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第63話 VSクティナ(偽) 憤怒と嫉妬

 憤怒の獣。

 七大罪の獣の中で最も肉体の攻撃力、防御力、速さが高い。その能力は、神獣級の中でも頂点に位置した。

 クティナと戦う場合、如何にしてコイツをクティナに近付けないかが勝敗に直結した。それだけコイツの制圧力は凄まじかったのだ。

 単純な能力故に突破口が限られる。倒す方法は簡単、コイツよりも高い攻撃力、防御力、速さを持って制する。それが最も簡単な倒し方だ。


『ぐぉおおおおおおお!!!。』


 雄叫びを上げ煌真に拳をぶつける憤怒の獣。

 胴体を抉るように打ち込まれた拳は煌真を数センチ後退させるに留まった。


『ふふ、ふ…ふはははははは!。良いねぇ!良いじゃねぇか!期待してた以上だ!良い拳持ってるじゃねぇか!てめぇ!。』


 上着を脱ぎ、タンクトップ姿になると鍛え上げられた肉体が強調される。


『だが、まだだ。お前の全力はそんなもんじゃねぇだろう?来いよ!どんどん打ち込んで来い!。』

『が!?。』


 自身の拳でダメージを与えられていないと感じたのだろう。驚き、不安、苛つき。それらを全て怒りに変換し肉体を強化する獣。


『がぁぁぁああああああああああああ!!。』


 怒りの感情に支配された連打。

 連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。連打。

 5分間にも及ぶ拳の弾幕。全ての拳が煌真の身体を的確に捉え打撃を与え続けた。


『ああ。終わりか?。』

『がっ!?。』


 ポケットに手を入れた状態での仁王立ち。

 ただ受けに徹していた煌真。多少のかすり傷を負っているが…それだけだ。肉体へのダメージは限り無くゼロだ。


『ぐ!?がっ!!!。』


 目の前の自分が相対している男の異常性に恐怖を感じた獣。感じた恐怖は怒りへ。怒りは内効魔力へ変換され更なる肉体強化を加速させる。全身の筋肉が爆発的に増大、更に巨大化し強化された拳による渾身の一撃を放つ。


 爆発音のような轟音と衝撃波を発生させた拳。その拳を真正面からノーガードで受けた煌真。行き場を失った衝撃が周囲のモノを吹き飛ばし土埃を巻き上げる。


『ぐっ!?。』

『今のは、なかなか良かったぞ!』

『が!?!?。』


 満足そうに笑う煌真。憤怒の獣の攻撃は煌真の期待を上回っていた。

 嬉しそうな煌真を他所に獣は混乱していた。一方的に攻撃を繰り出している筈だった自身の拳の方が先に限界を迎えたのだ。

 指、手首、腕。例えるなら分厚い鉄の塊を殴った時のように…衝撃が跳ね返され腕の方が耐えられず崩壊した。筋組織は破壊され、千切れ、骨は折れ、腕は歪んだ。


『次は俺の番だな。頼むから一撃で沈むなよ?。』


 魔力を拳に込める。

 その瞬間。獣の目には煌真の拳が数十倍の大きさに映った。自身を容易に呑み込める程の巨大な拳に。


『らっ!!!。』

『ぶっ!がっ!!??。』


 煌真の拳が獣に直撃…手前で停止、衝撃波だけで腹部を貫通した。


『寸止めしてやったが、強すぎちまったな。』


 こんな攻撃ごときで身体に風穴が空いた?。

 レベルはゲームと同じ120程度と見て良いだろう。 


『ぐっぁぁあおおおおおおおおおお!!!』


 怒りの力は肉体の損傷を修復し、更に筋肉量が盛り上がる。スキル【憤怒暴走】の効果。HPが減れば減る程強くなる。

 そして、憤怒の暴走によって余計な感情の一切が消え、スキル【激情強化】が最大値の強化で発揮される。

 ははは!面白くなってきやがった!。


『殴り合いだぁぁああああああああ!!!。』

『がぁぁぁあああああああああああ!!!。』


 どっちが先に力尽きるかの勝負。


『らぁぁぁぁああああああああああ!!!。』

『ぐぅぅぅぁああああああああああ!!!。』


 強化された獣の肉体はレベル120の強さの枠を超え煌真に迫る程だった。

 【憤怒暴走】によりHPが減る度に強化が掛かり肉体の損傷を修復しながら能力が強化されていく、修復後はHPが回復するが強化された数値は下がらずにそのままだ。つまり、無限に強化されるということ。長引けば長引く程、煌真がピンチになる。と、考えるのが当然だが。


『良いぜ…お前…最高だぁぁああああ!!!。』


 クロノフィリア No.14 煌真。

 その種族は 武闘軍戦神族。

 肉体を強化するスキルを獲得する際に特典としての強化補正が掛かる種族である。

 煌真の持つスキル

【逆境強化】

 ピンチになればなる程肉体が強化される。

【肉体強化(極)】

 肉体強化系スキルの最高位スキル。

【身体硬化】

 肉体を硬く強硬なモノに変化させる。

【一騎当千】

 単独で行う戦闘時に大幅な身体強化が掛かる。

【武神化】

 肉体を戦いの神へと昇華させるスキル。閃の持つ【闘神化】と違い肉体を強化する方面に特化した神へと姿を変える。


 それら、5つのスキルを同時に発動。

 ここに戦の神が顕現する。

 使用するのは己の信じる肉体のみ。武器は磨き上げた両の拳。思考などいらない。ただ、相手が倒れるまで拳を叩き込む。

 それが、戦いの神の本懐だ。


『らぁぁぁぁああああああああああ!!!。』

『がぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 拳がぶつかり合う。

 周囲からこの戦いを視た者には互いの間に火花が壁となって見えていることだろう。それだけの重さと速度で放たれ続ける両者の拳打。

 両者、共にダメージを力に変えるスキルを持ち肉体を強化し続ける戦い。

 最後に勝敗を決定付けるのは、相手に与えるダメージではない。

 自身の強化に身体が如何に耐えられるかが勝敗を決める。それは、単純なこと…。


『がっ!?。』


 無限の強化が仇になる。

 強化が肉体の耐久力を超えた反動に獣の動きが一瞬停止する。

 この連打戦の中で、それは致命的な隙となる。


『がっ!がっ!がっ!がっぁぁああああ!。』


 煌真の拳打の嵐が獣の身体に降り注ぐ。僅か数秒の間に獣の肉体に叩き込まれた拳は凡そ100発。


『ぐぉっ!?。』

『お前…なかなか楽しかったぜ!!!。』


 魔力を込めた最後の拳は獣の肉体を消滅させた。


『しゃっ!。』


 天に掲げた煌真の拳は、まさに戦神と呼ぶに相応しい輝きに包まれていた。


『ふん。あの喧嘩馬鹿。相変わらず、戦い方が雑で野蛮ね。』


 その様子を見ていた神無は、溜め息をつきながら自身が対峙する相手に視線を向ける。


 嫉妬の獣。

 見た目は美しい人魚。大きな石の上に鎮座し此方の様子を伺っている。

 七大罪の獣の中での移動砲台。自ら水を発生させその中を泳ぐことが出来、様々な属性の魔力を放ってくる。


『さて、主様の命令です。可及的、速やかに排除させて頂きます。』


 腰に下げた漆黒に彩られた2本の小刀を抜く。


『ふぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 美しく綺麗な声の衝撃波が放たれる。


『おっと。いきなりですか?せっかちですね?。』


 衝撃波を難なく躱し空中へ逃れる。嫉妬の獣相手に距離を取るのは愚策。一気に接近して叩く。


『スキル【操影分身】!。まずは物量で!。』


 実体を持つ影で作られた分身を出す。

 最大で23人。身体能力は本体とほぼ同じ。スキル等は限られたモノしか使えず、一定数のダメージを受けると消えてしまうという弱点がある。

 現在、新しくクロノフィリアに加わった元緑龍の方々への指南の為、拠点に分身を1体残してきている。この場で増やせる分身は22体まで。分身で撹乱しつつ接近する機会を伺いましょう。


『ふぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 また、同じ衝撃波。

 分身を広範囲に展開し狙いを定ませない。その隙に本体の私は獣の背後に回った。


『はっ!。』


 狙うは首筋。一撃で仕留める!。


『きゃぁぁぁああああああああああ!!!。』


 耳を貫くような高い音の波動が獣の周囲全体に響く。

 

 スキル【波捻声砲】。

 空気の振動を相手にぶつけ捻り切るスキル。

 

 全体に放つことも出来るのですね。

 私はスキル【操影交換】を発動。本体と分身の位置を入れ換える。

 至近距離で波捻声砲を受けた分身体は瞬く間に身体を捻られバラバラに切り裂かれた。


『ちょっと…エグくないですか?それ?。』


 私は一度距離をとる。

 こんな相手とっとと倒して主様の援護に行きたいのに…。

 と、思った時。獣のスキルが発動した。


『ふぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 炎 水 風 雷 土 あらゆる属性が1つのエネルギーの塊となって一直線に放たれた。獣のスキル【海神炎雷水】だ。


『きゃっ!いきなり危ないじゃない!。』


 影の中に避難し辛うじて避ける。

 スキル【影入り】。影から影に移動出来る。

 今度は反撃の隙を与えずに背後に回り獣の背中を斬り裂いた。


『きゃぁぁぁぁあああああああああ!!!。』


 接近を許したことに慌てたのか再び【波捻声砲】を使い私を遠ざけようとするが、1手遅かったわ!。私は既にもう1つのスキルを発動し終えていた。


『スキル!【操影寄糸】!。』

『ぎゃぁぁぁぁああああああああああ!!!』


 獣の影に私の影が纏わり付き影に実体を持たせるスキル。相手の影は相手と同じ動きをする。それは、スキルも使うことが出来るということ。つまり、私に向けて放った【波捻声砲】は、影も同時に放った。自分に向かって…。

 自らのスキルをくらい身体が捻れていく獣。

 私は影に入り少し離れた位置に移動した。


『トドメね!スキル!【黒影囲界獄】!。』


 黒い影の結界をドーム状に展開する。

 結界内にいる者の視界を奪う暗黒空間。また、付加効果として内外共に電気、電波、微細魔力を一切通さない性質を持っている。クロノフィリアの拠点には、この結界を極端に薄くした状態で展開しており、敵が侵入した時の通信手段を奪っている。

 今、獣の目には真っ暗な世界が広がっていることでしょう。

 準備完了。そして、あと…もう1つ。

 両手に持つ短刀を獣に向ける。

 刀の尖端に魔力を集束。属性は影と闇。触れたものを食らい、抉り、掻き切る、魔力の波動。私の最大の遠距離技。


『神技!遠の巻!黒食掻抉蛇咬!』


 極限まで高められた魔力は、無尽蔵に蠢く蛇の形を作り出し放出される。直線上の全てを食らい尽くし触れるモノを掻き切りながら抉っていく。


『きゃぁぁぁああああああああああ!!!。』


 獣も己に向けられ迫ってくる魔力に反応し、スキル【嫉妬渦巻】を発動した。このスキルは攻撃に対し発動し、魔力の波長を乱れさせ軌道を捻る。

 だが、数十匹の蛇を捻ったところで、無限に這い出る蛇の全てを無力化することなど出来る筈もない。

 成す術もなく呑み込まれる嫉妬の獣はその身体を無惨に切り刻まれ原型を失って消滅した。


『ふぅ。任務完了ね。久し振りに全力で魔力を使ったわね。』


 短刀を腰の鞘に戻した神無が見つめるのは自身が定め、今、ラスボス クティナと激しく戦う主の姿だった。

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