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番外編 クロノフィリアのバレンタイン③

 このストーリーを読んでくれている方。

 ブックマークに登録してくれた方。

 どうもありがとうございます。


 新しいキャラクターが増えたので、前に書いたバレンタインのストーリーの続きを書きました。

 バレンタインのストーリー自体が本編のストーリーの数ヶ月後のストーリーです。

 まだ繋がりのないキャラクター同士の関係や未登場のキャラクターが出てくるネタバレになります。


 これからも読んでくれると嬉しいです。

 黄華扇桜のギルド幹部、3姉妹の美鳥、楓、月夜は深夜の厨房で明日、バレンタイン当日に最愛の威神にプレゼントするチョコレートを作成していた。

 

『美鳥姉、出来た?。』

『ええ。もう少し、後は冷やして固めるだけよ。ふふふ、良いものが出来たわ。これで威神さんも私の虜よ。楓と月夜はどう?そろそろ完成かしら?。』

『私も、もう少しかな?ちょっと 粘液 を入れすぎちゃったから固まりづらいんだよね。』

『私も~。量の調整が難しいよ~。』


 各々のスキルで生み出したヌルヌルの粘液をチョコレートに混ぜる3姉妹。

 彼女達が作るチョコレートを異性が1口でも口にしたなら、たちまち理性を失い目の前の彼女等に襲い掛かるだろう。


『あ~んなことや、こ~んなことをされちゃうのよ~。』

『えへへ…威神兄が獣になっちゃうよぉ。』

『私も獣になるぅ~。』


 妄想が独り歩きする夜の厨房で薄気味悪い少女達の笑い声が地面を這い回るゾンビのようにギルド内に響いた。


~~次の日 バレンタイン当日~~


『あっ!いた~。威神兄発見!。』

『お兄さん、探しました。』

『こんなところにいらしたのですね。』

『ん?ああ。お前達か?何か用か?力仕事なら任せろ。お前達だけじゃ辛いだろう。』


 広い廊下を歩いていた威神が後ろから声を掛けられ振り向いた先に3姉妹がいた。


『違いますよ。今日の仕事はお休みです。』

『威神兄、今日が何の日か忘れちゃったの?。』

『今日は女の子にとって大切な日だよ?。』

『うむ…もしかして、バレンタインのことを言っているのか?。』

『はい。そうです。私達の愛する威神さんにチョコレートのプレゼントです。』

『威神兄の為に凄い頑張ったんだよ?。』

『何回も失敗しちゃった。』


 3姉妹の気持ちは既に威神も知っている。

 …と、言うより威神自身も3姉妹に心を奪われていると言っても良いだろう。

 互いに両想いなのだが…何故か、距離が縮まってない。

 簡単な話し、威神を振り向かせることに固執しすぎて威神の気持ちに気づいてない3姉妹なのだ。

 威神の方は既に気持ちが伝わっていると思い込んでいる故に、時たま、会話が噛み合わず互いにギクシャクすることがある。


『俺の為に作ってくれたのか?。』

『勿論です!美味しく出来たと思いますよ?お口に合えば良いのですが。…私の粘液(ボソッ)…。』

『私達の汗と、涙と、努力と、…粘液と(ボソッ)…愛情が沢山詰まってるんだから!ちゃんと食べてね。』

『恥ずかしいけど、私の…粘液(ボソッ…)を食べて下さい。』


 下心がやや駄々漏れな3姉妹が各々の一口チョコレートが入った袋を威神に差し出した。


『ありがとう。お前達の気持ち…凄く嬉しい。』

『威神さん…。』

『威神兄…。』

『お兄さん…。』


 最近の威神の態度は、他の者達から見ても分かるレベルで3姉妹に優しい。

 かつての威神を知っている涼や柚羽には、別人とさえ言われる始末。


『有り難く頂こう。』


 威神が3姉妹の袋を受け取り美鳥の袋の中からチョコレートを一粒取り出す。

 3姉妹が視線が口へ運ばれるチョコレートへと集まる。物凄い集中力で見つめられていることに気付いていない威神。

 

 ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン


 【共感念話】のスキルにより3姉妹には互いの心臓の音が重なり合って聞こえている。

 3姉妹の準備は既に完了している。

 チョコレートは、完璧に仕上がっている。スキルの粘液の適量を見極めチョコレート味や食感に違和感が出ないように微調整し、香りにはチョコレート本来の芳ばしい香りを失わせないよう細心の注意を払いスキルによる体香を混ぜ合わせた。

 レベル120のスキルで作り出された異性を虜にする最上級の代物が誕生したのである。

 これを食べた瞬間、威神は目の前にいる彼女達に透かさず襲い掛かることだろう。

 威神に逃げ場はない。あと約1秒でチョコレートは口の中へ。


 ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン


 3姉妹の準備は完璧だ。

 滝みそぎをし身も清めた。シャワーも浴びた。念入りに身体も綺麗にした。髪も艶々、サラサラ。歯もみがいて真っ白キラキラ。唇に薄くリップを塗り。いつでも勝負出来る下着に着替え。脱がしやすい服も着ている。

 3姉妹が目で語っている。

 

 いつでも…来やがれっ!


 …と。


『おお、うめぇな。あまり甘くない。これならいくらでも食えるぜ。』


 そう言って、楓と月夜の袋も開けパクパク、モグモグと次々にチョコレートを頬張っていく威神。


 あ、あれ?。あれ?。


 威神の様子が変わらないことに戸惑う3姉妹。1つでも効果は出る筈なのに…既に用意したチョコレートは完食寸前。

 最早…人格崩壊が起きても不思議ではない量を食しても威神は平然としている。


『あっ…あのぉ、威神さん?。』

『ん?。』

『威神兄…身体何ともないの?。』

『身体?…何ともないぞ?。』

『むらむら…しない?。』

『してないな…ってか、その質問をするってことは…お前達、またやったのか?。』


 今まで幾度もされた混入事件。

 その度に黄華に怒られ、叱られ、説教された3姉妹はビビりながらも一向に諦めない。


『…やっちゃいました。』

『…えへへ。』

『…頑張りました。』


 反省してねぇ…。


『お前達には黙ってたが、俺達はレベル150になっただろ?その時にスキルを増やして、元々あったのも強化した訳だ。』

『…もしかして…。』

『ああ、スキル【不屈精神心堅】の効果だ。あらゆる精神攻撃を無効にする。心を乱すことは無く常に平常心で行動できるんだ。だから、お前達のスキルはもう俺には効かない。』

『…そっ…そんなぁ…。』

『じゃっ…じゃあ、もう威神兄を私達に振り向かせることが出来ないじゃん…。』

『お兄さん…が遠くに行っちゃう…。』


 現実を突き付けられ、崩れるように膝をつく3姉妹。


『だが、まあ。こんなチョコレートに頼らなくても、もう良いだろう。』

『え?それはどういうことですか?。』

『威神兄…もう私達のこと…嫌いになっちゃったの?。』

『えぇぇぇぇん!そんなの嫌だよぉぉおお!!!。』

『そんなんじゃないさ。』


 座り込む3姉妹に目線を合わせるように座り威神は笑顔を見せる。


『俺は、とっくの前からお前達3人にメロメロだ。お前達を止めなかったのも、お前達と絡んでいる時間が俺の中で大切な時間になっていたからだ。』

『…。』

『…。』

『…。』

『俺の恋人になって欲しい。もちろん、3人共だ。その方がお前達も良いんだろう?。いや、俺からの願いだな。お前達3人との時間が俺は好きなんだ。』


 真剣な顔で頭を下げる威神。

 その姿に、互いの顔を見合せ頷くと赤く照れた顔で3姉妹は言った。


 『『『貴方が大好きです!!!。』』』 


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー黄華扇桜 廊下ーーー


『ねぇ。つつ美。』

『え~?。ああ~。クティナちゃん~。どうしたの~。』


 廊下を歩いていたつつ美が後ろから声を掛けられる。そこには、小さな少女クティナが立っていた。

 普段は閃の影に引き込もっているクティナが単独で彷徨いていることに、つつ美は驚いた。


『バレンタインって何?。』

『バレンタイン~?。』

『昨日、皆賑やかだった。閃も困ってたけど嬉しそうだった。だから、知りたくなった。』

『成程~。興味を持ったんだね~。良いことだよぉ~。』

『うん。教えて欲しい。』


 うんうん。と首を振るクティナの頭を撫でる。つつ美。


『バレンタインはね~。好きな男の子に~。女の子がチョコレートを~。プレゼントする日なんだよ~。』

『チョコレート?。あの甘いお菓子?。』

『そうだよ~。』

『でも、睦美はチョコレートじゃなかった。』

『チョコレートが~。基本なだけで~。気持ちが込もっていれば~。何でも~。大丈夫なんだよ~。』

『そうなんだ。私も閃にあげたい。』


 バレンタインは昨日。だが、そんな野暮なことは言わない。

 引っ込み思案な娘が自分から行動しようとしているのだ。しっかり、背中を押してあげないと。…と、つつ美は思う。


『ふふ。良いわね~。じゃあ~。私が力になるわ~。』

『うん!お願い!。』


ーーー閃の部屋ーーー


『閃。』

『おっ!クティナ。珍しいな。俺の影から出てくるなんて。』

『うん。少し気になることがあったの。』

『ん?気になること?。』

『これ受け取って。』


 クティナが差し出したのはバケツに入ったミルクチョコレート。

 そして、服を脱ぎ始めるクティナ。何処から持ってきたのかクティナは全身に布製の紐を巻き付けていた。


『閃…私を食べ…『ストップ!。』』

『どうかした?。』

『突っ込みどころは多いが…この服?布?紐?とチョコレートは誰に教えてもらった?。』

『つつ美。』


 だよなぁ~。


『何がどうして母さんがそんなことをお前に教えたんだ?。』

『閃にバレンタインのプレゼントをあげたいって相談した。そうしたら、「私は~。大人の魅力が~。強すぎて~。閃ちゃんが~。照れちゃって~。失敗しちゃったけど~。クティナちゃんなら~。い、け、る、わっ!。」って言ってた。』


 いけるわっ!じゃねぇよ。話し方変えんな。


『クティナ。それは人選ミスだ。今、クティナがしている行動は…普通ではない。』


 裸同然、布紐1本の姿のクティナにタオルをかける。


『わかった。別の人に聞いてくる!。閃。待ってて!。』

『あっ!ちょっと待てクティナ!…って行っちまった…服ぐらい着ていけよ…。』


 脱ぎ捨てられた服を片付けながら嫌な予感を拭いきれない閃であった。


ーーークロノフィリア拠点 厨房ーーー


『灯月。』

『あら?クティナちゃん。珍しいですね?こんなところでどうされました?。って…凄い格好ですね…。裸に紐にタオルですか…。何故かドキドキします…。もしかして…にぃ様のご趣味?それなら言ってくだされば私がいくらでも…。』

『閃にバレンタインのチョコあげたいの。どんなのが良い?。』

『え?。あらあら。にぃ様にですか?それは素晴らしいことですね。分かりました。この灯月が微力ながら、お力を貸しましょう!。』

『うん。お願い。』


ーーー閃の部屋ーーー


『閃。』

『お帰り。お前…服ぐらい着ていけよ…。』

『え?着たよ?。』


 メイド服姿のクティナ。

 ってことは…クティナが向かった先は灯月か…。何故、ピンポイントで感性のずれた人選を選ぶんだ?。


『チョコレート。作った。食べて。』


 そう言って白い布で覆われた大きな台車を押してくるクティナ。何かデジャヴを感じるが…。

 クティナが勢い良く布を取り除くと…。


『ぶぅぅぅぅぅううううううううう!!??』


 ぷるん ぷるん ぷるん


 揺れてる。ゼラチンが多いのか…弾力が凄い…。


『クティナ…これは?。』

『え…っと。等身大クティナちゃんプリン。チョコレート風味って灯月が言ってた。』


 しかも、また全裸かよ!?。


『…クティナ…今回も人選を間違っている…もっとまともな感性を持っている奴に聞いて来いよ。てか、そう言うのは睦美が一番良いと思うぞ?って!?居ねぇし!。』


 そこには既にクティナ姿は無かった。

 部屋に残されたクティナの全裸プリン。


『これ…どうするんだよ…細部まで…細かすぎだろう…。』


ーーー黄華扇桜 庭園ーーー


『智鳴。氷姫。』

『あれ?クティナちゃん?。』

『珍しい。1人?。』

『うん。閃にバレンタインのチョコレートあげたいの。どんなのあげたら良い?。』


 庭園の暖かな陽気に包まれ、お菓子を食べながら読書を満喫していた智鳴と氷姫。

 そこにメイド服姿で現れたクティナに目を丸くしながらも可愛い外見にほっこりする2人。


『バレンタインかぁ。昨日はクティナちゃん居なかったもんね。でも…私のチョコ…30点なんだよね…。力になれなさそうだよ…。』

『私。智ぃちゃんの3倍。95点。えっへん。』

『うわぁぁぁぁぁああああああああん!!氷ぃちゃんのいじめっこぉぉぉおおおおお!!!。』


 泣きわめく智鳴と珍しく、ドヤ顔の氷姫。


『じゃあ。仕方ない。力を合わせよう。智ぃちゃん。』

『え?。』

『クティナ。私達に。任せて。』

『うん。お願い。』


ーーー閃の部屋ーーー


『閃。』

『クティナ。お前人の話し最後まで聞いてから出ていけよ…。』

『今度はどう?。』

『聞いてねぇ…。』


 今度は小皿が1枚。クティナが差し出してきた。


『いなり寿司…。』


 智鳴か…。昨日の記憶が蘇る。


『智鳴と氷姫が教えてくれた。30点と95点を足せば前回を越えられるって。』


 どういうこと?。


『125点のチョコレート。召し上がれ。』

『はぁ…折角、クティナが作ってくれたからな。流石にこの量なら何とか食べれるだろう。いただきます。』


 モグ。グサ。シャリシャリ。ジャリジャリ。ゴクンッ。


『冷てぇ。』


 油揚げの中身はチョコ風味のかき氷…。アイツ等…自分達のチョコを合体させやがった…。

 油揚げの脂っこい甘さと、氷の冷たさと、チョコの甘さの夢のコラボレーション。

 俺は僅かに味を感じた瞬間に呑み込んだ。

 テーブルに予め用意したお茶を口の中に流し込む。


『クティナ…人選ミスだ。今度は睦美のところに行ってくれ。』

『睦美?。』

『ああ、睦美ならちゃんとしたことを教えてくれる。』

『分かった。待ってて。』


 フリルのついたメイド服のクティナが走って部屋から出ていった。

 もう一度、お茶を口に含んだ。


ーーー睦美の部屋へ行く途中の廊下ーーー


『睦美…睦美…睦美。』


 睦美の部屋を目指しトコトコと廊下を走るクティナ。

 すると、タイミング良く曲がり角で誰かにぶつかった。


『はうっ!?。』

『あっ!?ごめんなさい!?って…あれ?クティナ?。』

『代刃。痛い。』

『あっ!ごめんね…。』


 ぶつかった相手は代刃。

 倒れたクティナを優しく起こし身体についた埃を払う。


『その格好可愛いね。それに、1人で珍しいし。』

『灯月に借りた。今。睦美のところに行く。』

『睦美?。睦美なら部屋に居ないよ?。』

『え?。そうなの?。』

『僕も借りてた本を返しに来たんだけど留守みたいだったんだ。』

『そうなんだ…。』


 明らかにガッカリしているクティナ。


『睦美に何か用事だったの?。』

『閃にバレンタインのチョコレートをあげたいの。閃が睦美なら、ちゃんとしたチョコレートを教えてくれるって言った。』

『ああ、バレンタインの。クティナも閃が好きだもんね。』

『うん。大好き。』

『じゃあ。僕も手伝ってあげるよ。睦美程料理は上手くないけど。』

『良いの?。』

『うん。もちろんだよ。』

『ありがとう。代刃。』


ーーー閃の部屋ーーー


『閃。』

『おっ?睦美に会えたのか?。』

『ううん。会えなかった。でも、代刃に教えて貰った。』

『代刃か。アイツならまだ安心かな?。』


 クティナは手に持っていた袋から1口チョコを取り出すと俺の膝の上の乗ってきた。


『クティナ?。』

『代刃がこうしたら、きっと幸せな気持ちになれるよって言った。』

『っ!?。』


 チョコを口の中に入れたクティナが俺の唇に口づけをしてきた。そして、口移しでクティナの口の中で若干溶けたチョコが俺の口の中に流れ込んでくる。


『どう?幸せ?。』

『まぁ、幸せかどうかで聞かれたら幸せだな…。だがな?クティナ。』

『ん?。』

『こう言うのは、お前には少し早いと思うぞ?。』

『そうなの?。』

『今のはお前じゃなくて、どう考えても代刃の願望だからな…。お前がしたいことを探してみろ。』


 しかも、代刃が伝えたのはチョコの作り方じゃなくて渡す方法だしな…。

 あの野郎…後で説教だ。


『うん。分かった。じゃあ。やっぱり睦美を探してくる。』


 俺の膝の上から飛び降りたクティナがとととととっと部屋を出ていった。


ーーー睦美を探してる途中 トレーニングルーム前ーーー


『ん?クティナ?。』

『ん?無華塁?。』


 タオルで汗を拭きながらトレーニングルームから出てきた無華塁にバッタリ出会ったクティナ。


『どうしたの?。』

『睦美を探してる。知らない?。』

『知らない。どうして。探してるの?。』

『閃にバレンタインのプレゼントをあげたいの。睦美なら教えてくれるって閃が言ってた。』

『バレンタイン。プレゼント。なら。私。教えてあげる。』

『良いの?。』

『私のプレゼント。閃に好評。』

『おお。』

『そこから。更に。発展させた。アイデア。伝授。』

『お願い。』


ーーー閃の部屋ーーー


『閃。』

『お帰り。睦美に会えたか?。』

『ううん。無華塁に会った。』

『無華塁…。』


 流石に…何が出るか想像出来ん…。


『はい。閃。プレゼント。』

『………。』


 昨日…無華塁は金に物を言わせた超高級チョコを渡してきた。ラッピングの細部までキラキラと輝くチョコ。

 だが…これは…。


『札束…。』


 食べ物ですらない…。


『クティナ。』

『何?。』

『今度は睦美だ。睦美以外に意見を聞いちゃダメだ。何があってもだ。分かったな。』

『うん。分かった。行ってくる。』


 再び、退室していくクティナ。

 この金…どうするんだよぉ…。


ーーー黄華扇桜 厨房ーーー


『ここで、泡を立てないように混ぜるのがコツじゃ。』

『おお。おお。』

『流石だなぁ。睦美は。』


 厨房にて、お菓子を作っている睦美と、その行程を食い入るように見て感嘆の声をあげる瀬愛とリスティナ。


『睦美。やっと見つけた。』

『ぬ?。』

『ああ。クティナお姉ちゃん!。』

『珍しいな。クティナ。お主が1人で彷徨くとは。閃はどうした?。』

『閃は部屋。睦美に頼みがあって来た。』


 ととと…っと厨房へ入ってくるメイド服のクティナ。


『クティナお姉ちゃんの服、可愛いね。』

『灯月に借りた。ヒラヒラ可愛い。』

『似合っておるぞ。クティナ。』

『ぅん…。』


 リスティナに褒められ嬉しそうなクティナ。

 睦美の前まで来ると彼女の手元にあるボールに入った溶いた卵を見るクティナ。


『何。作ってた?。』

『これか?お菓子じゃ。昨日のバレンタインで材料が余ったからな、皆に差し入れでも作ろうかと思ってのぉ。』

『なら。ちょうど良い。』

『何じゃ?ワシに用があったのじゃろ?。』

『うん。私も閃に。バレンタインのプレゼント。あげたい。作り方。教えて欲しい。』

『おっ!閃にか?良いぞ良いぞ。お主も閃を好いておる女子じゃしな!。』

『うん。チョコレート教えて。』


 こうしてクティナのチョコレート作りが始まった。


ーーー閃の部屋ーーー


 時刻は18時。

 赤みがかった空も、やがて夜の帳がおりる頃だろう。


『あっ…しまった。寝ちまった。』


 俺は慌てて目を覚ました。

 クティナを待っている途中で眠ってしまったようだ。

 クティナはどうしただろうか?。


『あれ?。』


 違和感に横を見ると俺の腕の裾を握り締めたまま眠るクティナがいた。

 反対の手には大事そうに抱きしめているハート型のチョコレート。

 大きなつたない文字で、


 せん だいすき


 と書かれていた。


『くすっ。』


 俺はこそばゆい気持ちと温かな気持ちでいっぱいになりながら、気持ち良さそうに眠るクティナの頭を優しく撫でた。

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