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第67話 帰還と共有

ーーー賢磨ーーー


 閃君の能力 箱 のお陰で、僕、豊華さん、矢志路君。

 で、新しいメンバーの3人。

 元、黒曜宝我メンバーの黒璃ちゃん、暗ちゃん、聖愛ちゃんだ。彼女達は、矢志路君との血の契約を結んだことで強い繋がりが出来ている。これからも、矢志路君と一緒に行動させた方が良いね。

 6人は、喫茶店。クロノフィリアの拠点の前に移動した。


『これが…クロノフィリアの拠点?。』

『ああ、こんな場所に居たんだな…。やっと…辿り着いた。』


 黒璃ちゃんの質問に感慨しく応える矢志路君。彼は太陽の光の下を行動に制限が掛かる。しかも、彼が居たのは青法詩典の支配エリアだ。黄華扇桜のエリアのこの場所からは僕でも1週間と少し掛かる。場所を知った上で夜しか行動できないと考えると倍以上の日にちが掛かることになる。

 迎いに行って正解だったな。


『ウチも久し振りだ!早く、つつ美の所に行ってやらねばな。』

『そうですね。さあ、入ろうか。』


 豊華さんが心に溜め込んでいる重りは、悲しいが僕では…いや、一番近い存在の僕だからこそ取り除けない。僕が行動したら豊華さんは笑みを浮かべ自分の心に無意識で蓋をしてしまう。ここは、つつ美さんに頼るしかないんだ…。


 僕の言葉に全員が頷く。

 扉を開け、カラン…カラン…という音と共に中に入った。


『おや?ああ、お帰り皆。無事で良かった。』


 中に入ると仁がカウンターに居た。


『戻ったよ。仁。』

『お疲れ様。賢磨。長旅だったね。』

『そうだね。こんなに外出したのは久し振りだったからね。少し疲れたよ。』

『おう!仁、久しいな!』

『やあ。豊華さんも元気そうで…。おや、何かあったかい?。』

『む?。何も無いが。どうした?賢磨といい閃といい、良くその質問をしてくるな?。』

『いいえ。何も無いなら大丈夫。僕の気のせいだったみたいだ。』


 仁が僕の顔をチラリと見た。僕は小さく首を縦に振った。

 それを見た仁は、目を閉じ現状を理解したように豊華さんへ微笑んだ。


『豊華さん。つつ美さんが呼んでいたからすぐ行ってあげて下さい。場所はそこの階段を上がって真っ直ぐ行った廊下の行き当たりにあるゲートの先です。』

『おっ…おう!?そのつもりだ。どれだけ皆に言っておるのだ?つつ美は?そんなに大事な用事なのか?。』

『そうみたいですよ。ここは任せて行って下さい。』

『あ…ああ。分かった。行ってくる。』


 豊華さんが階段を上がって行く。

 僕は仁に小さくお礼を言った。


『さて、矢志路君も久し振りだね。』

『はい。仁さんも…。そこじゃ太陽の光が強いだろう?奥が空いてるからね。どうぞ。』

『ありがとう…仁さん。正直、辛い。』

『君達もどうぞ。』


 閃君から伝わっているのだろう。

 黒璃ちゃん達を奥の日が当たらない席へ誘導する仁。


『はい!ありがとうございます!。』

『…ぅん。どうも…です。』

『感謝致します。』


 彼女達も、矢志路君程では無いにしても太陽の光は辛い筈だ。


『さて、まずは情報共有からだね。何となく流れは閃君から確認してるからね。賢磨が感じたことを教えて欲しい。』

『ああ、良いよ。』


 仁が指を鳴らすとウエイトレス服の少女が僕達に飲み物を配り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー豊華ーーー


『まったく、何なのだ?皆して心配しおって!まぁ、悪い気はせんが…。』


 仁に言われた廊下を進む。

 …と、反対側から歩いてきた3人組と出会う。


『む?。おお、瀬愛に翡無琥か!元気だったか?。』

『ああ!豊華さん!。』

『帰ってきてたんですね!。お久し振りです。』

『ああ。今し方な。』


 ウチに抱き付いてきた瀬愛の頭を撫で、翡無琥と向き合う、はて、隣の女は誰だ?知らない顔だが?向こうも同じことを思ったのか不思議そうに翡無琥に視線を向けた。


『あっ!お2人は初めてでしたね。えっと、此方はクロノフィリアのメンバーの豊華さんです。それで、此方は黄華扇桜のギルドマスターの黄華お姉ちゃんです。』

『おお、黄華扇桜のじゃあ無凱の嫁か!凄く美人だな!。』

『いえ、元です。それに、貴女の方が美人ですよ?。』

『ははは、美人はお互い様だな!豊華だ!これからも宜しくな!。』

『ええ。宜しくお願いします。』

『豊華さんは賢磨さんの奥さんなんです。』

『あら。賢磨さんの?。』

『ああ。そうだぞ!ラブラブだ!。』

『そうですか…少し羨ましいですね。』

『あっと。ウチは、つつ美の所に行く途中だったのだ。さらばだ3人共、後でお茶しような!。』

『うん!また後でね。』

『はい。』

『それでは。』


 ウチは、3人を背に廊下を進んだ。


 豊華が立ち去った後、黄華が翡無琥に話し掛けた。


『今の豊華さんという女性は…普段どんな方なの?』

『え?豊華さんですか?…そうですね。とても元気な方です。真っ直ぐで、とっても素直で面倒見の良いお姉さんですよ。』

『そうなの!瀬愛にもいっぱい甘えさせてくれるし!遊んでくれるんだよ!。』

『そうなんだね…。』

『お姉ちゃん?どうかしたの?。』

『いえ、何でしょうね…初対面の私の言うのも変な話だけど、少し無理してるように見えたんだ…。』

『え?そうなの?。』

『ああ。気付いたんですか。流石、お姉ちゃんですね。豊華さんの心には影が射していました。きっと、つつ美さんの所に行くのも閃お兄ちゃんや賢磨さんに言われたからかなぁって思います。』

『ああ。成程…つつ美さんなら、そうだね。』


 1つの結論に辿り着き3人はそのまま部屋の中へ入って行った。


ーーー


『つつ美~来たぞ~。』


 花が咲き乱れ暖かな空気が優しく流れる庭園の中心に、つつ美は居た。


『あら~。豊華ちゃん~。お帰りなさ~い。』


 ウチに微笑むと手招きする。


『それで?用事とは何だ?。』

『用事~?。』

『お?何だ…閃や賢磨や仁にまで用事があるからと…ウチに伝えてくれと頼んだらしいじゃないか?。』

『閃ちゃんと~賢磨君と~仁君~かぁ~。成程~ね~。豊華ちゃん~。』

『何だ?。』

『ちょっと~ごめんね~。』


 つつ美がウチの胸に手を当てた。


『どうした?。』

『ううん。何でも~無いわ~。えい!。』

『おっ!?。』


 つつ美は胸から手を離すと、今度はウチに抱き付き引き寄せる。


『何だ!?いきなりどうしたのだ!?。』


 引き寄せられたウチの身体は、つつ美の大きな胸に顔を埋め寄り掛かり体重を預けた状態になった。相変わらず、胸がデカ過ぎだぞ!。


『良く…耐えたね~。』

『え!?。』


 つつ美の突然の言葉と優しい手付きで頭を撫でてくる状況に訳も分からず混乱する。

 …何を言っているのだ?。


『大丈夫~。貴女はちゃんと見ている筈だよ~。あの子の~最後の笑顔を~。ちゃんと貴女の心に刻まれていたよ~。』

『っ!?。』


 あの子…。その言葉がウチの心を揺らす。

 優…。


『な…何を…言って…いるんだ…。お前は…。』

『豊華ちゃんが~。あの子に伝えて~教えた~色~んなことは~。ちゃ~んと届いて~あの子を成長させていたよ~。』

『止めよ…つつ美…。ウチは、割り切った…のだ…。』


 心にケリをつけたのだ。

 何故、蒸し返すようなことを言うんだ…。


『それは~ケリをつけたんじゃ~なくて~蓋をしただけ~。豊華ちゃん。もう、我慢しなくて大丈夫だよ~。ここには~私しか~居ないからね~。』

『…ぐすっ…。』


 心の蓋が少しずつ…ズレていく…。


『大丈夫~豊華ちゃんは~何も~間違ってないよ~それは~あの子がとった行動で~分かるよね~。』

『…ああ…。』

『笑顔で~泣かない豊華ちゃんは~とっても立派だけど~いつまでも~張り詰めていたら~あの子も~安心出来ないよ~?。』

『…うぅ…そう…かな?…。』

『そうだよ~。一緒に~過ごした時間は~お互いにとって~と~っても大切な~時間だった~筈だよ~。豊華ちゃんが~あの子のことを大切に~想っていたように~。あの子も~豊華ちゃんのことを~大切に~想っていたと思うよ~。』

『ひっぐ…ひっぐ…守れなかった…ひっぐ…守ってもらった…』

『うん~…。』

『うぅぁぁぁあぁああああああああ!!!。』

『ちゃ~んと。あの子には届いてたから~。いつまでも豊華ちゃんが~辛い想いを閉じ込めてたら~心配されちゃうよ~。』

『ひっぐ…うぁあああああああん!。』

『良い子だね~豊華ちゃんは~。』


 つつ美が、子供のように泣きわめく豊華を優しく抱き締め受け止めている状況を物影から眺めている賢磨。

 彼の存在に気付いている、つつ美は賢磨に笑顔を向ける。

 それに気付いた賢磨は小さく頭を下げ、その場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー仁ーーー


『大丈夫だったかい?豊華さんは?。』


 戻ってきた賢磨に声を掛けた。

 豊華さんのことが心配で後を付けて行った賢磨の表情は少し複雑そうだった。


『ああ。流石だね。つつ美さんは…。』

『そうだね。僕達のメンタルケアは彼女に任せておけば大丈夫さ。』

『少し…口惜しいけどね。』

『ははは。そうだね。大切な人なら特にね。』


 大切な人だからこそ、自分で救ってあげたかった…賢磨の気持ちは良く分かるよ。


『さて、心配事の1つは片付いたね。それじゃあ本題に入ろうか。矢志路君達も辛いだろうけど話だけは聞いててね。』

『はい。分かりました…。』


 気だるげにソファーに座っている矢志路君達に声を掛ける。彼女達のことも考えないとね。


『それで、閃君にも話したんだけど。白ちゃん達の情報で、この世界にはリスティナの身体に付いていた宝石が7つ…何処かに眠っているらしいんだ。』

『ああ。そのことなんだけど。その内の1つは既に回収済みだよ。』

『ん?そうなのかい?。』


 賢磨は、アイテムBOXから1つの宝石を取り出した。

 おお、確かに見覚えがある。リスティナの身体にあった宝石の1つだ。


『これは何処で?。』

『黒曜の支配エリアだった場所だよ。地下にあった研究施設に飾られていた。』

『研究施設ねぇ。詳しく聞いても?。』

『ああ。良いよ。』


 賢磨から聞かされた地下施設での出来事。

 魔力を無効化する独立機械。

 能力者を怪物に変える実験。

 そして、リスティナの宝石。


『成程…。黒璃ちゃん達はその施設のことを何か知っているかい?。』

『え!?えっ…と…知らないです…。』


 ちょっと…いきなり過ぎたかな?。緊張しているね。


『そうか。教えてくれてありがとう。』

『は…はい。どういたしまして…。』


 ギルドマスターである彼女が知らないのであれば、ギルドとは別の何かが関係しているのかな?。

 ん?黒曜の支配エリアか。


『ああ。そう言えば、白ちゃん達もそれを探しに黒曜のエリアに行くって伝言で言っていたな。無駄足になってしまうね。』

『連絡手段は無いのかい?。』

『無いね。連絡も白ちゃんの式神で送られてきたからね。』

『そうか。なら無理か…。』

『じゃあ、それは僕に任せて貰おうかなぁ?。』


 煙のように現れる裏是流君。


『やあ、裏是流君。』

『こんにちは。賢磨さん。』

『どうしたんだい?急に?。』

『無凱さんが出掛けちゃったから暇なんだよぉ。』

『ああ。そうだったね。』

『どういうことだい?仁。』

『賢磨は知らなかったね。今、例の宝石が黄華扇桜にもあるらしいんだ。無凱はそれを回収しに行ってるんだ。それで普段、柚羽ちゃん達の特訓に付き合っていた裏是流君が手持ち無沙汰な訳さ。』

『ほぉ。ゲーム時代から思ってたけど、普段は照れ隠しにふざけてる裏是流君だけど、面倒見も良いし優しいよねぇ。』

『いっ!良いんだよ!僕のことは!。もう!じゃあ、白さん達のことは任せて貰うからね!』


 日光でぐったりしている矢志路君達の方に向け指を鳴らすと幻想空間で周囲の環境が部屋の1部だけ夜に変化する。


『これは?。裏是流か?。』

『そうだよ!矢志路は昼間は辛いでしょ?その空間は夜になるまで消えないから、それまではその中に居なよ!あと、六大会議ぶりだね黒璃ちゃん。元気そうで良かったね!これからも宜しくね!じゃあ、バイバイ。』


 ドロンっ!っと煙と共に姿を消した裏是流君。早口で色々とお節介焼いて行ったね。


『白ちゃん達のことは裏是流君に任せておけば大丈夫だね。』

『…そうだね。忙しい子だね。』


 僕は懐から白ちゃんの手紙を取り出した。


『さて、話を戻そうか。これが、白ちゃんからの手紙だよ。』


 僕が渡した手紙に目を通した賢磨があることに気が付いた。


『ん?青法にも宝石がある印があるね。』

『そうなんだけどね。矢志路君達が居た場所は緑龍の方が近かったからそっちを優先させたんだよ。』

『ああ。そうだね。反対側だ。白聖や黒曜の方が近いくらいだね。』

『そう。これは裏是流君にも言ってあるんだ。黒曜のエリアを目指したのなら白ちゃん達が今一番近いからね。』

『ほお。相変わらず根回しが早いな。』

『これでもクロノフィリアの副リーダーだからね。』

『ああ。頼りになる。』


 賢磨が飲み物を飲み干した。


『次は矢志路君達の今後だね。』


 僕と賢磨は矢志路君達の居る奥のスペースに移動した。


『少し元気になったみたいだね。』

『はい。裏是流が作ったこの空間のお陰です。』

『凄い楽になりました!。』

『ぅん。』

『助かりました。凄い能力ですね。一瞬でこんな空間を作り出すなんて…。』

『今度あったらお礼を言ってあげて、多分照れて逃げちゃうけど嬉しい筈だから。』

『はーい!。会議の時は変な人だと思ったけど、凄い優しい人だと分かりました!。』

『ぅん。ありがとうって…言う。』

『彼が黒璃ちゃんが話していた六大会議に侵入してきた方ですか。なんか、雰囲気が可愛らしかったですね。』


 裏是流君は恥ずかしがり屋さんだから勘違いされやすいけど良い子なんだよね。

 さて、全員元気になった所で…。


『改めて、自己紹介といこうか。僕は仁。この喫茶店のマスターでクロノフィリアの副リーダーを任されているんだ。』

『僕は賢磨だ。宜しくね。』


 先ずは彼女達が緊張しないように僕達から挨拶。


『はじめまして!元、黒曜宝我ギルドマスター!今は矢志路君の女の黒璃です!。』

『暗…です…。ご主人様の…女…です…。』

『聖愛と申します。これからお世話になります。宜しくお願い致します。…あと、矢志路様の…ご主人様の女です…。』


 おやおや。少し見ない間に、矢志路君はモテモテだね。

 彼は、口はたまに悪いし敵には容赦がないけど。仲間にはとことん優しいからな。


『彼女達は、矢志路君と血の契約を交わしたのかい?。』

『はい。血の交換済みです。』

『そうか。色々とあったみたいだね。じゃあ、彼女達は矢志路君専属ということで良いかい?部屋は隣通しに4部屋用意したから自由に使ってね。』

『はい。ありがとうございます。仁さん。』

『ありがとうございます!。』

『…どうも…です…。』

『感謝致します。』

『これからは、自分の家だと思って自由にして良いからね。詳しいことは後で教えるから。今は部屋に行って少し休んでおいで。』

『はい。ああ。でも、せっかく裏是流が作ってくれた空間があるので、もう少しここに居ます。』

『そうかい。じゃあ、新しい飲み物を運ばせるから、ゆっくりしてなよ。』

『はい。ありがとうございます。』


 矢志路君達を残しカウンターへ戻る僕と賢磨。


『情報共有は終わりかな?。』

『そうだね。クティナの件は閃君の説明通りだよ。』

『白聖の動きは今まで以上に注意が必要だね。あの閃君が神具を使う程の相手が現れるなんてね。』

『後の話しは無凱が戻ってきてからだね。』

『そうだね。じゃあ僕はそろそろ豊華さんの所に行くよ。』

『はいはい。豊華さんの部屋は君の隣の部屋にしておいたよ。中で繋がってるから行き来は自由にしてあるから。』

『色々ありがとう。』

『良いさ。気にしないで。』


 賢磨は最後に頭を下げて階段を上っていった。


『やれやれ、律儀だね。』


 クティナの偽者。六大ギルド。白蓮。バグ修正プログラム。リスティナの宝石。謎の機械の女。レベル150の存在。謎のボスステージ。

 僕達が知らないことは多い。これから、更に大変なことになりそうだね…。

 そんなことを考えながら、洗い終わったグラスを布で拭き始めた。

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