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第399話 メゼスファレンの研究

 青国の最高幹部、メゼスファレン。


 エーテルに身体を蝕まれていた幼い頃のアクリスお姉さんを長期に渡って診てきた医者。

 お姉さんにとっての恩人。そして、ずっと自分の看病をしてくれていたお母さんのアクリムさんと同じくらいに尊敬し感謝していた人…だったのに…。

 その真実は…アクリスお姉さんにとって信じられないくらい辛いものだった。


『さて、神具を展開したのは良いが…この研究室を破壊したくはない。まだまだ実験途中の研究も沢山あるんだ。場所を変えさせて貰おうか。』


 そう言ったメゼスファレンが指を鳴らすと、研究室の壁が光り、室内にいた私たちの身体にエーテルの干渉がされた。


『これは強制転移!?。』


 気がついた時には周囲の環境は変わっていた。

 海と砂が広がる海辺の海岸。

 夕方が近いせいか橙色に染まった空と水面が眩しい。


『青国の外れ。海沿いだ。ここなら誰の邪魔も入らないだろう。ムダンの奴に干渉されるのだけは避けたいのでね。研究の邪魔はさせん。どうだ?。アクリス?。お前がベッドの上で何度も行ってみたいと夢見ていた場所だ。』


 周囲に人影はない。

 誰かに監視されてる気配も。

 波の音が静かに流れる。


『…先生…いや、メゼスファレン。君の目的は何なの?。』


 アクリスお姉さんの声は依然として震えたまま。

 自分の感情を必死に抑えている感じだ。 


『ふふ。』

『何が可笑しいのさ?。』

『いや、まさかこうしてお前と対峙することになるとは微塵も考えてなかったからな。死んだお前が神眷者となったのは知っていたが…どうせ異神との戦いで死ぬものとばかり思っていた。まさか異神側に立って私の前に現れるとは…ふふ。驚きすぎて咄嗟に桶を落としてしまったくらいだ。』

『私のこと…知ってたの?。』

『ああ。リスティナ様から全て聞かされていた。ああ。そっちの…夢伽と言ったな。お前たちのこれまでの活躍も全て耳にしているよ。随分と暴れてくれているようだな。どうだ?。異世界を侵略している気分は?。さぞ、爽快だろう?。』

『私たちのことも………侵略ですか…私たちはそんなことはしていません。私たちは望んで戦っている訳ではありませんから。』

『ふふ。お前たちの考えなど関係ないだろう?。実際にお前たち、異界の神は神々によって秩序と平和がもたらされていたこのリスティールに強大な力で現れた異物だ。各国のルールに介入し、結果、現在に至るまでに緑国、赤国、黄国を陰ながら支配したことになる。そして、今まさにこの青国をもお前たちは自らの手中に納めようとしているだろう?。これが侵略でなくて何だと言うのだ?。』

『それは…貴方たち神眷者やその仲間たちが襲ってくるからです!。私たちは自分たちを守るために反撃したに過ぎません!。それに、緑国の王は民に酷いことをしていました。私たちは彼等を救う手伝いをしたんです!。』

『ふふ。綺麗事をほざくな。如何なる者が王になろうと完璧な国などにはならん。必ず反発する個人や勢力が発生する。お前たちは単純に自分たちに都合の良い者たちの方に手を貸し結果として持ち上げられたに過ぎん。』

『けど、私たちは間違っていません!。』

『ふふ。それは自己満足だ。侵略という行為から目を逸らす偽善でしかない。』

『だから何だと言うのですか?。』

『なぁに。何も無いさ。ただ、お前の感想を聞きたかっただけだからな。まぁ、想像の範疇の答えだったがな。つまらん問答だった。さて、話を戻そう。アクリス。』


 私との会話の最中、今にも飛び掛かりそうなアクリスお姉さんだったけど、メゼスファレンを睨むだけに留まっていた。


『私の目的を問うたな?。私の目的は先程説明した通りだ。魔力しか扱えない生物の中からエーテルに耐性のある個体を探すこと。その研究の最中、お前は私に選ばれたのさ。』

『選ばれた?。』

『ああ。あれは数年前、私の元にアクリムが運ばれてきた時だった。妊娠していたアクリムを見てその高いエーテルの耐性と適正に瞬時に気がついた。あれ程の個体は初めてでな。普段冷静な私も久し振りに興奮したものだよ。』

『ママ…。』

『お前を出産した後、私は二つのことを行った。まず一つはアクリムの体内にエーテルを流しどれ程の量に耐えられるのかを測定した。結果は言うまでもない。何故、生物の肉体なのか疑いたくなるくらいの順応性だったよ。もう一つは生まれたばかりのお前にエーテルを投与し続けた。アクリムの娘だ。どれだけの高性能なのかと胸を躍らせた…が、結果はお前自身が理解しているだろう?。特に面白味の無い普通の肉体だった。実に期待外れだったな。』

『……………。』

『それでも実験には使えるだろうと、私はお前に少量のエーテルを投与し続けた。生物の肉体は適応していくものだ。エーテルに対する耐性も長い期間身体に慣れさせ馴染ませれば、いつかは母親のような性能を引き出せるかもしれん。そう考えたのだがな。ふふ。お前は二十年も保てずに死んだ。』

『私の身体…君のせいだったの?。』

『説明を聞いていたか?。そう言っているだろう?。しかしまぁ、その結果が神に選ばれ神眷者となるとはな。ふふ。予想もしていなかったぞ。』

『ママを殺したのも…君なの?。』

『………ふふ。ああ。その通りだ。お前を失い傷心したアクリムの心に付け入るのは難しいことではなかった。心の支えを失った彼女は私の優しく掛けた言葉に心を許し、そして次第に依存し始めた。ふふ。実験材料にされることにも気付かずにな。私の実験に必要なのはエーテルが流れる肉体の器官のみ。不要な部分以外は全て研究に使用させて貰った。』


 メゼスファレンが注射器を取り出す。

 中には赤く、所々緑色に発光する液体が入っていた。


『これはお前の母親から引き剥がした エーテルが溶け込み馴染んだ細胞 を混ぜ込んだ特殊な溶液だ。これを私自身の肉体に投与する。』


 注射器の針を首筋に刺すメゼスファレン。

 中の液体が彼の身体の中に入っていく。

 次の瞬間。


『ぐっ…ぎゃぎゃぎゃぐぶっばぐばごぎぎぎぎゃぎゃぎゃぐぶっばぐごぎぎゃぎゃぎゃぐぶっばぐばごぎゃぎゃぐぶっばぐばごぎぎぎ………………。』


 白目を剥き、奇声を上げ、頭を振りながら全身を歪ませ始めた。

 骨が折れる音。内臓が皮を突き破るくらいの勢いで移動し、肉体が作り替えられているみたい。


『はぁ…はぁ…はぁ…。どうだ?。この通り。よりエーテルが身体に順応できるようになるという訳だ。』

『あっ………。』


 メゼスファレンの姿が…声が変わった。

 女の人に…アクリスお姉さんに凄く似ている姿に変身した。


『どうだ?。嬉しい再会だろう?。アクリス?。』

『お前…ママの姿を…。』

『姿だけではないよ。記憶も身体性能も機能も全てを受け継いでいる。ふふ。いや、唯一、人格は既に消失していたな。「さぁ、アクリス。一緒にまた暮らしましょう?。今度は一緒に幸せに…。」…くく。こうか?。あの女が生きていれば言いそうな台詞だ。どうだ?。感動したか?。』

『お前…。お前…。お前っ!。』

『ほぉ。信じられんエーテルの量だ。激情に任せた放出とはいえ、かつてのお前では想像すら出来ん量のエーテルを操れるようになったようだな。』

『ママの…ママの姿で喋るなあああああぁぁぁぁぁ!!!!!。神具!。【

魔水極魚星(シルクルム・アクリム)】!。』


 憤怒のまま神具を展開したアクリスお姉さん。


『二つ星!。三つ星!。』


 エーテルによって創造された鉄砲魚が放つ水のレーザーと、鋭い剣のような上顎を持つカジキが放たれた。


『ほぉ。これが神眷者として神により与えられたお前の神具か。なかなかに強力だが、その程度のエーテル密度での構成では私の神具を突破できんよ。神具起動。【プロム・シルケード】。』


 メゼスファレンの背後で浮遊していた四枚のひし形の盾。

 異世界の神具って言ってたけど、私の神具と似た性能なの?。


『っ!?。私の攻撃が止められた!?。』

『ふふ。成程。水をエーテルで固めた独立で行動する使い魔を召喚し各々で攻撃を仕掛ける能力か。』


 四枚の盾の内、二枚でカジキの突進が止められた。

 そのまま、盾の中心にあるエーテルを宿す光玉が輝き出しカジキをエーテルに回帰させ吸収した。

 残り二枚の盾はレーザーを受け止め。


『返すぞ。私のエーテルも上乗せしてな。』

『っ!?。』


 水のレーザーが反射され、アクリスお姉さんに跳ね返る。

 しかも、メゼスファレンのエーテルを加えられ速度と破壊力を増した状態で。

 神具発射直後の僅かな硬直でアクリスお姉さんは反応は出来ても身体が動かない。


『自らの能力で死ね。』

『させません!。神具【鱗壁絶甲華鏡盾(シルゼス・ミラリアフィリーゼ)】!。』


 無数の鱗の盾をアクリスお姉さんの周囲に展開。

 迫るレーザーを盾の側面に当て軌道を逸らす。


『ほぉ。面白い神具だ。私の神具と似たような性能か。興味深い。』

『夢伽…ありがと…。』

『いいえ。それと、お気持ちは理解しています。ですが、あの人は感情のまま戦っても勝てません。冷静にならなければ倒せません。それだけあの人は強い…。』

『う、うん。ごめん…感情的になった。』

『大丈夫です。私もいます。二人であの人を倒しましょう。』

『うん。ママの仇を取る!。』


 涙を拭い、瞳に熱が宿る。

 悲しみと怒るを乗り越え冷静さを取り戻した。


『諦めないか。ふふ。まぁ良いだろう。お前たちの肉体を手に入れれば私の力も研究もかなり向上することだろう。』

『もう迷わないよ。ママの姿だってお前はメゼスファレンであることに変わらないんだ!。絶対に許さない!。』

『私もです。貴方の考え、行いは見過ごせない。ここで倒します!。』


 メゼスファレン。

 青国の幹部とのことですが、それに関係なくアクリスお姉さんにした仕打ち許せない。


『私を倒す?。ははははは。面白いことを言うな小娘!。良いだろう。貴様たちの全てを解析し研究の材料にしてやる!。【プロム・シルケード】!。』

『っ!?。アクリスお姉さん!。注意を!。』

『うん!。分かってる!。』


 メゼスファレンの背中で四枚の盾が羽のような✕型に並び反転。

 裏側から眩い輝きが放たれ、広域に放出された光の奔流が私たちの身体を包み込んだ。

次回の投稿は23日の日曜日を予定しています。

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