第77話 閃の神具②
ーーー美緑ーーー
それは、私が知っている戦いではなかった。
目の前で起きている現象を一言で説明すると 嵐 だ。
突風が吹き荒れ木々が舞う。周囲を巻き込みながら激しく衝突し合う2つの影は、既に私の持つ戦いという知識の常識を容易くぶち壊す。
レベル150。
その話を聞いた時、信じることが出来なかった。
エンパシスウィザメントの最大レベルは120。それでも個の力の差は現れる。
けど…目の前の2体…。
雷皇獣…ゲーム時代ではラスボス クティナの情報公開後に出現した神獣級のモンスター。
初登場は討伐イベントだったと記憶している。
レベルは当時最強の100。私もギルドの皆でイベントに参加した、けど…勝てなかった。
私達だけではない。あの白聖でさえ討伐に失敗する事態。結局…最初にクリアしたのは、いつも通りクロノフィリアの方々だった。
そんな彼等が、ギルド同士の連絡掲示板に雷皇獣の行動パターン、有効的な攻撃方法、弱点などを告知してから、各ギルドのイベントクリアが続出した。
私もその情報を基に再び雷皇獣へ挑み遂に討伐に成功する。
何度も仲間の方々と雷皇獣の研究を行ったから、行動パターンもおおよそ把握出来ていた。
今…私の目の前には、その雷皇獣がいる。
けど…記憶の中にいる雷皇獣ではない…。あらゆる面で強化され、姿も攻撃力もスピードも何もかもが規格外の存在になった化け物だ。
私の目には、微かにしか獣の姿が見えていない。
速すぎる。速すぎる。速すぎる。
なら…その化け物と同等以上に戦い、有利に戦況を進めている彼は?。
クロノフィリア…こんなに強いなんて…。
私のスキルを使用した植物の拘束も軽く外された。私の能力など彼には足止めにすらならないのだろう。
どうやら私は彼の手のひらの上だった訳ですか…情報を引き出すために、わざと拘束されたフリをして…。
だけど、彼は私達を守りながら戦ってくれている。涼さんに会わせるという口約束の為に…初対面なのに…。
『ふふ…。』
『美緑ちゃん。どうしました?。』
『あっ…いえ、何でもありません。』
白蓮…貴方では全ての面で彼には…クロノフィリアには勝てませんよ。絶対に…。
私は再び彼等の戦いに目線を送る。
雷皇獣は四足動物特有の柔軟な動きで地面を駆ける。
爪と牙、帯電と放雷による全ての距離に対応した攻撃を繰り出し続けている。
片やクロノフィリアの閃さん。
全身が白いオーラに包まれ全身に施された刻印が光輝いている。
獣の動きで地を駆ける雷皇獣に対し、閃さんは上下左右を縦横無尽に瞬間移動で対抗していた。
細い枝も、太い幹も、全てを足場に利用して高速で動き雷皇獣と渡り合っている。
私が見えるのは彼等がぶつかり合う一瞬だけ。あとは光の筋が交差を繰り返すだけだ。
人間の私達には 嵐 が過ぎ去るのを待つことしか出来ないのだと…見守ることしか出来ないのだと、気付かされてしまう。
『レベルが…違いますね…。』
クロノフィリアに手を出すべきではない。
改めて認識しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー閃ーーー
もう何度目かの爪と拳の衝突。
『ちっ…流石レベル150だ。今までの敵とは桁違いだ。』
『がっう!!。』
『ふっ…そうか。お前…。』
戦いを繰り返している内に、奴とは妙な一体感を感じていた。
何となくだが雷皇獣の考えていることも伝わってくる。
『俺は全力を尽くしている。お前も隠していないで全てを出せってか?。』
『ばぁうっ!。』
コイツは誇り高い獣だった。
何せ、戦っている最中不意討ちしたことを謝って来やがった。
『ははははは。お前気に入ったぞ!どうだ?俺の仲間にならねぇか?。』
『がっぅがぁぁああ!。』
『俺を使役したければ力を見せろねぇ…。それに?。へぇ…成程ねぇ。じゃあ、やっぱりお前の裏に居るのはクリエイターズって奴等か?。ソイツ等に縛られているって事か?。』
『がぅ。』
俺の想像は当たり。
コイツは、クリエイターズが生み出した個体だ。是非仲間に引き入れたい。
『全力か…。あれ、扱いがすげぇ難しいんだがな。』
俺と雷皇獣の視線が交錯する。
『分かった。だが、本気を出すのは一撃だけだ。それでお前が俺を見極めろ!。』
『がう?。』
全身に纏っているオーラを右手に集める。
『神具…発動…。』
集束された魔力から抜き放たれる銀色の刃を持つ漆黒の長刀。
『時刻ノ絶刀。』
『がっ………。』
俺の刀を見た雷皇獣が後退る。
分かるんだな。獣の本能ってヤツか。
『言われた通り全力だ。一振だけ付き合ってくれよ?。』
ーーーーーーーーーーーーーーー
その様子を見ていた美緑と砂羅は冷や汗を流していた。
『あの刀は…危険過ぎます…。』
『ええ。美緑ちゃん…私…身体の震えが止まりません。』
『安心して、私もです。』
彼と相対しているのは、あの獣だ。
けど…もしも、あの刀が自分達に向けられたのなら…。
『確実に…殺される…。』
それだけの嫌な魔力を発しているんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
女の姿の俺の神具は【時刻法神】と【刻斬ノ太刀】。
この2つは、2つで1つの神具。
クロノフィリアメンバーの全ての能力を内包し時間すらも支配下に置く。全てを得る能力。
対して、男の俺の神具は、【時刻ノ絶刀】。
世界の全てを絶つことが出来る。
それは断つではなく絶つ。
条件は。
『振り抜いた直後に認識していたモノ。』
つまりは。
『お前とクリエイターズの繋がり!。』
跳躍する。
雷皇獣の身体に目掛け刀を一気に振り抜いた。
刀に対し及び腰の雷皇獣は意図も容易く斬り裂かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー?ーーー
『うわっ!?。』
『えっ!?どうしたの?。』
『繋がり…切れちゃった…どうやって?。』
『なんか、変な刀を出してたけど。それ?。』
『多分…ああっ!もう折角作った自信作だったのに!。』
『そんな能力まで持ってる?。』
『そうみたい。私達にまで干渉できる能力とか…そんなのもうバグじゃん…ああ、バグだったね。』
『どうするの?。』
『諦める。しかないよぉ。もう!宝石まで取られちゃうじゃん!。』
『仕方ないねぇ~。』
『それはそうと…何で攻撃モーションが、あっちの時と同じなのさ!攻略されちゃってたじゃん!。』
『う…ん。直す暇無かった。』
『嘘つけぇぇぇぇぇえええええ!!!!!。』
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー睦美ーーー
揺れてる。揺れてる。揺れてる。
意識の覚醒と共に身体に感じる振動。
誰かが私を背負ってる?。
私…どうしてたんだっけ?。
確か…旦那様と緑龍に来てて…雷皇獣…に…。
ハッ!。
『旦那様!!!。』
あれ?。ここ何処?。周囲を見渡して確認するも移り変わることのない木々の流れ。私を背負ってるこの娘は誰?。
『ん?あっ!?。気付いたんだね!良かった。』
私を背負っていたポニーテールの少女は足を止め私を下ろした。
『お嬢ちゃん。大丈夫?どこか痛いところとかある?。』
『えっ…と。大丈夫じゃ。お主は誰じゃ?。』
『じゃ?お主?。』
『ん?どうしたのじゃ?。』
『いや…何か寝言と印象が…。』
その時、私の頭の中に旦那様の傷付いた姿がフラッシュバックした。
私を庇ったボロボロのお姿が…。
『あっ…旦那…様…を探さなきゃ…。』
『嘘っ!?炎の翼!?。』
私は炎の翼を広げ旦那様を探しに…。
『待って!。』
『ぺぎゃっ!?。』
突然、足を捕まれ地面に落ちた。顔面から。
『な、何をするんじゃ!?。』
ぶつけた鼻が自然に治る。
『話を聞かせて欲しいの!。』
『は…話?。ワシは先を急ぐのじゃ!。』
『じゃあ。走りながらで良いからお願い!。』
『…うむ…。まぁ、それなら…。』
『ありがとう。』
『で?ワシは睦美というが、お主の名前は何と言う?。』
『累紅だよ。睦美ちゃんだね。宜しくね。』
『ああ、宜しく頼む。』
翼で飛ぶ睦美と走る累紅。
『睦美ちゃんは…その…クロノフィリアなの?。』
『そうじゃ。』
『此処へは何をしに来たの?。』
『仲間を探しにな。』
『旦那様って誰のこと?。』
『閃のことじゃ。ワシの恋人じゃ…だから、早く見つけないと…。』
『………。その人。探すの手伝うよ!。』
『そうか、すまんな。助かる。』
そんな質問の仕方で何が分かったのか?。
累紅は真剣な表情で走り続けた。