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第394話 紗恩VSカガガス

ーーーカガガスーーー


 首を切断され意識が身体と解離する。

 宙を舞う視界が得た情報は、崩れ落ちる肉体とこの首が一直線に並んだ瞬間を見逃さずに少女が神具を構えた直後だった。

 俺の肉体を呑み込む水の奔流。

 瞬く間に洪水にも似た荒波に呑まれた俺の身体は消滅した。

 水流の中にはエーテルによって硬質化した氷の刃が混ざり、肉体をバラバラに切断したのだ。


『はぁ…はぁ…はぁ…。これで…どう?。』

『見事だ。同化して間もないこの短期間で此程の戦闘を可能とした。貴様のセンスか才能か…全くもって恐ろしいことだ。』

『うそ…無傷!?。』


 俺は肉体を復元し再び対峙する。

 神星武装である本体にエーテルが有る限り肉体は何度でも再生可能だ。


『この肉体は我が本体から溢れ出たエーテルで実体化したもの。上位の存在と同化、契約、または神合化し内に宿した神獣や神は宿主のエーテルを使用し実体化できる。俺たちはそれを自己完結で行えるのだ。』

『成程。じゃあ、貴方の本体。その二本の布を切断すれば貴方を倒せる訳ね。』

『その通りだ…が、そう簡単にはいかん。どうやら俺は心のどこかでまだ貴様のことを格下と侮っていたようだ。』

『そのまま、侮ってくれていて良いわよ?。』

『ククク。それは無理だ。認めよう貴様は強い。しかし、弱点も垣間見えた。ここからは俺も全力だ。』


 奥の手。

 神星武装【多重念層鎧 エテル・マジュハブ】を更に五本出現させ手足と胴に巻く。

 これで全身から放出されるエーテルの全てが三重の層となって俺を守る。


『らっ!。』


 俺の拳が少女、紗恩を捉える。

 しかし、その身体は打撃の直後、水となって砕け散った。

 チッ…。何度目だ。

 素早い動きから繰り出される斬撃。

 それらが複数の分身から波状的に放たれるのだ。

 停止 反射 吸収。俺の守りの内停止の層を軽々と抜けてくる切れ味。

 反射で難なく相殺しているというのが現状だ。

 彼女は壁や地面を蹴り、高速移動を続けている。

 それは全ての分身体も同じだ。


 掴めてきた。

 彼女の神具は自らのエーテルから生み出した水を自在に操り鋭利な刃を作り神具に纏わせている。硬度、長さも自由に変えられ間合いも自在か。

 俺の守りを斬り裂く硬度と鋭さ。

 更に遠隔で展開されている水の玉で作られた発射台から止めどなく手裏剣やクナイの形を模した水の刃が放たれる。

 四方八方上下左右。逃げ場のない多角的な空間攻撃が休みなく続く。

 最も厄介なのが、彼女自身を象った分身を無数に作り出せる点だ。

 本体と同等の性能と攻撃力を備えた状態で作られる分身は、本体と同じ動きを行える。その為、本体が隠れながら攻撃することが可能。

 分身への攻撃は、その身体を形作るエーテルが破壊されるだけ、すぐに再生し本体へのダメージは無い。

 気配も本体と遜色無い密度で発せられ、戦いの中で本体を見つけるのは至難。


『チッ…小賢しい。』

『それはこっちよ!。貴方堅すぎる!。』


 全力で神星武装を展開している俺へ彼女は決定打を与えられないでいる。

 しかし、油断は許されない。

 彼女は見計らっている。

 彼女の攻撃の中には間違いなく俺の防御を突破できるだけの一撃が混ざっているのだから。


『おらっ!。』

『残念ね。それは分身よ。』

『分かっている。しかし、これならどうだ?。』

『なっ!?。』


 全身を覆う防御の層を広げる。

 自身を守るバリアのように周囲の空間を破壊しながら広域に展開した。

 防御の層に触れた全てのモノは停止し、反射の効果で停止の層と衝突、そして吸収の層が内側で三つの方向への力で圧迫し破壊する。

 巻き込まれた分身と水球が纏めて消滅。

 

『こんな…乱暴な方法で…。』

『やっと姿を見せたな。これで貴様の攻撃手段は封じたぞ?。さぁ、どうする?。』

『はぁ…はぁ…。そうね…どうしようかしら…。』


 彼女の弱点。

 それは緻密なエーテル操作に多大な集中力の持続性が求められること。

 エーテルの密度を高め攻撃力の底上げ、それだけでもかなりの集中力を使っている。

 故に時間経過での疲労とエーテルの減少、それが弱点だ。

 防御を捨てた高い攻撃力と速さは短期決戦での戦闘を想定して得た力だろう。


『諦めろ。慣れないエーテルの連続使用、そして、俺の防御を突破しようと持続し続けていた集中力、その両方が限界だろう?。』

『はぁ…はぁ…はぁ…。ええ、そうみたいね。』

『諦めろ。そうすれば苦しませずに殺してやる。』

『はは。優しいじゃん。貴方。けどね、私は決めたの。負けないって。』

『そうか。ならば精々足掻け。苦しまずに済むようにな。』


 数分の戦闘で周囲に満ちた残留するエーテル。それらを吸収し実体化している肉体を強化すると、筋肉が更に膨れ上がる。


『死ぬがいい。』


 一撃で頭蓋を砕く。

 防御力の低い彼女はこの一撃で即死するだろう。

 確かな手応えの感触が腕に伝わる。

 けれで、終わりだ。


『なんて…思ってるんじゃない?。』

『何?。』


 不意に聞こえた彼女の声に驚く。

 次の瞬間。強化した筈の俺の腕が切断された。あまりにも容易く。一瞬で。


『馬鹿な。確かに頭を潰した筈…。』

『ええ。分身のね。』

『そんな筈ないだろう!。至近距離で…エーテルの流れも感じなかったぞ!?。』

『貴方…忘れてない?。私は本来【魔女】なのよ?。忍者みたいに跳ね回ったりするよりもその場でエーテルを操作する方が得意なの。』

『何?。その神具は!?。』


 二本だった刀。

 それが一本の杖に変化…いや、変形していた。槍のような水を固めた刃の先端、あれで俺の腕を切断したのか!?。

 いとも容易く俺の防御層を突破するエーテル硬度!?。


『水の防御膜だと!?。』

『ええ。けど、流石ね。水の盾だと貴方の拳を少しの時間しか防げない。すぐに吸収されてしまうわ。』

『……………その槍…いや、杖が本来のその神具の姿と使い方…ということか?。』

『ええ。やっぱり動き回る接近戦は苦手だわ。氷姫姉みたいな戦い方が私は好きなの。』


 手元で杖を回転させると、先端から無数の水の刃が俺に向け放たれる。

 

『この程度!。』


 エーテルを高め、防御層を広げ刃を掻き消す。


『今度は此方の番だ!。』

『くっ!?。来ないでよっ!。』


 強引に接近し拳の連打を浴びせる。

 一撃でも与えられれば彼女の本体の防御では致命傷となるだろう。

 一撃。一撃で勝負は決まるのだ。

 だが、俺の拳をこの娘は水の膜や杖を器用に扱うことで受け流す。


『ぐっ…貴方…しつこい…。』

『貴様もな!。』


 互いのエーテルの衝突に発生した衝撃によって地下通路にある物が吹き飛ばされ宙を舞う。

 壁や地面もひび割れ、天井は崩れ始めた。


『くっ!?。』


 俺の拳が小娘の頬を掠める。


『分身を出す隙は与えん!。』


 ここだ。ここで一気に攻め立てる。

 極限まで高めたエーテル。超絶に強化された肉体から繰り出される拳は、その突き出した風圧だけで地下通路を破壊する威力だ。


『ごぶっ!?。あぐっ…。』


 拳が遂に届く。

 分身ではない。本体の腹へと深々とめり込み、口から大量の血液が噴き出した。

 今が勝機!。

 神星武装を腕に巻き、その箇所に高密度のエーテル層を形成。触れたモノを押し潰すエーテルを腕に込める。


 一撃で仕留める。


『トドメ!。』


 大きく振りかぶると、何かが俺の動きを阻害した。

 腕の動きが止まり自由を奪われる。


『何だ!?。なっ!?。水の紐!?。』


 見ると周囲の壁や天井、床、瓦礫などに付着した水が紐のように張り巡らされ俺の腕に巻き付いていた。

 いつの間にこんな広範囲に水を?。いや、それよりもここまでのエーテル操作を今の乱戦の中で仕掛けたのか!?。

 

『天才か!?。』

『これで…決めるわ…。』


 か細く小さな声が届く。

 見るからに限界だ。

 構えた杖の先端から螺旋状に回転する水流が発生し始める。

 この周囲を震わせる程のエーテル。間違いなく神技を使用しようとしている。

 片腕を封じられたままではガードは間に合わない。

 ならばっ!。


『力には力を!。』


 もう片方の腕にエーテルを集中させ残りの神星武装の布を絡める。

 

『神技!。【螺旋水流突穿刃】!。』


 ドリルのように螺旋回転する水の刃。

 回転する水の余波が周囲を切り裂きながら迫ってくる。


『迎え撃つ!。』


 鋭い突きの先端と拳が衝突する。

 水流は第一層で停止し、すぐに停止の層を突破。続く第二層の反射の層により方向を変え跳ね返り、第一層にて停止している水流と衝突。相殺されエーテルの残留となった粒子を第三層の吸収の層で我が肉体に還元されていく。

 しかし、徐々に螺旋回転する水の勢いが停止と反射の層を抜け肉体へと迫ってくる。


『まだ…もって…。もう…少し…だけ…。』

『ぐおおおおおぉぉぉぉぉ…。』


 エーテルの衝突は互いの肉体に跳ね返り、互いの身体に傷が生じ始めた。

 一瞬でも気を抜けば、その瞬間、相手のエーテルだけでなく自らのエーテルにも呑み込まれる状況。

 互いに一歩も退かず、突き出した杖と拳が接触、行き場を失った中心にあるエーテルが破裂し、杖と拳の軌道を僅かにずらした。


『ぐぶっ!?。』

『がはっ!?。』


 俺の拳が異神…紗恩の胸に命中しエーテルがその小さな身体を突き抜け破壊する。

 血を吐きながら勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる紗恩は地面を抉りながら転がっていった。

 対し、俺に身体にも紗恩の杖の刃が突き刺さる。

 螺旋回転する水流が肉体を抉り突き抜けた。

 七本ある神星武装の布の内の三本が切れ、その分の存在感が気薄になった。


『げぼっ!。げぼっ!。げぼっ!。はぁ…。はぁ…。はぁ…。』


 大量の血を吐き出しながら壁に背を預け座る紗恩。

 その瞳は俺を睨み、まだ心が折れていないことを伝えてくる。


『諦めろ。これ以上は貴様に勝ち目はない。』

『げぼっ!。げぼっ!。そ………うね。もう、限界…よ。げぼっ!。』


 エーテルも、体力も、集中力も限界ということが分かる。

 もう立つ力も残ってはいまい。


『ここまでだな。安心しろ。貴様は間違いなく強かった。満足して死ぬが良い。』


 俺には余裕がある。

 まだ、神星武装が四本残っている。

 エーテルの大部分は消失してしまったが、こうして肉体を実体化できているくらいには余力があった。

 能力は暫く使えないだろう。

 ここまでの消耗は予想外だったが…休息しエーテルが回復すれば再び戦闘が可能になる。


『まだ…終わってない…。』

『何?。』


 何を言っている?。

 既に杖の先端に纏っていた刃は形を維持できずに水に戻って地面に水溜まりを形成している。

 周囲に展開していた発射台もだ。紗恩が操っていた全ての水はエーテルから解き放たれ水溜まりに成り果てている。

 だから、疑問なのだ。何を狙っている?。

 何故、貴様の瞳は死んでいない?。

 動くこともままならないそのボロボロな身体で...貴様に何が残っているというのだ?。


『わた…し…まけ……ないっ!。』


 弱々しく腕を突き出した紗恩。

 その開いた手を全力で握ったその直後。


『なっ!?。にっ!?。』


 先程穿たれた胸の穴を中心に螺旋状に回転する水刃が炸裂した。

 そうか…紗恩…貴様の神技はまだ終わっていなかったのだな。


『馬鹿な!。さっきよりも威力が!?。』


 上がっている!?。

 水の刃が肉体を破壊しながら広がり、神星武装までも巻き込んでいく。

 マズイ!?。このままでは、速く防御層を展開しなければ…。


『ぐおおおおおぉぉぉぉぉ……………。』


 水刃が俺の身体を内部から蝕んでいくのを止められない。

 残された手段は残りのエーテル全てを使い、ひたすらに肉体を強化し続けることだけだった。


ーーー


 目眩がする。

 吐き気も。気持ち悪い。

 目の前でカガガスが私の仕込んだ水流爆弾に呑み込まれた。

 最後の最後のとっておき。神技の先にある奥の手。

 残ったエーテルの全てを使って賭けた最後の切り札。


『はぁ…はぁ…はぁ…げぼっ!。げぼっ!。』


 ははは…これは身体の中、滅茶苦茶ね。

 カガガスの拳をノーガードでまともに受けちゃったから。

 エーテルの支配を失った水流が落ち着き大量の水が地面に広がる。

 

『げぼっ…はぁ…はぁ…マジで言ってる?。』

『ぐっ…まだだ。俺は青国の…リスティナ様の為に…任務を遂行する。異神を…全て…倒して…。』


 カガガスは生きていた。

 身体に巻いていた神星武装の布、僅か一本だけを残したまま立っていた。

 その一本も今にも切れそうになりながらも、エーテルは未だに通っているみたい。


『紗恩…。貴様…を…倒す。』

『ぐっ…あぐっ…げぼっ!。げぼっ!。』


 う、動けない…。指一本動かせない。

 このままじゃ…カガガスが一歩一歩近づいて来ているのに…。


『っ!?。くっそ…。ダメか…。』


 目の前まで近づいたカガガスだったけど、その動きを止めた。

 鉄仮面から覗く眼光から殺気が消える。


『紗恩。』

『な…に?。』


 あまりにも穏やかなカガガスの声に驚く。


『最期の相手がお前で良かった。強かったぞ。』

『そっ…嬉しいわ。その言葉ありがたく受け取ってあげる。』

『ああ。賞賛の言葉だ。俺に勝ったのだ。そう簡単に死ぬんじゃないぞ。』


 その言葉と同時に最後の布が切れた。

 彼の肉体の実体化を維持していたエーテルが尽き、その身体がエーテルの粒子となって消えていく。

 鉄仮面が消え見えたカガガスの素顔は満足気に笑っていた。

 最後に残された私は静かに勝ったことを月涙に伝えた。


『はぁ…はぁ…はぁ…。月涙…勝ったよ。』


 呼吸が苦しい。

 エーテルが尽きかけているせいで神具も維持できなくなり消えてしまった。

 肉体のダメージも深刻だ。

 立ち上がることも出来ず、動けない。

 ここからすぐに立ち去らないと…今の戦闘音を聞き付けた機械兵たちがやって来る。


 意地の力、なけなしの体力で地面を這う。

 殆ど転がっていると言っても良いくらい、カッコ悪く移動する。

 途中で吐血しようとも、途中で目眩と吐き気に襲われても、敵に見つかって殺されるよりはマシ。


 けど、そんな私の努力は一瞬で無に帰した。


 突然の爆発。

 天井が破壊されたと同時に巨大な爪を持つ腕が地下通路を破壊した。

 

『あぐあっ!?。』


 地面を数度跳ねる感覚。

 回る視界が戻った時、頭上から私を見つめる二つの眼光が目に入る。

 巨大な機械の竜。明らかに敵意を私に向けてきている。

 感じるエーテルの気配からこの竜もカガガスと同じ【神造偽神】の一体か…。

 カガガスでもこんなにボロボロになったのに…同格との連戦…。

 

『は、はは…マジ?。』


 今の私にこんな化け物と戦う手段は残されてない。

 渇いた笑いと冷や汗をただ漏らすことしか出来なかった。

次回の投稿は6日の木曜日を予定しています。

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