第85話 メイド天使の夢
にぃ様の部屋の前に到着しました。
スキルで足音、魔力、気配を遮断し一切の存在を消した状態でここまで来ました。
深夜2時…それが、私の戦いの時間です。
にぃ様の部屋へ侵入。
スキルを発動した痕跡はありません。
つまり、前回のように無凱さんのスキル 箱 を発動してはいない。
ふふ、寝ていますね。
にぃ様のスキル【初撃無効】の対策もバッチリです。要は1度攻撃すれば良いだけのこと。
前回の雪辱を晴らすため私はにぃ様のベッドへ…いざっ!。
『え!?あれ?。』
にぃ様のお顔を拝見しようと覗き込みましたがベッドには、にぃ様の姿はありませんでした。
『どうして?にぃ様は何処へ?。』
部屋の中を見渡しても廊下に出て周囲を見渡しても、にぃ様の姿は何処にもありません。
う~ん。もしかして、睦美ちゃんのお部屋でしょうか?。
お2人は恋人同士になったばかりです。それに今まで長く旅をしてましたし。ゆっくり2人だけになる時間も無かったことでしょう。
『なら、仕方ありませんね。今日のところは睦美ちゃんに譲りましょう。』
私は軽~く、にぃ様の部屋を片付けて自室に戻りました。
『はぁ…睦美ちゃんが羨ましいです。私も、にぃ様と一緒に寝たい…。』
服を脱ぎ、ワンピースタイプのパジャマに着替えベッドに横たわる。
にぃ様に腕枕してもらって…頭を撫でてもらって…手を握ってもらって…にぃ様の匂いに包まれながら眠りにつきたい。
そして、朝起きると、すぐ横に、にぃ様のお顔があって…目覚めのキスを…。
『でへへへ…。』
我が妄想ながら何ですか?その素晴らしいシチュエーションは!?幸せすぎるじゃないですか!。
『はぁ…明日こそは…にぃ様と一緒に…寝たいなぁ…。』
私は瞼を閉じ意識は夢の中へ沈んで行った。
1時間後…。
私は目を覚ました。
疲れていたせいか、熟睡してしまったみたいです。
まだ眠いし、早いと思いますが時間が気になったので…。
メイドの朝は早い。遅くても5時には起きなければ、にぃ様のお世話が出来ませんから。
『何時でしょう?。』
時間を確認するために壁に掛かっている時計を見ようと目を開けた。
『え!?。』
『すぅ…すぅ…すぅ…。』
目の前に広がる大好きな…にぃ様の顔…。
鼻先がくっつく程の至近距離で寝息を立てている。
に、に、に、に、に、に、に、に、に、に、にぃ様ぁぁぁあああああ!?!?。
何故、にぃ様が私の部屋に?ベッドに?私の横に?。
しかも、腕枕…。手も握ってくれていて…。
私…今…にぃ様に包まれています…。
どうして!?何で!?。さっきは部屋にも何処にも居なかったのにぃ~。
『…んん~。灯月…。すぅ…すぅ…。…好きだ…。』
その言葉を聞いた瞬間…私は固まった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー黄華扇桜 大浴場 男湯ーーー
緑龍絶栄から箱を使って帰還し、美緑を涼のところへ送り届けた後、拠点に居た皆が出迎えてくれた。
久し振りの再会を果たした睦美、煌真、機美の3人は拠点の皆との再会を喜んでいた。
そして、騒ぎも一段落し俺達は今、黄華扇桜にある大浴場に居た。
『いやぁ。流石、閃君だよ。僕が思ってたよりずっと早かった。機美ちゃんはもちろんだけど。リスティナの宝石まで発見して戻って来るなんてね。』
『そうだね。青法から連絡を貰ってから、まだそんなに経ってないのにね。』
無凱のおっさんと仁さんが満足そうに笑う。
『だが、今回はヤバかった。睦美が居なければ俺は死んでいたかもしれない。』
『…リスティナの宝石を埋め込まれた雷皇獣か…確かに、埋め込むだけで我々と同じ強さを手に入れられるなら 例の謎の声 が僕らに宝石の回収を急がせたことも納得がいくね。』
おっさん達には今回の出来事を全て話した。
『リスティナの宝石は後1つ。在処の目星はついてるのか?。』
『それが、裏是流君から連絡を貰ったんだけどね。地図に印されていた場所には既に宝石は無かったみたいなんだ。戦闘の痕跡があったらしいから誰かが持ち去ったのは間違いないらしい。』
『じゃあ、行方も分からないか…。』
『だね。裏是流君は途中で青法のメンバーの時雨って娘を仲間にしたらしいよ。何でも仲間に攻撃されてたところを助けたんだって。どうやら、矢志路君の魔眼の効力のせいで裏切り者として処分され掛けてたみたいだ。』
『時雨…ゲーム時代に聞いた名前だな。確か凄腕のソロプレイヤーとして有名だった。同じソロプレイヤーだった煌真のライバルって呼ばれてた時期があったな。』
『結局、煌真君には勝てなかったみたいだけどね。』
『だろうな…。』
アイツはタイマンの殴り合いじゃ化け物だったからなぁ。
『で?矢志路、身に覚えは?。』
俺達から少し離れた場所で湯船に浸かってボーッとしていた矢志路に話し掛ける。
『時雨…。ああ、俺の監視とかっていう名目で見張ってた女ですね。チョロチョロウザかったので魔眼で監視を警護に変えときました。』
『ほぉ…それでか。青法は仲間が敵の手に落ちたり、人質になったり、操られたりすることを極端に嫌うからね。青法からしてみれば許されない罪なんだろうね。』
『裏是流君が言ってたけど、その時雨って娘と一緒に矢入志路君を1発殴るからってさ。』
『………。何故。』
『そんなもん、魔眼を解除しないで放置したからじゃねぇか?。』
『…そうですか。なら、潔く殴られましょうか…。』
虚空を見つめる矢志路。
本当に昔から変わらねぇな。
『それはそうと、裏是流君は裏組と無事合流出来たみたいだよ。』
『裏組か。なら代刃も一緒だな。早く会って語り合いたいな。アイツはコロコロ表情が変わって面白いから好きだ。今度会ったら一緒に風呂でも入って語り明かしたいぜ。』
『………。閃君ってもしかして…。』
『ん?。』
『閃君は代刃…君が、閃君と同じ【二重番号】のスキルを持ってることを知ってるよね?。』
『ああ…だが、俺はアイツのもう1つの姿を見たこと無いんだよなぁ…頼んでも変わってくれなかったし。』
『成程ねぇ。相変わらずだった訳だ…あの娘も…。』
『ん?何か言ったか?。』
『いいや。僕の口から言うことじゃないかな?。』
『はっ?何を言って?。』
『…そう言えば。睦美ちゃんと恋人になったんだって?。』
急に話題を変えるように、仁さんが尋ねてきた。
拠点の前に到着した時、睦美は俺の手を握っていたからな。しかも、少し照れながら。
智鳴や氷姫が驚いていたが、灯月は平然としていたな。知っていたのか?。
『そうですね。俺から告白しました。』
『おお、やるねぇ。』
『それで?智鳴ちゃん達はどうするんだい?。』
『もう、決めましたよ。俺で良ければ、俺に好意を抱いている奴等全員の想いを受け止めようと思います。』
『ははは。大変だねぇ~それは。』
仁さんが盛大に笑う。
『でも、こんな世界じゃそれが一番良いのかもしれないね。』
『どう言うことだ?。』
しみじみと無凱のおっさんが大浴場の天井を見ながら話し始める。
『だってさ。こんな周りは敵だらけ、信頼できるのは味方だけの状況だよ?。しかも、最悪命がけの戦いなんてことも起きる。普通に生きてたら歳もとらないんだ。そんな人生が隔離されたような世界で生きていかなきゃいけないなら。同じ人を好きになってしまうのは仕方がないことかもだよ。あとは本人達の気持ちが大事さ。』
『………。だな。俺を想ってくれている娘達の気持ちには素直に応えてあげたい。』
『まあ、彼女達は強いからね。何か裏では閃君を堕とす為の会議が開かれてるんだとか…。』
何それ…怖い…。
『しかも、睦美ちゃんにハーレムの何たるかを説明してきて欲しいとか灯月ちゃんに言われたしね。』
『やっぱり…灯月か…。』
昔の睦美がハーレム何て単語を知ってるわけ無いと思ったんだが…根回ししてたのか…。
俺の義妹…怖い…。
『矢志路君は既にハーレムだったね。どうだい?彼女達は?。』
『俺はアイツ等の好きにやらせてるだけです。』
『はは、お前らしいな。』
『兄貴も、そろそろ腹を括る時ですね。』
『ああ。俺の心は決まったよ。』
『流石です。』
まずは、灯月からかな…。夜遅いが灯月なら問題ないだろう。
どうせ、夜這いとか行って俺の部屋に忍び込んで来るだろうしな。たまには逆に驚かせてやろう。
『そう言えば、基汐や煌真は?。』
確か脱衣所に服は置いてあった気がしたが姿が見えない。
すると、無凱のおっさんが奥の扉を指差した。
あっちは、確かサウナか。
『久し振りだし、基汐と話してくるか。』
腰にタオルを巻いて、サウナ室へ。
扉を開ける。
『ははは。どうよ!この上腕二頭筋は!。』
『なんのっ!俺の大胸筋も負けてねぇよ!。』
『はっ!ならこの腹筋を見ろや!くっきりシックスパックだ!。』
『それは俺も自慢の部位だ!この凹凸、最早芸術だろう?。』
『………。』
俺は静かに扉を閉めた。
『どうだった?。』
湯船に浸かり立ち上る湯気を眺める。
『脳筋が2人居た。暑苦しい…。』
『はは、だよね。僕も最初に入ってたんだけど逃げてきたよ。』
『おや、皆さんお揃いで。』
『閃君。久し振りですね。』
賢磨さんと叶さんが大浴場に入ってきた。
『お久し振りです。叶さん。賢磨さん。』
相変わらず凄い身体だ。
服の上からでは分かりづらいが賢磨さんの身体は細い身体に筋肉が凝縮され引き締まっている。
おそらく、肉体強化系のスキルを使わず肉体の力のみで喧嘩したなら基汐も煌真も敵わないだろう。
『ん?基汐君と煌真君はどうしたんだい?脱いだ服が置いてあったけど?。』
『サウナです。脳筋2人で筋肉自慢をしてますよ…。』
『ほぉ。それは面白そうだ。』
賢磨さんは不敵に笑うとサウナ室へ消えていった。
『賢磨さん!何を!?ぎゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!。』
『ははは!面白れぇ!賢磨さん!来やがれ!…うわぁぁぁぁぁああああああああ!!!。』
『ははははは!!!まだまだ若い者には負けんよ!。』
サウナ室から聞こえる声と音。
『懐かしい流れだが…暑苦しいことには変わらないな…。』
『だね…。』
『聞いたぜ?おっさん。柚羽と付き合い始めたんだって?まあ、あの娘は、おっさんに懐いてたからな。』
『そうなんだ。黄華さんに背中を押されてね。僕なりにケジメをつけた上でなった関係だから後悔はしていないよ。』
『アンタならそう言うと思ったよ。』
すると、仁さんがアイテムBOXから映像端末を取り出した。防水加工が施された端末を操作し、ある映像を俺に見せてきた。
『閃君。これを見てごらん。』
『ん…。武闘大会?。』
映像には白聖連団が主催する能力者同士の武闘大会が開催されるという告知だった。
『へぇ…怪しいなぁ…。』
『でしょ?前の六大会議で白蓮が話題に出したって黄華さんが言っていたんだよ。』
『優勝者には…っ!?。』
クティナの宝核玉…。
『やはり…白蓮が持っていたか…。』
『おや?クティナの宝核玉を知っているのかい?。』
『実は…。』
俺は夢の中に出てきたリスティナの話を仁さんとおっさんにした。
『リスティナのお願いか…。』
『そして、僕たちの本当の敵…。』
『そう…リスティナは俺達の敵の名前をこう言った。』
クリエイターズ…と。
『これは、いよいよ動き出しそうだね。』
『この大会が転機になるだろうな。』
『そうだね…果たしてどうなるか。』
俺は再び告知に目を通す。
『この大会はおそらく罠だろうな。俺達を誘い出す為の。』
『ああ、閃君もそう思うかい?。』
『これは…あからさまだろう。』
『そこで、裏是流君からの提案なんだけど。』
おっさんが俺に耳打ちし伝えたことは…。
『それ良いな!面白そうだ!。』
『目には目を歯には歯を…さ。』
『それで、誰が出るんだ?面白そうだし俺は出たいが?。』
『黄華扇桜の参加枠で翡無琥ちゃん。後はまだ決めてないよ?。』
『じゃあ、俺で良いよな!。』
『でも、閃君の顔は皆に知れ渡ってるよ?そんな閃君が参加したら大会はパニックになってしまうよ?。』
『それは大丈夫だろ!。』
俺は立ち上がり【二重番号】のスキルを発動。女の姿へ。
『この姿ならバレねぇし問題ないだろ?。』
『………。』
『………。』
何故か無言になる仁さんとおっさん…と叶さん。矢志路は何故か俺を凝視。そして、視線を逸らされる。あれ?何だ?この空気は…。
『閃ちゃん、閃ちゃん。』
俺の頭上を浮遊していた幽鈴さんが居た。そうか、叶さんに憑いて来たのか。
『ん?って、幽鈴さんか?どうした?てか、ここ男湯だけど?。』
『見ないようにしてるから大丈夫よ。それより男湯で閃ちゃんの今の格好はちょっとマズイわよ?。』
『ん?あっ…俺、真っ裸だった…。』
その場にいた全員に俺の女体が晒されていた。
ーーー
『ああ…くらくらする…。』
長湯しすぎたな。さて、灯月の部屋は…。
灯月の部屋は明かりが消え、ベッドの上で灯月が寝息を立てていた。
灯月にしては珍しく熟睡しているようだ。
『灯月…。』
懐かしいな…昔は良く一緒に寝ていた。
俺には灯月や、つつ美母さんと出会う前の記憶がない。だから、俺の最初の記憶は灯月との出会いだ。
俺の記憶には常に灯月がいる。
『ん…にぃ様ぁ…。』
『ん?。』
寝ているのに俺の手を握る灯月。
大きくなっても甘えん坊は変わらない。
『失礼するな?。』
俺は灯月のベッドに入る。
昔から灯月は腕枕をされるのが好きだったな。
優しく灯月の頭を撫で、枕をどかして俺の腕を灯月の頭の下へ。
『にぃ様…結婚…。』
腕枕が心地良いのか俺の方を向いた灯月は俺の胸に顔を埋めた。
『お休み。灯月。』
そんな灯月の寝顔を見ながら俺は眠りについた。
ーーー
朝、俺が目覚めると何故か固まったまま動かない灯月が顔を真っ赤にした状態で気絶していた。