第88話 大会当日 ~クロノフィリア~
ーーークロノフィリア拠点 喫茶店ーーー
仁が経営する喫茶店。
今、そこには主要メンバーの全員が集合していた。
代刃、白、春瀬、裏是流、叶を除いたクロノフィリアメンバー。
美鳥、楓、月夜の一足先に大会会場に向かった黄華以外の黄華扇桜のギルドメンバー。
美緑、砂羅、累紅、涼、柚羽、威神、響、初音の元 緑龍絶栄メンバー。
黒璃、聖愛、暗の元 黒曜宝我のメンバー。
赤皇、玖霧、知果、燕の元 赤蘭煌王のメンバー
元 白聖連団の里亜。
そして、水鏡。
この場に集まることが出来ないメンバー以外が顔を合わせることとなった。
理由は明白。
大会を観戦するため。そして、不足の事態に対して、すぐに行動に移せるように…と。
『煌ちゃん。もうちょっと上かな?。』
『ダーリン。もう少し右ね。』
巨大なモニターの両端を持った基汐と煌真が機美と光歌の指示で運んでいる。
喫茶店のど真ん中。カウンターの上にセッティングするようだ。
『この辺か?。』
『うん。大丈夫みたい。じゃあ、設置しちゃうから動かないでね。』
機美が手際よく巨大なモニターを固定していく。脳筋2人は、その鍛え上げた筋肉に物を言わせ微動だにしない。その息の合い具合に、一昨日のサウナの場面が思い返される。
もう…アイツ等が持ったままでいいんじゃね?。
『これで良いかな?。煌ちゃん。基ぃちゃん。ありがとう。』
『気にすんな。』
『こんなの当然よ!。』
設置が完了し、次は光歌の説明が始まった。
『ええ…と。めんどくさいけど。説明するわ。このモニターは、私と機美姉が協力して完成させたモノよ。小型カメラからの映像を鮮明に映し出せるわ。』
光歌は、モニターの電源を入れる。手に持っていた小さな機械を全員に見せるように掲げた。見た目は蝶々のようだ。
『閃に渡すから会場に着いたら、起動のボタンを押して。後は遠隔操作で私たちで操作するから。で、この小型カメラは空気中に散布されている微量の魔力を吸収して動ける超低コストなの。しかも、ステルス機能付きだから魔力、科学、目視の全てから隠れることが出来る。』
試しにとばかりに機械を起動させる。
『おお!。瀬愛だぁ。』
小さな機械は飛び回り、その映像はモニターへ流れ始める。
画面には瀬愛の顔が映っている。
『と、こんな感じね。全部で6個あるから、閃は会場着いたら全部飛ばしてね。』
『ああ。分かった。』
飛び回る機械を回収し専用のケースに入れる光歌。そのまま、俺に手渡してくる。
『大会の映像はこのモニターで流すから。皆で応援しよぉー。』
『にぃ様!翡無琥ちゃん!応援しますね!。』
『私も応援する!頑張ってね!閃ちゃん!翡無琥ちゃん!。』
『がんばって!。』
みんなの応援に照れ臭さを感じながら俺は立ち上がる。
『さて、そろそろ時間だな。』
俺は女の姿へ。
姿を知られているから男の姿で出場できないのが辛いところだな。女の姿だと必然的に得意な肉弾戦ではなく武器での戦いになる。
『ほら、翡無琥。行くぞ。』
『あっ…。』
翡無琥の小さな手を取り立ち上がらせる。
『今日は敵地のど真ん中だからな。なるべく一緒にいような。』
『…はい。』
翡無琥と並んで扉の前に。扉の先は白聖連団のエリアに繋がっている。
『閃君。気をつけてね。』
『優勝しちまえよ!旦那!。』
『アニキ、がんば…。』
『頑張るんじゃぞぉ、翡無琥。…お気を付けて…旦那様…。』
『翡無琥ちゃん。閃ちゃんから~。離れちゃダメよ~。』
『翡無琥ちゃん。怪我しないでね。』
『閃!翡無琥!応援してるぜ!。』
『ああ。しっかり応援してくれよ!行ってくる。』
『行ってきます。』
皆の声援に背中を押され俺と翡無琥は扉の中へ入っていく。
ーーー
扉の先は目と鼻の先に大会の会場がある周辺の建物の1つ。白聖は背の高いビルが多い。それは、移動に使える 扉 が多いということ。
直接、無凱のおっさんの 箱 で移動すると自由に移動できる反面、魔力の消費が多い。
だが、設置型の箱。予め、固定した場所に箱同士を繋げておけば出入り自由になる。
箱というスキルに特化させた無凱のおっさんの能力は応用力が凄い。
『よし!翡無琥!俺から離れるなよ。』
『はい。お兄ちゃん。』
翡無琥の手を引き歩くこと5分。会場前に到着。入り口には大会参加希望者と観客席に誘導する看板が設置されていた。
『取り敢えず、ここで良いか。』
光歌から渡された機械の電源を入れる。
蝶々型の小さな機械は姿を消し周囲へと飛び去った。
『これで良し。参加者は…あっちだな。』
『凄い人ですね。気配が沢山…。』
『ああ。しっかり手を握っててくれよ。離れないようにな。』
『はい。』
俺達は看板の矢印に従って長い通路を歩いていく。時折、すれ違う白聖の制服を着ている奴等がスタッフなのか?。
『選手、控え室。どうやら、ここみたいだな。』
『お兄ちゃん。中から複数の強い気配を感じる。』
『翡無琥が強いと感じるレベルの奴か…。』
そんな、奴が大会に?。
翡無琥が反応するってことは俺達に匹敵する強さってことだ。どんな奴なんだ。
ゆっくり扉を開け、控え室へ。
『おっ、結構いるな。』
部屋というか…ホールだな。
中には200人くらいがギスギスした空気で埋め尽くされていた。
コイツ等が全員戦うのか?多すぎじゃね?。バトルロイヤルでもするつもりかねぇ。
『あら?閃さんと翡無琥さんではないですか?。』
『え?。』
『あっ…春瀬さんの気配。』
『春瀬。久し振り過ぎだろ。今まで何してたんだよ?。』
声を掛けて来たのは、春瀬。
クロノフィリアのメンバーだ。この2年全く姿を見せなかった白と同じ裏組の1人。
綺麗な金髪がキラキラ光ってる…。服装は相変わらずパーティードレスなんだな…。派手すぎだろう…。めっちゃ目立ってるし…。
『てか、お前…懸賞金懸けられてんのに何で目立ってんだよ?。』
『ふふふ。安心なさって。』
『安心?。』
『ええ。そうです。裏是流さんのスキル【認識妨害】で、私達の姿は他人の記憶に残りませんわ。顔も朧気なイメージでしか認識されませんの。』
『ああ。裏是流もいるのか。アイツは何処に居るんだ?。』
『白と一緒に観客席ですわ。あの2人は大会には参加しないようですね。』
『白も居るのか…待て、私達って言ったか?じゃあ…アイツも…。』
代刃の野郎も居るのか?。
『春瀬!やっと見つけたよ!もうっ!すぐどっかに行っちゃうんだから!探す身にもなってよね!。…え!?。』
春瀬を追い掛けて来たのか、声を荒げた1人の少女。その綺麗な青色の髪と前髪から覗く泣きホクロが可愛らしい瞳に俺は目を奪われた。
『あっ…代刃さんの気配も感じます…。』
し ら は?。目の前の少女が?。
良く見ると俺を見つめる瞳には、クロノフィリアメンバーの証 No.2を表す Ⅱ の刻印が刻まれていた。
『せせせせせせせせせせせせ…閃っ!?。』
しかも、この反応何処かで…。あっ…。
『前に露天風呂で会ったのは…代刃だったのか…。てか、女だったんだな…。』
クロノフィリアの専用スキル【二重番号】は、俺と代刃しか持っていない。そして、スキルの特徴として、本来の姿とは別にもう1つの姿に変身することが出来るようになる。このスキルは、必然的に2つの刻印を持つことになり番号が小さい方が本来の姿ということになる。
俺の場合は、0と24。0が本来の男の姿だ。
対して、代刃は、2と21。小さい数は2の方。目の前に居る女の姿が2なら考えるまでもないな。
『きゃぁぁぁぁぁあああああ!やっぱり覚えてるよぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』
顔を真っ赤にして俺から離れる代刃。
てか、やべぇな。露天風呂で会った時も思ったが、俺の好みを完全に射貫いてる外見だ。
『どうしてアイツは距離を取ったんだ?。』
距離を取られたのが若干ショックだったので近くにいる春瀬に確認してみる。
『閃さんに裸を見られたことがショックだったみたいですよ。』
『ああ。そう言うことか。確かに見ちまったが俺も女の姿だったからなぁ。』
女の姿だと、多少外見に精神が引っ張られるらしく女の裸を見ても特に何も思わないんだよな。
『安心しろ。お前めっちゃ綺麗だったぞ。』
取り敢えずフォローしておこう。
『え!?綺麗?僕が?…ってやっぱり僕の裸を見てるじゃないかぁぁぁあああああ!!!。』
その場でうずくまり両ひざに頭を擦りイヤイヤをするように顔を振る代刃。
ダメだな…。見た目がタイプだと全ての行動が好ましく思ってしまう…。あれが代刃の本来の姿か…。確かに、男の時の姿に重なる部分がある。必死に男キャラを演じていたんだろうな。
『はぁ。やれやれですわね。ほら、代刃。シャキッとしなさいな。』
見ていられなくなったのか、春瀬が代刃を落ち着かせる。
『閃。翡無琥。』
『ん?。』
『あっ…今度は無華塁お姉ちゃんの気配です。』
くせ毛のショートカットの少女、無華塁。
無凱のおっさんと黄華さんの娘だ。
ラスボス クティナ、裏ボス リスティナを俺達と共に戦った仲間。だが、クロノフィリアではない。
無華塁が加入したのは、クティナの情報が報告されたすぐ後のこと。
その頃には、クロノフィリアのメンバーに与えられるギルドスキル【時刻の番人】という体に刻まれる刻印が上限に達してしまっていた。
仕方なく、パーティーメンバーとして共に戦い。リスティナ撃破後、同じレベル150になり、【限界突破2】のスキルも獲得した。
『お前、こんなところで何やってんだよ?。拠点に顔も見せないで。黄華さんも、おっさんも心配してたぞ?。』
『ここには大会に参加する為に来た。今まで修行してた。連絡しなかったのは。ごめんなさい。』
無華塁は基本無表情であり坦々と話すので、今一何を考えているのかが分かりづらい。だが、分かりづらいだけで本質は超がつく程、素直なのだ。どんなことでも素直に受け止め吸収する。そんな性格故に努力家で才能もある。そして、何よりも…恐ろしく 勘 が良いのだ。
特に嘘や偽りを見抜くことにおいてクロノフィリアの誰も無華塁には敵わない。
この勘の良さは、おっさん似なのかもしれないが。
『どうしてこの大会に参加したんだ?。』
『クティナの宝核玉。閃。欲しいかなって。思った。』
『俺の為かよ…。』
『うん。でも。閃も大会出るの。知らなかった。私と。戦う?。』
『それは、御免蒙る。』
無華塁と戦うとか…想像したくねぇ…。しかも今の俺は女の姿…勝てないぞ…多分。
『分かった。もし。閃と。当たったら。私。棄権する。』
『ん?良いのか?。』
『うん。棄権したら。閃が優勝。私の目的。達成。ブイ。』
『そうか。なら良かった。あと、これからは俺達と一緒に行動するだろ?。』
『うん。修行は。何処でも。大丈夫。』
『よし。これで仲間は全員揃いそうだな。』
ステータス表記では、無華塁はクロノフィリアではない。が、一緒に戦った仲間だ。俺達全員、無華塁がクロノフィリアだと認めている。
『翡無琥も久し振り。』
『はい。無華塁お姉ちゃん。』
翡無琥にも挨拶している無華塁。
その様子を見ていると、春瀬が代刃を猫を掴むように片手で持ち上げ戻ってきた。
『閃。』
『ん?。』
涙目の代刃。
はぁ…。何でコイツを見てると、こんなにドキドキするんだよ…って理由は、好みの顔ドストライクだからなんだが。仕草1つ1つの破壊力がヤベェな。
露天風呂で会った時は、一瞬だったから、そんなこと思わなかったが…。
俺。ずっとコイツを男だと思ってたんだな。結構、男同士の会話とかしちまった…今思うと表情がコロコロ変わってたのも、女だったからと納得がいった。悪いことをしちまったな…。
『僕の…裸…忘れてね?。』
『あっ…うん。努力…する。』
無理だろっ!そんなの!。
『えへへ。約束だよ?。』
『あ…ああ。』
可愛すぎるのだが…。
『ああ。無華塁さんにお会いしたのですね。代刃のせいで言い忘れてしまいましたわ。』
『ああ。お前たち何処で合流したんだ?。』
『私達もつい先程。この会場に着いた時ですわ。入り口で首を傾げていましたので。聞くと大会に参加するとのこと。それからは一緒にここに向かったという流れです。』
『成程ね。ここに居るんならお前達も出場するんだよな?。』
『ええ、私は腕試しが目的でした。代刃は、優勝賞品を閃さんにプレゼントしたいのだとか。』
『は、春瀬!何で言っちゃうのさ!。』
『おっと、失言。』
『閃。クティナの宝核玉。欲しいよね?。』
『ああ。お前達にも後で説明するが、クロノフィリアにとっても、必要なアイテムらしいんだ。』
『私達にも?。』
『ああ。詳しいことは後で。…時間みたいだぞ?。』
俺が奥に設置された小さなステージに顔を向けると全員がそこに注目する。
ステージの上に立った少女が2人。
確か白聖の十二騎士のメンバーだったな。
『皆さーん。お待たせしました。私は白聖連団所属 白聖十二騎士団の1人 奏他で~す。で~。こっちが漆芽~。現在、ここには230名の大会参加希望者が集まりました~。予選の前に我々の審査がありますので、順次此方の部屋に入って貰いま~す。審査の結果、規定の強さに届いていない方は、その場で失格になりますので~。頑張って下さいね~。』
『頑張れ~。』
ステージの横には5つの扉。
そこで、審査が行われるのか。どんなことをするのか…。
おっさんの考えでは、クリエイターズが関わっているなら謎のスキル【バグ修正プログラム】で俺達がクロノフィリアと判別することが出来る…と言っていた。
白蓮が奴等と関わりを持っているのは、ほぼ確定。どうせ知られるなら敵に与える情報は最低限で、この場を切り抜けるしかないな。
もしかしたら、この審査でクロノフィリアかどうかの判別を行うつもりなのかもしれない。
『お前らちょっと良いか?。』
俺は無華塁、春瀬、代刃、翡無琥に俺の考えを伝えた。
『わわわわわわ…閃の顔が…ちち、近いよぉ。』
真っ赤になった顔で俺を見る代刃。
頼むからそう言うことは言わないでくれよ、こっちまで照れてくる。
『奴等は俺達がクロノフィリアかどうかを調べる手段を持っていると思われる。』
『え!?そうなのですか?。』
『ああ。詳しい話は後でまとめて話す。今は取り敢えず俺の指示に従ってくれ。』
『うん。分かった。』
『はい、お兄ちゃん。』
『分かりましたわ。』
『ぅん。了解…。』
『それでは、そちらの5名様~どうぞ~。』
奏他の案内で俺達は各々の扉へ入っていく。
入った先は床も壁も天井も白い部屋。中央に置かれた長いテーブルに審査員らしき男と女が1人ずつ。
手元に置かれた水晶と数枚の用紙。
『わぁお!綺麗な方ですね~。ようこそ。早速ですが。此方の用紙に必要事項の記入をお願いします。』
渡された用紙には、様々な質問事項が記載されていた。…と言っても10問くらいだが。
えーと。名前…閃はマズイよな…。じゃあ、セレナで。前も使った偽名だし。
性別、女。
次は、レベル?。これは予め皆に説明した内容だ。120…っと。
使用武装…う…ん、剣だな。
能力・スキル?
話せる程度に…か。結構、核心をつく質問だな。この世界では能力を隠すのが常識。話せる程度というと…曖昧な感じで良いということか。つまり虚言も有りってことか。意味あるのかこの質問?。…どうするか…。適当に…肉体強化にでもしておこう。嘘はついてないしな。
その次も、その次も、たわいもない質問が続く。そして…最後の質問…。まあ、正確には3つ目の質問だが。
【所属ギルド】
まあ、普通にあるだろうな。この質問は。
ふふ。面白いことになるかねぇ。
『書き終わったぜ。』
『はい。ありがとうございます。』
記入した用紙を女に渡すと、そのまま男の方へ。用紙の審査は男の方がするのか。
『次は此方です。』
今度は変な水晶みたいなアイテム?。
『これに手を翳して魔力を流して下さい。』
『これは?。』
『これは、触れた相手の魔力を読み取ってレベルを測定するアイテムです。この大会はレベルが高い人達が集まっています。レベルを偽って参加する人もいますので、レベル100以下。つまり、限界突破のスキルを持っていない人はこの審査で帰って頂いています。』
『成程ねぇ。触れれば良いのか?。』
『はい。触れたまま魔力を流して下さい。』
俺は言われたまま魔力を流す。
『わっ!?。』
『ぬっ!?。』
『はっ!?。』
パリンッ!。
『おいおい!?割れちまったぞ?。』
物凄い光を放ったかと思うと水晶が粉々に砕け散った。
『こ、これは…。どうして?。こんなこと初めてです。』
『なっ!?これは!?。』
用紙を確認していた男が驚きの声をあげた。
『どうしました?。』
『これを見てくれ。』
男が持つ俺が記入した用紙を女に見せる。
『え!?これって…。あのぉ。これは本当ですか?。』
はは。思った通りの反応。
『ああ。それで?俺はどうだ?。』
『し、審査通過です。奥の扉へ。予選会場へ続いています。』
『おっけー。』
俺はそのまま奥の扉へ。
2人の審査員とすれ違いざま…。
『早く白蓮様に連絡を。』
『ええ。一刻も早く報せないと。』
焦ってる焦ってる。
『ああ。白蓮の所に行くなら、ついでに伝えといてくれ。』
『え?。』
扉の前で一度止まり、言い忘れたことを女に伝えて貰おう。
『てめぇの挑発に乗って、わざわざ出向いてやったぜ?少しは楽しませてくれよ?。ってな。』
『なっ!?。』
女が持っていた記入済用紙が手を離れ床へと落ちる。
そこには…。
【所属ギルド クロノフィリア】
と書かれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーークロノフィリア拠点ーーー
『さぁて、ここを~こうして~はい。各々に配置終了。本体は閃のところで良いよね。』
光歌が端末を操作すると画面に閃の姿が映る。翡無琥と手を繋ぎ案内板に従い通路を進んでいる。
『お兄ちゃんだ。』
『美しいです…にぃ様。』
『閃ちゃんが大画面!。』
『迫力凄い。』
閃と翡無琥が選手控え室へと入った。
『凄い人数。』
200人以上は居るだろう。参加者達が広々とした空間内でピリピリとした空気を発していた。
『あっ!春瀬お姉ちゃんだぁ!。』
ばっ!。立ち上がる光歌。
『おや?代刃ちゃんも居るね。』
ばっ!。立ち上がる灯月。
画面には閃と話す春瀬と代刃。おどおどした態度の代刃と代刃に見惚れていると明らかに分かる閃。
『ああ。やっぱりそうなりおったぁぁぁ。』
睦美が閃を見て納得するように腕を組み頷いている。
『ええ。代刃さんの姿は、にぃ様の好みど真ん中…。にぃ様が見惚れてしまうのも無理はありません。ちっ…。』
『あらら~。灯月ちゃんは~。嫉妬中ね~。』
『『無凱さん。お願いがあります。』』
そのまま画面の中の閃は別の少女と話し始めていた。
『あっ。無華塁ちゃん。あんな所に!?。』
『今まで何処に居たのよぉ。』
『黄華さん。驚くぞ。』
いきなりの無華塁の登場に驚くクロノフィリアの面々。
『すみません。無凱さん。』
『ん?何だい?柚羽ちゃん。』
クロノフィリアへ新規参入したメンバー代表で質問したのは柚羽だった。クロノフィリアメンバーの話は拠点にいるメンバーから聞かされていた。白も春瀬も代刃も話だけなら聞いていた。
けれど、無華塁の…画面に映る少女の話は聞いたことがない。しかし、画面に映る閃はとても親しそうに話している。
『あの娘はね。無華塁ちゃんって言ってね。僕の娘なんだ。』
『え!?無凱さんの!?。じゃあ、彼女の母親は…。』
『黄華さんだよ。』
『…そうですよね。やっぱり。』
『無華塁ちゃんは、自由奔放でね。気付いたらどっかに行っちゃうんだよね。この2年、全然連絡もしてこなかったのに、あんな所に居たんだね…。』
『彼女はクロノフィリアなのですか?。』
『いや、一緒に行動はしてたんだけどね。無華塁ちゃんは違うんだ。けど…。』
『けど?。』
『無華塁ちゃんは強いんだよ。僕よりね。』
『無凱さんよりですか!?。』
『うん。無華塁ちゃんがクロノフィリアに入っていたら2番目に強かったよ。それも閃君が男の姿ならね。女の姿の閃君じゃ、無華塁ちゃんに勝てなかったから。』
『そんなに…。』
そんな話をしている内に、審査が始まっていた。画面には閃が質問用紙を記入し終え、水晶を割った場面が映る。
『ふふ、閃め。やりおったな。』
『はわわ…凄いね!大胆だね!閃ちゃん!。』
閃は所属ギルドの欄にクロノフィリアと書いた。
『閃ちゃんが~。書いたことで~。注目が~。閃ちゃんに~。集まるでしょ~。代刃ちゃんや~。春瀬ちゃんに~。注目が集まるのを~。避ける為みたいね~。』
『いやっ。あれは閃が白蓮に挑発しただけだろ?。』
『まあ、旦那ならそうするわな。』
『アニキならするな。』
『ふふふ~。かもね~。』
そうして、審査室から出て行こうとする閃は足を止め。
審査員の2人に言葉を放った。
『ふふ~。「てめぇの挑発に乗って、わざわざ出向いてやったぜ?少しは楽しませてくれよ?。ってな。」…って白蓮ちゃんへ~。伝言を~。お願いしたみたいよ~。』
『ああ。完全に喧嘩売ったのか…。ははは。閃君らしいね。彼はもしかしたら白蓮君の考えに気付いてるのかもね。』
『白蓮の考え?。』
『いや…何でもないよ。』
画面の中では閃達が予選の戦いを余裕で勝ち抜いている場面だった。