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第72話 赤蘭煌王

 カラーーーーーーーーーーーーン…。

 カラーーーーーーーーーーーーン…。

 カラーーーーーーーーーーーーン…。


 戦いの始めりを告げるように鳴り響く教会の鐘。

 鐘が鳴る度に晴天だった青空は徐々に薄暗い雲に覆われ、数分の後、曇天の空へと変化した。


『行くわよ。叶。』

『はい。準備完了ですよ。幽鈴。』


 神父服の男 クロノフィリア No.11 叶。

 白いワンピースの女 幽鈴。

 2人が対峙するは赤蘭煌王所属 群叢。


『クロノ…フィリアぁぁあああああ!!!。』


 待ち兼ねたように全力で此方に向かってくる群叢。肉体の強化を使用しているのか全身の筋肉が膨れ上がり神経や血管が浮かび脈動している。


『無駄ですよ。』

『何ぃい!?』


 触れた対象を爆破させる鉄甲を装備した群叢の拳は謎の光の壁に阻まれた。


『まだぁぁぁああああ!!爆ぅぅうう!!。』


 自身の拳を阻んだ光壁ごと爆発させる。

 あまりの威力に自分はおろか、後方にある境界の壁まで巻き込みながら。


『驚いたわ。この光壁に小さいけどヒビを入れるなんて…。』

『ええ。相当のステータス強化がされていますね。ですが。』

『ええ。肉体がそれに耐えられていないわ。彼、もう死に体よ?。』


 爆煙と土埃の中から現れた群叢はそれでも尚、光の壁を殴り続けていた。


『次は此方の番ですね。断罪の聖剣!。』


 天空を覆う分厚い雲の隙間から射し込む太陽の光と共に放たれる剣。

 光速で放たれた一筋の閃光は群叢の反応速度を容易く上回り、一直線に左腕を貫いた。

 群叢からすれば光が見えた直後、自身の左腕が吹き飛んだように感じただろう。


『がぁぁぁあああああああああ!?腕が!?』


 深々と地面に突き刺さった黄金の剣は光の粒子となって消える。

 

『クロノ…フィリアぁぁぁああああああ!!殺す!殺す!殺す!!!。』


 斬り裂かれた腕を拾い上げ、身体に接続すると傷口同士が絡まり合い修復された。


『何と!再生能力まで?。』

『化け物ね…。そんなスキルは情報看破には出てこなかったけど…。』

『データが破損された。と、出ていましたが、もしかしたら、スキルが減っただけではないのかもしれませんね。』

『作り替えられたってことかしら?。』

『おそらく…どの様な手段を用いたかは分かりませんが…。』


 今度は腕を突き出した構えをとる群叢。


『あれは…。』

『聖光壁!!!。』


 先の爆破で小さなヒビが入った光の壁に幽鈴が魔力を注ぎ込み、瞬時に復旧と強化を施した。


『爆っ!!!!!。』


 突き出した両手から爆炎が放出された。

 周囲を燃やしながら広範囲に広がる炎の波。


『まさか、飛び道具のような使い方も出来るとは…。幽鈴、助かりました。素晴らしい判断です。』

『ふふ。まだまだ甘いわね。叶。』

『なんとも…耳が痛い…。』


『バカな…。』


 おそらく、今のが切り札であったのでしょう。ですが、彼の渾身の魔力の爆炎も聖光壁を傷付けることは出来なかった。


『あえて…回復させてみましょうか?もしかしたら、呪いや洗脳の類いのスキルで正気を失っているのかも?。』

『ああ。有り得るわね。』

『では、早速。スキル!救済の福音!!!。』


 教会の鐘が鳴る。

 鐘の音と共に周囲に放出される光の魔力は傷を負っていた赤皇と群叢の肉体を癒していく。


『俺の傷まで…マジか…こんなに速い治癒スキル見たことがねぇ…。』

『あまり動かないで下さい。傷は癒しましたがダメージがまだ身体に残ってますから。』

『おう…すまねぇ。』

『叶。彼も傷が治っただけでステータスに変化はないわよ?。』

『と言うことは…スキルによる効果ではない。私では救えませんね…。赤皇君。』

『ああ?何だ?。』

『彼を倒してしまっても宜しいでしょうか?。』

『ああ。ああなったのもヤツの自己責任だ。好きにして良い。』

『分かりました。では、一撃だけ。本気で撃ちましょうか。』

『行くわよ!叶。』


 幽鈴が翼を広げ宙に浮き上がり全身から光を放出し周囲を照らしていく。

 それに呼応するように教会そのものが黄金に輝いて、けたたましくも美しい鐘の音が鳴り響いた。


『神具発動。聖天光庭教会!!!。』


 叶の神具は 教会 という建物そのもの。

 庭も咲き誇る花や草、噴水や湧き出る水、そして、教会の上に集まる雲さえも。

 全てが叶の神具である。

 その全てを叶と幽鈴の魔力で思いのままに操る事が出来る。


『これは…やべぇな…。』

『な…何が起きている!?。』


 光の放出が更に強く…眩しく…輝きを増す。


『終わりです。天罰です。神技…。』

『終わりよ。消えなさい。神技…。』


 叶と幽鈴の魔力が融合し、ドス黒く天を覆う重い雲が割れた。


『『断罪の神剣!!!。』』


 割れた雲の狭間より招来し、大地に刺さるは神々が鍛えし黄金の大剣。

 大剣の切っ先が大地に触れる刹那…周囲の全てが 無 と化した。

 地面は抉られ、周りの石や土や草木、巨大な壁までもが消えてしまった。

 当然、直撃を受けた群叢など塵一つ残ってはいなかった…。


『神の元へ…。』


 神剣が光の粒子へと戻り天に昇っていった。


『終わりましたね。』

『ええ。良く分からない相手だったわね。』

『なぁ。お前がクロノフィリアだったんだな。』

『ええ。そうですよ。どうしますか?。ここで戦っても私は構いませんが?。』


 赤皇が暫く腕を組み考える素振りを見せる。


『いいや。やめとくぜ。今の俺じゃあ相手にならねぇのが良く分かった。………黄ぃのと一緒に居たアンタがクロノフィリアってことは黄華とクロノフィリアは裏で繋がっていたって事だよな?。』


 仕方ないとは言え…完全にバレちゃってるわね…。


 隣に居る幽鈴が困ったように呟いた。

 彼女の姿や声は赤皇には見えないし、聞こえない。赤皇は、この場に私と自分しか居ないと思っているだろう。

 

『隠しても仕方がないのでお答えしましょう。ご名答ですよ。ですが…その事実を知ってしまった以上、私の立場的にこのまま君を赤蘭に帰すわけにはいかなくなった訳ですが。』

『そりゃ当然だな。そこで1つ提案なんだけどよ?。』

『何ですか?。』

『俺をお前たちクロノフィリアの拠点に連れてってくれねぇか?。』

『え!?。』

『何を言っているのかしらね?。』


 唐突な提案に言葉を失っていると。


『あ…すまねぇ。言葉が足りなかったな。俺個人的にお前たちと同盟を結びてぇんだわ!。』

『はて、同盟ですか?。』

『おう。正直な話…現状、俺の強さは限界を迎えていてな…これ以上強くなることは出来なくなっちまった。その上、アンタの戦いを見て思った訳よ。このままクロノフィリアに喧嘩売ったところで俺たちは勝てねぇってな。』

『そうですね。現状のままだと厳しいと思いますよ。』

『だから、同盟だ。俺は白蓮と袂を別つ。』

『貴方のギルドはどうするのですか?。』

『俺が信頼している数人…に話を通す。最悪、ギルドが半分に割れるかもしれないが、その場合は俺と俺に付いて来たい奴らで新しいギルドを立ち上げるだけだ。』

『つまり…貴方はもう私達と戦いたくないから自分のギルドを捨ててでもクロノフィリアと同盟を結びたいと…。』

『おう!。』

『清々しすぎるわ…。』

『後は、そうだな。もし同盟を受け入れてくれるのなら、さっきアンタが倒した群叢がどうしてああなったのか教えてやる。』

『ほお、この状況で取引ですか?。』

『まあな。それだけ本気ってアピールよ!。』

『はぁ。仕方がありませんね…。私の一存では決めかねます。一先ず、拠点に案内しましょう。』

『ああ。任せた!。』


 良く分からない展開に困惑しながら、赤皇を拠点に連れていくことになった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ギルド 赤蘭煌王は、ゲーム時代から実力主義の集団として知られていた。

 ラスボス クティナの出現イベントからのギルド方針は加入条件 レベル80以上 という当時としては厳しい条件を提示し、集められたメンバーが今の幹部達である。

 基本的にメンバーの多くはギルドマスター 赤皇の性格も相まって脳筋、単純な思考の者が多く、勘や本能に頼るタイプが殆どだ。

 だが、中には理知的なタイプもメンバーにいる。…が周りが何でも力で解決しようとする単細胞の為、そう言うタイプの人材は必然的にまとめ役の苦労人になってしまうのは何処のギルドでも同じなのかもしれない。


『はぁ…で、これが六大会議の時に話題に出たクロノフィリアメンバーのデータね。』


 モニターとにらめっこしている少女。

 眉間のシワの数と目の下のクマは彼女が赤蘭煌王の全てを取り仕切っていることを見事に表現していた。

 リーダーが全くギルド経営に無頓着のせいで彼女1人がほぼ全てを任されている状態、とてもでは無いが、1人で出来る仕事量では無いのだが…彼女はそれが出来てしまう故に苦労人なのである。


『少し休みましょう。玖霧さん。』

『いいえ。もう少しで終わりだからやっちゃうわ。知果(チカ)こそ疲れたでしょ?先に休憩していて良いよ。』

『そうですか…じゃあ、お茶を淹れてきますね。』

『うん。お願い。うっんと熱いヤツをね。』

『はーい。』


 眼鏡を掛けた少女、知果は棚の横に置いてあったコップにティーパックを入れポットからお湯を注ぐ。


『えへへ…格好良かったなぁ~。私の王子様~。』


 ソファーの上でゴロゴロと寝転んでいる少女が顔を赤らめて思い出に浸っている。


『はぁ。燕もいい加減現実に戻って来なさい。』

『むぅ。私はいつだって現実を見てるよ!。』

『名前も知らない…誰かも分からない…1度だけ自分を助けてくれた人なんて、もう幻みたいな存在じゃない。』

『いるもん!私の王子様は!絶対!。』

『そんなに格好良かったんですか?。』


 3人分のお茶を持ってきた知果。


『うん!絶世の美男子!俺俺系の超イケメン!。』

『そ…そんな方がいるんですね…。』


 勢いに呑まれそうになる知果。


『こら、いい加減に燕はこっちを手伝ってよ!この中に知っている顔はいる?。』

『玖霧さんはどう思いますか?白聖の動き。本当にクロノフィリアを打倒する算段があるのでしょうか?。』

『玖霧は反対派だもんね!。』

『ええ。個人的にはクロノフィリアを敵にするのは反対よ…反対、というより私自身が彼等と戦いたくないの。彼等は私達のようなプレイヤーだった者からすれば憧れの象徴よ?決して白聖や青法のように憎む対象ではないわ。』

『そうですね。私もそう思います。現に彼等は間違いを正す為や、ギルドが攻められた時にしか行動を起こしていなかった。決して自分からは他のギルドに危害を加えることなどしていなかったのですから。』

『だね。怒らせたら怖いけど、普段は優しいギルドってイメージだったもんね。』

『そうね。この手配書だって白蓮個人が恐れているが故に製造された節があるし…。』


 玖霧がテーブルの上にクロノフィリアメンバー10人の手配書を置いた。


『凄いですよね。美男美女ばっかり…。』

『ふん。私の王子様の方が格好良かったも…ん…?あっ、ぁぁぁあああああああ!!!。』


 手配書を眺めていた燕が、その内の1枚を食い入るように見つめ大声を上げた。


『な、何?どうしたの?。』

『急に…びっくりしました。』

『いた…の。』

『え?いたって何が?。』

『私の…王子様…。』


 燕の持つ1枚の手配書。

 クロノフィリア 代刃 と書かれていた。


『代刃さんですか?。彼が燕を助けてくれたの?。』

『そう!そうなんだ…クロノフィリアの人だったんだ…。』

『燕の話では謎の機械から守ってくれたんだったわね?。』

『うん!私の武装も全く歯が立たなかったのにここは任せろって言って助けてくれたんだ。』

『世界がこんな形になった今でも人を助けているなんて…素晴らしいじゃないですか!。』

『ええ。だから私は敵対したくはないの。むしろ同盟を結びたいくらいよ。』

『いっそ、結びましょうよ!。』

『私!結びたい!王子様!。』

『燕の目的は完全に一個人にしか向いてないわね…まあ、ギルドマスターのアイツ次第よ。』

『そう言えば、赤皇さんはどちらに?。』

『群叢君と修行に行ったわよ。』


 プルルルルル…。

 その時、ギルドメンバーに渡されている携帯端末の着信が鳴り響いた。


『噂をすれば赤皇よ。』


 携帯端末のディスプレイに表示される 馬鹿 の2文字。

 少し嬉しそうに通話ボタンを押す玖霧を見て微笑ましく知果が笑った。


『もしもし、何処をほっつき歩いてるのよ?こっちは仕事がたまってるんだからね!早く戻って来なさいよ!。え?。』


 怒りつつも嬉しそうな玖霧の声が戸惑いと疑問の色に変わった。

 不思議に思い玖霧の方を見る知果と燕。


『な!?黄華扇桜との境界の壁が壊れた!?え!?群叢君が死んだ!?ちょっといきなり何言ってるのよ?ちょ、ちょっと…はぁあ!?迎えに来いって…あ、アンタ、いったい今何処に居るのよ…え…。クロノ…フィリア…の拠点…。』


 虚空を見つめ通話が終了した携帯端末を握り締めたまま固まる玖霧は数秒後、頭から煙を吹き出し倒れるのであった。

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