等だけではない。今にもこの集団を取り囲み、食い潰さんと異形の生物たちが四方八方から押し寄せていた。人の身の丈の倍はあろう、四つ足の獣が人の皮を着ているかのような化け物だ。尾があるもの、鉤爪のあるもの、角の生えたものと、姿は様々だが、それらの眼はどれも苛烈なまでの憎悪と敵意に染まっている。


 集団の背後を見れば、既に事切れた獣が折り重なる様に倒れ、屍とタール質の血液が道の姿を成していた。舞う血飛沫、巨大な鋼が骨ごと肉を断つ音。矢が狙い違わず獣に突立つ音、祈りを込めた癒しの祝詞が木霊する。この世界ではある種有り触れた戦場(いくさば)の音だが、そこに似つかわしくない音が二つ混じる。


 44口径の二丁拳銃から響く硝煙が齎す、劈くような爆発音。そして黒漆の鞘から放つ一閃が響かせる、涼しさすら覚える樋鳴りだ。


(さっき)から人の顔擦れ擦れに鉛玉飛ばしやがって。使い物にならないならその腕、斬り落として少し身軽にしてやろうか?」


最早幾つ目かも分からぬ獣の首を落とした刀から、黒い血糊を振り飛ばしながらそう吐いたのは、無駄を削ぎ落とした痩躯を片肌脱ぎの着流しに包む、切れ長の目が印象的な総髪の侍だ。歳の頃は二十半ばといった所か。


「これは援護(covering)射撃(fire)って言うんだぜ野蛮なお猿さん。そのつもりなら、今頃お前の尻には追加の穴が百は増えている頃だろうさ」


陸軍(Army)の名を冠すコンバージョンモデルの銃をベースにカスタムが施された二丁のリボルバーを器用にシリンダーごとリロードし、間髪入れずにトリガーを引きながらそう返したのは、赤銅色の髪に年季の入った革のギャンブラーハットを戴く、無精髭のガンスリンガーだ。三十を超え渋みが出始めたものの、雨粒と血に濡れた口角を片方だけ釣り上げたその相貌は色男と評すに充分相応しい。


 味方同士にしてはやたらと棘が目立つ言葉の応酬を挟みながらも、二人の動きは止まらない。侍が身を翻して獣の群れに斬り込めば、ガンスリンガーが的確な射撃を以てその間隙を押し広げる。連携もなにも無いように見えるが、その実、存外に相性は悪くないらしい。


「なんであいつら、まだあんな余裕そうに、軽口叩けんの?」


矢を番える手を止めることなく、肩で息をしながらそう口にしたのは、パーティの射手である森林族(エルフ)の少女だ。白魚のようなその手は既に皮がむけ、血が滲んでいる。


「分からん!が、まぁどっちもイっちまってるのは間違いねぇさなァ」


身の丈ほどもある大剣を軽々と振り回し、返り血に染まりながら次々と獣の頭蓋を叩き割る筋骨隆々の壮年の大男が応える。今も尚着実に獣の数を減らしては居るものの、その巨体のあちこちに傷を負っており、振るう剣筋にも疲れが見えた。


「すみません。お喋りに使える体力があるなら、もう少しヒール減らしてもいいですか?どちみち命に関わる傷以外もう治す余裕ないですけど。すみません」


大男の影に隠れるように立つ、絶えずメンバーに回復の祝詞をかけていた巫女が零す。彼女もまた、目立った外傷はないものの顔には疲労が色濃く表れ、足取りも既に心許ない。


「みんな限界なのも分かるけど、ついてけないと多分これ死んじゃうからね。本当に死ぬ気で食いついてくしかないね。全くもって仕方がないね」


短槍にバックルを携え、聖職者風の装備に身を包んだ若い金髪の槍使いの男も、例に漏れず満身創痍だ。止血のために太腿に巻いた布切れからも、既にぽたぽたと血が滴り始めている。


「オークの群れに囲まれるよりキツい。向こうは女ならまだ命はなんとかなる可能性あった。こいつらじゃ無理。多分オスとかメスとかそもそも無い」


双剣を構えたシーフの少女が、狼のような耳と尾を振り雨粒を飛ばしながら、脚に纏わりつく重たい泥を振り落とし言う。額にできた傷の出血で既に片側の視界を殆ど失っていた。


クソ(Fxxk)ッタ(this)レが(shxt)。折角別の世界にまで来たのにこんなのばっかだな。命が幾つあっても足りる気がしないぜ」


無意識に独り言ちりながらも動作に淀みは無い。左右の腕をそれぞれ正確に標的に向け、次々に引き金を絞ってはハンマーを起こす。


「二人合わせて一つしかねぇんだ。転んで死ぬなよ気障野郎」


返しながらも一息三閃。三つの首が同時に落ちた。


二人が立つは地球ではない別の世界。数奇にもこの舞台に役を得たのは、ひと月程前のことであった。






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