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第6話 無凱と柚羽

『涼は大丈夫かな?』


 私こと緑龍絶栄所属 柚羽(ユズハ)は、隊と離れ単独でクロノフィリアが支配するとされるエリアへ潜入していた。

 私は隊員たちの安全確保のために単独行動をしている。

 この行動は、命令に叛く行動であり、私の独断で隊員たちには何も責任は取らせるつもりはない。

 相手はあのクロノ・フィリアだ。ラスボスの撃破特典である、【限界突破】を最初に手にしたギルドだ。おそらく構成メンバー全員がレベル120であることは容易に想像がつく。

 対して、こちらの戦力は隊長である私含めた5人以外が全員レベル2桁しかいっていない。戦力としてみても、隊員たちじゃまず相手にならないだろう。

 ならば、犠牲は少ない方がいい。だから、私は隊員たちに遠回りな迂回ルートを告げ別地点での合流を命令した。隊員たちがクロノ・フィリアメンバーに遭遇しないために。


『そろそろ、誰かに接触してもいい頃だけど。』


 暗い建物の中を進む。クロノ・フィリアが出入りする酒場の周囲には直接中に乗り込むことが出来る高いビルがいくつかある。その内の1つに私は潜入することに成功した。

 だが、


『余りにも…静か過ぎるわね…』


 相手は最強のギルドだ。探知能力を持った能力者が居ても不思議ではない。いや、数々の高難易度クエストをクリアしてきた猛者たちだ、逆に居ないとおかしいのだ。


 ピピピ…


 短い音が鳴った。部下たちからの通信だ。


『どうしたの?』


 まさか、敵に接触した?目的地の遥か遠くを周回するルートを伝えたのに?私ですら、まだ敵に遭遇してすらいないのに?


『隊長、申し訳ありません。』


 発言したのは少女の声。私の部隊の副隊長に任命された優秀な娘だ。


『何かあったの?』

『それが、隊長の指示通りのルートを散策中突然目の前に黒い重力の壁のようなモノが出現したのです。』

『重力の壁?』

『はい。数名が壁に触れた途端身動きが取れない程の高重力に圧迫され負傷者が3人出てしまいました。』

『そう、怪我の具合は?』

『3人とも壁に触れたのは、手だけだったのですがその瞬間物凄い力で地面に叩きつけられた為、腕そのものが破壊されました。おそらく任務続行は不可能かと。』

『わかったわ。負傷した3人に護衛を2人以上付けて撤退させて、残りは、引き続きルート散策へ。』

『隊長…それが…。』

『なに?まだ何かあったの?』

『はい。出現した重力の壁が隊の周囲を取り囲み、隊そのものが身動きが取れない状況です。この状況は危険と判断し、唯一、壁が出現しなかった道の先にあった建物に入ったのですが…どうやら敵の罠だったらしく正方形の箱形の空間に閉じ込められてしまいました。』

『っ…なんてこと。』


 私たちは既に敵の思惑にはまってしまったということ?

 警戒してたのに逆に隊員たちの方を狙われるなんて。


『あなたの目から見て、その場所に危険はありそう?』

『いえ、出入り口が消えてしまった以外は何もない四角の空間が広がっているだけです。外部と遮断されてしまったと思い焦ってしまいましたが、隊長への連絡が成功したので完全に隔離された空間ではないと推測します。』

『そうみたいね。わかったわ。今から私はあなたたちを閉じ込めた能力者を突き止めるために行動します。副隊長である貴女は隊員たち全員の安全を確保しそのまま待機していて。』

『了解しました。…隊長。』

『何?』

『くれぐれもお気をつけて。』

『ありがとう。わかったわ。』


 ここで通信が切れる。


『ふう。マズイことになっちゃったわね。』


 完全に敵の手のひらの上だ。この状況は非常にマズイ。少なくても、隊員を助けるためには隊員たちを閉じ込めた能力者と接触しなければならなくなったということだ。


『ああ。そろそろ声かけて良いかい?お嬢さん?』

『え!?』


 突然かけられた声に驚き数歩距離をとる。すかさず腰に携えていた小さな棒状の武器を手に取り、戦闘体勢に入る。

 そして、声の主を見る。


『おお。凄い反応だねぇ。けっこう潜ってるんじゃないの?修羅場ってヤツをさ。』


 声の主はボサボサの髪に無精髭を生やしたオジサンだった。だらしなく着崩した上着にサンダルという何とも言えない人物だった。

 だが、一見隙だらけに見える姿には付け入る隙は無くただ者ではないことは一瞬で理解した。


『この人…強い…。』


 その顔には見覚えがあった。


『なるほど、貴方が…クロノ・フィリアリーダー 無凱。』

『おっ。僕のこと知ってるのかな?』

『全国に指名手配されていることはご存知ですよね?』

『ああ。そういうことね。まあ、お嬢さんみたいな可愛い娘に覚えて貰えてオジサン嬉しいなぁ。』

『…』


 何なんでしょう…この人…まるで、思考が読めません。


『で、そのオジサンのことを知っていて、わざわざこんな辛気臭い場所にいるお嬢さんは誰なのかな?』

『…貴方なら既にわかっているのでしょう?』

『んー。自分からは答えられないか。まあいいや。オジサン優しいからね。じゃあ、少し君に教えてあげようか?』


 無凱は適当な高さのコンクリートを見つけると腰を下ろした。


『何を…でしょうか?』

『まあ、君の知らないことと、知りたいことを何個かね。』

『あら?親切ですね。敵である私にそんなことを教えてくれるのですか?』

『そうだねぇ。オジサン優しいって言ったでしょ?おっと!?』


 私は一瞬で全身の魔力を総動員して無凱との距離を詰める。

 手にした棒にも魔力を注ぎ槍に変化させ突進した。


『えっ!?』

『おお。なかなか速いね。オジサンびっくりしちゃったよ。』


 信じられなかった。驚愕した。私の突進を真正面から防げる人間を初めて目撃した。緑龍絶栄の幹部ですら能力を使わないと防げなかった私の突きを…この男は座ったまま人差し指1本で軌道を変えて見せたのだ。その場を動かずに。


『お嬢さん。余り慌てないでおくれ。』


 男が指を鳴らすと先ほどの位置に戻されていた。


『えっ?なん…で…』


 一瞬で転移させられた。相手に干渉できるスキル?そんな、高度な能力を?この男ヤバすぎる。


『大丈夫さ。お嬢さんが何もしなければ此方から何かするってことは無いから安心してよ。』

『…わかりました。』


 武器に通わせていた魔力を解除する。

 今の一連の流れで私に勝ち目が無いことが理解できてしまった。

 何をしてもこの男には通用しそうにない。

 これがクロノ・フィリアリーダーの力なのか。


『おっ。やっと話を聞いてくれるみたいだね。うん。素直な娘はオジサンも大好きだぞ。』

『…』

『いやいや。あんまり睨まないでよ。』

『…それで?話というのは?先に言っておきますが、どの様な誘導尋問でもどんな拷問であろうと私は自身のギルドのことを決して話はしませんから。』

『あぁ。そういうの大丈夫だから、てか、もうその段階じゃないんだなぁこれが。』

『それは、どういうことですか?』


 ダメだ。この男が何を考えて話しているのか私にはわからない。

 少なくても私以上の何かを彼は知っているのでしょうが。


『そうだな。まず、オジサンの能力を簡単におしえちゃおうかな。』

『え?』


 信じられない。敵である私に自分の能力を教える?


『僕の能力はね。魔力で出来た 箱 を作ることだけなんだ。』

『箱?』

『そ、こんなふうにね。』


 すると、無凱が手のひらに収まるくらいの四角い魔力の塊を作り出した。


『基本的に出入りは自由に設定してるけど僕の意思で制限をかけられる。』

『…なるほど。私の部下たちを閉じ込めたのは貴方でしたか。』

『ほぅ。本当に頭の回転が速いね。ご名答。彼らは今僕の箱の中にいる。でも、黒い重力の壁は僕の力じゃないからね。』

『…そうですか。で、それを私に教えて貴方はどうするつもりですか?』

『まあまあ、そんなに焦らないで。ああ、ついでに心配事の1つも教えてあげよう。因みにね。君の大切な人も無事だね。』

『え?』


 涼?


『そうそう、涼君だったね。君の義兄さん。本当に互いを大切に思っているね。涼君も君のこと心配してたよ。』

『…どうして…そのことを…知っている…の?』

『ははは、君の想像通りだよ。箱の中に入っている者の心を読むことが出来るんだよ。』

『そんな…何て能力…なの。じゃあ、私たちの作戦は…最初から…』

『そ、最初に潜入した場所がもう僕の箱の中さ。』


 私は、膝から力無く崩れた。

 心を読む何てスキル…いったいどれだけのレベルで獲得出来るのか…少なくともレベル110の私の取得条件すら一覧に出てなかった。


『あと、君たちがさんざん心の中で予想してた僕たちのレベルだけどさ。』

『え?』

『全員がレベル120じゃないんだよね。正解は全員がレベル150なんだよ。』

『レベル…150…150っ。』


 何なのそれ?意味がわからない。レベル150?エンパシスウィザメントのレベル上限は120じゃないの?どうなってるの?そんな奴らに私たちは喧嘩を売ったの?勝てるわけ無い。


『はは…ははは…』


 力無く渇いた笑いをあげるしかもう私に出来ること何て無かった。

 いつの間にか近づいていた無凱は、そんな私の頭を優しく撫でる。


『まあ、話を戻すけど。安心しなよ。君と君の大切な人と部下の子達の安全は保証してあげるから。』

『ど、どうしてですか?私たちは敵なのに?』

『言ったでしょ?君が良い娘だからさ。それに君の大切なお兄さんの涼君だね。彼も運が良いよ。』

『運?』

『そっ。彼が出会ったのが閃君で良かった。他のメンバーなら最悪死んでたからね。』

『閃?その方は確か…クロノ・フィリアの…』

『そうだよ。閃君は、クロノ・フィリア最強だ。そして、一番優しいからね。』

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