第53話 柚羽の特訓
ここは何もない四角い空間。
『やっ!。』
鎖で身動きを封じられたモンスター バイコーン の首を槍で斬り裂いた。バイコーンは甲高い悲鳴に似た鳴き声を上げ光の粒子となって消滅した。
パパパパーーン!ピコーーーーーン!!!
っと頭の中に響く音楽。レベルアップを告げる。それと同時に目の前に レベル115 と書かれた画面が出現した。
『はぁはぁ…はぁはぁ…。』
『やりましたね!。柚羽隊長!。』
『強かった~。』
槍を杖代わりに体重を支え、乱れた呼吸を調える。
その間、背中を擦ってくれている娘が響。私の横で大の字で寝転がっているのが初音。
2人共、緑龍絶栄の時の私の部下。副隊長の響と補佐の初音。私は彼女達に何度も助けられた。2人も私のことを信頼してくれている大事な仲間だ。
パチパチパチパチ。
空間内に響く、拍手。
私達は…拍手をしている人物の方に顔を向けた。
『いやぁ。凄いね。まさか、こんなに早くクリアしちゃうなんて。おじさんビックリだよ。』
伝説のギルド クロノフィリアのリーダー 無凱。
この四角い空間も彼の能力 箱 で作り出された仮想空間。この中で私達は、とある実験を含めた実戦を繰り返していた。
『さて、まだ元気はあるかな?。』
『はっ…はい!。』
私は身体に鞭を打ち姿勢を正す。
『よし、良い娘だねぇ。2人は離れていてくれるかい?。』
『『はい!。』』
無凱さんの指示で箱の端へ移動する響と初音。
それを確認し無凱さんが前へ出る。私は気合いを入れ直し槍を構えた。
ズボンのポケットに手を入れたまま、だらしなく歩いてくる無凱さん。一見隙だらけであり弱そうに見えるその姿は、いざ正面に立ってみると圧倒的強者の余裕だということが嫌でも理解できてしまう。どこから…どう攻めても対処されてしまう…そんなイメージが頭の中に思い描かれてしまう…。
『良いよ!全力でおいで!。』
『はい!行きます!。』
私のスキル【魔力噴射】。
身体の内部で高めた魔力を自由に放出することが出来、生まれた推進力を利用して威力と速度を高める。
魔力噴射を両肩と背中、足の裏と槍を持つ肘発動し槍の突進で無凱さんを撃つ!。
『良い突進だね。だけど意識が槍の尖端だけに集中してしまっているよ。側面への意識も忘れず常に視野を広く持とう。』
突き出した槍の外側へ移動し軽く足を引っ掛けられた。
『きゃっ!?。』
バランスを崩し勢いを殺せず、二転三転しながら箱の端にぶつかった。
『大丈夫かい?ほら。』
無凱さんが優しく起こしてくれる。
『もう1度お願いします!。』
『良いよ!』
私は再び距離を取り槍を構えた。そして、また無凱さんに突っ込んでいく。
これは、この1週間ずっと続いていた。
あの日、緑龍絶栄 端骨の命令でクロノフィリアの拠点に潜入し見事に返り討ちに合った後、私は無凱さんの元で鍛えられていた。
『良くやるねぇ~。無凱さんも柚羽ちゃんも。』
空間の中にある別の箱に座っているピエロ。裏是流さんが足をパタパタさせながら言う。
そう、この実戦を実現出来ているのは彼のお陰なのだ。
このゲームの世界に侵食された現実世界でレベルの概念があるのにもかかわらず、レベルが上げられない。
機械などによるレベルの底上げは出来るのに…だ。
それは、ゲーム時代のレベルアップに主流だった方法…モンスター撃破によって獲得できる経験値の取得が出来なくなったからだ。
この世界にはモンスターがいない。
そんな簡単な理由でプレイヤーだった者達は現状より強くなることが出来なくなってしまったのだ。
『行きます!。』
先程と同じ速度で魔力噴射。
今度は視野を広く、無凱さんの行動を見て…。
『はっ!。』
無凱さんも先程と同じ動きで槍の外側へ移動…ここです!。私の魔力噴射は肉体はもちろん自分が持っている武器からでも発動することが出来る。よって!。槍の軌道を無凱さんの動きに合わせて噴射!。
『おっ!?。』
それと同時に右足を軸に左足の踵から魔力噴射。噴射の推進力と槍の遠心力で加速した槍先が無凱さんを追撃する。
当たる!。
『今回のはいい線いってたね。』
『なっ!?。』
指先だけで…指2本で挟んで止めた…。
『レベル115の身体にも適応が出来てるし次のレベルも行けそうだね。どうする?まだ出来るかい?』
『はい!大丈夫です!続きをお願いします!。』
『そうかい?。あんまり頑張り過ぎは良くないから次のレベルで今日は終わりにしよう。』
『はい!。』
『よし、良い娘だ。』
無凱さんが私の頭をポンポンと叩く。これを心地よく感じている自分がいる…この気持ちは何なのか…今は分からない。
でも、今はそれで良い。少しでも彼等に…無凱さんの力になれるように…そして、いつか隣に並べるように…。
『おーい。裏是流君!。』
『はーい。じゃあ次はレベル116だね。』
裏是流さんの足元に召喚陣が描かれる。赤紫色の光と稲妻のようなスパーク、圧倒的な魔力の放出の中…召喚陣から現れたモンスター。
龍の頭部、蝙蝠の翼、鷲の足、蛇の尾を持つ幻獣。
幻想獣 ワイバーン が召喚された。
『さあ、危なくなったらヘルプに入るから。また3人で戦ってみよう!。』
『『『はい!。』』』
私、響、初音の3人でワイバーンに挑む。
裏是流さんのスキル【幻想獣召喚】は、このように幻獣を召喚出来るというもの。つまり、モンスターがいない世界にモンスターを呼ぶことが出来るのだ。
このスキルを利用して、無凱さんの特訓に挑戦することになった。
元々の私のスキルは110。限界突破のスキルを獲得しているので本来ならば120までレベルを上げることが出来る。
そこで、幻想獣の出番というわけだ。
裏是流さんの幻想獣のレベルは彼の意思で自在に変更することが出来る。
そこで、無凱さんは最初にレベル111の幻想獣を裏是流さんに召喚させ私達と戦わせた。
余りにもレベルの差があると勝ち目が無くなってしまうので、私のレベルより 1 高い幻想獣を呼び出し3人で連携して倒すという形式を取らせた。
私を主軸にし2人はサポートに徹する。
必然モンスターにトドメを刺すのは私になる。
経験値は最後の一撃を加えた者が多く獲得する。よってレベルが上がる。
もちろん共に戦うサポートの2人にも経験値は入る。
2人のレベルは現在90。私がレベル120のなる頃、ちょうどレベル100になる計算だ。
レベルが上がると次は、無凱さんとの一騎討ち。この人とは、潜入作戦の際に戦った…いや、戦いにすらならなかった。手のひらの上で転がされたのだ。
そんな彼との一騎討ち。上昇したレベルに身体を慣らせるため私は全力で無凱さんに挑んだ。
無凱さんが私の動きに納得した時、次のレベルの召喚獣との戦いが始まる。
その形式を繰り返す。
110から始まったレベルは今115。
着々に強くなってきている。自分でも分かる自身の変化。
だが、レベルが上がれば上がる程、強くなればなる程…無凱さん…いや、クロノフィリアの方々の強さが理解できてしまう…。
そして、思った。
いつか…隣に…共に背中を預けられる存在になりたいと…くすっ。今なら涼の気持ちも分かるわ。
こうして…私の毎日は過ぎていった。
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ーーーとある日常の光歌ーーー
ーー閃を着せ替え人形計画ーー
閃の胸を堪能した後、メジャーの位置を更に下へ…何このウエスト…細っ!。抱きついたら折れちゃいそう…マジヤベェ!。
『だから、くすぐったいって…。』
『いやぁ。ヤバいよ!閃!。』
『お前ヤバいしか言ってないぞ?。頭大丈夫か?お前頭めちゃくちゃ良い筈だよな?。』
閃を無視してメジャーの位置を更に下へ。
そこに最早言葉はいらないわ…。
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ
『気持ちわりぃよ!。』
『あ!痛っ!?。』
お尻柔らかい!弾力ヤバい!触り心地っ神!。化け物の中の怪物ね…畏れ入ったわ…。ありがとうございます。
『何でいきなり頭を下げてんだ?。』
『いえ、感動でつい…。』
『言葉遣いが完全に変わってるな。お前人前だと結構ツンツンしてクールキャラなのに…。』
『………誰かに言ったら殺す………。』
『銃、突きつけるな…てか皆知ってるから。』
『なっ!?』
『伊達に幼馴染みしてねぇよ。』
『ちっ!』
『舌打ち!?。』
まあ、良いわ。
『今度は無言で足触るし…情緒どうなってんよ?。』
『………。』
足なっが!細っ!理想か?これはしゃぶりたくなるわぁ…。ごめん閃…。あんたのこと舐めてたわ…すまん。
『無言かい!?。』
よし!採寸は終了よ!。
想像通りの体型に安堵し壁に掛けられている1着を手に取る。
『閃…着替えて来て…。』
『………やだ………。』
『閃。』
『………やだ………。』
『……………………。』
『……………………。』
『何故?。』
『お前なぁ…。まあ、俺は確かに学生時代…数学でお前に負けたさ。』
『ええ。そうだし。』
『1教科でも負ければ言うことを1つ聞く。とも約束をした。』
『そうね。』
『着せ替え人形になることも…嫌々ながら…引き受けた。』
『ええ。だから、これを着てと言ってるじゃん?。』
『お前がクロノフィリアのメンバー全員の種族衣装を作っていることも、もちろん知っている。』
『ええ。私の自慢よ!。』
『だがな?。』
『何よ?』
『何で!とっ始めが!つつみ母さんなんだよぉ!。』
なんだよぉ…なんだよぉ…なんだよぉ…なんだよぉ…なんだよぉ…なんだよぉ…
深夜に響く閃の悲鳴。
『…ふっ。』
私は邪悪な笑みを浮かべていた。
ーーーつづくーーー