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第86話 関係の変化

 黄華扇桜には、レベル120に至る者がギルドマスターの黄華を除いて、3人いる。

 これは、他のギルドに比べて極端に少ない数だ。元々、戦闘系のギルドではない黄華扇桜は他のギルドをサポートしたり、素材やアイテムを入手、販売するのを主な活動としているギルドだったからである。

 それでも、ギルドマスターの黄華がクロノフィリアと深い知り合いであり、ギルド開設当初から繋がりが強かった2つのギルドは、黄華扇桜をクロノフィリアが影ながらサポートするという形で六大ギルドまで駆け上がったのである。


『ほらっ。ここで良いか?。』

『はい。威神さん。ありがとうございますわ。』

『さっすが威神兄は力持ちだね!。』

『凄く、助かります。お兄さん。』


 数多くの物品が収納された箱を指定された場所に運ぶ作業を威神と3人の少女が行っていた。

 3人の少女は背丈は違うものの同じ顔をしている3姉妹であり、上から…。

 長女 美鳥(ミドリ)

 次女 (フウ)

 三女 月夜(ツキヨ)

 である。

 彼女達の種族は、黒半白天女王族という。

 灯月のように翼は無いが、髪や服などが半分から白と黒に分かれている女性限定の種族である。

 主に姉妹が同時にゲームを起動し、始めた場合に選ばれる可能性が出る種族。

 

 威神がクロノフィリアのメンバーとなり黄華扇桜の運搬作業の仕事を任されたことが3姉妹との出会いであった。


『ねぇ。威神さん。この後は時間あるのぉ?。』

『ああ。特に用事はないが?。』

『そうなの?じゃあ私達と一緒にお茶しようよ!。』

『しましょう。』

『ん…ああ。問題ない。』


 3姉妹に連れられ彼女達が普段から使用している外の景色が一望できる一室に案内された。


『おお、良い部屋だな。』

『ふふ。でしょう!私達のお気に入りの場所なんだ~。』

『お気に召して頂けて嬉しいです。』

『うんうん。』


 威神は用意されていた椅子に案内され腰を下ろした。


『どうぞ。自慢のハーブティーです。』

『お菓子もあるよぉ。』

『ある~。』

『おお!美味そうだな!。』


 威神は用意されたお菓子やお茶をあっという間に平らげていく。


『ふふ。まだまだ沢山ありますからね。』

『そんなにお腹すいてたの?威神兄。』

『凄い…ね。』

『まあな。ここに来てから色々やったが、運搬作業は体力勝負なところがあるからな。それだけ腹は減る。しかし、今まで女ばかりで大変じゃなかったのか?。』

『クロノフィリアの男性方が手伝ってくれましたからね。』

『でも、皆出払ってたら大変だったよ…。』

『死ぬかと思ったの…。』


 3姉妹がげっそりという表情を見せる。


『まあ、これからは俺が居るからな。何でも言ってくれ!。』

『威神さん~。』キュン…。

『威神兄~。』キュン…。

『お兄さん…。』キュン…。


 3姉妹は互いに顔を見合わせる。

 3姉妹にのみ与えられた種族スキル【共感念話】。

 3姉妹間で行われるテレパシーによる会話、意思の疎通。

 3姉妹は3人とも威神に惚れていた。

 威神がクロノフィリアに来てからというもの、毎日のように顔を合わせ、会う度に自分達の仕事を手伝ってくれる。頼りがいがあって優しい。

 そんな生活の中、女性ばかりのギルドにおいて彼女達が威神に惚れない理由はなかった。

 だが、威神を含め男性に対し、彼女達のスキルは…。


『ねぇ。ねぇ。威神兄。』

『何だ?。』

『ちょっとここに寝そべってよ。私達がマッサージしてあげる。』


 そう言って、小さめのベッドを指差す楓。


『いつも、私達の為に頑張ってくれている威神さんに、私達からのささやかな 癒し をプレゼントです。』

『ゆっくりして下さい。』

『む…そういうことならお言葉に甘えようか。』

『出来れば上の服は脱いで下さい。』

『ん?そうか?。』


 威神がベッドにうつ伏せになった。

 この時、威神は知らない。3姉妹がニヤリと笑みを浮かべたことを…。

 そして、後に威神はこう語る。


 あれは…天国のような地獄だった…。


 …と。


 うつ伏せになった威神の頭の上に美鳥が移動した。


『ふふ。リラックスして下さいね。…スキル【堕落の粘液】。』ボソッ…と呟き。


 美鳥の手から分泌されるとろとろとした液体。それを威神の身体に塗り付けていく。

 そして、肩から背中にかけて凝り固まった筋肉をほぐしていくように腕をスライドさせた。


『おお、気持ちいいな。』

『楽にして下さいね。…スキル【魅惑の体香】。』ボソッ…と呟き。

『何か…良い匂いがする。香水でも使っているのか?。』

『ふふ。そうですよ。これもリラックスできるように用意しました。』

『私もするよ。威神兄。靴脱がすね。』

『ん?ああ…。』

『私は足つぼマッサージだよ!。スキル【痛快の粘液。】。』…ボソッ…と呟き。


 楓の手のひらから分泌されるヌルヌルの液体を威神の足に塗ってく。

 そして、足のツボを的確に押し、コリをほぐしていく。


『足ツボは痛いイメージがあったが…案外、気持ちいいモノだな。痛くないということは身体に異常はないということか?。』

『違うよ。今は私のスキルで痛みを快楽に変えてるの。だから、気持ちいいところが特に凝ってるところなんだよ。』

『そ…そうなのか…。』

『しっかりマッサージするからね。…スキル【淫楽の体香】。』ボソッ…と呟き。

『ああ…頼む。また、違う香りがするな。へへ、リラックス出きるでしょ?。』

『ああ…何か…身体が変な感じだ…。』

『私も頑張るね!。』


 月夜が威神の手を取り、手のひらを握る。


『わあ。大きな手だね。』

『まあな。月夜に比べれば、より大きく見えるだろう。』

『うん。私は手と腕をマッサージするね!。…スキル【快感の粘液】。』ボソッ…と呟き。


 月夜の小さな手が威神の手のひらを優しく揉みほぐす。

 疲れが取れていく感覚に威神の思考は少しずつ鈍っていく。


『スキル【悦楽の体香】。』ボソッ…と呟き。

『ああ…心地良いな。』


 威神の全身が3姉妹により揉みほぐされていき、その快楽に威神の反応は除去に鈍くなり思考も委ねてしまっていく。


『さあ、背中は終わりよ。次は、前をマッサージしましょう。』

『威神兄。仰向けになってね。』

『お兄さん。もう少しこっちだよ。』

『ふふ。良い子ねぇ~。』


 威神は3姉妹にされるがままになっていた。


 3姉妹の身体から発せられるスキルによる体臭は威神の意識を完全に3姉妹の虜とさせていた。


『さあ、粘液を塗っていきましょうか。』

『へへ。どう?威神兄。気持ちいいでしょ?。』

『お兄さんの目がとろんってしてる。可愛い。』


 そして、3姉妹が威神の身体をくまなく触っていく。


『ねえ。威神さん。』

『な…ん…だ?。』

『私達…威神さんが…大好きなの…。』

『威神兄…大好き。』

『私もです。』

『………。』

『私達のモノになれば毎日のようにマッサージ…してあげますよ?。』

『全身揉み揉みするよ!。』

『はい!何処でも何度でも。』

『………。』

『さぁ、手を伸ばして私の身体に触って。そうすれば…貴方は身も心も…私達の…。』


 スキル【接触支配】。

 スキルによる正しい手順を踏んだ場合のみ発動出来る。自身の身体に触れた対象を永続的に自分達の虜に出来る。ただし、異性にしか発動できない。


 威神の手がゆっくりと上がり、美鳥の胸に伸びていった。

 そして、触れる…と3姉妹が確信した瞬間…。


『やっぱりここにいた!貴女達!いい加減にしなさい!。』


 黄華が部屋の扉を勢い良く開け手にした扇子を美鳥に投げつける。


『黄華さん!?はうっ!?。』


 扇子は見事に美鳥の額に命中した。


『まったく!貴女達は!。スキル【解呪香】。』


 黄華が自身の手のひらを擦り、ふぅーと息を吹き掛ける。


『…あ…黄華さんか…助かった。自分の意思じゃ身体が動かせなくてな…。』


 威神が正気に戻る。


『あの娘達のスキルよ。少し危なかったわ。あのままなら威神君、貴方は、あの娘達の玩具だったわよ。』

『黄華さん酷いよ!私達は威神兄のこと玩具になんかしないもん!。』

『そうです!私達は本当に威神さんが好きなんです。もっとイチャイチャしたかったんです!。』

『うんうん!お兄さん大好き!。』

『黙りなさい!。』

『『『ひぃっ!?。』』』


 黄華の睨みに怯える3姉妹。

 だが、美鳥は引き下がらなかった。


『あのまま威神さんが受け入れてくれていたら、威神さんの意識はそのままにするつもりでした!その後は私達のことを大好きになってもらおうと!。』

『そうそう!私達が好きな威神君じゃなくなっちゃ嫌だもん!。』

『優しいお兄さんが良い!。』

『はぁっ!?。』

『『『ひぃっ!?。』』』


 黄華の圧に再び縮こまる3姉妹。


『美鳥!楓!月夜!全員正座!。』

『『『はい…。』』』


 その後、日が沈むまで黄華のお説教が続いた。

 その間、どうすれば良いのか分からず、かといって…その場にいる人間に聞ける雰囲気でもなく、3姉妹によってべとべとになっている身体のまま説教をされる3姉妹と黄華の様子を見ていることしか出来ない威神だった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー灯月の部屋ーーー


 灯月は今、自分の部屋のベッドの上で正座していた。

 そして、目の前には最愛の義兄である 閃。

 閃が目覚め固まって気絶していた灯月を覚醒させると姿勢を正した灯月はそのまま閃を見つめ続けていた。


『なぁ、灯月。』

『はい。にぃ様。』


 坦々と応える灯月。

 何処と無く照れているようだ。


『睦美にハーレムエンドの話を伝えるように無凱のおっさんに根回ししたのはお前だよな?。』

『はい。』


 即答する灯月。

 その瞳には全く淀みがない。


『何でそんなことをしたんだ?。』

『にぃ様を好きな人は皆私が 認めた 人だからです。…若干1名はまだですが…。』

『認めた?。』

『努力して成し得た私の技量を、何かで越えた人達です。』


 灯月は 認めた 人間を年上なら『ねぇ様』年下なら『ちゃん』付けで呼ぶ。

 認めた というのは、義兄を愛する資格があるかどうかを灯月なりに判断した結果ということなのだろう。全ては灯月の中の独断と偏見。

 智鳴なら掃除、氷姫なら読書による知識量といったところか。


『そうか…。なあ、灯月。』

『はい。』

『俺は灯月が好きだ。』

『…え?。』


 一瞬、俺の言葉を理解できなかったようだ。珍しく目を見開き驚いている。


『灯月は俺が好きか?。』

『大好きです。』

『それは兄としてか男としてか?。』

『両方です。』

『…灯月。』

『はい?。』

『俺もだ。俺もお前が妹としても女の子としても好きだ。』

『っ!?。』


 正座する灯月を抱き寄せ、口づけをする。

 頬や額じゃない、唇と唇同士の口づけ。


『にぃ…様?今…私の唇に…。』

『ああ。灯月が良ければ兄妹以上の関係になろう。』

『…夢?。』

『確認するか?。』


 再び、重なる唇。


『夢だったか?。』

『…夢じゃ…ない…ね。お兄ちゃん…。現実だった…よ。』

『だろ?。』

『私達…恋人?。』

『ああ。そうだな。恋人だ。』

『へへ、へへへ…遂に、やりましたぁぁああああああああああ!!。』

『なら良かったよ。これからも宜しくな。灯月。』

『はい!ご主人様!。』

『そこは、いつも通りで良いよ。』

『はい!にぃ様!。』


 こうして、2人は兄妹から恋人同士になった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーークロノフィリア拠点 地下 秘密の会議室ーーー


 灯月の力により建造された一室。

 そこは会議室として作られ、大きな円卓と10の椅子が用意されていた。

 この部屋を使う時の議題。それは必ず閃が関係している。

 今宵、新たな議題を話し合うべく議会は開かれたのであった。


『皆様、お集まり下さり。ありがとうございます。』


 仮面を着けた少女。

 その背中が開いた特徴的なメイド服を着た少女が立ち上がり頭を下げる。


『今日は。どういう。集まり?。何か知ってる?。狐さん』


 仮面を着けた少女。

 真っ白な髪や肌が特徴的な少女が首を傾げ隣に座る。


『私も知らないんだぁ。氷ちゃん。凄く上機嫌な灯月ちゃ…メイドさんに連れて来られたから。』


 仮面を着けた少女。

 狐耳と狐尻尾を生やした少女も首を傾げている。


『瀬愛も分かんないよ。』


 仮面を着けた瀬愛。

 椅子の上でブラブラと足を揺らしている。


『ワシは何故連れて来られたのじゃ?。』


 仮面を着けてない睦美。

 部屋着であろう着物がとても愛らしい。幼い容姿と相まって七五三のようだ。…とメイドさんと狐さんと氷さんは思った。


『この度、にぃ様の恋人となった睦美さんをゲストとしてお招き致しました。』

『え!?そうだったの?。』

『…良いなぁ。』

『睦美お姉ちゃんお兄ちゃんが恋人?はわわ…大人だ…。』


 そして、メイドさんも緩みきった頬で高らかに宣言する。


『私も今日の朝、にぃ様と晴れて恋人同士になることが出来ました。既に口づけも経験済みです。まさに幸せの絶頂期!遂に目的の結婚まで王手が掛かったと言っても過言ではないでしょう!。』

『ほぉ。良かったな。灯月よ。ワシも嬉しいぞ。』

『ええ!睦美ちゃん!私最高に幸せでした。』


 笑い合うメイドさんと睦美を羨ましそうに見つめる狐さん。

 不意に立ち上がり瀬愛を抱き上げ会議室を出ていく氷さん。


『ひゃぁぁぁあああああ!どうしたの氷姫お姉ちゃん!?。』

『ちょっ!?氷ぃちゃん!どこ行くの!?。』


 驚く瀬愛と、その後を追い掛ける狐さん。

 一瞬で2人きりとなる会議室。


『灯月…お前、掻き立てたな?。』

『はい。氷姫ねぇ様は既に、にぃ様と口づけを交わしたと聞いていましたので。』

『はぁ。閃も大変よなぁ。』

『にぃ様なら全員を大切にしてくれますよ。』

『まぁの。そこは心配しとらん。で?。あと1人。素直になれないモノもいるようじゃが?。』

『あの人は、私が直接出向きますので。何せ、あの方の素顔は…にぃ様の好みのタイプそのもの…。許せません。』

『おもいっきり、私怨じゃのぉ…。じゃが、あやつもそろそろ素直になっても良い頃じゃ。』

『ふふふ。楽しみですね…。』

『悪い顔しとるぞ。』


ーーー


『え!?何今の!?。』

『ん?どうしました?代刃?。』

『いや?何か急に背中に寒気が走ったような?。』


 良く見ると腕に鳥肌が立っていた。


『何か恨まれることでもしたのですか?。』

『してない…と思う…。』


 何とも歯切れの悪い代刃だった。


『それよりこれ…どうします?。』

『ははは…。』


 代刃と春瀬の視線の先。

 2人の男女が手を取り合い寝転がっていた。


『良い加減に観念するッスよ!裏是流!。』

『いやぁだ!白!何かキャラ変わってるよ!。』

『変わってなんかないッス!白はいつでも素直ッスよ!良いからキスをさせるッス!。』

『そんなにキス魔だったっけ?しかも、さっきも無理矢理したじゃん!まだし足りないの?。』

『裏是流のキスが一番気持ちよかったッス!何度やっても飽きないッスよ!。』


 仰向けに押し倒された裏是流に跨がる白。両腕を抑えて何とか耐えている裏是流だが、種族の違いにより腕力勝負では裏是流に勝ち目がない。徐々に押され始めていた。


『僕のせい…だよね。』

『…そうですわね。ですが、お2人は元々幼馴染みです。本当は互いに好き合っているからこそ、唇?の相性も良かったのでは無いですか?。』

『白。裏是流が来てから嬉しそうだしね。』


 再び、視線を裏是流達に戻すと既に力尽きてぐったりとしている裏是流に白がキスを繰り返していた…。


『白…怖いよ…。』カクッ…。

『裏是流~。真面目にやってほしいッス!。』


 その様子を少し離れたところで見ていた時雨は思った。


 これが…クロノフィリアか…。


 …と。


『それよりこれを見ましたか?。』


 目の前の光景の一切を見なかったことにし、一枚の紙を代刃に渡す春瀬。


『何これ?えーっと、武闘大会?。白聖が主催って書いてある。優勝者には…へえ、クティナの宝核玉だって!?超レアアイテムじゃん!。』

『私はこの大会に参加しようと思いますわ!きっと他のメンバーも何人か参加すると思いますし。』

『面白そうだね!僕も出ようかな?優勝賞品手に入れてプレゼントすれば…きっと閃も喜んでくれるだろうし!。』

『開催日は…ああ、もうすぐですね。ここからなら直接出向いた方が近いですわ。』

『じゃあ、その付近に潜伏しよう。』

『決まりですわね。』


ーーーーーーーーーーーーーーー


 コンコン…。

 部屋で読書をしていると扉をノックされた。


『どうぞ~。開いてるぞ~。』

『閃。』

『おっと!?。』


 開いた扉と同時に氷姫と、氷姫に引っ張られる形で瀬愛が飛び付いてきた。

 椅子に座っていた俺の身体は、氷姫の勢いで隣に置いてあるベッドに放り出される。

 横たわる俺を、のしかかるように氷姫と瀬愛が見下ろしていた。


『いきなり、どうしたよ?。』 

『閃。姫月と。睦美と。恋人になった?。』

『なったの~。お兄ちゃん。』


 真剣な顔の氷姫と楽しそうに笑っている瀬愛。

 これ…どういう状況?。


『ああ。なった。』


 ここは正直に答えておく。


『そうなんだ。』

『おお~。』

『閃。』

『何だ?。』

『私も。閃が。好き。恋人に。なりたい。』

『おお~。瀬愛も~。なりたい~。』


 灯月め…多分、掻き立てたな…。


『知ってると思うが何故かハーレムエンドを目指してることになっている。』

『うん。知ってる。』

『もちろん、恋人同士になった以上、きっちりとお付き合いしたいとは思っている。』

『うん。良いと思う。』

『だが、結局、1人を愛する普通の恋愛にはなれないんだぞ?。何せ、現段階で睦美と灯月がいるんだからな?。』

『構わない。私は。それでも良い。ずっと。前から。決めてたから。』

『そうか…。なら、俺もお前に応えたい。学生時代、初めてお前に声を掛けた時から気になっていた。それが、恋愛的なものなのか、友情的なものなのかは分からない。だが、お前が笑顔を取り戻してくれた時、俺は嬉しかった。笑顔が似合う可愛い娘だと思った。俺の中でお前は少し特別だ。だから、俺と恋人同士になろう。』

『うん。閃が助けてくれた日。あの日が。あったから。閃をより好きになった。私の全てを捧げたいと思った。だから。私は閃の恋人。』


 氷姫はそのまま唇を押し付けてくる。

 俺はそれを受け入れた。


『閃。大好き。』

『ああ。俺もだ。』


 暫く見つめ合っていると。


『ねえ。お兄ちゃん。瀬愛もお兄ちゃんが好きだよ?。』

『えっ!?あっ、ああ。俺も瀬愛が好きだよ。』


 純粋な瞳で自分を指差し、そんなことを言ってくる瀬愛。


『瀬愛もお兄ちゃん恋人になる。』

『…兄妹じゃダメなのか?。』


 流石に歳の差があるだろう…。

 いや、歳はとらないんだが…。


『ダメ!恋人が良い!。』


 今にも泣き出しそうな瀬愛。俺は瀬愛の涙に弱い…そういう自覚がある。

 親に捨てられ泣き崩れていた瀬愛を見た時、俺の心は動いた。絶対もう泣かせないと。


『ああ。瀬愛がそれで良いならな。』


 瀬愛の頭を撫で抱きしめた。


『えへへへ…。』


 恋愛という概念すら曖昧だろうな…。


『これからも宜しくな。瀬愛。』

『うん!宜しくね!お兄ちゃん!。』


 その後、満足したのか立ち上がった氷姫は瀬愛を連れて部屋から出て行った。


『で?お前はいつまで隠れてるんだ?智鳴?。』

『えへへ…バレてた?入りづらくて隠れちゃった。』


 入り口横にある柱の影からひょっこり顔を出す智鳴。


『と言うことは、今の見てたよな?。』

『うん。見てた。氷ぃちゃん嬉しそうだったよ。』

『だな。で、智鳴はどうしたい?。俺は昔から智鳴を知ってるし、智鳴の気持ちも…そうだな、知っているつもりだ。』

『そうなんだ…嬉しいなぁ。』

『氷姫にも言ったから聞いてたと思うが、この状態じゃお前1人を愛してやれない…。現代人の男としてどうかと思うが…智鳴はそれでも良いのか?。』

『閃ちゃんは、それでも私のこと大切にしてくれるよね?。』

『当たり前だろ。そこは、いちいち確認するなよ。』

『うん…。じゃあ、宜しくお願いします。』

『ああ。これからは幼馴染み兼恋人だ。宜しくな。』

『うん。閃ちゃん。大好きだよ。』


 ゆっくり近付いてくる智鳴を抱きしめ頭を撫でる。


『そう言えば、こうして2人きりで話すのは久し振りだな。』

『そうだね。昔はこうして閃ちゃんの部屋で一緒にゆっくりしてたよね。懐かしいなぁ。』


 最近は、ずっと氷姫と一緒に行動してたからな。


『閃ちゃん。キスしても良い?。』

『はは、そんなことで、今キョドってたのか?良いに決まってるだろう!これからは恋人なんだから、そういうのは遠慮するなよ。』


 少し強引に唇を奪う。

 耳は垂れ下がっているが尻尾はクネクネうねっている。

 唇を離すと顔を真っ赤に染めた智鳴が俺の胸に顔を押し付ける。


『改めて宜しくな。智鳴。』

『うん。閃ちゃん。』


 こうして、睦美を含め、僅か1日で灯月、氷姫、智鳴、瀬愛?と恋人となった。

 何なんだこの急展開は…。

 灯月の思惑通りに展開したような…。

 だが、これから、全員を支えていきたいと深く決心を固める俺だった。

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