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第56話 機械桃太郎

『キィィィイイイィィィィィ…。』


 岩の壁を蹴り素早く移動するクリムゾンアイズエイプ。獣独自の柔軟な身体を最大限に利用した動き。

 速い。でも、速いだけだ。


『魔柔念金属!』


 手の平に集まる液体金属の塊。

 僕の神具は様々な金属の特性を獲得し組み合わせることが出来、魔力を流す事で僕の意思で自由に形を変える。


『行け!。』


 塊から複数の鎖を、クリムゾンアイズエイプを取り囲むように放ち、逃げ道を封じる。

 あのモンスターの持つスキル【増援】は、HPが少なくなると味方を呼び寄せ数を増やす。下手な攻撃は状況を悪化させかねない。

 ゲーム時代も群れで行動するモンスターが必ず所有していたスキルだ。こういうモンスターは総じて 個体 は強くない事が多いので、一撃で仕留めるのがセオリーだった。


『銃。』


 塊の形を操作して銃を作る。金属でない部分には魔力を物質にすることでパーツを補う。スキル【魔力物質化】と【魔力性質変化】を発動。

 完成した銃で鎖に捕えられた猿の眉間を狙う。

 スキル【武具最上神域錬度】。

 手にした武器の性質を理解し、肉体を全ての武器を使いこなす 武具の神 の域に昇華させるスキル。ただし、乗り物は除く。


『そこっ!。』

 

 放たれる魔力で作られた銃弾。

 額に魔力で作られた銃弾を受け、クリムゾンアイズエイプが叫び声を上げた。伝説級でも所詮レベル51。僕の敵じゃない。

 黒い霧のように消滅した猿がいた場所には、猿の瞳の色と同じ赤い結晶が残されていた。


『これも、ゲームと同じか…。どういうことだ?。』


 この世界にはモンスターが存在しない筈…。

 でも、現に今ここで出現していた。モンスターが生成する魔力の源である 核 まで落として。あのモンスターは 本物 なんだろうが…。 


『何か俺達の知れない事が起きている…な。』


 僕は更に足を進めた。

 入り組んだ道を、1時間程進むと。今度は開けた空間。何か、白が閃や睦美と戦ったっていうゲームのボスステージみたいだ。ダンジョンを簡略化したような…。


 ピピピ…ピピピピピピ…。ピピピ。

 ピィィィーーーーーー。


 突然、響く機械の音。と赤い光が僕の身体をなぞるように掃射された。


『何だ?。』

『スキャン完了。対象データ…有。否…対象データ完全一致…無。完全再現不可…。再現率…40%…実験開始。』

『なっ!?。』


 空間の中心に出現した影。

 僕の形をしてる黒い霧を纏った黒い影だ。


『これは…何だ?。』


 黒い影に【情報看破】を使う。


『見え…ない。』


 名前…レベル…種族…スキル…全てのステータスがテレビの砂嵐のみたいに塗り潰されているみたいだ。


『…。』


 黒い影が動く。手には丸い液体のようなモノを持ち。ってこれ僕の神具じゃん!?。


『剣!。』


 神具で剣を作ると、相手も同じ剣を作る。

 キィーーーン!とぶつかり合う刃。

 コイツ…。


『はっ!。』

『…。』


 動きまで…。


『らぁっ!。』

『…。』


 僕と同じだ。僕の癖も、構えも…。


『槍!。』

『…。』


 神具まで全てが同じ?。自分の見慣れた太刀筋。神域に昇華されている僕の動きを完全にトレースしてる。ということは…スキルも?。


『レーザーソード!。』


 魔力を使用した武器。


『…。』


 それを作り出す影。斬り合う!斬り合う!斬り合う!

 数合斬り合うことで見えてくるモノがある。コイツの動きは僕の動きだ。でも…。 今 の僕のじゃない。

 ゲーム時代、ラスボスを倒した後に出現した裏ボスへと続く裏ダンジョン。クロノフィリアの皆で死に物狂いで挑んだ鬼畜難易度の、その場所は文字通り僕達を 成長 させた。

 そして、辿り着いた裏ボス、リスティナ。

 ダンジョンを乗り越え成長した筈の僕ら24人全員が全力で戦いギリギリで勝利した少女。


『そうだ…コイツは…。』


 コイツは、あの時の…。裏ダンジョンへ入る前の僕だ。だから、動きの 根底 が同じなんだ。


『だが!。スキル!重硬金属神装甲!』


 手に持っていた神具は身体に纏う金属、両手に金属の刃。全身が金属の鎧に包まれた。炎、氷、雷に強く、軽く硬い。両手の刃は分子レベルの切断を可能にする。極薄刃。超振動剣。


『コイツでお前の首を斬り裂く。このスキルはリスティナと戦った時に生み出した。当然、お前は知らねぇよな?。』

『…。』


 影は真似しようとしているようだが、制御が出来ていない。歪な形に金属が変化していた。


『行くぜ!。』


 鎧の隙間から魔力を放出し移動速度を高める。

 影との距離が近付いていく。ヤるっ!。


 と…その時…。


 ドゴーーーーーーーーーーン!。


 あっ…。


 影の左右の岩が破壊された。

 左から極大の光の光線。右からは白の黒雷呪。その中心にいた影が呑み込まれた。ほぼ同じ威力の技が激突し、ぶつかり合ったことで相殺した。


 ああ…うん。なんだかなぁ…。


 影は跡形もなく蒸発していた。


 そうだよね…裏ダンジョン行く前の僕なら2人の技を同時に食らえば消滅するよね…。


『あら?代刃ではないですか?どうしたのです?そんなところで立ち尽くして?。』

『ああ、代刃。どうしました?。』


 技で開いた岩の中から現れる2人。

 白銀の鎧に身を包んだ春瀬と雷神状態の白。


『あ…ははは…。』


ーーー


『それで?2人はどんな経路を辿ってきた?。』


 3人とも戦闘モードは解除しない。3人とも分かっている。戦闘はまだ続いている。


『私は…。』


ーーー


『何も…ありませんわね。』


 洞窟へ入って2時間。ただただ続く凸凹した岩の道を進んでいく。


『あら?これは…機械?。』


 岩肌から僅かに見える機械…。不思議な場所ですわね…。白に聞いていた、ダンジョンのような洞窟。1つではなかったのですね。


『この先に続いている…みたいですわね。』


 更に進む。少し開けた空間に出た。

 微かに感じる魔力に警戒した。


『あれは!?。鳥?。』


 空中から突撃してきた影を紙一重で避ける。

 すれ違いざまに情報看破を発動。


ーーーステータスーーー

・名前  パープルアイズバード

・レベル 48

・階級  伝説級

・スキル

 高速飛翔 硬翼の盾 増援 

 

『っ!?何故…ここに、パープルアイズバード…。ゲームのモンスターが!?。』

『キュィィィイイイイイイイ!!!。』


 再び…旋回し突進。

 硬い翼を折り畳むことで身体全体を1つの弾丸と化した。

 確かに中々なスピード。ですが!


『聖鎧!。着装!。』


 白銀の鎧。各部位に埋め込まれた宝石が自身の魔力を増大させる。


『遅いですわ。神具!破邪聖光剣!。』


 白銀と黄金の聖なる剣。魔を滅ぼす輝きを宿す騎士の証。その刃に断てぬモノ無し。


『キュィィィ!?』


 おおきく振りかぶってぇぇええええ。

 断てぬモノ…。


『ホームランですわーーーーーー!!!。』


 剣を振り抜いた。その速度は…音よりも速く。衝撃波を発生させて…鳥を…打った。斬らずに…。断てぬモノ?。


『キィィィイイイイイ!!!?。』


 パープルアイズバードが岩に激突し粉々に霧散した。紫色の水晶を残して…。


『所詮は獣…大したことありませんわね。』


 さて、終わりました。モンスターの核もドロップを確認。ゲームと同じ。


『何が、起きているのやら…。取り敢えず、このまま進みましょうか。』


 進むこと1時間。またも開けた空間に差し掛かる。先程の場所よりも広い…。そして、岩から露出している謎の機械が多い。


 ピピピ…ピピピピピピ…ピピピ…。ピィィィーーーーーー。


『スキャン完了。対象データ…有。否…対象データ完全一致…無。完全再現不可…。再現率…40%…実験開始。』


 謎の機械の声。私の身体を調べた?。


『え!?。』


 目の前に現れる黒いモヤを纏った黒い影。

 私にそっくりなシルエット…これは…いったい?。手には私の聖剣と同じ形の剣を持って。

 試しに情報看破を発動。視えない。


『分かりませんわね…。』


 聖剣を構えると影もほぼ同時に構えた。自分と同じ構え…。同じ姿で武器も同じ…コピーされたということ…ですか。


『はぁあああ!。』


 聖剣を無造作に振り回す。


『やっ!たっ!。』


 全力で振り回すも相手も同じ動きで対応してくる。まるで、鏡ですわね。


『動きも同じ…ですか…。ふふ。面白い!。良いでしょう。全てが同じ…という訳では無いようですが。現在の私の力。どれだけ あの頃 から成長できたのか、あなたで試させて頂きます。』


 鎧の宝石が光る。

 そして、聖剣が黄金色に輝き出す。


『聖光玉よ!力を解き放ちなさい!。』


 聖剣の輝きが増大し…。


『神具解放!光の聖霊よ!集まりなさい。』


 周囲の魔力を吸収していく。


『くらいなさい!破邪…聖光けぇぇええええええええん!!!。』


ーーー


『という感じですわ!。』

『私も同じです。最も私の場合は、大きな犬のモンスター イエローアイズドッグ でしたが。』

『それで、影と戦って雷神状態か?。』

『ええ。昔の私との力比べです。』

『………そうか…。』


 さよなら、昔の僕の影…。敵だけど…複雑な気分…。


『それにしても犬、猿、鳥って桃太郎かよ?。』

『私が倒した犬も黄色の水晶核を落としました。』

『俺はこれだ。』

『私はこれを…。3つとも、ゲーム時代と同じですわね…。』


 3人の手の平に乗せた3色の水晶。

 3つの水晶が合わさった時…。


『あっ!光った!。』

『こっちもです!。』

『私のも。』


 強い光を放ち輝き始める水晶。こんな現象は見たことがないよ。

 光ったと思ったら次は宙に浮いた。そして、凄い速さで洞窟の奥へ…。


『追いかけましょう!。』

『ああ。』


 飛んで行った水晶を3人で追う。


『どこ行きやがった?。』

『あそこです。』

『2人とも止まりなさい!。』


 複雑に入り組んだ洞窟に遮られ何度も水晶を見失いそうになる。

 そこに、春瀬の静止の声に反応して急ブレーキ。


『ん?どうした、春瀬?。』

『何か居ますわ。それに、この場所は…。』


 辺りを見渡す。

 広い場所と中心に居る人影。

 その空間は若干の見覚えがあった。


『あの場所と同じです。扉はありませんが、ボスステージと構造が同じようです。』

『で、水晶を吸収したアイツ…あの機械がボスってことか?。』


 中心に居た人影。黒い機械。

 水晶を肉体に取り込み、その姿を変化させた。


『その…ようですわね。2人とも油断なさらぬように。』

『ああ。』

『ええ。』


 3人で同時に情報看破を目の前の敵に発動する。


ーーーステータスーーー


・名前   起動機械 リグラム 

・レベル  150

・種族   機導装甲族

・スキル

 魔力無効 魔力生成 バグ修正プログラム

 広域索敵 侵入者排除プログラム 

 対鬼族 自己修復ナノマシン 

・装備

 犬神の鞋 鳥神の翼 猿神の籠手 鬼皮の鎧 

・武装

 鬼斬無残


『桃太郎っぽいな…。』

『強いスキルと視たこともないスキル…。』

『対鬼族は勘弁…。』


 レベル…150…。閃達が戦った化け物と同じ…。じゃあ、この場所も僕達が知らない 何か と関係ありそうだね。


『ピピピ…ピピピ…ピピピ。侵入者、3人確認。宝物ヲ荒ス者ハ排除スル。ピピピ…ピピピ。データ有。ピピピ。バグノ影響ヲ確認。バグ修正プログラム起動。バグハ抹殺スル。』


 動き出す機械桃太郎。

 水晶を吸収したことで装備の3つ。鞋、翼、籠手を装備した。


『犬神。』


 犬の鞋の効果は高速移動か!。一瞬で間合いを詰められた。


『速っ!?。』

『雷閃!。』


 咄嗟に放つ牽制用の白の雷レーザー。


『無効。』

『効かない…。』


 機械桃太郎の肉体に命中した瞬間、雷閃が掻き消された。魔力無効化。外効魔力による魔力を消してしまうということか…。


『はぁっ!。』

『こっちもだ!。』


 鎧の一部を変化させ鎖を作り出す。狙いは四肢。動きさえ封じてしまえば…。


『くっ!小賢しい!。』

『な、身体を捻って!。』


 躱した!最小限の動きで!?でも…。


『2人とも援護を!。聖光玉!解放!。』


 春瀬の鎧に埋め込まれた5つの宝石が輝き出す。魔力は全身に流れ…そして剣へ。


『黒雷!。』

『鎖!。』


 白の黒い稲妻は全く効いていない。それを、理解しているのか機械桃太郎は白の攻撃を見てすらいない…。 


『やっぱり、魔力が無効化される。』

『物理攻撃は有効みたいだな。鎖は避けてる。』

『そうッスか…。じゃあ刀で攻撃ッスね!。』


 雷神状態を解除した白。雷神化の白の攻撃は全てが魔力による雷の攻撃になってしまう。無効化されるなら物理攻撃が可能な状態が良いと判断したようだ。


『行きますわよ!オラァ!ですわ!。』


 斬り掛かる春瀬。

 聖剣の一撃は機械桃太郎の刀で防がれる。春瀬の剣は一撃に全力を込める。本人は軽く振っているつもりのようだが全てがフルスイングなのだ。それを魔力噴出で無理矢理軌道を変えるのだ。技術などない、だが重く、速く、読めない…それが春瀬の剣術。


『くっ!?この方…強い!。』

『無駄が多い。』


 春瀬の強化された剣を捌いていく。

 この桃太郎…力、速さ、器用さ、どれを取っても僕達クロノフィリアと遜色ない強さだ。

 剣技なら翡無琥。速さは光歌に近い。


『行くッスよ。呪伸刀!呪巨刀!。』

『俺も!剣!。』


 伸びる刀は軌道を逸らされ巨大な剣は避けられた。だけど、動きが止まった!。

 両端に白の攻撃を払ったことで胴体ががら空き。分子レベルで切断できる僕の両手の振動剣!この突きは入る!


『遅い!。』

『なっ!。』


 上半身を反ってブリッジのようにして僕の剣を躱した。そのままバク宙し宙返り機械桃太郎の蹴りが僕の剣を蹴りあげた。両手が上げられた!?。


『はっ!。』

『ぐっ!。』


 猿の籠手は肉体の柔軟性を高め腕力を向上させる。その強化された拳が僕を捉えた。

 この威力は!?。僕は壁の岩まで吹っ飛ばされた。


『ほぉ…あの一瞬で盾を作ったか…。』

『まあな…。』


 液体金属の鎧を操作して殴らる前に身体お腹の密度を高めダメージを減少させた。

 結構硬い金属をイメージしたのに…くっきりと拳の跡がついてる。これ生身だったら死んでない?。


『代刃!無事ですの?。』

『代刃ッチ!大丈夫ッスか?まさか、今のを対処してくるなんて…アイツ…白達が戦った化け物より強いッス!』


 2人が僕の元まで駆け寄ってきた。


『ああ。大丈夫だ。防御が間に合った。』


 機械桃太郎。こんなのが現実の世界に居るなんて…。


『どうした?バグの仲間よ。お前達の力はそんなものか?。』


 コイツ…マジで…強いよぉ…閃…。

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