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第71話 神父と幽霊

ギルド 黄華扇桜の支配エリアから北東の方向に向かうと大きな病院と教会が隣接している場所がある。

 そこは、ギルド 赤蘭煌王の支配エリアとの境界線付近であり、建造された巨大な壁が2つのギルドの間を遮っている。

 行き来するには検問所を通過しなければならないが、生憎…人手不足の為、代わりに教会が建てられた。

 その病院は、世界が侵食される前から存在し、現在も病院として機能している。

 もっとも、働いている者達は全て黄華扇桜の傘下であり、全員が能力者である。

 そこに、時折フラりと顔を出す人物がいる。

 教会の所持者であり、病院の経営を陰ながら支えている人物。


 白い教会の鐘が鳴り響く。

 教会前には、大きな噴水と様々な植物が咲き誇る庭がある。

 そこをゆっくりと車椅子で散歩している少女が居た。その男は、ゆっくりと少女に近付いて行く。先に気付いたのは少女の方だった。


『あら。お帰りなさい。叶。』

『ただいま。幽鈴(ユスズ)。』


 叶は何も言わずに少女の背後に回り車椅子を押す。


『なかなか戻れず、すみません。』

『いいえ。黄華さんの護衛も立派な仕事、私のことは気にしなくても大丈夫ですよ。』

『そういう訳にはいかないですよ。大切な人をほったらかしにするなんて…神父の前に男として落ちぶれてしまいます。』

『ふふ。そういう真面目なところも大好きですよ。』


 沈黙した空気が2人の中を流れ…暫くの間、無言の時間が過ぎていく。


『…幽鈴…私を怨んでいますか?。その様な姿にしてしまった私のことを…。』

『何度も言ってるけど。怨んでいないわ。それに貴方のせいではないでしょ?。』

『いいや。私があの時、ゲームに君を誘わなければ…そんな不自由な姿にしてしまうこともなかった筈です。』

『考え過ぎ。ゲームはとても楽しかったし。貴方との大切な時間を沢山作れた。それに私は今の身体を不自由とは思わないわ。』

『まともに歩くことも出来ないのにですか

?。』

『でも、浮かべるわ。それに飛べるわ。』

『クロノフィリアのメンバー以外には見えないのに?。』

『心の繋がった仲間に見えていれば充分よ。』

『常に魔力を消費していないとモノを動かすことも出来ないのに?』

『でも、すり抜けられるわ。』

『………。』


 このやり取りも何度も行っていることだ。

 彼女の答えはいつも同じで変わらない。

 私は彼女を情報看破で視認する。


ーーーステータスーーー


名前   幽鈴

レベル  150

所属   クロノフィリア

種族   聖幽霊体神族

特殊概要 叶の神具


ーーーーーーーーーーー


 これが、彼女のステータス。

 そう。彼女は私の武装として生きている状態なのだ。

 ゲームの設定が反映されたこの世界では幽鈴は同じレベルの者達以外には見えない。

 まさに幽霊のような存在。

 隣にある病院の人々にすら彼女の姿は見えていない。

 しかも、彼女は足が消えてしまっている故に歩くことも出来ない。だから、車椅子を使用しているのだが…他の者から見れば当然、車椅子だけが動いているように見えてしまう。

 噂が広まったせいで怖がって誰も教会に近付かない。

 話好きの彼女には余りにも孤独な現実となってしまった。

 それでも、彼女は隣にある病院を他のギルドの侵入から守るために、この教会に居続けている。


『そろそろ。入りましょうか。』

『ええ。押すのお願いね。』

『もちろん。』


 幽霊の彼女は種族スキルとして【浮遊】や【透過】といったスキルを保有しているのだが、常に魔力を消費するので、あまり使っていない。車椅子を自力で押すのだって【実体干渉】というスキルを使用しないと動かせない。が、動かし続ける為にはスキルを使用し続けないといけない。彼女が普通に生活するには魔力の消費が激し過ぎるんだ。

 私が近くに居れば、私の魔力が自然に彼女に流れ込むため彼女が負担を負うことがない。


『私は叶に触れられるだけで満足よ。』


 彼女は私の神具という扱いだ。

 当然、所持者には無条件で触れることが出来る。


『そうですか…。男としては嬉しいですが、貴女の日常と引き換えにしていては…。』

『考え過ぎよ。でも、色々考えてくれてありがとね。嬉しいわ。』

『ふふ。貴女の笑顔は私をいつも救ってくれます。』

『ええ。私は貴方の女神ですからね!。ほら翼だってあるんだし!。』


 幽鈴頭の上には光の輪が、背中には天使のような翼が生えている。私の神具になった時に現れたそれらによって幽霊のような見た目ではなく彼女は天使へとなったのだ。

 きっと私の種族に反映されたのでしょう。


 私達は教会の中へ入る。

 聖堂を抜け、奥の扉を開けると居住スペースになっている。


『ふふ。魔力の消費を気にしないで動けるのは、やっぱり良いわね。』


 ゆらゆらと移動しながらお茶の用意をする幽鈴。


『もう少しの辛抱です。無凱君に言って病院を黄華扇桜のギルド会館近くに移動しますので。』

『そうね。そうすれば貴方と、もっとずっと一緒にいられるしね。私の、わがままで引き延ばさせてしまって、ごめんなさい。』

『気にしないで下さい。貴女が元々働いていた場所を守りたい思うのは当然の事ですし、どのようにしても移動には時間が掛かる。貴女のせいではありませんよ。』

『ありがとう。』

『いいえ。』


 椅子に座っている私の横に移動し体重を預けてくる幽鈴。私には、普通の人間のように彼女の重みや温もりを感じることが出来る。

 彼女が何も気兼ねなく触れることが出来るのが私だけになってしまった。

 私のせいで彼女をこのような設定にしてしまったのだ。私は一生後悔するでしょう。


『ま~た。私の事で後悔してるでしょう?。』

『ええ。分かりますか?。』

『当然よ。顔に出過ぎです。』

『ふむ。仲間達からは表情が読めなくて不気味と言われる時もあるのですが…。』

『ふふ。貴方が自分を、さらけ出せるのが私だけなのは役得ね。』

『そう…ですね。貴女は私の大切な人です。私は貴女には嘘や誤魔化しをしたくはありませんから。』

『ふふ。嬉しいわ。まぁ、それは私も同じよ。貴方を愛しているわ。』


 私達は自然に唇を重ねた。


ーーー


『ほら、朝よ。叶、起きなさい。』

『…はい。おはようございます。幽鈴。』


 互いに抱きしめ合いながら眠りについたようだ。腕に中にいる彼女が私の顔を見上げている。


『ふふ。本当に叶は、私の前では甘えたがりね。でも、そこが好きよ。』

『そうですよ。私には貴女とクロノフィリアしかありませんからね。そのどちらかを失う事があったのだとしたら…私は自分がどうなってしまうのか分かりません。』

『ダメよ。叶。私とクロノフィリアが大事なのは分かるけど、その中にちゃんと自分自身を入れないといけないわ。』

『ははは、そうでしたね。私は自分もとても大切ですよ。』

『そうよ。自分を大切にしない人は他の人も大切に出来ないもの。…けど、大切にし過ぎるのは問題だけどね。』


 互いにクスクスと笑い合い。軽いキスを交わし起き上がる。

 幽鈴はゆらゆらと浮き上がりカーテンを開き窓を開けた。朝の陽射しが部屋いっぱいに広がり涼やかな風が部屋の中を通り抜けた。


『叶。今日はどうするの?。』

『今日は特に用事はありませんので…病院の方でも見…。』


 て来ようかと思います。っと言おうとした。

 その時だった。

 ドゴーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 と何かが爆発したような音が周囲に響き渡った。


『用事出来たわね。』

『やれやれ。勘弁して欲しいですね。』


 何処の誰かは知りませんが、私と幽鈴の緩やかな朝の時間を邪魔する者は許しませんよ。

 そんなことを考えながら音の発生源へ向かった。


『あらぁ。大変じゃない!壁が壊されちゃってるわ!?。』

『そのようですね。結構硬い物質で造っていた筈なんですが、こんな容易く…。』

『叶。誰か居るわ。』

『ええ。幽鈴。油断しないようにして下さい。』

『ええ。もちろんよ!。』


 支配エリアを遮っている壁は高さ20メートル。性質はゲーム時代に良く武器などの素材として使われていた特殊な金属。高い魔力耐性を持ち、硬度もゲーム内に存在した全金属の中で上から3番目の硬さを持つ…。


『筈なんですけどね…。』

『見事に粉々ね…。』


 粉砕された壁の中には1人の人間が立っていた。その風体に見覚えを感じながらも、情報看破を発動する。


ーーーステータスーーー


・名前   群叢(グンソウ)

・レベル  120~150

・所属   赤蘭煌王

・種族   破軍戦王族

・スキル

 データ破損 バグ修正プログラム


ーーーーーーーーーーー


『あら。見たことあると思ったら赤蘭のギルド幹部じゃない。』

『ええ。そうですね。ですが、レベル120程度では、あの壁は破壊できないと思いますが…。様子がおかしいですね…。』


 データ破損?バグ修正プログラム?

 確か…無凱君や仁君が、その様な単語を使っていましたね。

 彼とはゲーム時代に何度か戦った事があります。装備はゲームの時のままのようですね…。


『見つけたぞ…クロノフィリア…。』


 焦点の合わない瞳で此方を向く群叢。


『私達がクロノフィリアってことを知っているみたいね。どうしようか?』

『話が通じる様子でもありませんし…彼の出方次第ですね。』


 群叢の腕に装着している鉄甲は確か…触れた対象を爆破させるんでしたっけ?

 あれで壁の破壊を?。

 確かにゲームの時の記憶ではそれなりの威力を持っていたと思いますが…あの壁を破壊出来る程ではありませんでした。


『クロノフィリアは殺す!!!。』

『馬鹿野郎が!!!。』


 彼が一歩を踏み出した。その瞬間…。

 彼の身体が地面に叩き付けられた。


『ったく!黄ぃのに何て言えば良いんだよ!壁壊しやがって!。』


 群叢を殴り、地面に叩き付けた人物は赤蘭煌王のギルドマスター 赤皇。


『すまねぇな。うちのバカがバカなことを仕出かしちまって…ん?お前…見たことあるな。会議ん時に黄ぃのが連れてた強い奴じゃねぇか?。』


 おや?脳筋タイプに見えましたが、記憶力は良いのですね。


『ええ。そうですよ。会議の時以来ですね。』

『おう!見たところ侵入者対策の監視ってとこか?。』

『ええ。貴方の所からギルドに所属していない無法者がやって来るものでね。』

『ああ。それはすまねぇな。俺のギルドは基本適当なんでな。無法者を取り締まる奴が少ねぇんだわ。』

『実力主義も困ったものだね。』

『ははははは。』


 笑って済ませる彼。

 別の意味で会話が成立しないね。


『クロノ…フィリア…。』


 立ち上がる群叢。


『ああ?俺、結構本気で殴ったんだがな?アイツあんなにタフだったか?。』


 見たところあまりダメージは入っていないようだ。いや…ダメージを受けたと認識していない?痛みを感じていないのか?。


『クロノ…フィリアぁぁぁあああああ!!。』

『さっきからクロノフィリアを連呼しやがって!俺達は奴らに干渉しないって決めただろうがぁぁぁああああ!!!。』

『死ねぇぇぇええええええ!!!。』


 拳と拳がぶつかる。


『コイツ…こんなに強かったか!?俺の拳が!?。』

『爆っ!!!』

『がっぁぁああああ!!??。』


 赤皇の拳が押され始めた時、鉄甲に触れていた赤皇の身体が爆発する。


『がっ…何だ…この威力は…。』


 爆発の直撃を受けた赤皇の右腕は完全に破壊され、その上で爆破の衝撃は腕に留まらず全身を巻き込んだ。


『成程、理解しました。あの一撃なら壁を破壊出来る。いや…連擊なら尚更か。ギルドマスタークラスを一撃で戦闘不能にするレベルの攻撃。』


 明らかにレベル120を超えている。


『やれやれ。幽鈴。』

『ええ。分かってるわ。』


 幽鈴のスキル【念動操作】。

 俗に言うポルターガイスト。モノを触れずに動かすスキル。

 念動操作により、赤皇の身体を引き寄せる。


『おっ…な、何だぁ?。身体が!?。』

『安心して下さい。私のスキルです。』

『お前の?何故…俺を助ける?。』

『貴方は彼を止めに来たのでしょ?なら私達はまだ敵ではありませんからね。』

『ああ。そうだ。お前ならアイツを止められるか?。』

『そうですね。やってみなければ分かりませんが…そこそこ行けると思いますよ。』

『もしかして…お前…クロノフィリアか?。』


 私を見る赤皇の質問に笑顔を返す。感は良いのですね…本能に正直と言いますか…。

 私は群叢の方を見る。


『クロノ…フィリア…殺す!殺す!殺す!』


 狂っていますね。完全に正気ではない…。


『あれは、ちょっと無理そうね…。』

『ええ。何が原因であのような状態になってしまったのかは分かりませんが…正気に戻す手段はあるのでしょうかね?。』

『下手に後手に回ると此方がやられちゃうわよ?。』

『なら…。倒すしかありませんね。』

『ふふ。そうね。』

『おや?嬉しそうですね。』

『ええ。ゲーム時代以来の戦闘ですもの。久し振りに暴れられるわ!!!。』

『貴女がやる気なら仕方ありません。私達の力を彼に見せ付けましょうか?。』

『ふふ。そう来なくっちゃ!!!。』


 群叢が走る。一気に私の懐まで迫る。

 だが、強靭な脚力による素早い接近を天空から放たれた光の閃光が邪魔をした。

 状況判断も危機回避能力も早い。瞬時に閃光が危険だと判断し距離を取った。


『さて、幽鈴。自己紹介をしましょうか。』

『ええ。名乗りましょうか。』


『初めまして、群叢君。私はクロノフィリア所属 No.11 叶。そして、パートナーの幽鈴です。残念だけど、君は私達に倒される。クロノフィリアの 悪組 に喧嘩を売ったのです。覚悟して下さいね。』

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