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第75話 真の敵

【限界突破2】

 本来、ゲーム エンパシスウィザメントには存在しなかった特殊なスキル。

 ゲーム制作陣ですら、そのようなスキルがあることを認識しておらず、さぞ当時の現場は驚きと混乱に包まれたことだろう。


ーーー


 エンパシスウィザメントには特殊なスキル特典が存在する。

 

 例えば、ギルドマスター。

 ギルドマスターになると特典として、ステータスに補正が掛かり全てのステータスパラメーター(スキルを含む)の数値と効果が2倍になる。

 そして、スキル【司令塔】を獲得する。

 このスキルは、ギルドに加入しているメンバーのステータス全てを、【司令塔】を持つギルドマスターのステータスを10分の1にした数値分が加算され強化するというもの。

 つまり、ギルドマスターが強ければ強いほどギルドメンバーも強くなるシステム。

 この仕様のためエンパシスウィザメントの攻略にはソロプレイヤーよりも、ギルドを立ち上げるか、所属する方がメリットが大きかった。


ーーー


 そして、【限界突破2】の場合。

 スキルとしての効果は。

 全てのステータス内にあるパラメーターの数値を獲得時の最大値から3倍にするという破格の効果だった。

 このスキルの恩恵がクロノフィリアメンバーを最強の存在にしている要因である。

 本来存在しないスキル故に獲得条件などは運営サイドにも不明とされている。

 …が。クロノフィリアのメンバーは知っている。

 スキルの効果説明欄には、スキルの効果と共に、こう書かれていたのだから。


 妾を倒したのだ。

 お前達に、ご褒美のプレゼントをくれてやる。悪いものではないから受け取っておけ。

 スキルの詳細を下の欄に書いておいた。

 存分に使いこなせ。


 …頼むぞ…。


                   リスティナより


 獲得条件として既に【限界突破】のスキルを保有していること。これは、ラスボス クティナを倒すことで獲得できた。

 そして、獲得条件達成時にレベル120であること。レベル120は限界突破を得たプレイヤーのレベルの最大値である。

 最後に裏ボス リスティナを倒すこと。

 この3つの条件を満たした時に獲得できるのが最強の強化スキル【限界突破2】なのだ。


 現在、【限界突破2】を所有している者は…。

 クロノフィリアのメンバー 23人。

 叶の神具扱いの存在 幽鈴。

 クロノフィリアと共に戦った 無華塁。

 の合計25人。


 リスティナを倒した後、世界は今の形に変化した。以降、リスティナを討伐出来る状況を失った為、【限界突破2】を獲得する手段は無い。

 …筈だった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


『やった!流石、私の最高傑作!見事な造形!素晴らしいフォルム!今の一撃ならバグも死んだんじゃない?直撃だったし!。』


 閃達が落ちていった大穴を崖の上から観察していた2人。


『う…ん…。』

『何?どうしたのさ?。』

『最後にバグの仲間の女の子が蘇生のスキルを使ったように見えたんだけど…。』

『え?マジで?全然見えなかったよ?じゃあ、バグの奴生きてる?。』

『完全にスキルが効いてはいなかったから、多分ね、虫の息ではあると思う。』

『そっか~。ならトドメ刺しに行こうかな。』

『でも、大穴に落ちちゃったよ?。』

『滅茶苦茶デカイよね、この穴…見付けるの大変だ~。』

『でも、行くんでしょ?。』

『行くよ。アイツがいる限り私達に平穏は訪れないからね!!。』

『…それにしても…さっきの一撃、凄い威力だったね。初めて見たよ。』

『ししし。リスティナの宝石、使っちゃったのさ!。あれが【限界突破2】の力かぁ。今の私達じゃ再現できないね。』

『ええ…そんな勝手なことしたら、また怒られるよ?。』

『良いの!ここでバグを殺せたら怒られるどころか褒められちゃうしね!。』

『ああ、成程。そうだよね。』

『そうそう。』

『なら、早速探しに行こう。おいで雷皇獣。』

『がぁっう。』

『さぁて。バグは何処に行ったかなぁ~。』


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー美緑ーーー


 緑龍絶栄が支配するエリア。

 ギルドハウスから地下の抜け穴を通り抜けると開けた空間がある。数多くの植物に囲まれる美緑の秘密の庭園だ。


『ふぅ…。気持ちいい…。』


 水分を多く含んでいる植物からシャワーのように降り注ぐ湧き水で水浴びをする。

 私の日課だ。

 周囲を木々が生い茂り、中央には涌き出た水で出来た池がある秘密の場所。

 この場所は私と八龍樹皇の人達しか知らない。


『どうですか?美緑ちゃん。』

『ええ。砂羅。とっても満足です。そろそろ上がりますね。』


 着物姿の綺麗な女性。

 八龍樹皇の1人で砂羅。

 私のお世話をよくしてくれるお母さんみたいな包容力のある人だ。


『では、タオルをお持ちするので待っていて下さいね。』

『はい。ありがとう。』


 タオルを取りに少し離れた物影へ姿を消す砂羅を眺めながら、再びシャワーを浴びる。

 冷た過ぎず温か過ぎないちょうど良い温度。

 身体の疲れを流してくれるみたい。

 

 …その時だった。


 ズザッァァァアアアアアアアアアア!!!。


 何かが大きな音を立てて空から落ちてきた。

 多くの枝や蔦を破壊しながら、それは池の辺りにドサッと転がり落下する。


『なっ…何っ!?。』


 驚いた私は、ゆっくりと警戒しながら近付いて行く。


『男の人?。』


 見ると全身が黒焦げの男性だった。

 死んでる?と思いましたが僅かに呼吸をする音が聞こえる。気絶しているだけみたいですね。


『随分と格好いい方ですね…って…あれ?え?この人って…。』


 その方の顔には見覚えがあった。

 そうだ。忘れる筈もない。

 この人は…この人は…。涼さん達を殺した…。


『クロノフィリア!!!。』


 激昂に任せて周囲の植物を操り枝で彼を貫こうとした…が…思いとどまった。


『はぁ…はぁ…はぁ…。』


 焦っちゃ駄目だ。

 まずは、彼に詳細を確認しなければ。

 端骨の言葉だけでは信用できない。

 ならば実際の当事者に聞くのが一番真実に近いだろう。


『何ですか!?今の音は?美緑ちゃん!?。』

『砂羅…。この方が上から落ちてきたのです。』

『この方?。わっ!?ボロボロじゃないですか!?あれ?何処かで見覚えがありますね。』

『ええ。クロノフィリアの手配書にあった方…クロノフィリで最も危険視されていた人物です。』

『ああ、成程。確か名前は…閃さん…ですね。』

『はい。涼さん達を殺した人…。』

『美緑ちゃん…。…それにしても凄い格好ですよ。』

『あっ…そうでした…。』


 自分が何も身に付けていないことを思い出し砂羅からタオルを受け取り身体に巻き付ける。


『凄い格好なのは彼もですね。全身凄い傷…これで良く生きていますね。』


 彼の傷は死んでいてもおかしくない常態だ。


『どうしますか?美緑ちゃん。』

『…癒します。涼さん達のことを教えて貰わなければなりませんので。』


 彼の身体を地面に仰向けに寝かせる。

 本当に凄い傷…まるで雷の直撃を受けたみたいに…。

 私は魔力で作り出した 種 を地面に植える。


『スキル【樹速成長】。』


 植物の成長を速めるスキル。

 発芽し幹を太くし枝を伸ばし葉を付け緑色の実を実らせる。

 その果実を2つ取り1つを握り潰して、その果汁を彼の身体に塗っていく。

 塗った箇所から少しずつ弱い光が輝き傷を癒していく。傷を癒す植物の実の効果が発揮される。


『もう1つ…。』


 果実を口に含み彼の口に直接流し込む。

 これで、体力や精神面、内臓の損傷に治癒を施す。


『美緑ちゃんは本当に躊躇わずにキスするよね?。』

『え?キスですか?してませんよ?。』

『え?今したよね?彼に?もしかしたら大事な人の仇かも知れないのに?。』

『いえ?してません。キスとは愛し合う男女が互いの唇を重ねることですよね?私はこの人の事を知りませんし他人です。それに、涼さん達を殺したのが本当にこの人なら私は躊躇わずにこの人を殺します。』

『う~ん…。変な方向に真面目さんだね~。』

『むぅ…。砂羅が何を言いたいのか分かりません。…まあ…良いです。これで、この人の傷は大丈夫です。いずれ目を覚ますでしょう。今の内に着替えます。砂羅。服をお願いします。』

『はい。美緑ちゃん。』


 涼さん…。

 私は必ず真実を知るから。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー累紅ーーー


『はぁ…はぁ…はぁ…。何これ?。』


 美緑様の居る場所に向かう途中、私は空を見上げ驚愕していた。

 普段は幾重にも絡まった蔦や根で塞がれている大穴が、今は青空が見える。

 多くの木々が落下してきたのだろう。普段は細い獣道になっている場所は足元が木々の残骸で凄いことになっている。足の置き場もない状況だ。

 まるで…幾つもの雷が落ちたように焼け焦げた残骸。


『あれ?今、何か動いた?。』


 僅かに感じた違和感。

 私はその場所にある残骸を退かした。


『女の子?。』


 木々の残骸に埋もれていた5歳くらいの女の子。見たところ怪我はないけど身の丈より大きい服が黒焦げだった。


『お嬢ちゃん?大丈夫?。』


 揺すってみる。


『っ…。』


 僅かに反応があった。


『良かった気を失ってるだけだ。』


 一先ず安全を確保して、この娘の容態を調べないと。もしかしたらこの上から落ちてきたのかな?。大穴の高さは500メートルくらいある、かなりの高さだ。この高さから落ちれば命は無いだろう。

 だが、奇跡的に木々がクッションの役割を果たしたとか?いや、それでも擦り傷くらいは出来るだろう。

 傷がないか改めて女の子の身体をくまなく調べると…。


『あざ?違う…刻印?。』


 女の子の首の後ろに刻まれた Ⅵ の文字。


『ちょっと待って…この娘…もしかして…。』


 聞いたことがある。彼等は身体の何処かにギルドメンバーの証であるNo.が刻まれていることを…。

 まさか…こんな小さな娘が?。


『クロノ…フィリア?。』

『う……っん…。』


 女の子が僅かに動く。

 あっ…泣いてる…。


『旦那…様…。どこ…?。』


 旦那様?。てか、こんな小さな子供に旦那様とか呼ばせてるの?時代錯誤過ぎない?。

 まあ、多分その旦那様っていう人と離れ離れになったって事だよね?。 

 まさか…こんな幼い子を騙してギルドで奴隷のように、こき使っていたの?。

 クロノフィリアってそんなギルドだったの?。

 でも、旦那様って人を探してるような感じだし…ああ、よく分からない!?。


『はぁ…まぁ、考えていても仕方ない。こんな場所で放置とか出来ないし、美緑様の場所に急がなきゃいけないし…一緒に連れて行くしかないか…。』


 私は気絶している女の子を背負って再び走り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 深く暗い海の底のような場所から意識が浮上していく。

 俺は…どうした?。何があったんだっけ?。

 思い出せ。何が起きた?状況は?。

 すると、徐々に覚醒してくる意識に記憶が追い付いてきた。

 そうだ。

 場所は緑龍絶栄の支配エリア。

 機美とクリティナの宝石を探しに来た。

 睦美と恋人になった。

 そして、雷皇獣に襲われ…睦美を庇い雷撃の直撃を受けたんだ。


「おい。いつまで寝とるんだ?。」


 俺を呼ぶ声。

 暗い空間に漂っている俺を見つめる桃色の髪と赤い瞳を持つ少女。

 コイツは…クリティナ?。

 ゲーム エンパシスウィザメントの裏ボス。


「おっ!気付いたか?お前は確か閃だよな?。」


 クリティナが俺に近付いてくる。


『お前は…クリティナか?。』

「そうだ。私にトドメを刺しといて忘れちゃったわけ?。」

『いや、覚えてる。』

「そ、なら良いわ。」


 何故か嬉しそうなリスティナ。


『ここは何処だ?水の中に居るような感覚なんだが?。』

「ここは、閃の心の中よ。私にトドメを刺した時に貴方の心の中に私の意識を少し紛れ込ませたの。そのせいで私の本来の身体は宝石に封印されて閃の世界に読み込まれちゃったけどね。」

『読み込まれた?。』

「それは、時が来たら話すわ。だから、今は私の言葉を信じて聞いて欲しいの。」


 リスティナが真剣な表情で俺の顔を覗き込む。


『あっ…ああ。わかった。聞こう。』

「ありがとう。時間が無いから簡潔に話すけど、閃達に集めて欲しいものがあって、それは、私の持っていた7つの宝石と、クティナの肉体、あとクティナの宝核玉よ。それがあれば私は貴方達の力になれる。」


 リスティナが提示したアイテムの幾つかは既に入手していた。

 宝核玉の在処はまだ分からない。


『力?。』

「ええ。だから一刻も早く今言ったアイテムを集めてクロノフィリア全員が1箇所に集まって。それが、私のお願い。」


 リスティナの身体にノイズが走る。


「どうやら時間みたいね。最後にこれだけは覚えておいて。閃達の敵について…。」

『敵?。』

「そう。閃達の敵はプレイヤーじゃない、本当の敵は……………。」

『あっ。おい!リスティナ!。』


 リスティナの姿が消えた。


『俺達の真の敵か…。』


 リスティナの残した最後の言葉…敵の名前は。


『クリエイターズ…か…。』

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