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第79話 黒い創造主

 私はアパートの出て周囲を見渡した。

 アパートの周囲を取り囲むように感じた気配は7つ。

 気配には殺気が含まれていた。

 私達の正体を知っていて、且つ、敵対の意思を持っているのは明白だ。

 つまりは、クロノフィリアの敵ということ。


『おやおや、出てきましたね。なかなか探すのに手間取りましたよ?クロノフィリアさん?…はて、貴女は手配書には無かった顔ですね?お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?。』


 痩せこけた頬と細いレンズのメガネ。猫背気味で短髪の薄気味悪い笑みを浮かべる白衣を羽織った男。

 あの男には、見覚えがあった。

 主様の命でギルド 緑龍絶栄のことを調べている時に知った顔。確か名前は端骨。

 緑龍絶栄の最高戦力 八龍樹皇の1人で開発局責任者、そして、涼さん達をクロノフィリアに差し向け捨てゴマにしたクズ。

 噂では、緑龍から追放されたと聞いていたけど…。


『そう言うのは、まず自分からじゃないかしら?。』

『おっと、失礼しました。そうでしたね。では、改めて、私は元緑龍絶栄の八龍樹皇が1人 端骨と申します。今はただの野良研究者ですがね。貴女の名前をお聞きしても?。』

『あなた達が取り囲んだ時点で調べはついてると思うけど、クロノフィリア所属 神無よ。』

『神無さんですか。貴女の情報はありませんね。』


 ピコピコと謎の端末を操作する端骨。


『ああ、ですが。先日、偽者の神クティナと戦っていますね。映像から得たデータでは…ふむふむ、ほう、影を使用した戦闘スタイルですね。スピードもかなりのものだ。10段階の評価なら文句無しに10でしょうね。ですが、攻撃力、防御力が些か低いように見える。攻撃力は6、防御力は4と言ったところですね。』


 クティナとの戦いを知っている?。

 青法とも繋がりがあるのかしら?。


『何?人のこと勝手に評価してるわけ?。』

『あくまで目安ですよ。研究にはね、そういう情報も必要になるのです。』

『何の研究か知らないけど、貴方…気持ち悪いわ。』

『ききき。良く言われますよ。』


 何か…生理的に嫌ね…。


『それで?私達、クロノフィリアに何のご用かしら?。』

『それはですね。我々の実験を手伝ってほしいのですよ。』

『…実験?。』

『そうなんです。我々は現在、レベル150という1つの壁に突き当たってしまいましてね。』

『…壁?。』

『どんなに研究しても、あなた方のように1個体が安定した状態でレベル150を維持できるようにすることが出来ないのです。必ず肉体、精神のいずれかに異常を来してしまう。色々試しましたよ。…そう…もう色々とね。ですが、モンスターや機械等を擬似的なレベル150にすることは出来ても我々のような人型をレベル150にすることは出来ていない。理由も分からない。ならばサンプルが欲しい!研究者ならそう思い至るのは当然の結果でしょう?。そこで、あなた方、クロノフィリアの皆さんです。そこのお嬢さん。どうです?悪いようにはしませんので我々のモルモットになって下さいませんか?。』

『…モルモットって言ってる時点で信用できないわよ。』

『ごもっともで、ならば実力で連れて行くしかありませんね。彼等の試運転も兼ねていますので存分に戦って下さい。』


 パンッ!

 端骨が両手を叩く、瞬間、背後に2つの気配。

 来るっ!。


『はっ!。』


 背後からの攻撃をバク転で躱す。

 そのままの勢いで跳躍し木の枝を足場に反動を利用して地面に着地。


『いきなり物騒じゃない?背後からの奇襲とか?。』

『何を仰る。隠れ潜む彼等に気付いていたのですよね?。それなら奇襲ではありませんよ?。』


 端骨のという男。何を考えているのか分からない。

 それに、奇襲を仕掛けてきた2人…確か、八龍樹皇のメンバーだわ。

 つまり、緑龍絶栄のギルドがクロノフィリアに喧嘩を売ってきたってことかしら?。

 でも、奇襲してきた2人の様子が少しおかしい。目の焦点が合ってないし、人形みたいに動かない。

 あの2人…確か名前は…ああ、獏豊と徳是苦だ。思い出したわ。


『ねえ。聞いても良いかしら?。』

『ん?どうぞ?お答えできることなら答えましょう。』

『そこの2人、何か様子がおかしいのだけど?ちゃんと生きてるの?。』


 私は情報看破で2人を視るがスキルが良く分からないモノになっている。

 【データ破損】【バグ修正プログラム】

 ですって。何よそれ?。それにレベルが120~150っていうのもよく分からないわ…。


『彼等は残念なことに、もう自分の心を失ってしまったのです。』

『心を失う?つまり洗脳されたってことかしら?。』

『洗脳とは違いますよ。もっと根本に、真意に近いことです。彼等が今まで培ってきた経験をそのままに、それ以外を壊して上書きしたんですよ。バグを殺す為だけのデータをね。兵器ですよ彼等は。徳是苦さん。お願いします。』

『スキル【呪縛言霊】汝の動きを封ず!。』

『っ!?何!?身体が?。』


 動かない。

 良く見ると足下に魔方陣?複雑な式が施された結界が描かれている。


『彼のスキルは言葉を聞いた者を拘束するのです。しかも、動きを封じるだけではありませんよ。』

『【呪縛言霊】汝の身爆ぜよ!。』


 周囲の空気に魔力が込められる。

 これマズイ…。

 次の瞬間、空気に含まれた魔力が爆発した。

 周囲を爆炎が巻き込み姉さんが住んでいたアパートも跡形もなく消え去った。


『やれやれ。出来れば無傷で捕えたかったのですがね。この爆発では四肢はバラバラ、内蔵は飛び散り、身元の判明も出来ないくらい損傷してしまったでしょう。』

『そんな訳ないでしょ!。』


 背後に回った私は頭上から端骨に斬りかかる。


『ヒィィィイイイイイイイイイ!?。』


 捉えた!。

 …と思った直後、端骨を庇うように刀を持つ男が間に割って入ってきた。

 この人は知っている。緑龍絶栄のNo.2 律夏。

 私の短剣を受け止めるなんて…。


『…。』

『あ、ありがとうございます!律夏さん。さぁ、その危ない小娘を叩きのめして下さい!。』

『はっ!。』


 刀同士がぶつかり合う衝撃を利用して再び空中へ飛び上がる。空中から敵全体の居場所を確認しようとした時、視界の端で何かが光った。


『っ!?。』


 光ったのは弾丸。

 森の木々の中に潜む伏兵。空中にいる私をピンポイントで狙い射つ狙撃精度。

 それが左腕に命中した。


『なっ!?。』


 弾丸の正体は寄生植物。私の体内に触手を伸ばし栄養を吸収して即座に成長する。

 腕に巻き付く細長い幹…これは…ヤバい!?。

 腕が植物のように変化していく!?。しかも、徐々に広がって腕を駆け上がって来る!?。このままじゃ身体まで…。


『ぐっ!?。』


 私は肩口を自らの短刀で切断した。


『あぁあぁぁぁああああああああ!!!。』


 激痛に叫び声を上げる。

 切断した腕は植物と一体化し地面に根を張り始めた。


『ぐっ…。迂闊に…跳べないわね…。』


 遠い森の中。

 ライフル照準から目を離す女性。八龍樹皇が1人 空苗。次弾を装填し獲物を狙う。


『おやおや、必死ですね?クロノフィリアとあろうお方が?どうです?今投降して頂けるのでしたら丁重に優しい内容の実験にしてあげますよ?。』

『ふふ、さっきは私の奇襲に情けない悲鳴を上げておいて良く言うわ。優位な立場でしか強気になれないなんて如何にも三下じゃない?ああ、三下だからギルドから追放されたんだっけ?。情けないわね。ははははははは。』

『…ふふふ。ふふふ。ははははははは…。…貴様ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様!言うに事欠いて私を三下だとぉぉぉおおおおおお!この天才的頭脳で常にギルドの成長を支えてきた私に向かって三下だぁぁぁぁぁあああああああああああ!面白くない冗談だ。ああ、もう良いでしょう!貴様の命はもう要らない。苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて!泣きわめいて、許しを乞うまで痛め付け絶望の中で殺して差し上げましょう!ああ、安心して下さい。死んだら肉体は実験に使って上げますからね。』

『そんなの願い下げよ!』


 私は端骨に【操影寄糸】を発動した。

 私の影が端骨の影を縛り付ける。


『なっ!?動けない!?何ですか!?これは?。』

『さっきのお返しよ!。』

『くっ!成程…操る影を使用して対象の自由を奪うスキルですか!しかも、影さえあれば距離は関係無いと、素晴らしいスキルだ。ですが、こちらも負けませんよ!。獏豊さんお願いします!。』

『はっ!。』


 刃の長い矛を振り回す獏豊。

 一気に私との距離を詰める。


『今度はそっち!。』

『【呪縛言霊】汝の動きを封ず!。』

『ぐっ!?また、こっちも!?。』


 身体が動かせない。


『スキル~【操紙絵巻巻~。】』

『なっ!?。ぐっ!?』


 今度は両足と残った右腕、首に腰と細い紙が巻き付いて来た。

 動かせない身体が更に縛り上げられる。

 遠くに見える、くねくねした動作の着物の男。名前は確か、多言だ。

 今まで隠れてたの?。


『はぁっ!。』

『ぬっ!。』


 目の前に迫る獏豊が矛を振り上げていた。

 駄目だ。動けない。


『スキル!。』

『ははは、今更無駄ですよぉぉぉおおお!。』


 私の身体を斬り裂く獏豊の矛。

 崩れ落ちる私の身体を何事も無かったようにただ見つめている八龍樹皇の面々、本当にロボットのようね。

 けど、スキルが間に合ってるのよねぇ。


『ふふふ。これでクロノフィリアの1人を倒しましたよぉ。案外、呆気ないモノですね。これも改良した書き換えによる効果でしょう。精神面での不安要素を取り除き肉体能力、スキルをコントロール化に置く前の状態で強化に成功。ふふふ。これがあれば残りのクロノフィリア討伐も時間の問題ですね~。ああ、早く研究したぁぁぁあああい!。』


 気持ち悪いわぁ…。


『おや、彼女の影の拘束が解けませんね?持続時間があるスキル?それとも…まさか!?。』


 気付いたようね。スキル。


『【常闇影沼 影入り】。』

『な!?影だけが動いている!?。』

『そうよ。実体を影の中に溶け込ませて影として行動できるスキル。もう貴方達の攻撃は私に当たらないわよ?でもね。』

『ぬ!?まさか!?。』

『そうよ。このスキルは私の全てのスキルと連動できる。つまり、影に攻撃できる。』


 私の影が端骨の影を蹴り飛ばす。


『がぼっ!?。』


 影へのダメージはもちろん本体が受けるわ。


『ひ…卑怯な…。』

『1対6で戦闘してるのに卑怯も糞もないでしょ!。』


 もう一発蹴ってやる。


『ぐぼっ!?。な…何をしている!私を助けなさい!クズ共!。』


 八龍樹皇の4人が私の影に攻撃を仕掛ける。…が。


『影に実体は無いわよ?。』


 影への攻撃はそこまま地面を砕くだけ。無駄なのに攻撃を止めない4人。


『鬱陶しいわね。スキル【操影寄糸】!。全員縛ってあげるわ!。』 

『…!?。』


 踠く4人。だが、影を縛られている以上何をしても動けない。


『な!?何故だ?何故勝てない!こんなことがあって良いのか?。空苗!空苗!空苗は何をしている!早くコイツを狙い射て!。』

『無駄よ?探すのに手間取ったけどね。あの4人を縛るついでに捕えておいたわ。』

『な!何ですと…。そんな…。クロノフィリア1人にここまで圧倒されるなんて…。』

『これで最後ね。トドメよ。』

『ヒィィィイイイイイイイイイ!や、止めろ!!!。』


 影の私が短刀を端骨の影に近付けていく。これでコイツの首を斬れば私の勝ち。


『………。』

『え!?。』


 影の私の腕を…掴んだ?。

 その男は…突然現れた。

 現れて…影となっている私を…腕を影の中に一体化させて…。


『ぐっ!?。』


 そして、反対の腕で私の首を掴んで影から引きずり出した。

 それどころか私の操影寄糸も解除された!?。


『おおっ!ありがとうございます!助かりました。』

『下がれ。』

『は、はい!!』


 黒いコートを着た全身真っ黒な男。

 私は首を捕まれ持ち上げられる。


『これが汚染されたバグの仲間か。』


 黒い男が、ぱちんっ!と指を鳴らすと周囲に轟音が響き渡る。頭に直接響くような甲高い音に耳を塞ぎたくなるが片腕無いのよねぇ…。


『やはりか。バグの影響は我々の力を干渉させない。つくづく厄介な存在だ。しかし、分身体で、ここまで奴等を追い詰めるとは、リスティナめ…厄介なことをしてくれた。』


 黒い男が私の頭に拳を突き抜き、私の顔面は消し飛んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 遠く離れた大木の枝の上に私達はいた。

 スキル【遠影視界】により影を通じて遠くの様子を見ることが出来る。

 このスキルで分身体を遠隔操作しながら相手の情報を探っていた。


『私の顔、粉々にされたわ…。』


 分身体とは言っても自分と同じ姿形のモノが破壊されるのを見るのは何とも言えない気分になるわね…。

 あの分身体は私の能力の半分くらいの密度で作ったのだけど…あっさり殺られちゃうなんて…あの黒い男は何者よ?。

 バグとか何とか言ってたけど?。


『なぁ。まだか?充分情報は集まっただろ?。そろそろ出てぇんだが?。』

『まだ、待ちなさいよ。姉さんの準備も出来てないんだから。』

『ごめんねぇ。全然メンテナンスしてなかったから神具が上手く動かせないんだよぉ。』


 影の中の2人との会話。


『あの黒い男は要注意ね。ああ…こっち見てるわ。索敵能力まで高いなんて…何者なのよ…。』

『それにしても、お前はズルいな…分身使って情報収集とか…。』

『何言ってるのよ?私は忍よ?人前にノコノコ出ていく訳無いじゃない。私が敵の前に出るのは確実に勝つ算段がついた時だけよ…って言いたいけど、あの黒い男には…そうは言ってられないみたいね。』


 仕方ない。馬鹿に任せるしかないわね。


『あの男に気付かれた以上、逃げる選択肢は無いわ!行くわよ馬鹿!援護してあげるから、あの黒い男は任せるわ!。』

『よっしゃっ!やっと暴れられっか!しかも、久し振りの強敵かよ!ウズウズしてきやがったぜ!。』

『姉さんは準備が出来次第参戦宜しくね。』

『うん。わかったよ。神無ちゃん!でも良かったよ。家の荷物この影の中に入れておいて。』

『ええ。姉さんのアパート消し飛んだわね。』

『長年住んでた思い入れのあるアパートだもん…ああ…思い出なんか無いか…オイル飲みながら積みゲー消費してただけだもんね…何も無いね…私なんか…機械の身体だし…はぁ…2年間何やってたんだろうね…。』


 はぁ…自分でスイッチ入れちゃってるし。


『じゃあ、行くわよ!馬鹿!!!。』

『馬鹿馬鹿!言うな!主馬鹿!。』


 沈んでる姉さんを無視して、私達は黒い男が居る場所に影で移動した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


『奴等は何処に?。』


 端骨が黒い男に尋ねる。


『ここから、100メートル程にある大木の上に居る。お前達は気付いていなかったようだが、お前達が戦っていたのは本体ではなく。切り離された分身体だったようだ。』

『なっ!?ですが私の【心理究明】にはしっかりと映し見ることが出来たのですが!?。』

『偽りの情報を掴まされたようだな。お前の悪い癖だ。スキルに頼り信じすぎる。』

『も、申し訳ありません。』


 端骨が奥歯をギリギリと噛み締める。


『それと、注意しろ。』

『え!?。』

『来るぞ。』

『な!?。』


 影の中から一気に飛び出す!。


『スキル【操影寄糸】。』


 影の糸が端骨、率いる八龍樹皇の5人を捕縛した。


『雑魚はこっちで引き受ける!後は任せるわ!。』

『あいよ!。らっ!!!。』

『む!?。』


 煌真の拳が黒い男を殴りつける。


『よぉ!黒い奴。アンタ何者だ?。』

『…貴様もバグに汚染されたモノか…。恐ろしい増殖の速度だ。対応が追い付かない。』

『ん?何言ってやがる?。』

『もう一度…試すか。』


 黒い男が再び、パチンッと指を鳴らす。

 途端、周囲にまた甲高い音が衝撃波と共に放出された。


『おっ!?何だ?うるせぇな?。』

『うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお…。』


 端骨達は苦しんでいる。

 音が止み端骨以外の八龍樹皇の面々は崩れ落ちた。

 私の影の糸も解けてしまった。


『やはり、駄目か…。』

『いきなりは酷いですね。出来れば一言伝えてからして欲しいですよ。』


 自由になった端骨が黒い男に近づく。


『で?何をしたかったんだ?。』

『お前達は知らなくて良いことだ。しかし、このような事態になるとはな。リスティナ1人の侵入を許しただけで、ここまで大事になるとは我々の誰が予想出来たことか…。しかし、どうするか。此方としてもサンプルは欲しいところ。奴等の実力を測るのも今後のことを考えると必要か…。』

『何をぶつぶつほざいてやがる?。』

『気にするな。お前の実力を見せて貰おう。』


 急に煌真の目の前に迫る黒い男。白い手袋をした拳が紙一重で躱す煌真の目の下を掠める。


『いきなりか!?良いぜ?付き合ってやる。』


 続いて煌真の反撃。

 伸びた腕を払いのけ黒い男を殴る。


『!?。止めやがった。』



 煌真の拳は黒い男が反対側の手で受け止める。


『ふん!。』

 

 空かさず放たれた男の蹴り上げにバックステップで躱すも服一枚を掠め切り裂かれた。


『らっ!。』


 煌真の蹴り。


『遅い。』


 蹴りの起動を滑るような動きで的確に捉え上に逸らされた煌真。直後、男の肘が煌真の横っ腹に突き刺さる。


『!?。』

『あっぶねぇな!だが、さっきのお返しだ。受け取りな!。』


 反転させた身体で男の肘を受け止め、そのままの動きで回し蹴りを繰り出す。


『ちっ…今のもガードされるか…。』

『強いな…予想以上だ。これでまだ様子見というところなのだとしたら今の私では勝つことが難しい。仕方がない。時期尚早だが、少しだけ此方への干渉を強めよう。』


 男の雰囲気が変わる。


『これは…。』

『煌真!?。』

『なっ!?。』


 黒い男の姿が消えたと思った直後、男の拳が煌真のみぞおちに深くめり込み地面に叩きつけられた。


『ぐぁっ!?。』

『煌真!?』

『お前も邪魔だ!。』

『ぐっ!?。あっ!?。』


 一瞬で私の背後に回った黒い男の拳は私の背中を打ち抜いた。

 そのまま、私の身体は何本もの木々をへし折りながら吹き飛んでいく。


『元よりこの世界は我々が創造したものだ。よって如何にお前達がバグの影響を受け、リスティナの加護を受けようと顕現した我々に勝つことなど出来ん。それこそが創造主としての 権能 なのだ。』

『すっばらしい!。流石は創造主様!あのクロノフィリアでさえ、あなた様にかかれば赤子同然!』

『下がっていろと言ったぞ?。』

『え?。』

『まだ終わっていない。』


 立ち上がる煌真。

 衣服は破れ、身体はボロボロ…口の端からは血を流している。


『ははは…今のは効いた。ぺっ!。』


 口の中の血を吐き捨てる。


『止めておけ。確実に急所を捉えた。暫く呼吸もまともに出来なかった筈だ。お前に勝ち目はない。』

『言いたい放題言ってくれるじゃねぇの?てめぇ何様?てめぇが俺の何を知ってんのよ?ああ?。』

『今の一連の攻防で実力さが理解できないとは…我々はクロノフィリアを少々過大評価していたのかもしれんな。』

『はっ!言ってろ!。』


 煌真が目を閉じスキルを発動する。


『スキル…【再生強化】。』


 傷を癒し、HPを回復させるスキル。

 回復したHPの数値分の肉体強化を施す。


『スキル…【逆境強化】【肉体強化(極)】【一騎当千】。』


 前の戦い。クティナのしもべ憤怒の獣の時に使用したスキルの重ね掛け。


『スキル…【重複強化】。』


 肉体を強化するスキルの上昇数値を2倍にするスキル。


『最後だ、スキル…【武神化】。』


 全身から溢れ出るオーラ。

 自身の肉体を戦いの神へと昇華させる。

 その様子を見ていた黒い男が目を見開き驚きの声をあげた。


『まさか…我々と同じ高みへと到達し得るスキルだと?。まさか、クロノフィリアは全員、神へと進化しているとでも言うのか?。』

『また、良く分からねぇことをペチャクチャと…まあ、関係無いか。俺がお前をぶっ飛ばす事にはな。』

『…仕方あるまい。ここで、コイツを倒し私が導きだした結論を自らの手で否定することとする。』

『閃の旦那なら…こんな時、こう言うだろうな。『さぁ。第2ラウンドだ!。』ってな。』


 煌真と謎の黒い男の戦いは続く。

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