第69話 柚羽の想い
『こんな場所に洞窟があったんだね。知らなかったなぁ。あっ、そこ出っ張りがあるから気を付けなよ?柚羽ちゃん。』
『はっ、はい!。』
先を歩く無凱さん。
私、柚羽は、その後ろを必死に付いて行く。
現在、私達が居る場所はギルド 黄華扇桜の支配エリアの南に位置する海と山に囲まれた所。海沿いを歩いていくと海側から山に向かって伸びる洞窟を発見した。
昼を過ぎ、気温が最高潮の現在、私の身体は全身が汗まみれである。早く拠点に戻ってお風呂に入りたい。あと、あんまり無凱さんに汗の匂いを嗅がれたくない…。
そんな微妙な心境の中、足場の悪い洞窟内を必死に進んで行った。
『何か、自然に出来たにしては…違和感のある洞窟ですね?。』
洞窟内を観察し無凱さんに質問する。
何でしょう?。違和感の正体は分かりませんが、視界から得られる情報に何かを感じます。
『そうだね。多分、岩の形じゃないかな?。』
『岩の形?。あっ!。』
洞窟内は岩だらけだ。
良く見ると岩の所々に人工的に切り抜かれたような…自然では絶対有り得ない形の岩がある。
まるで…。
『この洞窟内を作るために元々あった何かの建造物を破壊しながら穴を掘った…みたいだね。』
『はい。雑というか…急いでいたのか…。』
かなり入り組んだ道を突き進むこと6時間が経過した。能力を得て、肉体が強化されている身体でも、代り映えの無い風景からの終わりの見えない洞窟探検は精神的にも肉体的にも疲労を誘発する。
『疲れたかい?。』
『いいえ!まだ…大丈夫です!。』
『…はは。無理しないで大丈夫だよ。そうだね…この辺りで今日は休もうか。』
『…はい。すみません。』
本当に、この人は私の心を読んでるみたいな…何でも分かっているみたいな…態度で話す。
『本当は、僕の箱で拠点まで戻って休ませてあげたいんだけどね。』
無凱さんのスキル 箱 は、離れた箱同士を繋げることでワープゲートのように移動することが出来る。条件は1度、自らの足で踏み入れた場所でなければならない、というもの。
だから、この場所から拠点まで戻れば、また明日はこの地点から再開出来る。筈なんだけど…。
『この通りさ。』
無凱さんは手のひらに乗るくらいの魔力の箱を作り出し、その中に腕を入れた。
『本来なら腕は別の場所、今は拠点の入り口に設定してるんだけど…そこと繋がる筈なんだ。けど…。』
無凱さんの腕は箱の中のまま。ワープしていない。
『この場所に…洞窟に入ってからなんだよね。完全に外部との繋がりが断たれている。』
『成程。では、やはり此処には何かがあるんですね!。』
『まあ、そういうこと…なんだけどね。仕方ない、作るか…。』
無凱さんは、適当な広さの岩場を見付け、その場に箱を作る。ちょうど箱の下半分が岩に入るように…。
『で、回りに箱を出して入れ替えると…。』
箱の中にあった岩の下半分が横に作り出した箱と中身が入れ替わった。箱を利用して岩を切断してるんだ…。気が付くと箱の形の穴が出来ていた。
『そして、お湯を入れて汚れを取り…また入れ替えて、お湯を洗浄っと…。』
岩場の汚れをお湯で洗い流し…別の箱へ。
無凱さんの箱は中に入れるモノを任意で決定できる。お湯で洗い流した汚れの部分は箱に入れずに綺麗なお湯に戻した。
『汚れた部分は適当に捨てるっと。で…別のお湯を入れれば。はい。完成っと。』
『ああ。温泉ですね!岩風呂ですか。』
『そ、汗かいたでしょ?拠点に戻れないなら此処に作るしかないしね。僕は、そっちで見張りをしながら晩御飯の用意をしてるから柚羽ちゃんは、ゆっくり疲れを取りなよ。』
そう言って岩の影に消えていこうとする無凱さんの手を取った。
あれ?私は何をしてるの?。
『ん?どうした?。』
『あっ…いえ…あの…晩御飯の用意は私がします!だから、先に無凱さんが入って来てください!。』
『え?いや、良いよ。柚羽ちゃんの方が入りたいでしょ?僕は別に入らなくても気にしないし。』
えーーと…。えーーと…。えーーと…。
『あっ!どうせ隠れてお酒でも飲むつもりなんでしょ!そうはさせませんよ!私がちゃんとその辺も管理しますから!先に入って来て下さい!。』
『えぇ…。酒飲むつもりは…『良いから!入ってきて下さい!』…はい。』
私は…何をしているんだぁぁああああ…。
『まあ。柚羽ちゃんがそう言うなら。先に頂くよ。』
『はい!ゆっくりしてきて下さい!。』
『はーい。』
無凱さんがお風呂の方に消えていく。
『どうしよう…。』
自分の行動が理解できない。
一瞬、考えた…とんでもないことを実行しようとしている自分がいる…。
『…自分の…気持ち…。うん。隠そうとしても仕方がない!当たって砕けろよ!』
私は…無凱さんの後を追った。
『はぁ…我ながら良い感じの出来だねぇ。』
無凱さんはお湯に浸かっていた。
頭の上にタオルを乗せ、ぐったりと足を伸ばしリラックスしている。
ああ。あんな子供みたいな顔も格好いい…。
って…私は何を考えている?よりにもよって私が無凱さんを覗きとか…。
いや。今回は覗きで済ませる訳にはいかないんだ!私の気持ちを伝える!そう…決めたんだから!。
私は急いで服を脱ぎ始めた。
『いい湯だね~。』
ご機嫌な無凱さんに近付いて行く。
『無凱さん。』
『ん?あれ?柚羽ちゃん?って、なんて格好で来てるんだい?』
私は、タオルを巻いた姿。
流石の無凱さんも予想外だったみたいで珍しく慌ててる。くすっ。そんな顔も出来るんですね。
『あの…タオルは取りませんから一緒に入っても良いですか?。』
『え?。ああ。1人じゃ、怖かったのかい?ごめんね。そこまで気が回らなかったよ。まあ。こんなオジサンとで良いならどうぞ。オジサンは反対向いてるから。ゆっくり浸かりなよ。』
そう言った無凱さんが背中を向けた。
大きな背中を…。逞しい背中を…。
私はゆっくりお湯に浸かる。
心臓が大きく鳴ってる。恐らく、今の私の顔は真っ赤に染まってるだろう…。あの…無凱さんと混浴してるんだから。緊張しないわけないよ。
『どうだい?お湯は黄華さんの所の大浴場から持ってきたんだ。気持ちいいだろ?。』
『っ!?。』
黄華さんの名前を聞いた途端…私の心拍数が上がる。
『はい…とても…。』
私は…決心を固めた。
『無凱…さん。』
纏っていたタオルを外し、大きくて逞しい無凱さんの背中に抱き付いた。
『ん?あれ?どうかしたの?て、何で裸で抱き付いてるのさ?。』
『無凱さん…私は。貴方のことが好きです。』
『………。』
『初めて会った時、貴方は私を殺さなかった。何度も私の成長の為に特訓のメニューを考えてくれて…特訓に付き合ってくれた。導いてくれました…。普段のだらしない態度も…。いざという時に助けてくれる姿も、優しいところも…。貴方の全部が大好きです。』
『…そうか…。』
無凱さんは振り向いて私の両肩に手を置いた。
『ごめんね。君の気持ちには応えられない。僕は黄華さんが今でも好きなんだ。』
『っ…。』
『君の気持ちには気付いていた。いつかは告白か…それに近いアプローチをされるかも、とは…考えていた。それなのに、僕は君を育てるという選択をして君と一緒に居てしまった。ごめんね。結果的に君を惑わせてしまったみたいだね。』
『…私の…気持ち…気付いていたんですね…。』
『うん。君の気持ちは嬉しかった。その気持ちに応えられない僕を恨んでくれて構わない。』
『そんなこと…しませんよ。』
無凱さんは困った顔をしながらも私の瞳を真っ直ぐに視てくれている。私の真剣な想いを受け止めてくれてる…。
そんな無凱さんを更に好きになってしまう自分がいるんだから…私も本当に困った人間だ。自分自身の心が抑えられないんだから。
『無凱さんの黄華さんへの想いは知ってましたしね。その逆もですけど…。』
『それにね。こんなオジサンより、もっと若い男の…『そんな人いませんから!』…おっ!…おう…。』
予想通りなことを言おうとする無凱さんの言葉を遮る。どうせ、これも取り敢えず言ってみた感じなのでしょう?。お見通しですよ!。
短い期間ですが。私が好きになった人なんですから、ちょっとした考えなら読めます!それだけ一緒に居たんだから!。
『私は無凱さんを諦めません!それに…こんな世界になって能力を得た人間は年をとらないのでしょう?なら、殆ど永遠の命のようなモノじゃないですか!なら、女性の1人や2人、支えられる男性になってもバチは当たらない筈です!いいえ。無凱さん程の男性ならもう出来ます!だから!私を無凱さんの女にして下さい!。』
一気に想いを込めて言葉にした。
自分でも滅茶苦茶なことを言っているのは分かっているし、正直意味が分からないことも言っている。でも、私の想いを無凱さんに伝えるのはこうするしか思い付かなかったから…。
『はは。ありがとう。そこまで僕のことを思っていてくれたんだね。』
そう言って、無凱さんは私の頭を いつも のように数回撫でると、今度は私の身体を引き寄せ抱きしめて来た。
え?え?え?何が?起きてるの?。無凱さんの厚くて固い胸板が…力強い腕が…割れた腹筋が…優しくて格好いい顔が…目の前に…。
『僕も覚悟を決めたよ。柚羽ちゃん…いや、柚羽さん。今から君を1人の女性として接することを約束する。僕の大切な女性になって欲しい。』
『っ!?。』
目の前の真剣な無凱さんの顔。
そして、無凱さんの優しくも決心に満ちた瞳。重くて1本の筋が通った覚悟の言葉。その全てが私を温かく包み込んでくれる感覚。
私の…想い…届いて…くれた…。
涙で無凱さんの顔が見えないよぉ。
『…はい。これから…宜しくお願いします。大好きです。無凱さん。』
『ああ。僕も君が好きだよ。柚羽さん。』
私たちは暫く互いの身体を抱き合った。
ーーー
どれくらいの時間をそうしていたのだろう。
ふと、無凱さんが私の身体をそっと離した。
『柚羽さん。そろそろ、その格好はマズいかな?出来ればタオルを巻いて欲しいんだけど…。』
その言葉に私は自分が今、何も身に付けていない素っ裸だということを思い出した。
途端に、全身が驚きと恥ずかしさで真っ赤に染まったことだろう。目にも止まらぬ速さで横に置いたままになっているタオルを拾い身体に巻いた。
『し、失礼しました。お見苦しい姿を見せてしまって…。』
ああ…嬉しさで、頭の中が真っ白になったせいで無凱さんに恥ずかしい姿を見せてしまいました。はしたない女だと思われたよね…。うぅ…。死にたい…。
『全然、見苦しくなんてなかったよ。正直…綺麗だった。』
『ぼふっ!?。』
頭の中の何かが破裂した。
綺麗だった?無凱さんが私に言ったの?あの…無凱さんが?私を…綺麗だったって?。
『もっと、見ますか?。』
『ははは、心惹かれる誘いだけどね。それは今度にしようか。』
『あっ…そうですね。ごめんない。』
私は何を言っているんだぁぁぁあああ!。
『じゃあ。少し、お話しようか。』
『お話ですか?。』
『そっ。』
無凱さんは私の横に移動して腰を下ろす。
隣に無凱さんがいる…。
告白に成功した今、無凱さんが光って見えるよ…素敵…。
『ははは。』
急に笑い出す無凱さん…素敵…。
『ど、どうしたんですか?。』
『いや…君のことを黄華さんに色々言われててね。』
『え!?黄華さんが?。』
『そう。黄華さんが言った通りのことを君が言ったモノだから可笑しくてね。』
『え!?。』
『あれは…5日くらい前だったかな?。』
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深夜の喫茶店。
入り口の灯りは消え、店内には男が2人。
1人はカウンターに立つ…仁。
もう1人は、カウンター席で酒を飲む…無凱。
この光景は毎日のこと。
その日の情報の共有と、これからの行動方針の話し合い。
話しも一段落した頃、珍しい人物が階段を降りてきた。
『こんばんは。』
『やあ。珍しいね。黄華さん。』
階段を降りてきたのは黄華さんだった。
『少し無凱に話があるの。』
『僕かい?何かな?。』
チラリと仁を見る黄華さん。
空気を察してカウンターの奥に消える仁。
『それで話って何かな?。』
『分かってる癖に聞くのね。まあ、良いわ。柚羽さんのことよ。』
『…そうか。』
『気付いてると思うけど。あの娘は、貴方に惚れちゃってるわよ。』
『うん。そうだね。こんなオジサンの何処が気に入ったのかな?。』
『…どうするつもりよ?。』
『どうするって?。』
『あの娘は、近いうち…貴方に告白するわ。』
『…何で分かるんだい?。』
『…あの娘は私に似てるもの…似すぎってくらいね。顔も少し似てるでしょ?。』
『そうだね。君に似て凄く美人さんだ。』
『ふん。だから、分かるのよ。あの娘がしようとしてることとか…思考や態度まで若い時の私そっくりなんだから…。』
『僕はね。今でも君が世界で一番好きさ。何よりも誰よりもね。』
『……………ぅ。そう、私は貴方のことが嫌いよ?。』
『ははは。そうかい。そういうこと…にしておくよ。』
『…話が逸れたわ。私が言いたいのは、もし…あの娘が告白してきたら、受け入れてあげてってこと。』
『ん?どういうこと?。』
『ほっとけないのよ…。あの娘。何にでも一生懸命でしょ?真っ直ぐで…。』
『ああ…昔の君みたいだ。』
『そう。自分を見ているようで辛いのよ。私自身を見ているようで…だから、支えてあげられる人が必要なの。』
『君は…良いのかい?。』
『…私から頼みに来てるのよ?。』
『そうだったね。じゃあ、こうしよう。』
『何よ?。』
『もし、彼女が告白か…それに近いアプローチをしてきたら僕は1度断る。それでも、引かずに想いを伝え続けて来たのなら…僕は受けるよ。』
『ふふ。意味の無いことね。』
『はは。だろうね。けど…これだけは引けない。僕のケジメだからね。』
『…そう。』
『僕は君を愛しているからさ。』
そこで、数秒の沈黙が続く。
『正直な話…貴方、あの娘の顔とか性格とかドストライクでしょ?。』
『…そりゃぁ、君に似てるからね。』
『なら、大丈夫よ。』
『何に対する大丈夫か…聞いても?。』
『言わないわよ。…じゃあね、寝るわ。また明日。』
黄華さんは、奥にいる仁に挨拶すると階段を上がって行った。
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『そ…そんなことがあったんですね…。』
『そ。黄華さんには、筒抜けだったみたいだね。』
『戻ったら…黄華さんとお話してきます。』
『うん。それが良い。さて、柚羽さん。そろそろ上がろうか。後ろ向いてるから先に出なよ。』
『はい。ありがとうございます。』
お湯から上がり衣服の置いてある岩影に入っていく柚羽さん。
『あの…無凱さん。』
『何だい?。』
『大好きです。』
『ああ、僕も…好きだよ。』
『はい!。』
こうして、2人の繋がりは絆という力と愛によって深まっていった。
その後は、2人で仲良く夕飯を食べ、他愛の無い話をしながら寝る準備を始めた。
『あのぉ…無凱さん。』
『何かな?。』
『手を…握っても良いですか?。』
『ああ、良いよ。』
無凱の箱の中に布団を敷き、1つの布団で眠る2人。
『明日から…ううん…これからも、今まで以上に宜しくお願いします!。お休みなさい!。』
『うん。こちらこそ。宜しくね。』
こうして、洞窟探索の初日は過ぎていく。
この先にいる。
リスティナの宝石を守る守護者との戦いが刻一刻と近付いて行く。




