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第92話 予想と推測と

 リングに上がって来た男。自信に満ち溢れた瞳。

 自分の強さを信じて疑わない絶対的な余裕。

 そこから来る豪胆な態度。目の前の男からはそんな雰囲気を感じる。


『お前は確か…さっき俺達に突っ掛かってきた勘違い野郎か?。』


 火車と奏他に紹介されていたな。赤蘭煌王の2代目ギルドマスターだと。つまり、赤皇の後釜か。


『女の癖に俺を舐めやがって!ぜってぇゆるさねぇからな!。』


 先程行われた予選の最中、コイツを含めた4人は俺達5人に話し掛けてきた。

 要はナンパをしてきたのだ。ナンパ…というには、あまりにも強引な圧を掛けてきたので適当に追い払ったのだが、どうやらそれが気に入らなかったようだ。

 額に血管が浮き出るくらい怒りを露にし、周辺の長椅子やらゴミ箱を荒らしまくっていた。


『許さないも何も、お前が勝手にキレてるだけなんだが?。』

『俺はギルドマスターだぜ?お前は知らねぇみたいだがギルドマスターになると大幅なステータスアップが掛かる。この意味が分かるよな?。』

『はて?どの意味のことだ?。』

『かぁぁぁあああああ!見てくれだけ良くても頭空っぽ系か?2倍以上に強化された俺の力には、同じギルドマスターしか敵わねぇって言ってんだよ!それだけの差が生まれんのよ!。』

『ああ、それでイキってるのか。お前は。』

『理解できたか?ギルドマスターですらない、お前じゃ俺の敵じゃねぇんだよ!俺と良いとこ勝負が出来るのは、この会場じゃ白蓮だけだぜ。』

『いや…もっといると思うぞ?。』


 俺に翡無琥に代刃に春瀬に無華塁に叶さんに…10人以上はいるだろう。


『はぁ…こんなに説明しても理解できない、頭お花畑ちゃんかよ?まあ、見てくれは良いからな。この戦いで反抗心を粉々にして、俺のペットにしてやるよ。』

『えぇぇ。断る。』


 コイツ…怒りながらも俺の胸やら腰に視線が行くのはわざとなのか?本気で怒ってんのか?フリなのか?どれなんだ。


『まあ、こうやって話してても互いの言い分は理解できないみたいだし、手っ取り早く始めようぜ?。』

『ははははは!後悔するなよ?馬鹿女!。』


『さあ、これは美女と野獣の戦いですね!面白くなってきました!私は断然美女を応援です!それでは!Dブロック!第一試合!始めっ!。』


 こうして、勘違い野郎との戦いが始まった。


ーーー


ーーークロノフィリア拠点ーーー


『お兄ちゃん!頑張れっ!頑張れっ!。』

『閃ちゃん!頑張って!。』

『閃。ファイト。』

『旦那様…お怪我のないように…。』 

『主様。頑張って下さい。』

『旦那なら心配いらねぇだろ?。』

『相手…雑魚っぽいな…。』

『赤蘭の新しいギルドマスターらしいけど、赤皇君、彼はどんな人物なんだい?。』

『ああ、火車か…。アイツは兎に角プライドが高いな。そのクセ、努力を嫌う。俺にギルドマスターを辞めるように進めたのもアイツだ。』

『成程。実力はどうなんだい?。』

『レベル120の中では中の上ってところだな。ギルドマスターになってどれだけ実力を上げたかは分からねぇ。』

『ふむ。玖霧ちゃんの意見はどうだい?。』

『閃さんの圧勝ですね…。目の前に対峙しても相手の実力を見極められない時点で戦場では生き残れませんから。あれ、完全に思春期の不良ですし…。ギルドマスターになっても全然成長してません。』

『ははは、みたいだね。もし、女の子の閃君が負けるようなら僕達クロノフィリア全員の力が及ばないって状況だしね。』

『そうね~。そうなったら~。もう絶望ね~。』

『気掛かりなのは赤蘭の彼ではなく。白蓮の動向だね。』

『ん?どうことだ?賢磨?。』

『閃君は自分がクロノフィリアだと公言した。当然、白蓮の耳にも入っている。ならば、この戦いで何かを仕掛けてくる可能性は考えられないだろうか?。』

『んん。可能性は0じゃない。けど、僕の考えだと限りなく0に近いと思う。』

『それはどういうことだい?無凱?。』

『白蓮はおそらく、閃君以外に…ああ、自分で明かした春瀬ちゃんは別として代刃ちゃんや翡無琥ちゃんがクロノフィリアだと既に知っていると思う。』

『…ああ、君が前に言っていた。謎の敵が持っていた【バグ修正プログラム】っていうスキルのことかい?。』

『そ。あれは多分だけど。僕達クロノフィリアのメンバーと、それに関わった柚羽ちゃん達が知らず知らずの内に獲得していた【バグ】というモノに反応しているのではないかと僕は考えている。そして、それは僕達が持つ外部からの干渉を封じるスキルでは防げない。皆から集めた情報を照らし合わせるとね。そんな感じだったよ。』

『ふむ。白蓮がその謎の敵…クリエイターズと関わりがあるのは、可能性が高いと言っていたよね?。』

『ああ。里亜ちゃんが白聖にいた時、白蓮の行動で不可解なことはあったかい?。』

『白蓮…そうですね…私には詳しい話しはしてくれませんでした。世界が今の形になってギルドメンバー達はゲームの時とは変わってしまいましたから…この2年で、白蓮が本当に信用していたのは銀と白雪と灰鍵だけでしたから。昔は柘榴も優しかったんですけど…。』

『…変わったのは、白聖の人達だけではないよ。僕らだって皆…2年間で変わってしまった。人を殺しても心が痛まなくなった。人が変わってしまう程…この2年間は濃厚で混沌としていた。…もちろん、僕らは無益な戦いはしない。こっちからは決して戦いを吹っ掛けないし攻められさえしなければ僕らは動かない。そういうルール決めで僕らはまだ人間でいられるんだ。』

『そうですね…。今の世界を、今の形にしたのは白蓮です。仮初めとはいえ、無秩序に平和(ルール)を与えたのですから。』

『この2年での大きな戦いが白聖と黒曜の全面戦争1回だけだったのは間違いなく白蓮の功績だね。けど、それも裏があるみたいだけどね…。黒璃ちゃんからの情報がそれを教えてくれている。辛いことを思い出させてしまうけど。ごめんね。』

『へえ。2年の間に戦争なんかやったのか?全然、知らんかったわ。』

『アンタは黙ってなさいバカ。』

『いてっ。』

『…ううん。大丈夫です。黒牙お兄ちゃんのことは悲しいけど…矢志路君のおかげで私はちゃんと前を向けました。けど、許せないのは…お兄ちゃんの死体を使って何かしてた人達…。』

『皆に話したが、俺と光歌は黒璃の兄、黒牙と戦った。本人はもう死んでいた…と思う。何者かに操られていると、戦った時に感じたな。そして、当然のように【バグ修正プログラム】持ちだった。』

『問題は2年間の間で白蓮がいつクリエイターズのメンバーに接触したかだね。彼等の目的、人数、能力の全ての情報が僕達には不足しているの現状だ。』

『俺と神無と機美が会った黒い男。アイツがクリエイターズだった。クロノフィリアとの直接の接触はあれが始めてだろうな。アイツは強かった。世界に干渉を強めるとか良く分からねぇことを言っていたが。それに、旦那のことを知っているような口振りだったしよ。』

『雷皇獣を、この世界に召喚して強化したのもクリエイターズという人達の仕業と閃さんが言っていましたが。』

『緑龍のメンバーや赤蘭のメンバーを操っていたのも、その黒い男だったね。』

『無凱君は~。彼等について~。どう考えて~。いるの~。』

『皆からの情報を整理するに、彼等の能力の一端は何個か確認できている。

① 能力者…この場合は敢えてプレイヤーだったモノとしようか。そのプレイヤー達の人格を破壊し操り人形にすることが出来る。

② 機械人形を遠隔で操作しリスティナの宝石を守っていた。このことから彼等はリスティナの存在を知っていると推測できる。

③ ゲーム エンパシスウィザメント内に存在していたモンスターを召喚出来る。

④ ①と②と③の対象に謎のスキル【バグ修正プログラム】を与えることが出来る。

⑤ 周囲の環境をゲームの中と同じモノに変化させることが出来る。これは、変化なのか転移なのかは分からないね。

⑥ ゲームの時に使われていたBGMに効果を付与しゲーム環境を再現できる。

⑦ 自身の能力を相手に合わせて強化できる。これは煌真君が対峙した黒い男の能力なのかもしれない。

⑧ これも共通のスキルなのか固有のスキルか分からないけど魔力を無効化する空間を発生させることが出来るみたいだ。

…まあ、こんなとこかな?これだけのことが分かっているのに彼等の素性に関して何も分からないのが現状だね。』

『ゲーム エンパシスウィザメントですか…。』

『そう、早計かもしれないけど。クリエイターズは、長年ずっと公に現れなかったゲームの制作陣だと思われる。』

『確かに雑誌やテレビ、動画サイトにすら一切情報が公開されていませんでした。』

『ああ。謎の制作会社。会社名すら胡散臭い適当な名前だった気がする。』

『それなのに当時は 誰も疑問に思わなかった んだ。今思うとおかしな話だね。』

『クリエイターズ…か…。これからは更に警戒を強めないとだね。クリエイターズがどれだけの情報を持っていて、何処までを白蓮に伝えているのかで、この大会での白蓮の行動が変わってくるかもしれない。』

『白蓮の野郎はクロノフィリアとの接触をひたすら待っていたな。』

『大会に合わせて準備を整えたということでしょうか?。』

『レベルを上げる薬以外に何かあるのかも!。』

『だね。まあ、何かあれば動けるように準備はしておこう。とまぁ、こんな具合に様々な情報がありながら白蓮は今まで水面下でしか行動していなかった。クリエイターズと接触していたと仮定して、その上で彼等の力を借りなかったんだ。緑龍の端骨みたいにね。』

『つまり?。』

『勘だけど。白蓮なりの挑戦なんじゃないかと僕は考えている。クリエイターズに頼らず自分の力だけで僕達クロノフィリアを打倒する為のね。まぁ、これも憶測だけどね。』


 予想と推測の話をしている中、映像の中の閃は全員が想像していた通りの展開で火車を圧倒していた。


ーーー


『てめぇ!さっきから逃げ回りやがって!いい加減掛かって来いや!。』


 リングの広さを最大限に活かし、火車の攻撃を避け続ける。

 火車の武装は指先に付けられた10の赤い爪のようだ。魔力を宿し切れ味を上げている。戦闘スタイルも全身に魔力を巡らせ身体能力を上昇させる肉弾戦タイプだ。

 赤蘭には多いよな。


『女相手に本当に容赦しねぇんだな。別に良いけど。それに、大体お前の強さは理解した。やっぱりお前は赤皇に遠く及ばねぇよ。』

『はぁ?はぁ?はぁ?何言っちゃってんの?俺はまだ本気出してねぇんだけど?。』

『へぇ。』


 額の血管が更に浮き上がり、目が血走っている。短気過ぎだ。それに、冷静さにも欠ける。強さ以前にギルドマスターとしても赤皇に負けてるぞコイツ。

 同じタイプの奴らなら圧力で従わせられるだろうが、赤皇のように自然に人が集まるタイプではないな。


『ああ!もう良いわ!お前終わったぜ?。』

『何が終わったって?。』

『俺の本気見せてやるって言ってんだよ!。はぁっ!。』


 火車の頭から獣の耳。獣の尻尾。炎のように燃え上がる体毛。

 おお。珍しい。コイツの種族は…。


『へへッ!驚いたか?俺の種族はレア中のレア!火極狼牙王族だ!身体強化に火の属性が付与される!もう、てめぇは逃げられねぇよ!。』


 智鳴と同系列の種族か。種族も恵まれたことで、偉そうな態度に拍車が掛かったわけだ。


『じゃあ、どっちの炎が強いか決めようぜ?。』

『はっ?。』

『No.Ⅶ!来いっ!炎舞神剣!』


 天炎の炎を宿した智鳴の神剣。


『な、何だその剣は…。その魔力は…。』


 おっ?相手の魔力を見抜く力はあるようだな。神剣が放っている魔力に怖じ気付いている。


『どうだ?これを見てもまだやるか?。』

『はっ!確かにすげぇ魔力だがそれと強さは別物だ!とっととくたばれやっ!。』


 火車は、種族特有のしなやかで柔軟な肉体で獣のように地を駆けた。

 速い…。だが、光歌に比べると止まって見える。


『シャッ!。』


 右手の爪による斬撃を剣で防ぐ。互いの武器がぶつかり炎が火花となって弾け飛ぶ。


『シャッ!。』


 間髪いれずに左手の爪による2撃目が眼前に迫るもバックステップで躱す。


『まだだ!。』


 地を這うように身体を回転させ両手の爪を振り抜く。だが、遅い。身体を逸らし地面に手を着いた状態で剣を振り上げ両手首を斬り裂く。

 傷口を焼き出血は止めておく。ムカつくけどな…殺しはしねぇよ。


『ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!。』

『お前の火遊びじゃ俺の炎は消せなかったようだな。で、ボディがガラ空きだ。』


 胸元のNo.をⅦからⅩⅢへ変更。火車の横腹に手を添え…。


『スキル【崩墜砕破点】…。』

『がぁぁぁぁぁあああああ!?。』


 全身の骨が砕けた火車がリングに倒れた。翡無琥と同じような展開になってしまったが、楽だなこの勝ち方。


『ええ、これは…勝負アリですね。威張ってたわりに呆気ない幕切れでしたね!正直、私はめっちゃセレナさんを応援してましたよ!だってこの人ムカつくんですもん!。勝者~セレナ選手~。』

『よっしゃ。勝ちだ。』


 俺も少しスッキリしたぜ。

 心螺と同じように運ばれていく火車。


『あっ。ちょっと待ってくれ。』


 担架を担いでいたスタッフを止め火車に【炎転光】を施し傷を癒す。

 万全な状態になって性格が真面になったらまた、戦いたいしな。


『おお。対戦者の傷を治すなんて、貴女は天使ですか?いや、女神ですね!私、惚れちゃいそうです!んもう!良いものが見れました!それでは~次の試合に移りまーす!。』


 会場を後にし控え室へ戻る。その後、Aブロックの第二、第三、第四試合が終了。

 続けてBブロックの第二、第三、第四試合、Cブロックの第二、第三、第四試合が終わる。

 そのままDブロックの第二、第三試合が終わり遂にDブロックの第四試合。

 1回戦最後の試合となった。


『閃。行ってくるね。』

『ああ、軽く蹴散らして来い!。』

『うん。分かった。』

『あっ…出来れば殺すなよ?。』

『うん。出来れば殺さない。』


 そのまま無華塁は控え室を出ていった。

 2年経っても変わんねぇ…な。


『赤コーナーからは~好きなモノは閃!ママ!パパ!無所属の可愛らしい少女!無華塁選手~。』


ーーー


ーーーVIPルームーーー


『ええええええええええええええええええええ!む、無華塁ちゃぁぁぁあああああん!?!?。』


 普段の冷静で物静かなイメージを持つ(必死に演じている)黄華の叫び声が室内に木霊した。

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