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第51話 獣と竜と

 広い夜のガソリンスタンド。

 スタンド内を駆け巡る2つの影。

 速さを競うように互いに少しづつスピードを上げ、2分が経過しようとしていた。今のところ2つの影の速さはほぼ互角。

 だが、2つの速さの質は全くの別物だった。

 影の1つは、黒曜宝我の元ギルドマスター 黒牙。身体に纏った霧のような影を巧みに使い地を這うように高速移動を繰り返す。

 もう1つの影は、クロノフィリアのメンバー 光歌。強靭な脚力で獣の如く移動している。まさに縦横無尽。ここが広いスタンドで地面と天井、僅かな休憩所を完備した建物しかない場所でなければ…例えば、高い建物が並ぶビル街や木々が生い茂る森の中だったのなら勝負は既に決まっていたのかもしてない。

 足場に出来る場所が極端に少ないせいで直線的な攻撃になってしまい、黒牙に防がれているのが現状だ。


ーーー

 

『しゃっ!。』


 低い体勢から素早く動く黒いアイツ。漆黒の短刀を振り抜いた。

 その様は…。


『ゴキブリみたい!キモい!。』


 キモかった。何か地面を這って凄い速さでこっちに来るし。

 私も応戦し銃を撃つ。

 けど呆気なく銃弾は黒い男に容易く斬り落とされた。銃弾じゃアイツの突進は止まらない。

 仕方ない…。


『スキル!獣神瞬動!。』


 私の移動スキル【獣神瞬動】。

 獣の如く柔軟性と脚力での瞬間移動。壁や天井など全てが私の足場になる。その分、直線的な動きにならざる得ないけど、そこは、柔軟な身体で補っている。


『操影分身。』


 瞬動に対し黒い男は又も分身を3つ作り出した。

ゴキブリが増えた!。キモい!。

 分身は本体の黒牙を中心に光歌を追い詰める。


『させねぇ!スキル!竜皇覇気!。』


 ダーリンのスキル【竜皇覇気】の効果で影の分身が霧散する。魔力の波動を周囲に放ち魔力の構成力を乱れさせるスキル。魔力によって影を形作っているアイツの影はたちまち形を維持できず消えたというわけだ。


『!?。』


 これで、アイツの外効魔力で操っていた影のスキルはダーリンがいる限り無効化されたも同然。

 後は、私が仕留める!。


『獣爪!。』

『ッ!シャー!。』


 爪と短刀が斬り結ぶ。影のスキルは無効化されていてもアイツの身体能力は高い。獣神瞬動を使っている私と同じだなんて考えたくないし。


『光歌!跳べ!。』

『ッ!。』


 ダーリンの叫びに逸速く反応して跳び上がった。


『竜皇波動!。』


 ダーリンの掌から放たれるドラゴンの息吹。体内で圧縮された高濃度の魔力を神具から解き放つドラゴンブレスだ。本気なら山の1つくらい軽く消し飛ばす威力なのだが、周囲に人が居るかもしれないこの場所だとかなり絞った威力になっている。まあ、それでも当たればただでは済まないのだけど…。当たれば…。


『はは、コイツ…避けやがった。』


 アイツは躱していた。僅かに立ち位置を変えて見極めて避けたのだ。


『ダーリン!援護お願い!。』

『ああ、どうやら俺とヤツの相性は最悪だ。頼んだ!。』

『うん!任せて!。』


 今までの一連のやり取りで大体理解した。ダーリンは、その圧倒的火力で拠点制圧や敵陣突破は得意だけど、アイツのように小さく速い動きで戦うタイプは苦手だ。まさに相性が悪かった。また、場所も悪い。ダーリンの攻撃技は強すぎて周囲を巻き込んでしまう。この廃墟となっている小規模ギルドが何処に潜んでいるかも分からない場所じゃ、まず全力を出せないだろう。

 ダーリン可哀想…。

 そして、アイツだ。アイツの強さには、もの凄い波がある。一瞬、私と同じ位の強さになったかと思えば急に脱力したように手応えが無くなる。動き自体に変化が無いから見てる分には気付きづらいけど戦って…刃を交えると良く分かる。

 情報看破で分かった。

 アイツのレベル120~150という表記…行動を起こす時にレベルを150まで急激に上昇させ、一定時間が経過すると元の120に戻る。そんな感じなのだろう。

 そして、極めつけ。

 アイツのスキル 自我崩壊と戦士の記憶のせいで決まった行動パターンしかとれてない。それでも、かなりの数の行動パターンがあるけど…私なら。


『スキル 魔力性質変化!。』


 このスキルで銃弾を包みコーティングしている魔力をゴム性に変化させる。スーパーボールだ。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!。


『足場が足りなければ自分で作るだけだし!。』


 跳弾の連続。ピンボールのように周囲をぶつかり合う、その中を駆け抜ける。


『はっ!。』

『!?。』


 爪で斬り掛かり、跳躍。飛び交う弾丸を蹴り更に攻撃。足場が足り無くなれば増やす。

 跳躍。蹴る。斬る。跳躍。蹴る。斬る。

 アイツの回りを駆け巡り続ける。


『っ!。』


 飛び交い跳弾し合う弾丸+本体からの銃撃+私自身の爪…その全てでアイツの行動パターンを観察し把握する。

 ダーリンのスキルで影のスキルを使えないアイツの制限された行動パターンは…。


『見えたしっ!』


 距離を取り狙いを定める。


『ッ!?。』


 ドン…ドンドン!。

 3発の銃弾。直線の軌道と逃げ場を塞ぐ斜めの軌道。


『シャーッ!』


 直線の軌道の弾丸を斬り払う。

 だが、実はもう1発…その斬り払われた銃弾を目隠しにした4発目の銃弾。正確には2発目だが。神速の早打ち…クイックドロウ。

 斬り払った体勢からの刹那の硬直。左右への逃げ場はない普通ならこれで決まり。

 でも、アイツはここでレベルが下がる。脱力したように身体を反って 偶然 にも弾丸を躱せた。弾丸は標的を見失い直線に消えていく。

 アイツは身体を起こし、このタイミングでレベルが上がる。

 体勢を立て直そうと力を込めたところに…。

 斜めに放った弾丸に当たった既に跳弾していた弾丸が2つ、軌道を変えてアイツの足に命中。


『っ!?。』


 そして…。


『チェックメイトだし!。』

『がっ!?。』


 再び崩れた体勢のアイツに直線の弾丸が壁から跳弾中の弾丸に跳ね返り。反射を繰り返し、アイツの頭部に命中する角度で戻ってくる時間…3秒。


 バタッ!と倒れ込むアイツ。


 だが…。


『光歌!。』


 ダーリンが私の身体を抱き抱えアイツから離れる。アイツの身体から異常な魔力が吹き出し繭のように包まれていった。


『これは?。』


 そして…周囲の様子も…。


『ダーリン!気を付けて!。』

『ああ!分かってる!竜皇回帰!竜翼!。』


 翼を生やしたダーリンは私を抱えたまま空に飛んだ。そして、驚愕した。


『ここは…ゲームの…。』

『ああ。バトルフィールド…山脈ステージ…。』


 先程までいた廃墟やガソリンスタンドが消え山々が連なる山脈が聳え立っていた。

 ゲーム時代に何度も見た景色。


『何これ?意味分かんないんだけど?。』

『光歌!見ろ。黒牙の様子が!』

『なっ!?。』


 巨大な球体。折り重なった魔力の繭にヒビが入り全体に広がる。中から現れたのは…。


『KAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!。』

『カラス?。』


 額に第3の赤い目。足が3本。翼が4枚。


『そうだ…アイツの…黒牙の種族は…。』


 20メートル以上の巨体が羽ばたいた。その風圧で周囲のモノを撒き散らしながら。


『八咫烏だ!。』


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーとある日常の光歌ーーー


『ふんふふ~~ん。ふふ~~ん。よし!完成!。』


 部屋の中いっぱいに無造作に敷き詰められた布、布、布、布、布。様々な形に型どられたそれは、数十時間掛けた努力の結晶である。


『ヤバいじゃん!さっすが私!見事な再現!。』


 両手で広げて持ち上げた それ をキラキラした目で見つめる。時間を掛けただけあり満足のいく仕上がりだ。


『はぁ~。マジ、サイコーなんですけどー。私ってやっぱ天才じゃん?ヤバいってマジで。』


 興奮し手にした それ を抱き締め隣の部屋の扉を開ける。そこには…。


『これで、全員分…完成っと!ふふふ。』


 壁一面に掛けられた服、服、服、服 服。

 更に部屋の中に並ぶハンガーラックには和洋中など様々な衣装が掛けられていた。

 ハンガーに出来立て完成したばかりの衣装を掛け、壁の空いているスペースに引っ掛ける。

 壁に掛けられている衣装はクロノフィリアのメンバーの種族衣装だ。1~23の番号とプラス1と書かれた番号が振られた衣装が壁にズラリと並んでいるのだった。


『豊ちゃんが居ればもっと早く完成したのに…。何処にいんのさぁ。』


 メンバーの衣装の1つを手に取り、【更衣室~覗くな~】と書かれたフィッティングルームへ入っていく。

 15分後…。

 シャーーーーー。とカーテンを勢い良く開き現れる光歌。


『私と、にぃ様は主とメイドの関係…例え兄と妹という鎖で繋がった間柄であっても…いえ、そのような関係だからこそ血の繋がらない家族という運命の巡り合わせのような関係が活きていくのです!どうぞ、にぃ様…私を存分にお楽しみ下さい…。』


 シーーーーーン。


『ははははは…灯ちゃん。可愛すぎてマジ意味分かんないんですけど~。どういうテンションなの?閃のこと好きすぎじゃん!歪んじゃってるけど、本物だよね!ははは。最高過ぎる。マジ可愛すぎ。ははははは。はぁ~。』


 ダンダンダンと床を叩き腹を押えて大爆笑するメイド服の光歌。背中の翼も小さいバージョンを採用!これも手作りである。ちゃんと白と黒のウィッグまで手作りし、あの巨乳の胸元も大きく見せる為にヌーブラに自分ブラと大きいブラを重ね、メイクで谷間を作り、灯月の巨乳を見事に再現している。


 15分後…

 シャーーーー。とカーテンの中から登場する光歌。


『うーん…。知らない男の人がいっぱい居るよぉ~。閃ちゃん…氷ぃちゃん…助けてぇ~。』


 シーーーーン。


『ははははは。可愛すぎなんですけどぉ!うるうるの目とか見てたら抱き締めてヨシヨシしたくなっちゃうじゃん?智ちゃんマジ守ってあげたくなるタイプ1番じゃん?はぁ~やべぇ。可愛すぎるわ~。』


 ダンダンダン。床叩き爆笑2回目。

 赤いチャイナと和服を合わせたような独特の服も完璧に再現。耳は自分の獣耳を染めて尻尾は狐の尻尾を自分の尻尾に被せる形。身体のサイズが似ているお陰で簡単に変身出来た。


 15分後…。

 シャーーーーー。とカーテンが開く。


『私。閃の為なら。何でも。するよ?。』


 シーーーーン。


『ははははは!。閃、ドンだけ人気なんだよ!氷ちゃんも一途過ぎだし、最高かよ?あんな純粋に好き好き表現できる氷ちゃんマジ可愛すぎ。普段の無表情とかどうでも良くなるくらい可愛すぎです!はい!ご馳走さまです!美味しく頂きます!。』


 ダンダンダン。床叩き爆笑3回目。

 真っ白なウィッグと金色のカラコンを着けて、又も真っ白な着物。胸元が大きくはだけていてとても色っぽく再現できてる。鏡に写った氷ちゃんの衣装で大爆笑している自分自身の姿に笑ってしまう。イメージちげぇー。


『さて、ついに…この時が来たしぃ。』


 光歌は1つの服が掛けられたハンガーを手に取り息を飲む。軽い…。そう感じるハンガーの重さに緊張が高まっていく。


『つつちゃん!勝負っ!。』


 15分後…。

 シャーーーーー。カーテンの中から登場する光歌。

 鏡に映る自分の姿に赤面。

 そこに映し出された姿は殆ど肌色だった。背中と頭にコウモリの羽を模した装飾品。大きな胸元も頑張って再現…出来たと思う…。

 それ以外の服は…ほぼ…無い。

 本当に女の子の大事な部位がピンポイントで隠されている…だけの…衣装。…衣装…なのか?。完全に痴女である。


『恥ずかしい…でも…やるし!。』


 気合いを入れてポーズを取る。


『閃ちゃん~。いつでも~。ママに~。甘えて~。良いんだよ~。…何か違う…。もっと大胆なポーズかな?。』


 ポーズを変える。

 足を広げ、胸元を強調するよう手を胸の衣装の中へ…。


『閃ちゃん…おいで~。ママが~。抱っこ~。してあげる~。』


 これだ!。っと歓喜した…その時…。


『光歌。仁さんがお菓子作ったから食べな、だってよ。』


 扉を開け入って来たダーリンこと、基汐。

 時が…止まった。


『あっ…。』

『あっ…。』


 静寂が訪れた。

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