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第76話 雷皇獣

 クリエイターズ…。

 リスティナが俺に伝えた真の敵の名前。

 名前以外の詳細は聞くことが出来なかった。

 …が、今の世界の状況と名前からしてエンパシスウィザメントの開発者…達だろうな。


 当時、エンパシスウィザメントの開発チームは決して表には姿を現さなかった。スタッフロールの一覧も、おそらく全員が別人の羅列だったんだろう。開発会社も不明。開発者も不明。

 謎すぎることばかりの公式に誰一人疑問を持たなかったのも不思議な話だ。

 

 そして、リスティナが俺達、クロノフィリアに託した願い。

 7つの宝石 クティナの肉体 クティナの宝核玉

 3つのアイテム。それらを集めてクロノフィリア全員が集結すること。

 宝石は今現在集めている最中だ。…というか、それが目的の半分で緑龍絶栄まで足を運んだんだ。

 クティナの肉体は、青法詩典でクティナの偽者と戦った時に入手し俺のアイテムBOXに入れてある。

 クティナの宝核玉の在処は現状では分からない。確か、ゲーム時代に最もクティナを撃破したギルドのギルドマスターに与えられるレアアイテムだった筈だ。

 ゲーム最終日時点で、最もクティナを撃破したのは…白聖連団だったと記憶している。ならば必然的に宝核玉は白蓮の手にあるということか。

 宝核玉を探す必要がある以上、白聖との接触は避けられないということ…。

 だが、白蓮は俺達の知らない情報を複数得ている。今までの白聖の動きを鑑みるに…白蓮の背後には何者かがいる可能性は高い…。

 つまり、白蓮は単独で行動していた訳では無く、クリエイターズとかいう連中と組んでいると考えた方が自然だろう。

 おそらく、俺達に奇襲を掛けた雷皇獣もそのクリエイターズとかいう奴等が関係しているのか…。

 たくっ。リスティナからの情報が少なすぎる。

 まぁ、今は目の前の問題を1つずつ解決していくしかないか…。


 俺は意識を覚醒へと持っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


『ん…。こ…こは?。』


 何処だ?。


 目を開けると見慣れない天井?いや、植物だな枝や茎や葉が絡み合っている。


『目が覚めましたか?突然で失礼ですが貴方を拘束させて頂きました。』


 目の前の少女。

 顔に見覚えがあるな。確か…緑龍絶栄のギルドマスター 美緑だ。

 後ろに控えているのは緑龍絶栄の最高戦力 八龍樹皇の1人…砂羅だったか?

 ギルド情報で見たことがある。


 って、拘束したとか言ってたな。

 俺は全身を確認すると複数の植物が身体に巻き付いている状態だ。

 確かに動けない…が、破れないレベルではない。

 だが、少しでも情報が欲しいからな…一先ず拘束されたフリをして会話してみるか。


『ここは何処だ?俺はどうしたんだ?。』


 出だしはこんなところか?。如何にも現在の状況に混乱しているように見せる。

 もしかしたら、緑龍もクリエイターズと関わりがあるかもしれないしな。


『ここは、緑龍絶栄が支配するエリアです。そして、貴方は今、私が所有する秘密の地下空間に居ます。』

『お前は…誰だ?。』

『私は、緑龍絶栄のギルドマスターを務める美緑です。貴方程の方なら知っていると思ったのですが…クロノフィリア所属の閃さん?。』


 どうやら俺のことはバレてるみたいだな。

 男の姿だったのが仇になったか…。


『成程、俺のことは知られてるんだな?。』

『ええ。ですが、分からないことだらけです。何せ、貴方は地上から500メートル以上もある大穴から落下してきたのですから。全身黒焦げの瀕死状態で。何があったかお聞きしても?。』


 そうか、俺はそんな高さから落ちたのか…。よく生き残ったな。睦美を庇ってからの記憶は完全に途絶えているし…。

 あの雷皇獣の一撃は想像の範疇を軽く越えていた。致命傷でもおかしくない攻撃だったんだが…睦美が助けてくれたのか?。

 睦美はこの場には居ないな。

 別々に落ちたか…。無事だと良いが…。


『なぁ。この緑龍には雷皇獣を飼い慣らしていたりするのか?。』

『雷皇獣?。』


 美緑はキョトンとした表情で後ろに控えている砂羅に振り返る。それに応えるように砂羅が首を横に振る。

 知らないってことか…。


『ギルドマスターなら戦ったことぐらいあるだろう?ゲーム時代に存在した、出現するモンスターの中でも上位に位置する神獣級のモンスターだ。』

『はい。それは知っています。ゲーム時代に戦ったこともありますし。ですが、この現実の世界にはモンスターが存在しない筈では?。』


 成程。そういう認識ね。


『そうだと俺も思ってたんだがな…だが、俺を襲ったのは間違いなく雷皇獣だった。不覚をとって一撃貰っちまってな、危うく死にかけた。』


 美緑が知らないなら、今回の雷皇獣の件は緑龍が絡んでいないのか?。

 まあ、組織の一部だけが絡んでるって可能性もあるからな…少なくても目の前の2人はクリエイターズと関係が無い…で良いか。


『俺の傷が治っているところを見るとお前等が治癒してくれたのか?。』

『はい。貴方には直接聞きたいことがありましたので暫く生かしておこうと思いまして。』

『聞きたいこと?。』


 はて。美緑とは初対面の筈だが?。


『今から、いくつか質問します。』


 美緑の足元から鋭く尖った木の根が生え俺の眼前に迫る。

 脅し…間違った返答をすれば殺すってことか?。


『ああ。良いぜ?。』


 何か決心をしたように、真剣な表情で俺を見る美緑。

 軽く深呼吸して、口を開こうとするがなかなか声が出ないようだ。

 暫くすると涙を流しながら聞いてきた。


『…。貴方方、クロノフィリアは…涼さん達を殺しましたか?。』


 涼?。何で今、涼の名前を………ってアイツ、元緑龍か!。忘れてた。

 ああ。成程。美緑は涼達の無事を確認したかったのだ。涼達潜入任務は端骨って奴の独断って言ってたし、映像は光歌が差し替えたからな。神無のスキルで連絡も断たれて、美緑達は涼達の生死を確認する術が無かった訳だ。


『安心しな。涼は生きてるぞ。』

『えっ?…っ!。本当ですか!?。』

『ああ。あと柚羽と威神とその部下達数人全員クロノフィリアの拠点で生活している。』

『ああぁ…涼さんが…。』


 その場に泣き崩れる美緑。

 涼が美緑にとってどれだけ大切な人だったのかが分かるな。


『失礼。私から質問しても宜しいですか?。』


 後ろに控えていた砂羅が前に出る。


『ああ。何だ?。』

『私には信じられません。あの夜に何があったか詳しく教えて欲しいのです。』

『涼達が潜入してきた夜だな?。ああ。疑われるのも嫌だし教えとくぞ。』


 俺は涼達が潜入してきた日の出来事を事細かに説明した。

 200人程の人数で涼達が潜入してきたこと。

 クロノフィリアメンバーで各々撃退したこと。

 侵入してきたメンバーに不穏な考えを持つ者が潜んでいたので俺等が排除したこと。

 などなど。


『とまぁ。こんなところだな。端骨って奴から直接指令を受けたのは狂斗って奴と羽黒って奴だな。何人かの部下もソイツ等が吊るした餌に飛び付いて口車に乗ってた訳だ。ソイツ等は俺達の独断で殺したが問題あったか?。』

『いえ…問題ありません。私達にとっても裏切り行為です。どうやら、本当に彼等は生きているのですね。疑ってすみませんでした。むしろクロノフィリアの皆様に迷惑をお掛けしたことを謝罪します。申し訳ありません。』


 すぐに涼に合わせてやりたいが近くに敵が潜んでる可能性を考えると迂闊に呼べないんだよなぁ。

 通話くらいと思っても緑龍と黄華って日本の端と端だから俺の魔力なんて一発で消し飛ぶぞ。


『美緑って言ったよな。』

『はい。』

『もう少ししたら涼に会わせてやる。だからもう少し待ってくれ。後、先に謝っとくスマン。』

『涼さんに会えるんですか?って何のスマン何ですか?。』

『敵が来たみたいだ。』

『え!?。きゃっ!?。』

『なぁっう!?』


 俺は拘束を無理矢理外し美緑と砂羅を抱えて飛び退けた。


『がぅぅぅううううううううううん!!!。』


 俺達が居た場所に落ちた雷が周囲の木々を燃やしている。相変わらずスゲェ威力だ。


『これは!?雷皇獣!?本当にいたの!?。』

『しかも、ゲーム時代とは比べ物にならない程強大な力を感じます…。』

『あれに俺は襲われたんだ。その様子だとやっぱりアレのことは知らないんだな?。』

『はい。あんなモンスター緑龍にはいません!。』

『あれはレベル150だ。』

『150!?。』

『そんな…バカなこと…。』

『お前達は120で合ってるか?』

『はい。そうです。私も砂羅もそうです。ゲームの上限は120ではないのですか?。』

『細かいことは後で説明するがな、上限は150なんだ。だから、お前達では奴に敵わない。』

『貴方は?。』

『クロノフィリアメンバーは全員がレベル150だ。安心してこの場を任せな。』

『…そうですか。』


 何か納得したように笑う美緑。

 俺は2人を雷皇獣から離れた位置に下ろす。


『防御用のスキルを使っておけ!。』

『は、はい。』

『分かりました。』


 頷いた2人を確認し俺は雷皇獣に近付いていく。

 雷皇獣の攻撃は兎に角範囲が広い。

 あの2人を巻き込まない為にはひたすら接近戦を繰り返すだけだ。


『よう。さっきはよくも不意討ちかましやがったな?滅茶苦茶効いたぜ?。』

『がぅぅあああん!!。』


 俺の話も聞かず、鋭い爪が空を斬る。

 しゃがんで躱し下顎を蹴り上げた。


『ぐっぁぁぶっ!?。』

『くっ!あぶねぇな。』


 帯電している体毛が厄介だ。

 蓄電されている雷によって、こちらの攻撃が一瞬止まるせいで芯がずらされる。


『くっ!?。』


 顎を蹴り上げられた雷皇獣はそのまま宙返り。長い尻尾が俺の顎目掛けて足下から迫る。

 バク転で紙一重で躱す。尻尾から伸びる複数の剣山が俺の服を斬り裂いた。

 次は、横に回転に連動する尻尾。


『ちっ!しつこい!。』


 寝転がって躱す。

 …と来て、次は…。

 前転からの尻尾による叩きつけだろ?。


『がっ!。』

『やっぱり!。』


 読んでいた攻撃を地面を転がって躱す。

 俺と雷皇獣の距離が一定数離れた。

 なら…次はアレか。


『がぁぉぉおおおおおおおおおん!!!。』


 周囲全体に迸る轟音。

 帯電していた雷を一気に放電する。


『だよな!。』


 この技を避ける為には離れて距離を取るより僅かな隙間を縫って接近する方が被害とダメージを最小限に抑えられた。

 俺の急接近に対し雷皇獣が取る行動は…。


『がっぐぁぁぁああ!!!。』


 帯電する牙を使った噛みつき。

 一度捕まると麻痺の効果と継続ダメージで半分以上のHPを持っていかれる近距離で最も注意しなければならない攻撃だ。


『らっ!。』


 噛みつきの口が閉じるタイミングに合わせた回し蹴りが牙に命中。


『がっぁぁぁああああ!!!。』

『くっ!。痛み分けか…。』


 牙にヒビが入り怯む雷皇獣。

 俺も帯電する牙により追撃まで行けなかった。【状態異常無効】の効果で麻痺にはならないが身体が痺れて一瞬止まってしまうな。


 1つ分かったことがある。

 雷皇獣は確かにゲームの時と違い攻撃力、防御力、スピード、スキル、放電範囲のあらゆる面でゲーム時代のステータスを大きく上回っている。

 だが、同じものも存在する。

 それは攻撃モーション。

 ゲームでの雷皇獣は3つの行動パターンがあった。

 1つは、近距離でのモーション。

 帯電する爪の初撃から、身体を回転させた下から上へ、左右に振り抜き、叩きつける3連撃で振り回す尻尾。この時の左右の振りは爪で攻撃した時の左右の腕と同じ方向から繰り出される。そして、最後は牙による噛みつき。

 2つは、中距離でのモーション。

 中距離は放電による牽制が主な役割。

 放電による雷撃を躱した距離によって近距離遠距離の攻撃に切り替えるというもの。

 そして、3つは俺と睦美が奇襲された時の2種類の攻撃。

 複数落雷を発生させる攻撃と、口に集束させた雷を一気に放つ砲撃。

 それが雷皇獣の攻撃モーションの全て。


『がぉぉおおおおおおおおおん!!!。』

『来るか!遠距離攻撃!。』


 雷皇獣の周囲から落雷が迸る。

 辺り一帯を巻き込み見境なしに雷を発生させた。

 あの時、俺達を襲った最初の攻撃は足場を破壊した。


『きゃっ!?。この攻撃…強い…。』


 美緑が身の回りに展開した植物が重なりあって作られた壁は一撃で破壊された。

 レベル150と120じゃ、そもそも相手にならない。いくらギルドマスターの特典でステータスが2倍だったとしても、雷皇獣は更にその上の3倍のステータスを獲得している。

 文字通り桁が違う。


『美緑ちゃん!。』


 雷皇獣の動きで次の攻撃を察したのだろう。砂羅が美緑を守るように前に出た。

 そうだ。落雷の次は…。アレが来る。


『がっぁぁぁぁあああああああああ!!!。』


 異常な速度で集束される帯電された雷。

 口から放たれる それ の直撃は俺でさえただでは済まなかった。

 雷皇獣が持つ最大の攻撃スキル【咆雷哮砲】。

 一直線に放たれる高密度の雷砲。


『おっと、何勝手に狙う相手を変えてやがんだ?。』


 俺は瞬時に美緑と砂羅の間に話って入る。

 僅かに感じる肌にピリピリと来る電気の感覚。


『美緑には涼に会わせるって約束をしてるんでな。殺らせるわけには、いかねぇんだわ。』


 右の拳に魔力を込める。


『おかしいと思ったんだ。お前の雷撃の直撃に対して俺の【初撃無効】が何で発動しなかったのか。』


 奴の雷の攻撃全てに、目に見えない微弱なプラズマのようなエネルギーが放出されていた。

 それが攻撃判定を持ち自動的に初撃無効が発動したようだ。


『だから、もう受けるのは止めた。真正面からぶち破る!。』


 魔力を乗せた右ストレート。

 咆雷哮砲と衝突するも、突き出した拳から発生した衝撃波で雷放が左右に裂けていく。

 裂かれた雷撃が美緑達に当たることはなく左右後方の壁を貫いていった。


『がっ!?。』


 衝撃波が行き着いた先。

 大口を開けていた雷皇獣の口内で雷のエネルギーと衝突して破裂した。


『す…ごい…。』


 小さな声で美緑が呟く。

 取り敢えず2人に怪我がなくて一安心だな。


『そこから動くなよ。』

『は…はい。』


 雷皇獣の放電がより一層激しさを増した。

 ゲームの行動パターンのままなら次は…。

 雷皇獣が【咆雷哮砲】でプレイヤーにダメージを与えられなかった場合、又は、HPが3分の1以下になった場合に形態が変化する特殊スキル。


『獣神強化か。』


 肉体が一回り巨大化し四肢の筋肉が肥大化、ヒビが入った牙は再生、爪と共に更に鋭利さを増す。尾の先端にのみ伸びていた数本の剣は付け根まで剥き出しとなった。


『がぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 スキル【咆哮威圧】。

 並の能力者なら聞くだけで戦意を失う、ステータス低下効果を持つ。


『威圧感がすげぇな。ゲーム時代を遥かに越えてやがる。けどな、俺も準備完了だ。』


 全身に刻まれた刻印が白く輝く。


『スキル発動。【闘神化】。』


 我、神の領域へ踏み入れし者。


『さぁ。第2ラウンドだ!。』


 闘神と獣神の神戦が始まる。

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