第393話 魔水刃貫杖刀 シャクリュテーヌ・アクミラリア
身体が作り替えられるような感覚。
痛みは無いけど、まるでアニメに登場するロボットが変形や合体をするように全身が活発に動いている気がする。
それは身体の内側も同じで、私の魔力が月涙のエーテルに吸収されて、その総量を増やし、全身を駆け巡る。
やがて、エーテルは肉体を埋め尽くし循環を始め、心臓部にある核を中心に全身を巡り巡る。
『はぁ…はぁ…はぁ…。終わ…ったの?。』
疲労感と脱力感が同時にやってくる。
けど、分かる。
今ままでの身体とは明らかに違う変化。
身体を巡るエーテルの流れと湧き上がる力。
【機巧魔女】から変化した種族。
今の私の種族は【水魔忍神】。
服装も変わってる。忍び装束と魔女の服装が絶妙に混ざったようなモノに…。
『月涙…。』
さっきまでいた気配は消え一人立ち尽くす。
月涙を犠牲にして得た力。
内を巡る月涙のエーテルを感じ静かに涙する。
そして、気がつく。
『ははは…そうだったよ。私は紗恩…だ…。』
今の今まで頭の中では靄がかかったような感覚があった。
けど、今は違う。
頭は冴えて異常なスッキリ感がある。
何よりも…。
『お姉…。それに…はは。そうなんだ。月涙のご主人様って先輩のことだったんだ。』
前世の全ての記憶が甦る。
そして、月涙の記憶も私の中にある。
全部思い出した。
お姉が恋した人。私は見たことしかなかったけど、ゲーム時代のことは耳にしていた。
何せ、あのクロノ・フィリアのメンバーだったんだ。
青法の所属として警戒する対象だったからいくらでも情報は入ってきていた。
先輩かぁ…意識を内に集中させると私でも月涙でもない別のエーテルを感じる。
とても大きくて強い気配。それが魂で繋がっているんだ。
これが、先輩のエーテル…。
だが、思い出や余韻に浸る時間を現実は与えてくれなかった。
『見つけたぞ。異神。』
天井が破壊され、その中から現れた仮面の男。
私は静かにその男に目をやる。
顔は鉄仮面。
上半身裸の筋肉隆々。エーテルの宿る模様の刻まれた腰巻きから伸びる二本の布。あれが【神星武装】か。
外見を聞いていたモノと照らし合わせ分析する。
『ん?。貴様は…確か…あの少年といた少女か。魔力しか扱えないと聞いていたのだが…その肉体に漲るエーテルは…。成程、同化を果たしたか…。』
『ええ。そうよ。貴女はどなた?。』
名前は確か…カガガスだったかしら?。
『俺はカガガス。【神造偽神】が一体だ。同化し神となり異神となったお前は正真正銘、青国の敵となった。故にこの場で排除する。』
『カガガス…ああ、やっぱりね。お姉やお兄に聞いてるよ。ふふ。』
『何故、笑う?。』
『嬉しいから…かな。悲しい気持ちも強いけどね。だけど、私は貴方たちの 敵 になれたんだ…やっと…。それが少し感慨深いから…。』
『このエーテルは…。』
『…いいよ。やろうよ。けどね。今までの逃げ回ってた私だと思わないでね。私はもう…負けないから。』
そうだ。もう足手まといじゃない。
『ほぉ。大きく出たな。同化しエーテルを扱えるようになっただけの小娘が。俺の上を行ったつもりか?。貴様はスタートラインに立ったに過ぎんことを教えてやろう。っ!?。消えっ!?。』
身体が軽い。
身体が意思の通りに動いてくれる。
筋力も柔軟性も瞬発力に持続力も全てが向上している。
容易にカガガスの視界から外れ、背後に回る。
私を見失い戸惑っている出来た一瞬の隙に背後から斬りつけた。
『ぐっ…速い!?。だが、俺の防御は簡単には突破できん!。』
『私さ。結構現実主義というか…戦い自体が嫌いでね。どうしても早く終わらせたいと考えちゃうんだ。』
『何?。』
『戦いに関して無駄なことが嫌いなんだよね。正直、敵である貴方とこうしてお話ししているのも無駄だと考えちゃうくらい。だからさ。悔しかったんだ。弱くて…力がなくて…足りなくて…敵に舐められ、嘲られて、地面に這いつくばって…。とても辛かったんだ。』
『何だ。水が紐のように畝っている?。』
『私は格下でも同等の敵でも情けも容赦もしない。月涙の…いや、仲間たちの為にも負けられないから。貴方たちの言葉を借りるなら敵は速やかに排除するわ。』
『馬鹿な。俺の防御を貫いた!?。』
腹部を斬られたカガガスが僅かに後退る。
『勝つためにはどんな手段も使う。努力だって惜しまない。それが昔からの私だった。じゃないと皆に追い付けないから。何でも天才的にこなせるお姉たちとは違うから…私は死に物狂いでやらないと肩を並べて同じ道を歩けなかったのよ。』
魔力を集中させる特訓。
魔力を高め、細く鋭く一点から放出することで破壊力と速度を上昇させて攻撃する技術。
水の性質を取り込んだ魔力は鋭い刃となりレーザーのように放つことで対象を貫通、切断できた。
何度も練習した。何度も努力した。
魔力しか扱えなかった私でもエーテルを使う神と戦うために戦う術を模索し足掻いた結果辿り着いた方法だった。
それが今、エーテルという魔力の上位互換を得たことで、その技術は更なる高見へと到る。
神の在り方、意思を反映させるエーテルは私の種族と意思と技術を反映させ、圧縮された水を固定化し鋭利な切れ味を持つ刃へと昇華させた。
『それが…貴様の神具か!?。』
『ええ。私の…私たちの新たな力。私は独りじゃない。月涙と共に戦っているの。』
そうだ。
月涙は私の中にいる。
だから、独りの戦いじゃない。
『行くよ。月涙。神具。発動。』
エーテルを形にし武装を展開する。
両手に握られるクナイ型の短刀。
刃渡りは30cm程。柄も同じくらい。先端には輝く宝玉がついたシンプルな形。
これは刀であり、杖でもある。
忍者であり、魔女でもある私の神具。
『【魔水刃貫杖刀 シャクリュテーヌ・アクミラリア】。』
神具を含めた全身から溢れ出るエーテルが水の性質を与えられ私の周囲を螺旋状に回転する。
『此程とは…良いだろう。貴様を他の異神と同じ強敵と認め、全力で排除するっ!。【神星武装】起動!。』
対し、カガガスのその身に腰から肩に回る布が輝き出した。
あの巻き付いてる布がカガガスの武器だね。
『行くぞ!。うおおおおおっ!。』
振り抜かれる拳。
あの武装で高められたエーテルを肉体を強化して身体機能の向上に利用している。
しかも、周囲の残留しているエーテルを取り込んで自分のエネルギーの水増しまでしてる。
『はっ!。』
身体を捻り、紙一重で回避する。
身体のしなやかさに加え、動体視力も上がってる。
地下通路で暴れるカガガス。
その拳が振り回される度に風圧だけで周囲の物が宙を舞う。壁や床は破壊され、それら全てが私の方へと弾丸の如く襲い掛かる。
『こんな狭いところで!?。』
『貴様は素早い。ならば動きに制限がかかる今この瞬間に攻め立てるのが定石だ。』
距離を取ろうにも狭すぎて僅かな後退しか出来ない。
私、素早さと攻撃全振りだから肉体の強さはそこそこなのよね。
あんな強化された攻撃なんて食らえば一発で終わっちゃうかも。
『ならこれなら!。』
『っ!?。これは!?。』
カガガスの攻撃を躱しながら仕掛けた水の罠。
カガガスを取り囲む無数の水の玉。
エーテルで圧縮された水を高出力で放つ発射台。
『くらえっ!。』
一斉に発射される水のレーザー。
魔力の時に何度も撃ったあの頃とは威力が違う。
命中精度も桁違いに上昇した。
『ぐっ…。なんという…威力…。』
『貴方の身体もね。それ武装の効果でしょう?。』
十を越えるレーザーもカガガスの肉体を貫通したものは僅かに三本。
残りは打ち消されてしまった。
『ああ。俺の本体である【神星武装】【多重念層鎧 エテル・マジュハブ】だ。』
確か【他のエーテルが触れた瞬間に、停止 反射 吸収の三つの効果のあるエーテルの層を発現させる】んだっけ?。
『聞いてたよ。三つの防御の層を作るんでしょ?。』
『ああ、だが驚いたぞ。貴様のエーテルの制御能力は今までにあった異神の中でトップだ。』
『そう。ありがとう。素直に嬉しいわ。』
『しかし、その制御も冷静な判断力と集中力があってこそだ!。』
『っ!?。』
さっきより速い!?。
今まで手加減してたの!?。
一瞬で間合いを詰められた。
既に拳を振り下ろした姿が眼前に迫る。
『ぐっ…。』
『無駄だ。この間合いなら俺の方に分がある。』
確かにそう。
掠りならが直撃を避けるので精一杯。
『ガードが上がったぞ!。』
『あっ!?。』
振り上げられた拳に神具を持つ両腕が上がり、身体が無防備になった。
容赦のなく振り抜かれた拳がお腹を貫いた。
『これで…終わりだ。』
『ええ。これで終わりよ。』
カガガスの拳が貫通したのはエーテルを固めた水の分身。
質量も手に握る神具も全てが本体の私と同じ。
『なっ!?。水で作った傀儡だと!?。』
『そう。そしてこれがトドメよ。』
『っ!?。いつの間に!?。ぐぶっ!?。』
背後に回った私は神具に水の衣を纏わせ攻撃範囲を伸ばした水の刃でカガガスの首を跳ねた。
首を失い崩れるカガガスの肉体。
宙を舞うカガガスの鉄仮面付きの首が重なる
『まだ終わらない!。』
両手の神具を逆手に持ち、柄に埋め込まれた宝玉を重ねる。
水の力を込められた宝玉から放たれるエーテル砲撃。
全てを呑み込む水流の波動がカガガスの姿を消し去る。
次回の投稿は2日の日曜日を予定しています。




