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第391話 夢伽とアクリス

 姉貴…。姉貴…。姉貴…。

 私を呼ぶ弟の声。

 これは前世の記憶?。

 泣きながら私を呼ぶ弟…儀童の手を握った。

 姉貴。俺…死にたくない。

 同じ気持ちだった。

 私だって死にたくない。

 けど、自分の身体だから分かる。刻一刻と死が近付いていることに。

 苦しくて。痛い。きっと儀童も同じ気持ちなんだ。

 私たちを救ってくれたお姉さんたち。

 悲しそうに…悔しそうに...辛そうに…私たちの為に泣いてくれてる。

 最期にお礼を言わないと…儀童も、やっぱり同じ気持ちで…。

 握ってる儀童の手が震えてる。

 私も同じで震えてる。

 身体も少しずつ光になって消えていってる。

 

『『ありがとう。』』


 私たちは精一杯の言葉を残して生涯を終えた。


『夢伽…。夢伽…。』

『うぅ…儀童…。何処に…。』

『違うよ。アクリスだよ。』


 アク…リス…?。

 お兄さんと同化した神眷者の名前。

 どうして?。私を呼んでるの?。


『あ…うぅ…。私…は?。』

『あ、起きたね。どう?。一応、傷は治したけど、どこか痛む?。』

『え?。アクリスお姉さん!?。』


 目の前には私を覗き込む形でアクリスお姉さんの顔がある。

 見上げている形で、頭の下からは柔らかな感触。

 膝枕されてますね。もちもちです。


『痛みは…ないです…けど、私…何があったのですか?。確か…えっと、空中で戦ってて…あれ?。どうしてアクリスお姉さんがいるのですか?。お兄さんは消えちゃったのに?。』


 少しずつ記憶が甦ってきた。

 私、エーテル同士の衝突で発生した爆発に巻き込まれて気を失っちゃったんだ。


『閃君が転移する直前に実体化出来る分だけのエーテルを残していってくれたの。青国なら私の故郷だし頼むって皆のこと任されたんだ。』

『そうだったんですね。お兄さんが…。』


 けど…いったい…お兄さんの身に何が?。

 記憶を辿り、状況を思い出す。

 お兄さんの胸が光だした時…あそこに入れていたのは確か…能力を封印していた石。

 あれは、無凱のおじさんの能力を封印していたモノでその転移先には、もう一つの転移先である封印石がある。

 つまり…お兄さんは人族の地下都市にいる守理お兄さんたちに呼ばれた。

 その理由は、考えるまでもない。

 お兄さんの力が必要になる程の緊急事態が彼処で起きたということ。

 クミシャルナさんと同化した私は、身体の内側でお兄さんと繋がっている。

 いつもなら居場所や距離、お兄さんの心の動きが何となく理解できる。

 けど、今はそれを全く感じない。どうしてか…分からない。


 だから、一気に不安が押し寄せる。

 

『アクリスお姉さん。お兄さんの状況は分かりますか?。』

『ううん。分からない。距離の問題なのか、他の要因なのかも全然分からないけど…。』

『そうですか…。』

『この肉体を構成するエーテルが尽きれば私は閃君の元に戻れるけど、そうなったら今度は此方に戻ってこれない。私はこの場を閃君に任されたからね。夢伽たちの力になるよ!。』

『ありがとうございます。心強いです。』


 お兄さんたちのことは心配ですが、此方の問題も解決しないとですね。

 詩那お姉さんと八雲お姉さんを探さなければ。


『夢伽はこれからどうする?。』

『そうですね…。』


 私は思考を巡らせる。


『…八雲お姉さんなら…きっと、この国に来た目的の為に動くと思います。お兄さんが成そうとしたことを。』

『閃君の仲間を探しに…だね。私もそう思う。八雲は融通が利かないからね。きっと真っ直ぐ閃君の仲間を探し始めるよ。』

『この国にも、きっと…お兄さんの仲間…クロノ・フィリアの皆さんがいる筈です。』

『そうだね。何人かいた…と思うよ。青国の連中と戦ってたし。』

『………ん?。今なんと?。』


 アクリスお姉さんは当然のようにお兄さんの仲間がいることを肯定しました。

 つまり、知っている?。


『この国には閃君の仲間だった人たちがちゃんといるって言ったんだよ。それと、仮想世界で敵だった夢伽たちみたいな存在が何人か味方になってるね。』

『どうして…それを知っているのです?。』

『え?。だって私この国の出身だし、緑国に向かう前に青国の連中と戦ってたの見てたから。』

『成程。どんな方がいたか教えて貰えますか?。』

『えっとね。ちょっと待ってて。今、閃君の記憶と照らし合わせるから。』


 眉間にシワを寄せて唸るアクリス。


『同化した相手の記憶って、思い出すの難しいんだよね。』


 アクリスお姉さん曰く。

 同化した相手が自身よりも高次、又は、エーテルを扱える同等の存在だった場合、相手の記憶は脳内に蓄積される。

 イメージとしては自分の記憶の他、頭の中に沢山の引き出しが並んでいるという感じ。

 取り出したい【キーワード】を浮かべ、それに該当する引き出しを探して開ける。

 なのでいつでも簡単に引き出せるものではないのです。

 そうでないと、自身の記憶との混濁で頭の中で混乱が起こってしまう。それを防ぐ防衛機能らしいです。


『あった。えっと………氷姫、機美…』

『機美お姉さん!?。』

『…水鏡、青嵐…あと何人かいたみたいだけど閃君との記憶の照合が取れなかったよ。えっと…えっと…他には確か小さな男の子と魔女の帽子をかぶってた女の子とナイフを持った男の人がいたかな?。。』

『小さな男の子?。』


 その単語に僅かな胸騒ぎを覚える。


『ああ、待って。記憶にあるかも、凄く前の記憶だ。えっと…ゲームだっけ?。閃君たちがこの世界に侵略に来てた時にデータ?だけ見てるみたい。』


 額に指を押し当てながら唸るアクリスお姉さん。


『う~ん、えっと………多分、女の子が青法ってチーム?。ギルド?。の、紗恩って娘だ。』


 紗恩?。あれ?。何処かで?。


『それと、男の子が………ああ、記憶にあるよ。赤蘭って名前のギルドにいた。』


 その瞬間、私の胸は大きく鳴った。

 私の…私たちの所属してたギルドの名前。

 そして…そこにいた男の子は一人しかいない。


『儀童?。』

『あっ!。そうそう!。その名前だよ!。あれ?。けど、この名前ってさっき夢伽が寝言で呟いてたよね?。』

『はい…私の…弟です。』


 儀童が生きてる。

 この国にいる。

 機美お姉さんと一緒にいるんだ。

 少し安心する。


『あっ。そうなんだね。じゃあ、弟君も探そうね。』

『はい。私のやることは決まりました。アクリスお姉さん。協力お願いします。』

『勿論。この身体を構成するエーテルが尽きるまでお供するよ!。』


 話を聞くと、アクリスお姉さんには制限があるらしい。

 お兄さんとの距離が遠すぎるせいで身体を維持するエーテルが補充できず総量が決まっている。

 神具の使用にも回数制限があるみたい。

 使い尽くせばアクリスお姉さんは消えてお兄さんの元に帰ってしまう。


『頼りにしてます!。』


ーーー


『我が下部たちよ。よくぞ。集まってくれた。』


 青国の王である創造神。

 リスティナが壇上にあがると、集められた青国の戦力たちが頭を垂れる。

 

 リスティナの横。

 左にエーテリュアと冴。

 右にムダンとルクシエーナ。

 そして、彼等に忠誠を誓う者たちが並ぶ。

 レディス、パラエーダ、ジグバイザ、カガガス、ムゲカウラ、ベガリアス、セティアズ。

 そして、これまでの異神との戦いで得たデータを基に新たに創造された四体の【神造偽神】がその後ろに列を為す。


 リスティナはその様子を満足そうに眺め本題に入る。


『さて、先日から繰り返される異神とのゴタゴタ。そこに更に先程新たな情報が入った。ルクシエーナ。説明を。』

『はぁい。リスティナ様ぁ。』


 前に出るルクシエーナ。

 神具を発動し全員の前にモニターが出現した。

 画面に映し出される異神とそれに連なる者の映像。


『えぇと。彼等はこの青国で転生を果たした方々です。』


 氷姫。機美。水鏡。青嵐。雨黒。


『戦闘データが殆ど無いけどぉ、彼等と一緒に水を操る神獣が一体確認されているわぁ。そしてぇ、彼等と合流した裏切り者の子たち。』


 儀童。紗恩。


『確認した能力や性質は各々確認しておいて下さいねぇ。特に氷姫ちゃんという女の子は惑星神と【合神化】してるから要注意よぉ。』


 一度説明を止め、リスティナと入れ替わる。


『【神造機人】の一件後、彼等は我々の拠点への潜入を試みているようでな。現在は地下に潜伏している。ふっ…忌々しいことだ。我が足下で湧くウジ虫共が…。』

『ふふ。お母様。落ち着いて下さい。ルクシエーナ。続きを。』

『はい。エーテリュア様。』


 荒ぶるリスティナと交代するルクシエーナが説明を続ける。


『冴ちゃんのぉ。新しい神具のお試しのお陰で彼等の戦力の分断に成功しましたぁ。バラバラになった彼等は機械兵たちに手こずって貰っています。居場所も確認済み。このまま消耗戦を続ければ勝てる算段です。………ですが。』


 新しいモニターに先の戦いで得た映像が流れる。


『新しい異神…しかも、全員が【同化】以上を行った者たちが青国の上空から潜入しました。数は四。あなた方の知っているデータで言えば八雲さんとアクリスさんは知っているでしょう?。まだまだデータは足りないですし、戦闘力に推測が含まれるので信憑性は精々30%くらいですが、その映像から算出した情報と過去と比べての成長性を考慮して出したデータには一応目を通しておいて下さいね。』

 

 詩那、夢伽、八雲、アクリス。

 

『彼女たちは神具も扱えます。現在は運搬用の地下通路と居住区画の二手に別れて機械兵たちと戦っています。ふふ。彼女たちの目的はこの国にいる仲間との合流でしょう。そして、その仲間の目的はムダン様の持つポラリム様の意識データでしょうね。ふふ。』

『ルクシエーナ。余計なことを言うな。』

『ふふぅん。申し訳御座いません。』


 ムダンに服を引っ張られ後ろに下がるルクシエーナ。


『さて、敵の目的は判明した。奴等は必ずここに攻め込んでくる。ムダン。ルクシエーナ。ここの防衛は任せる。今以上に防衛力を強化せよ。他も者は異神たちの各個撃破。一匹も残すな。』

『『『『『はっ!。』』』』』

『なぁに。妾の創造した貴様等ならば問題なく奴等を排除出来よう。さぁ、行け。妾の国に湧く蛆虫共を一匹残らず蹴散らせ!。』


 青国の総戦力が動き出す。


 リスティナが神具を模して創造したオリジナルの武装【神星武装】に意思を与えられた【神造偽神】たち。

 神具のコピーを持つエーテリュアや冴、ムダンとルクシエーナ。

 神具のコピーに意思を与えられたレディス、パラエーダ、ベガリアス。

 そして、新たな創造物たち。四機。


 その内の一体。

 仮面を着けた刀を持つ女型の機械兵。

 彼女がモニターに映る儀童の姿を見つめながら静かに震えていた。

次回の投稿は26日の日曜日を予定しています。

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