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番外編 クロノフィリアのバレンタイン

この小説を読んでくれた方。

ブックマークに登録してくれた方。

どうもありがとうございます。


今回のストーリーは、

急に書きたくなったので形にしました。

ストーリー内の時間軸的には第77話の時点から数ヶ月後の話しになります。

先の話しなので、キャラクター同士の繋がりやネタバレ的な内容を含んでいます。


これからも読んでくれると嬉しいです。

 とある1日。

 今日は何やら早朝からクロノフィリアの女性陣が慌ただしく厨房を行き来している。

 時折、厨房からは楽しそうな声と、時に悲鳴を響かせながらも現在、朝8時を迎えようとしていた。

 厨房から漂ってくる甘く香ばしい香りが拠点の喫茶店に充満している。

 俺は朝食を済ませて、カウンター席で朝のコーヒータイムを満喫していた。


『今日はいつも以上に賑やかですね。』


 俺はカウンター内で古い雑誌を読んでいる仁さんに話し掛けた。


『そうだね。今日はバレンタインだから女の子達が張り切ってチョコレートを作っているよ。ガドウが俺の厨房がぁ!って、泣きながら僕の中に戻っていったよ。ははは。』


 ガドウさんとは、仁さんのスキルで生み出された厨房を担当している筋肉隆々のスキンヘッドの厳ついおっさんだ。

 いつも俺達の食事を用意してくれている。

 そんなおっさんが泣きながら?。いったい厨房の中で何が起きているんだ?。


『それにしても今日の閃君は大変だね。』

『え?。俺ですか?。』


 特に用事という用事はなかった筈。


『何かありましたっけ?。』

『ははは。何言ってるんだい?今日はバレンタインだよ?。女の子が好きな男の子にチョコレートをプレゼントする日。だから、彼女達は必死に頑張っているんじゃないか。』

『ああ。そうでしたね。何か嫌な予感がしてるせいで朝食を食べている間に記憶から消してましたよ。』

『君の勘は当たるからね。まぁ、気休めだけどコレ持っておきなよ。』


 そう言って仁さんは胃薬を手渡してきた。

 なんだ…仁さんも分かってるんじゃないか。

 俺は素直に胃薬を貰っておく。おそらく…いや、確実に必要になるだろう。果たして龍が出るか蛇が出るか…虎かワニかライオンか鮫か雀蜂かゴリラか…何が出てきてもおかしくないのが恐すぎる。

 俺が此処に居るのも深夜2時に枕元に立っていた灯月の奴に10時に喫茶店で待っているように言われたからだしな。


 そんなこんなで朝10時が過ぎた。。


『にぃ様、お待たせ致しました。』


 灯月を先頭にゾロソロと女性陣が厨房から甘い香りを漂わせて出てきた。

 因みにメンバーは。

 灯月、智鳴、氷姫、瀬愛(瀬愛の付き添いで黄華さん)、睦美、無華塁、リスティナ、代刃(厨房に隠れて顔だけ出している)、つつ美母さん。…って何で母さん?。


『ふふふ~。驚いているわね~。閃ちゃん~。何故~。私が居るのか~。それは~。私も~。閃ちゃんことが大好き~だからよ~。』

『おい!つつ美!閃は愛しい妾の息子ぞ?お前にはやらん!。』

『だから~。こそよ~。』

『何!?。』

『育ての親であり~。血が繋がって無いなら~。1人の女として~。閃ちゃんを愛するわ~。だって~。私~。淫魔だもの~。貴女に~その覚悟が~ある~?。』

『1人の女だと…。そんな馬鹿なことが通るか!閃が許しても母である私が認めん!。』

『なら~。どっちが~。閃ちゃんに認められるチョコを作ったかで~。勝負しましょう~。』

『ふ。望むところだ。』


 何か勝手に盛り上がっているリスティナとつつ美母さん…。これもしかして…。


『はい。流石、にぃ様です。お察しの通り誰が一番美味しいバレンタインのチョコを作ったかをにぃ様に審査していただきます。100点満点でお願いしますね。』


 査定式かよぉ…。てか、心を読むな…。


『えぇ…。』

『安心してください。選ばれるのは血の繋がらない義妹ですので。』

『何に安心して良いのかと、何故そんなに自信満々なんだ…お前は?。』


 仁さんが、スゥーーーっとブラックのコーヒーを俺の横に置いてくれた。

 ありがとう。仁さん。


 そんな感じ始まるチョコレートお披露目会(審査付き)。トップバッターは智鳴だった。


『閃ちゃん。一生懸命作ったよ!これ食べて欲しいな…えへへ。』


 カウンターの上に置かれる皿。その上に乗るチョコレート?チョコ?あれ?これ…チョコじゃないよな?。

 智鳴が出してきたのは、いなり寿司だった。

 今日は何の日なんだ?。


『なぁ。智鳴?。』

『なぁに?閃ちゃん。』

『これ、いなりだよな?。』

『そうだよ。でも安心して中身は酢飯じゃなくてチョコレートだよ?。』


 えぇ…。そうだった。智鳴は掃除以外のことがダメダメだったぁぁぁあああああ。

 油揚げに包まれたチョコレート?

 初体験だ…旨いのか?。


『い…いただきます…。』

『うん!どうぞ召し上がれ。』


 ニコニコ顔で俺を見つめる智鳴。

 尻尾が忙しなく動きまくってるな…。


『あっむ。』もぐもぐ…。


 こっこれは…。

 好みが分かれそうな味だなぁ…。

 油揚げの甘さに途中からチョコレートの甘さが押し寄せて来る。口の中が混乱している。

 食えなくはない。旨いかと言われると微妙としか答えられない…。取り敢えず口の中を洗い流したい。

 俺は仁さんが用意してくれたブラックコーヒーを一気に飲み干した。


『ご…ご馳走様でした。』

『はい。お粗末様です。それで?閃ちゃん。私のチョコは何点だった?。』

『…30…点?。』

『ガーーーーーーーーーーーーン。30…。学生の時の英語の点数と同じ…だよぉ…。』

『でも、気持ちは嬉しかった。ありがとう智鳴。』

『うん。閃ちゃん。ごめんね。』


 耳と尻尾が力無く垂れ下がり厨房へ消えていく智鳴。

 すまん。不味くはなかったと思う…。


『次。私。智鳴の仇。取るよ!。閃。覚悟して!。』

『お、おう。』


 次は氷姫か…何が出て来るか…。


『どうぞ。』

『あ…ああ。これ、かき氷だな。』

『うん。かき氷チョコ味。』

『そうか。普通におしいそうだな。』

『うん。美味しいよ。』

『いただきます。』

『うん。』


 一口。うん。程よい甘さにシャリシャリとした氷の触覚。まともで普通に美味しい。そう普通に…。


『95点。』

『やった。』


 氷姫にしては珍しく目に見えて上機嫌に厨房へ消えて行った。


『うわぁぁぁぁぁああああああああん!氷ぃちゃんのイジメッ子ぉぉぉおおおおお!!!。』


 智鳴の泣き声。

 氷姫の奴、何を言いやがったんだ?。


『お兄ちゃん。瀬愛ね。一生懸命作ったよ!。食べて欲しいな。』


 瀬愛が小さなお皿を俺に持ってくる。

 上に乗っているのは。


『おお。パンケーキか。』

『うん。ママと一緒に作ったの。』

『殆ど瀬愛ちゃんが作ったんだよ。閃君食べてあげて。』


 黄華さんが口添え。

 最近、本当に親子みたいだ。


『はい。いただきます。』


 少し形は歪だけど美味しそう。

 1口分を口に運ぶ。うん。美味しい。

 俺はあっという間に平らげた。


『ご馳走さま。美味しかった。100点。』

『わぁぁぁあああ!やったぁ!ママ!瀬愛のケーキ、お兄ちゃんが100点だって!。』

『良かったね。瀬愛ちゃん。』

『うん!。』


 嬉しそうに奥にある長めのソファーに向かっていく瀬愛と黄華さん。


『ママ。』


 その黄華さんを呼び止める無華塁。


『ん?どうしたの?無華塁。』

『これ。ママに。あげる。大好き。』


 黄華さんにプレゼント用に包装されたきらびやかなチョコレートを渡している。


『えっ!?…無華塁ぅ~。愛してるぅ~。』


 無華塁を抱きしめる黄華さん。


『くすぐったい。でも。嬉しい。』


 暫く抱き合うと今度は無華塁がこっちに歩いてくる。


『閃にも。あげる。大好き。』

『ああ、ありがとう。無華塁。』


 物凄い輝く包装。

 中にどんなチョコが入っているんだ。


『開けて良いか?。』

『良いよ。』


 包装を解く。中に入っていたのは…。


『板チョコ…。』

『うん。美味しいよ。』


 しかも、販売してるヤツだ。多分、白聖のエリアで買ってきたのだろう。

 裏には金額のラベルまで貼ってあるし…って高っ!?全身最強装備で一式揃えられる値段だぞ…。


『こんなに高いの良いのか?。』

『うん。私も。買った。一緒に食べよう。』

『あ、ああ。え?全部で何個買ったんだ?』

『私。閃。ママ。パパ。』

『…。お前、実はお金持ち?。』

『ん?。全然。』

『そうか。』


 深く聞かない方が良さそうだな…。

 その後、無華塁と一緒に高級チョコを堪能した。美味すぎた。


『じゃあ。またね。閃。』


 点数も聞かず無華塁は階段を上がって行った。相変わらずマイペースなヤツだ。


『旦那様。お疲れ様です。どうぞ。』

『ああ、次は睦美か。どれどれ。』


 睦美なら絶対ハズレは無いからな安心して食べられる。


『おお。おはぎか。美味そうだな。』


 小皿の上には小さめのおはぎ。横に小さな菓子楊枝が備えてある。


『はい。旦那様は今日、皆さんからチョコレートを沢山いただくと思いましてお口直しにと。お腹にも差し支えない量にしておきました。甘さは控え目にしてあります。あと、お茶と一緒にどうぞ、少し濃い目の味にしています。』

『ああ、助かる。睦美、ありがとう。』

『いいえ。お口に合えば良いのですが。』

『じゃあ。早速いただきます。』

『はい。そ、その…め、召し上がれ…。』


 俯きながら恥ずかしそうに言う睦美に癒されながら一口。

 美味い。何て言うか…安心するというか。優しい味が口の中にいっぱいに広がる。適度なあんこの甘味ともち米の柔らかさが口の中で絶妙なハーモニーを奏でているようだ。

 そして、睦美が淹れてくれたお茶が甘くなった口の中をさっぱりさせる。


『美味しかった。ご馳走様。ありがとう睦美。100点だ。』

『えへ。お粗末様です。お気に召していただきなによりです。』

『また作って欲しい。』

『はい。いつでも言って下さい。』


 睦美は、満面の笑みで俺の食べた後の皿と湯飲みを片付け厨房へ入っていった。


『つ、次は僕だよ!閃!ど、どうぞ。だ、大好きだよ!。』


 俺にハート型の包みを手渡した瞬間、脱兎のごとく走っていく代刃。厨房の前にある扉の後ろへ消える。いや、顔だけ出して俺を見つめてる。


『ふむ。開けて良いか?。』


 一応聞く。


『ど、どうぞ。あんまり期待しないでね。』


 包装を解く。

 ハート型のケースの中に小さな一口サイズのハート型のチョコレートが10個。1個ずつ丁寧に包まれている。

 その内の一つを口に入れる。

 うん。イチゴ味。美味しい。


『うん。美味しいな。』


 イチゴの果肉が混じってる。粒々とした食感とイチゴの酸味とチョコの甘さが絶妙に混ざり合う。

 そうか。10個全部違う果物が混ざっているのか…しかも、全部手作り…代刃の気持ちが伝わって来るようだ。一生懸命作ったんだろう。


『100点。』

『ふぁぁぁぁあああああ!やったぁぁぁああああああ!!!。』


 もう100点しか言ってないな…それで良いのか?この審査は…。


『次は妾だ!閃よ!母の気持ち!存分に受け取ってくれ!!!。』


 リスティナが、

 ドーーーーーーーーーーン!!!っという音と共にテーブルに置いたのは…。


『う…ウエディングケーキ…。』


 しかも、5段重ねだ。何で?バレンタインだよな?。あっ…でもチョコレートケーキだ。


『妾が創造した最高傑作だ。およそこの世界に存在する最も閃の好みの甘さに自動で味が変化するのだ!。』

『…手作りの意味知ってるか?。』

『何を言う。ちゃんと空間を手で捏ねて創ったぞ!。』

『 作る の漢字が違う。これだから創造神は!。で?これ?食えるのか?。』

『もちろんだ。沢山食べろ。ああ、ついでに付加効果で全部食べても太らず満腹にもならないから安心して食べろ。』

『もう…この世の食べ物じゃないな。』

『ちゃんと、この世の素材で作っておるぞ。黙って食え。』

『…。まあ、分かったよ。』


 一口。

 うん。うん。うん。うん。うん。

 美味すぎる…。美味すぎるわ…。

 俺好みの今まで食べたことのない至高のケーキだ。

 良いのか?これ?点数以前に俺の好きな味になるとか反則じゃね?。


『100点…。』

『ふ。当然だな。どうだ?つつ美。これが妾の実力だ。』


 どや顔でつつ美母さんに挑発するリスティナ。もう止めてくれ…この後が怖い…。


『ふふふ~。精々~。今のうちに粋がりなさい~。私のチョコは~。一味違うんだから~。』

『ほう。ならば、見せて貰おうか!。』

『ええ。見ていなさいな~。』

『御二人とも、次は私だということをお忘れですよ?。にぃ様の1番の義妹にして愛人にして恋人にして妻である私の時間が始まったのです!。ザ・灯月タイムの始まりです!。』

『あらあら~。灯月ちゃん~。やる気ね~。』

『むっ…灯月か…。妾の敵となるか見せて貰おうか!。』

『ええ。私の実力、とくと御覧あれ!。』


 ドーーーーーーーーーーン!!!。

 本日2回目の効果音。白い布に包まれた1メートル50センチ程の大きさの何かがテーブルに置かれた。

 すっげぇぇぇぇええええ嫌な予感。


『さぁ。にぃ様。視て下さいませ!。』


 捲り上がる白い布。

 そこに現れたのは…灯月だった…。

 そして、全裸だった…。


『ぶぅぅぅううううううううううう!!!。』

『私の等身大チョコレートです。恥ずかしいですが私の産まれたままの姿を再現しました、ご堪能下さい。にぃ様。ああ、ちゃんとスリーサイズも再現してますのでどうか灯月を隅々まで視漢した上で食べて下さいね。あっ…でも理想は噛まないで好きな部位からペロペロ舐めて下さると嬉しいです。おそらく…全部、食べ終わった後には、おかわりが欲しくなると思います。チョコレートでは質感の再現が難しかったので出来ませんでしたが、おかわりは人肌をご提供致します。おかわりがご希望でしたら私をお呼びください。直ぐ様、にぃ様の元へおかわりをお届け致しますので!。』

『…0点。』

『ぴゃっ!?。』

『何てモノを作ってやがる!食えるか!。』

『そ…そんなぁ…何故ですか?にぃ様?。』

『お前な、逆の立場なら食えるのか?。』

『つまり、にぃ様の裸体チョコレートを目の前にしたらということでしょうか?。』

『…裸体じゃなくて良いんだが…そこ拘るのか…。』

『………。』


 考え込む灯月。


『…無理です。愛しのにぃ様を食べるなんて出来ません…。』

『それと同じ気持ちだ。分かってくれたか?。』

『はい。にぃ様。ごめんなさい。』


 灯月がチョコレートに布をかけ直す。


『それでは此方のは無駄になってしまいましたね。』


 灯月が用意した布は…実は2つあった。


『そ、そっちは何だ?』

『此方は…。』


 灯月が白い布を取る。


『ぶぅぅぅううううううううううう!!!。』

『等身大、女性姿のにぃ様です。』

『ぎゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!。』


 何つぅ物を作ってんだぁぁぁあああああ!。

 しかも普通に裸体だしぃぃぃいいいいい!。


『灯月ちゃん。オジサンが良い値で買おう。』

『いや、灯月の嬢ちゃん。俺に売ってくれ!。』

『てめぇ等!何処からわき出やがった!?。』


 何処からともなく現れる無凱のおっさんと煌真の2人。


『ですが…にぃ様を食べるなんて御二人でも許されないことです。』

『オジサンは食べないよ。冷凍庫に保存して時折眺めるだけさ。』

『ああ、俺もだ。食べるなんてしない。旦那の女体は最早芸術と言っても過言ではないからな!。』


 何を言っているんだこの馬鹿共は…。


『いい加減に…。』『…しなさい!。』

『『がはっ!?』』


 馬鹿男2人に黄華さんと神無が制裁を加える。的確に首の付け根を捉えた目にも止まらぬ手刀…俺でなければ…。


『痛いよ。黄華さん。』

『おう?神無、何すんだ?。』


 特にダメージを受けていないのか。ピンピンしている2人。


『閃君を嫌らしい目で見るからよ。こっちに来なさい!。』

『ああ…閃君のチョコがぁぁ…。黄華さん…そんな閃君に嫉妬しなくて…ぶふっ!。』

『黙れ。』


 黄華さんにソファーの方に引きずられていく無凱のおっさん。むなしく俺の姿のチョコに手を伸ばしながら遠ざかっていく。


『アンタねぇ!何が芸術よ!私の主様に変なこと言わないで!。』

『はぁ?変なことだぁ?何が変なんだよ!旦那の女の姿が芸術じゃないって言うのか?。』

『確かに主様は美しいわ。女の私から見てもね。けど、アンタがエッチな目で見てるのが分かってるから言ってんのよ!。』

『それこそ何言ってやがる。俺的に旦那の女としての魅力は世界で2番目だからな。』

『ふぅ~ん。なら1番は誰よ。』

『そんなもんお前と機美の同率1位に決まってるだろうが!。』

『………ふぅ~ん。まぁ。良いわ。行くわよ。』

『何だ?照れてんのか?。』

『うるさい!では、主様失礼致します。後でチョコをお届けに上がりますので。』

『ああ。ありがとう。神無。』

『はい。ほら!行くわよ!馬鹿!。』

『おう!。』


 神無と煌真が階段を上がって行った。

 仲が良くて何よりだ。

 残された灯月は悲しそうに等身大チョコレート2体を回収していく。


『まぁ、なんだ…モノは問題だったが、良く作ったな。大変だったろ?お前が普通のチョコレートを作ってくれるなら俺はいくらでも食べれるからな。』

『にぃ様…。はい!今度はちゃんと服を着せますので!!!。』


 あれ?。俺の言葉伝わってない?。

 俺の言葉に機嫌を良くした灯月が2体のチョコレートを片付け厨房へ入っていき数秒後戻ってくる。どうやら、母さんのチョコレートが気になるようだ。


『ふふふ~。次は私よ~。』

『つつ美よ。お前の実力見せて貰おうか!。』

『ええ~。良いわよ~。とくと御覧あれ~。』


 俺、灯月、リスティナ、仁さん、厨房の入り口から智鳴、氷姫、睦美、代刃、奥のソファーで瀬愛と黄華さんと無凱のおっさん。

 全員が見守る中、つつ美母さんに注目が集まっていく。


『ふふ~。皆の視線が気持ちぃぃわ~。はい~。閃ちゃん~。受け取って~。』


 そう言って アル ものを手渡してくる。


『バケツ?。』


 可愛らしいピンク色のバケツに入っている大量のクリームチョコ。…と、はけ?。

 盛大に嫌な予感が…。


『閃ちゃん~。どうぞ~。受け取って~。』


 着ている服を脱ぎ始めるつつ美母さん。

 やっぱりぃぃぃいいいいい!!!。

 極小の布面積しかない水着姿となった、つつ美母さんが更に接近してきた。


『はい~。閃ちゃん~。チョコ塗って~。』

『なぁ。母さん…これって…もしかして…。』

『そうよ~。わ・た・し・を・食べて~。』


『『『『『その手があったか~~~。』』』』』


 おい!?誰だっ!今叫んだの!?


『母さん。0点。』

『ええ~。何で~。』

『ふっ…惜しかったな。つつ美よ。』

『いや、惜しくねぇから。』


 そんな感じで沢山のチョコを食べ終えた俺は案の定、胃薬のお世話となった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー廊下でーーー


『あの…閃さん。』

『ん?ああ。美緑と砂羅と累紅か?どうした?。』


 俺を呼び止めたのは元緑龍の3人。

 手には各々小さな包みを持って。


『お世話になってる閃さんに感謝の気持ちです。私のチョコを受け取ってください。』

『私のも、どうぞぉ。』

『わ…私も、これ…受け取って…。』

『ああ。ありがとう。でも、ハート型はないだろう。涼に申し訳ない。』

『え?いえ、あの…涼さんには別のチョコを用意していますし、私は涼さんを家族として好きなんですよ?。』

『ああ。小さい時にリアルで会ってたんだったな。』

『はい。2人目のお兄ちゃんなんです。好きと言うより憧れに近い感情ですね。何でも知っていて頼れるお兄さんです。…だ、男性としてお慕いしているのは閃さんですよ…』


 最後の方は小声過ぎて聞き取れなかった俺は話を進める。

 

『そうか…。また会えて良かったな。』

『…はい。全部閃さんのお陰です。その節は、ありがとうございました。』

『今生きてられるのも閃君のお陰だよ!。』

『ははは。気にするな。チョコありがとうな。3人共。』

『はい。』

『どうぞ。召し上がって下さい。』

『ちゃんと食べてね。』


 3人と分かれた俺は、とある人物探しに戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー矢志路の部屋ーーー


『矢志路君~。特性チョコだよ。受け取って欲しいなぁ。』

『ご主人様。私のチョコレートもどうぞ。』

『僕のも。』

『ん。ありがとう。』


 ベッドの上でボーっとしている矢志路に元黒曜の3人がチョコレートを渡す。

 いつもの省エネモードの矢志路は静かな動作でチョコを受け取った。


『食べさせてあげるね。はい。あ~ん。』

『あむ。(もぐもぐ。)』


 黒璃のチョコを口に含み味わいながら食べ終わる矢志路がいきなり立ち上がる。


『黒璃、これ?。』

『うん。隠し味に私の血を混ぜたんだぁ~。どう矢志路君?気に入ってくれた?。』

『ああ。ははははは!黒璃!身を削ってまで伝えたお前の心。確かに受け取った!愛しているぞ!。』


 血により覚醒した矢志路が高いテンションで黒璃を引き寄せた。


『矢志路君~。』


 キスを交わす矢志路と黒璃。

 その様子を見ていた聖愛と暗も羨ましそうに

矢志路に近付いて行く。


『ご主人様~。私のチョコもどうか召し上がって下さい。』

『僕のも…。』

『ああ。頂こう。』


 2人のチョコレートも口に入れる。


『お前達の愛も伝わったぞ。聖愛、暗。』

『ご主人様~。』

『ご主人様。』

『来い!。』

『はい~。』

『ぅん。』

『今夜は長い夜になるぞ?3人共。心の準備は良いか?。』

『うん。矢志路君。大好き!。』

『私も愛しています。』

『僕も。好き。』


 こうして4人の夜は賑やかに過ぎていった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー廊下ーーー


『無凱。待ちなさい。』

『おや?何か用かい?黄華さん?。』

『…そうよ。はい。義理チョコよ。』


 星形の小さな一口チョコが沢山入った袋を手渡す黄華。


『黄華さん。やっと自分の気持ちに素直になったんだね?嬉しいよ。』

『義・理・チョコって言ったでしょ。じゃあね。受け取ったんだから、ちゃんと食べてよね。』

『はーい。おや?一個だけハートの形のチョコがあるね。しかも、他のよりトッピングが豪華だ。黄華さん…君の愛はちゃんと伝わってるよ。』

『…そう言うのは黙ってなさい!。』


 黄華の拳が無凱の顔面にめり込んだ。


『ふん。じゃあね。…ばか…。』


 去っていく黄華の背中を眺めながらハート型の一口チョコを口に入れる無凱。


『こんにちは。無凱さん。』

『おや。こんにちは。水鏡さん。どうかしましたか?何か困り事かな?。』

『いえ、これ…いつもお世話になってるお礼です。どうか。召し上がって下さい。』


 水鏡が差し出したのはチョコ味のシフォンケーキだった。


『ありがとう。作るの大変だったでしょう。部屋で頂きますね。』

『はい。どうぞ。召し上がって下さい。』


 受け取ってくれたことが嬉しかったのか笑顔で去っていく水鏡。途中で1度振り返り手を振って来たので手を振り替えす無凱だった。


『あ、あの…無凱さん。』

『ん?ああ、柚羽さん。』


 無凱が振り返るとそこに柚羽が居た。


『あ、あの…これ頑張って作りました。食べてくれたら嬉しいです!。』


 チョコチップが混ぜられたクッキーが入ったバスケット。


『ああ。美味しそうだね。どうだい?これから一緒に部屋で食べないかい?1人じゃ寂しいからね。』

『え!?良いんですか?。』

『もちろん。さあ、行こう。』

『はい…。えへへ…。無凱さん…大好き…。』


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー喫茶店ーーー


『おや?光歌に基汐君じゃないか?どうしたの?珍しいね。』

『パパにチョコを渡そうと思っただけだし。』

『光歌に恥ずかしいからついてきてと言われて。』

『そうかい。ありがとう光歌。』

『うん。一生懸命作ったんだからちゃんと食べてね!パパ!。』

『うん。後で頂くよ。』


 上機嫌なのがバレバレな光歌。


『仁さん。光歌に俺もチョコを貰いまして、コーヒーを頂きたいのですが。』

『ん?良いよ?ちょっと待っててね?。』

『はい。お願いします。』

『ダーリン!奥の席行こうよ。』

『おい!引っ張るなよ!。』


 照れ隠しなのが丸分かりの光歌を愛おしく思う基汐だった。


『仁~様~。』


 音もなく階段から降りてきたのは金髪を靡かせた春瀬。


『どうも。春瀬ちゃん。今日も元気だね。』

『はい!仁様に毎日お会い出来るんですもの!こんなに素晴らしい日々の中で感情が落ち込むことなど有り得ませんわ!。』

『ははは。そう言って貰えると僕も嬉しいよ。それで?どうしたんだい?。』


 仁はあくまでも仲間、年上としての大人な対応で春瀬の対応をしている。


『私、チョコのお菓子を作りましたの!バレンタインのプレゼントですわ!どうか召し上がり下さいませ。』

『おお。ありがとう。これはマカロンだね?。』

『はい!色々な味を用意しましたわ!では、早速。仁様~。あ~ん。』

『させないし!。』


 春瀬が仁の口へ運ぼうとしたマカロンを横取りする光歌。


『あら?光歌ちゃんも欲しいのですか?心配しなくても大丈夫ですよ。愛しの光歌ちゃんの分もちゃんと用意してますからね。』


 そう言うと春瀬は仁に渡したのと同じくらい大きな袋を取り出し光歌に渡した。

 光歌はマカロンが好物であり当然春瀬も仁も周知の事実である。


『ふ…ふん。春瀬から何て全然嬉しくないけど、マカロンに罪は無いから貰うだけ貰っておくし…。でも、パパにあ~んは絶対だ『あ~ん』んめもぐもぐもぐもぐ…美味しい…。』

『ふふふ。可愛いわ~。いつでもママって言って下さって良くってよ!。』

『もぐもぐ。誰が呼ぶか!。』

『本当に美味しいね。これ。』

『あらあら。仁様。沢山込めた私の愛もお受け取り下さいね~。』

『いつもありがとうね。春瀬ちゃん。』

『ずきゅ~~~~~~~~~~~ん。その優しくも凛々しい笑顔だけで私は、ご飯6杯は行けますわ~~~。』

『パパ…春瀬を甘やかすなし。』


 その様子を見ていた基汐が届けられたコーヒーに口を付けていた。


『基汐さん。どうもッス!。』

『おう!白!おっす!。』


 突然、現れた白。

 反射的に基汐は白の頭を撫でた。


『気持ちいぃッス!。』

『わぁぁぁぁあああああん!私の癒しは白だけだよぉぉぉおおおおお!春瀬嫌いぃぃぃいいいいい!!!。』

『よしよしッス!。』


 白に抱きつく光歌。その頭を撫でる白。


『今日は、お2人にバレンタインのチョコを持ってきたッス!受け取って欲しいッス!これからも2人仲良くラブラブして下さいッス!。』

『おぉ。ありがとうな。白!』

『はぁ。白~可愛いよぉ~。私達の子になって~。』

『おやおや。なら僕は白ちゃんのおじいちゃんかい?。』

『にしし。悪くないッスね!。』


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー教会内聖堂ーーー


 パイプオルガンが奏でる音色が教会内を優しく彩っていく。


『良い曲ね。』


 空中を浮遊する幽鈴が流れる音色に耳を傾け聞き入っている。


『ふふ。新曲です。貴女に捧げますよ。幽鈴。』

『あら?そうなの?それは素敵ね。ありがたく頂くわ。じゃあ、私からはこれよ。はい。あ~ん。』

『もぐもぐ。うん。美味しいですね。優しい味だ。』

『でしょ?私の自信作よ。でも、残念なこともあるわ。』

『はて、何でしょうね?。』

『ふふ。分かってる癖に。意地悪ね。』

『いえいえ。貴女の口から聞きたいだけですよ。』

『そう。なら教えてあげるわ。これを作っているところを貴方に見られてしまっているところよ。サプライズにしたかったわ。』

『そうでしたか。ですが、嬉しいモノですよ?心から愛している女性が自分の為に不慣れな身体で一生懸命料理をしてくれる姿を見るのは。』

『ふふ。そう。なら良いわ。もう1つ、どうぞ。あ~ん。』

『もぐもぐ。うん。美味しいですね。』

『ふふふ。好きよ叶。愛しているわ。』

『私もですよ。幽鈴。愛しています。』


 聖堂の中心で射し込む光に包まれながら口付けを交わす神父と天使だった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー賢磨の部屋ーーー


 賢磨の部屋の扉が勢い良く開いた。


『賢磨!出来たぞ!特製チョコだ!。』

『おやおや。豊華さん。随分ボロボロですね。』

『ふっ!勲章だ!。』


 豊華は料理の練習を常に続けていた。

 指には相変わらず包帯が巻かれている。


『今日は上手くいったんだ!さぁ、賢磨!食べてくれ!。』


 満面の笑みで高らかに袋を掲げる豊華。


『ええ。いただきますよ。貴女が作ってくれたんですから。喜んで貰います。』

『ああ。舌が溶け顎が崩れ落ちるぞ!。』

『おや、それは大変だ。硫酸か何かかな?。』

『ふふ。言ったろ?チョコだ!。ほれ!あ~ん。』

『そうですか。なら安心ですね。あ~ん。』


 賢磨は躊躇わずに豊華のチョコを口に入れ、そのまま気を失ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー黄華扇桜ギルドハウス前ーーー


『待って下さい!何で逃げるんですか!。』

『だって3人共、凄い恐い顔で追い掛けて来るんだもん!。』


 必死に逃げるピエロこと裏是流を追い掛け回す時雨、響、初音の3人。

 基本ビビりな裏是流は3人に呼び出されるも緊迫した重い雰囲気に堪えられなくなり逃走を図った。


『恐いとか失礼ですよ!裏是流さん!この顔は真剣って言うんです!。』

『それに、私達は裏是流君に何もする気はありませんよ!。』

『待ってよぉ!。』


 もちろん、裏是流も何かされるとは思っていない。だが、生来の臆病さが勝手に逃走に身体を誘導しているのだ。


『こうなったら実力行使です!。拘束鎖錠!。』


 響の鎖が裏是流の周囲を取り囲むように出現し逃げ場を包囲した。


『にゃああああああああああああ!!!。』


 鎖でグルグル巻きにされた裏是流。


『やっと捕まえました。』

『ですが、傀儡じゃなく本体で来てくれたのは裏是流さんなりの優しさですね。ありがとうございます。』


『もう!スキルはズルいよ!こっちは戦う気とか無いのにさ。良いよ。もう逃げないから。』


 女子3人が裏是流に綺麗に包装されたチョコレートを渡していく。


『裏是流さん。あの時、助けてくれて私はとても感謝しています。貴方が好きです。』


 時雨が裏是流にキスをする。


『うぅ…縛られて動けないからやられ放題…。』

『だって逃げる裏是流君が悪いんですよ!。でも、いつも私達の特訓に嫌な顔1つせず付き合ってくれる裏是流君が私は大好きです。』


 響も裏是流にキス。


『わ!私も裏是流君が好きだよ!困ってる時にいつも助けてくれるから!。』


 初音が思いっきり裏是流を抱き締める。

 唇へのキスが恥ずかしいのか頬へのキスだった。

 そして、鎖の拘束が解かれた裏是流にチョコを渡し終わった3人は手を振りながらギルドハウスへと入って行った。


『モテモテッスね。裏是流。』

『何さ。白。見てたの?。』

『バレンタインにチョコの1つも貰えないと思った憐れな裏是流に、折角用意したんッスけど。無駄になっちゃいそうッスよ。』

『ええ。折角作ってくれたんでしょ?頂戴よ。』

『3人から貰ったじゃないッスか。』

『白のも食べたいし。』

『…そんなに欲しいんッスか?。』

『そりゃあ欲しいよ。』

『…なら…ちゅーして欲しいッス…。』

『本当に好きだなぁ。白、いつの間にそんなにキス魔になっちゃったのさ…。』

『モテモテ裏是流には言われたくないッスよ!。』


 ぎこちない2人のぎこちないキスの様子が周囲を歩いている人に見られ、瞬く間に全員に知れ渡ることとなる。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーークロノフィリア拠点廊下ーーー


『あ、あの代刃さん!。』

『ん?。ああ、燕ちゃん。どうしたの?僕に何か用?。』

『あ、あの…これ…どうぞ!。』

『え?チョコ?。』

『はい!代刃さんに私からの…。』


 戸惑いながらも差し出されるチョコの入った袋を受け取る代刃。


『あの…説明したと思うけど、って、今の僕の姿を見たら分かると思うけど僕は女の子だよ?。』

『知っています!理解もしました!。』

『なら…。』

『でも、あの日。初めて会った日に私を助けてくれたのは代刃さんだから!あの日から私の王子様は代刃さんなの!。』

『ぼ…僕は、閃が好きなんだよ?。知ってるよね?。』

『はい。でも、それでも私は貴女が好きなんです!私の王子様なんです!。』


 燕の真剣な言葉に困ってしまう代刃。

 代刃は閃が一筋。他の人何て入れない程深く愛している。

 でも…こんなに必死な燕の気持ちを台無しにしたくない気持ちがある。


『な、ならね。』


 スキル【二重番号】は失ってしまったが、新たに入手した、男の姿になれる【男性化】によって姿を変えられるようになった代刃。

 男の姿へと変わる。


『燕。』

『は…はい。って、いつの間に男性に!?。』

『この姿の時は、お前の王子様になってやるよ。好きなだけ俺と一緒に居ろ!。』

『え?それって…。』

『男の姿の時はお前を俺のモノにするって言ってるんだ。理解しろ。燕。』

『は…はい…代刃…様…。』


 目がハートになる燕。

 この日から2人の奇妙な毎日が始まることになる。

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